プロポ不要な自律飛行ドローンの変遷
DJIはこれまでにプロポ(送信機)なしでも飛行可能なドローンをいくつかリリースしてきた。
古くは2017年に発売された「DJI SPARK」。プロポなしでも手の平から離陸し、ジェスチャーのみでドローンを制御する技術(Palm control)が7年以上前にすでに登場していたのは驚きだ。
さらについ昨年、2024年9月に発売された「DJI Neo」はさらに進化したAIトラッキング機能を搭載し、従来のDJIドローンに搭載されていたクイックショットの一部(ドローニー、サークルなど)をプロポなしで行うことを可能にした。
そしてDJI Neoから半年足らずで発表となったのが今回の「DJI Flip」だ。
本記事ではDJI Flipの基本スペック・機能の紹介、他製品と比較を行い、本製品がDJIのラインナップの中でどのような位置付けなのかを考察していく。
ユニークな折りたたみ構造
DJI初の全面プロペラガード&折りたたみ構造
DJI Flipの最も特徴的な部分がこの折りたたみ構造だ。
全面保護プロペラガードと一体になった構造で、そのまま折りたたむことができる。折りたたんだ状態から広げると自動で電源オン、オン状態で折りたたんで5秒間ボタン操作しなければ自動で電源オフ、というユニークな機能もついている。
折りたたんだ状態の大きさはDJI Neoとさほど変わらないため、ものによるが衣類のポケットにも収納可能だ。
重量は海外向けの249g
機体の重量については残念ながら海外基準の249gとなっている。ただしDJI Neoも135gと国内航空法基準の100gをオーバーしており、結局のところどちらも法規制への対応が必要な扱いではある。
ちなみにDJI Miniシリーズのような大容量バッテリーのオプションは今のところないようで、249g仕様で最大飛行時間は31分となっている。
カメラ性能はDJI中堅クラス
3軸メカニカルジンバル搭載
DJI FlipはDJIの空撮機ラインナップと同様、3軸ジンバルを搭載している。DJI Neoでは2軸ジンバル+Rocksteady補正である程度安定した映像を撮影できるが、3軸はさすがの安定感だ。
カメラユニットはMini 4 ProやAir3と同等
DJI FlipはMini 4 ProやAir 3と同様に1/1.3インチCMOSセンサーを搭載、レンズもほぼ同等スペックだ。カメラユニットはこれらのシリーズとほぼ同じものを使用していると考えられる。
48MP写真、4K100fps動画撮影が可能になっており、10ビットD-Log Mカラーにも対応。よって撮影性能的にはDJIのエントリーモデルとフラッグシップモデルの中間のアドバンストモデルに位置づけされるだろう。
前面に3D赤外線検知システム搭載
障害物センサーでは前面の赤外線検知システムを採用している。
これまでのDJIラインナップでは前面の障害物検知はビジョンシステムが多く用いられていたが、前作のDJI Air 3SではLiDAR、そしてDJI Flipは赤外線、とセンサー周りが変化のタイミングに差し掛かっているのかもしれない。
実際使ってみるとこの赤外線センサーはうまく働いているように感じた。DJI Neoは下方のビジョンセンサーのみのため、非GPS環境下ではうまくポジションホールドできない場合が多かった。しかしDJI Flipでは安定してホールドでき、これは今回のセンサーのおかげだと考えられる。
撮影機能紹介
プロポなしでも多彩なクイックショット
DJI Flipはプロポなしで下記のクイックショットを行うことができる。
- フォロー
- ドローニー
- サークル
- ロケット
- スポットライト
- ヘリックス
- ブーメラン
- Direction track
※ヘリックス、ブーメラン、Direction trackはアプリ接続で切り替え
これらはDJI Neoと同じ内容ではあるが、下記の改善点がある。
- フォローの最大速度がDJI Neoの倍の12m/s(43.2km/h)になった
- ヘリックス、ブーメランの最大距離が10mから20mになった
それぞれのクイックショットの動きは下記を参照してほしい。
プロポありの場合
より本格的に空撮をしたいのであればプロポと接続し、手動操縦はもちろん他のDJI製品と同様に下記の撮影も可能だ。
- マスターショット
- ハイパーラプス
- パノラマ撮影
- クイックショット
- デジタルズーム
他製品と比較
ライバル製品の存在
ここからは他製品との比較を行っていくが、AIトラッキング機能搭載ドローンを語る上では外せない製品がある。それが昨年日本国内でムーブメントを巻き起こしたZero Zero Robotics社の「HOVERAir X1 Smart」だ。AIトラッキングのみに重点を置いた製品で、「空飛ぶ自撮りカメラ」として話題になった。
特に日本向けに法規制を考慮し99gバージョンを発売することで、これまでドローンに触れたことのないライト層を中心に国内のシェアを広げた。
3機種それぞれ細かい機能の違いなどはあるが、ざっくりとした比較を行っていく。
画質比較
それぞれの機種で撮影した映像を4倍拡大で見てみた。
イメージセンサーのスペック通りの結果だが、DJI Flip、DJI Neo、HOVERの順に良く解像し明暗部もしっかり表現できている。
追尾性能比較
AIトラッキング性能を比較するため、フォローモードでスキーを後ろから追い撮りさせてみた。DJI Flipはフォローの最大速度がDJI Neoの倍の12m/s(43.2km/h)になったこともあり、ここで差が出てくるかと思われた(HOVERAirは最大25km/h)。しかし実際には3製品とも同じような結果で、急加速や急ターンの際にはついて来られなくなるようだった。
フォローモードを使う際は歩行またはランニングくらいがちょうど良さそうだ。
比較まとめ
ここまでの内容を含め、簡単に比較をまとめてみた。
DJI Flip | DJI Neo | HOVERAir X1 Smart | |
単体価格(税込) | 66,000円 | 33,000円 | 59,980円 |
重量 | 249g | 135g | 99g |
手軽さ (航空法規制の有無) |
△ | △ | ◎ |
画質 | ◎ | ○ | ○ |
手動操縦 | ○ | ○ | △ |
トラッキング性能 | ○ | ○ | ○ |
ほとんどあらゆる面でDJIの2機種がHOVERAir X1 Smartと同等かそれ以上の印象だが、やはり99gという手軽さが国内のライトユーザーに受けていることは間違いない。ただし100gを超えているからと言って全く飛ばせないわけではない。
次は飛ばすための手続きについて説明をしたいと思う。
飛ばすまでの手続きと注意点
重量が100g以上のドローンを飛行させるときに最低限必要なこと
非常に多くのドローン初心者が勘違いするところだが、ドローンを飛行させるのに最低限必要なのは「国家資格」でも「飛行許可申請」でもなく、
- 機体登録
- 登録記号を機体に表記
- リモートID情報を機体へインポート
この3点のみだ。
登録は下記の航空局サイトDIPS 2.0から行うことができる。
初めてドローンを購入するユーザーは最初戸惑うかもしれないが、慣れてしまえば申請から登録完了まで1時間程度で終わるので、ぜひ自分でやってみてほしい。
ただしこれはあくまでも「飛行に最低限必要なこと」だ。
飛行場所や飛行方法によっても制限があるので、より本格的に空撮したい場合は下記資料を参照し、必要に応じて許可申請を行おう。
自動飛行での注意
日本国内で本製品を使用する場合、特定飛行での自動操縦を行う際に注意が必要だ。
[特定飛行とは?]
100g以上の無人航空機を屋外で飛行させる際、航空局の許可・承認が必要な飛行。いくつか種類があるが、本製品を飛行させる場合に該当しやすいものは以下の通り。
- DID地区
- 物件から30m以内
- 目視外飛行
- 夜間飛行
これらの特定飛行は本製品の特徴である「送信機なしでの自動飛行」では許可・承認が取れないというところに注意が必要だ。
送信機なしで自撮りをしたい時は、飛行場所やシチュエーションを確認してみてこれらの特定飛行に該当しないかどうかをチェックしよう。
製品の位置付け
DJI FlipはDJI製品ラインナップの中では撮影性能は中堅クラスで、空撮初心者でも手軽にハイクオリティな撮影ができるようにデザインされた製品だと感じた。AIトラッキング搭載かつ世界的な基準で考えれば手軽に飛ばせる249gという設計は、シェアを拡大しているZero Zero Robotics社のHOVERAirシリーズを意識したものだと考えられる。
国内においては航空法の規制は受けるものの、他DJI製品ラインナップでも同条件と考えれば手軽に持ち運べる折りたたみ構造と、全面プロペラガードの安全性は魅力的だ。
また単体で66,000円という価格は他のDJI中堅クラス(Air 3、 Mini 4 Pro)より安く設定されており、このクオリティで撮影できる機体がここまで安価になったのは驚きだ。
映像のクオリティを求めたいがドローン撮影を主軸としないクリエイターや、アクティビティなどを撮影したい一般ユーザー向けに特におすすめできる製品になっている。
藤倉昌洋|プロフィール
新潟県在住のドローンオペレーター。株式会社NK2-Tech代表。YouTuber「NANKOTSU」としてドローン初心者向けの情報を中心に配信中。