2009ノンリニア編集環境の行方は?
ファイルベース移行でますます重要性を増してきたノンリニア編集(以下NLE)環境だが、デジタル一眼HDムービーと同時に注目を集めたキーワードが「ステレオスコピック3D」だ。立体視自体は、これまでも何度も注目されては消えていくということを繰り返してきたが、今回の波は、「4Kデジタルシネマ」「ファイルベース」に端を発している。収録から制作、上映までファイルベース化されたことで左右の視差調整がしやすくなったことに加え、映画に付加価値を付けてシアター来場者を増やすために、高価な4Kデジタルシネマ環境を導入するか、2Kデジタルシネマ環境を拡張して3D化するかという選択段階に入ったためだ。制作面、視聴面の両方から追い風が吹いたと言える。これは、映画館だけにとどまらない。
家庭用でも次世代視聴メディアがBlu-ray Discに統一されたことも大きい。Blu-ray Discのステレオスコピック3D規格もそろそろ決まる時期になり、来春にはテレビやBlu-ray録再機が登場してくる段階に入っている。整い始める家庭での視聴環境に向けて、3D映画の2次コンテンツがBlu-ray Discで提供される日は近い。
このような市場背景もあって、編集制作環境はさまざまな方向性をもって進められてきた1年となった。大きな括りとしては、
- デジタル一眼HDムービーや業務用に使用され始めたAVCHDの取り扱い
- 制作ワークフロー面の強化
- ワークフローサポート機器
デジタル一眼に使われているカメラコーデックは、ユーザーがPC上で見られればという感じの設計だったこともあって、ドロップフレームも考慮していないことが多かった。RED ONEの成功も合って、予想外に脚光を浴びてしまったデジタル一眼の編集環境は後手に回ってしまった感がある。ソニークリエイティブのVegas Pro 9を除けば、今年終盤になってEDIUS Neo 2 Boosterが登場し、ようやくノンドロップフレームへの対応が進み始めたと言えるだろう。
制作ワークフロー面の強化では、初めて制作用コーデックで収録できるディスクレコーダーAJA Video SystemsのKi Proが登場した。収録と編集がよりシームレスに、スピーディに連携できるようになった。このほか、アビッド テクノロジーがMedia Composerでステレオスコピック3Dのオフライン編集の対応を進めた。Inter BEE 2009ではソニーも収録から編集、上映までのワークフローを提案しており、ステレオスコピック3D制作ワークフローの構築は今後の課題となるだろう。
ワークフローサポートでは、Blackmagic Designが波形モニタのソフトウェア環境を提案してきた。ビギナーは波形モニタを使わずに制作していることも多いが、これが安価に、手軽に使えるようになることで、各種映像制作クオリティの底上げが可能になるはずだ。
txt:秋山謙一
PRONEWS AWARD 2009 ノンリリア編集部門ノミネート製品
- AJA Video Systems Ki Pro
- アドビ システムズ Adobe Creative Suite 4 Production Premium
- アビッド テクノロジー Media Composer
- ソニークリエイティブ Vegas Pro 9
- ブラックマジックデザイン Ultra Scope
ノミネート基準と講評
「さまざまなノンリニア編集ソフトウェアがあるけど、どれも複雑な編集をすると再生できなくなってレンダリングを要求されるんですよね。フレームレートが落ちてもタイムラインで再生を止めないというVegas Pro 9はすごいと思うんですよ。繰り返し再生していると、キャッシュされてフレームレートも上がっていくしね」
「最近のソフトウェアはハイスペックなPC環境を要求するじゃないですか。Vegas Proって、ビジネス向けの文書が作れればいいというようなPC環境ですら軽く動作する。書き出しにはかなり時間かかるので、ハイスペックなものの方がいいけど」
「今年はデジタル一眼のノンインタレースの取り扱いに泣いた人も多かったんじゃないかな。EDIUS Neo 2 Boosterの登場でようやく、ビデオカメラと同じようにデジタル一眼も取り扱えるようになった。今後のノンリニア製品は同様の対応が求められるはずだね」
「そういう意味では、Vegas Proって、ノンインタレースだろうがプログレッシブだろうが、音声の実時間に合わせるという機能をもともと持っていた。『それってすごいことなんですか?』って逆に聞かれてしまった。すごいことなんですよ」
「今年のトレンドでは、ステレオスコピック3Dにも焦点が当たった各社とも。オフライン編集は左右いずれかの映像でやればいいと言っていたけど、現場ではオフライン段階で視差が適正なカットかどうかを知りたいと思っていた。Media Composerでステレオスコピック3Dオフライン環境が実現したことは、今後のワークフローにとっても重要だと思う」
「ワークフローという視点では、Ki Proの存在は外せないな。数あるディスクレコーダーのなかで、カメラコーデックではなく制作用コーデックを採用したということに意味がある。ビデオキャプチャやトランスコードが不要なので、収録から編集への流れが格段にスムースになる」
「Ki Proは、ちょっと筐体が大きいのが気になる。肩乗せ型カメラレコーダーであればいいけど、それ以下のハンディに組み合わせるには大きい。もう少しコンパクトになっていれば、より使いやすかったのにね」
「コントロールボタンも付いているし、制作ワークフロー全体で活用できるように、テープレスデッキみたいな使い方も考慮していたんでしょうね。ProResに縛られるので、汎用性という部分には疑問はあるけど、DNxHDなども扱えるようになると面白いと思う」
「ワークフローの機能強化という意味では、アドビの取り組みも忘れてはいけないね。最近では、メタ情報の取り扱いや音声認識など、次世代環境に向けての取り組みはアップルよりも積極的になっているように見える」
「パッケージ制作だけでなく、Webやモバイルへも対応しているという部分で、CS4はうまいよね」 「そういえば、BlackmagicのUltra Scope。制作現場では波形モニタを見るのは常だけど、高価でなかなか手が出なかったことも事実。Ultra Scopeで手軽に波形を見ることができるようになるのは、映像制作全体の品質向上の意味からも歓迎したい。波形モニタの重要性をもっと知ってもらう必要はあるけどね」
PRONRES AWARD 2009カメラ部門受賞製品発表
NLE部門 ゴールド賞 |
Vegas Pro 9
ソニークリエイティブ |
Vegas Pro 9は、楽曲制作ソフトウェアに映像編集機能を追加してノンリニア編集ソフトウェアとして成立させた異色の存在。楽曲制作で再生が止まることは許されないというだけに、映像編集でもフレームレートを自動調整しながら再生は止めない。レンダリング作業は書き出し時にというコンセプトなので、書き出しに時間はかかるが、編集段階では軽く動作する。ソニー製品との親和性はもちろんだが、RED ONEの4Kデータにおいても軽々と動作してしまうあたりは他のソフトも見習って欲しいと思える。さまざまなサウンドフォーマットを扱わなければならなかった成り立ちも合って、デジタル一眼ムービー登場以前から、ノンドロッププレーム映像やプログレッシブ映像への対応が済んでいたことも評価に値する。
NLE部門 シルバー賞 |
Ki Pro
AJA Video Systems |
これまで収録から編集に入るまでには、ビデオキャプチャやトランスコードに時間をかけるということが常だった。強力なコンバータ機能を持つKi Proの登場により、さまざまなビデオカメラの出力を収録段階でダイレクトに制作用コーデックで記録できるディスクレコーダが登場したことになる。編集段階でカメラコーデックの違いに悩む必要もなくなり、ピクチャーinピクチャーやエフェクト、タイトルなど、多数のストリームを扱わねばならないようなケースでは、制作用コーデックに統一されているメリットを最大限に活かせるはずだ。ProResは、Final Cut Studio用だが、Smoke For Mac OS Xでそのまま使えるほか、QuickTimeベースのノンリニア製品での再生も可能。活用範囲は広そうだ。
総括
近年、手に入れやすいプロフェッショナル向けの映像制作ソフトウェアとして話題を集めてきたのは、アップルのFinal Cut Studioであり、アドビ システムズのAdobe Creative Suite 4 Production Premiumであった。タイムライン編集部分では、新型カメラレコーダーへの対応が速いトムソン・カノープスのEDIUS Pro 5も導入が進んだ。そうした日本のノンリニア編集ソフトウェア市場にあって、Vegas Proは隠れた存在であったことは否めない。バージョン9へのメジャーアップデートでRED ONEに対応したが、4096×4096の画像を扱える点や、デジタル一眼ムービーを苦もなく扱えてしまう点などは、もっと評価されるべきことだろう。特に大きなアピールをすることなく、さりげなく機能を実現してしまっているあたり”下町の寡黙な職人”のようで、実はあなどれない存在なのだ。次点のKiProに関して言えば、実際の発売時期が今年の下半期だったことで、詳細に検証していないこともあるが、2010年は、その存在感は大きく増すことは言うまでもないだろう。