幅広い音響。その世界のトレンドとは?
オーディオ業界にデジタルが普及して久しいが、ビデオと異なりオーディオの制作プロセスは非圧縮が基本となっている。それもいわゆるCDクォリティ(16ビット/44.1kHz)以上の24ビット/96kHzが一般的になりつつある。一方、Blu-rayや放送もサラウンドに対応していることから、サラウンド制作に対応した機材の開発も活発に行われている。ある意味、ビデオにおける3Dや4kへの志向に相似しているようにも思える。強いて異なる点を挙げるとアナログへの回帰やビンテージマイクや真空管を採用した機材が新製品として発表・発売されていることだろうか。技術的、機材的に成熟してくるとこうした回帰現象が起こるのだろうか。オーディオで生じたイノベーションは、形は多少異なることもあるもののいつかは必ずビデオにも波及してくることなので、ビデオ業界の将来を占う上でも目が離せない。
サラウンド制作用として、今回特に目に付いたのは、アーニスのバイノーラルオーサリングソフトSoundLocusだ。バイノーラルの技術そのものは、特に目新しいものではないが、イヤホンやヘッドホンで視聴することが多くなってきた昨今では古くて新しい技術といえるだろう。ステレオやサラウンド素材をバイノーラルに変換するソフトは、フリーウェアを始めとしていくつかあるが、SoundLocusは直感的にわかりやすいGUIを採用しているところが画期的だ。現在Weidows版が製品として発売されているほか、Mac OS X版も参考出展された。
マルチマイクにおけるオーディオ収録は、ビデオのそれと比較して格段に数が多い。何十本ものケーブルを束ねたマルチケーブルがPA現場などでは使用されるが、マイクからミキサーまでの距離が長いと音質だけでなく運用面でもとかくトラブルの元になりがちである。オーディオのデジタル化が普及するにつれ、こうしたマルチケーブルによる伝送をデジタル化しようという試みが始まった。当初は単純にマルチケーブルの置き換えを目指していたが、最近では双方向かつ機器コントロールなどもイーサネットのケーブルや光ケーブルで伝送できるようになっている。現在では10種類以上の規格が存在しているが、残念ながら原則として互換性はない。ローランドのREAC(Roland Ethernet Audio Communication)は、マルチケーブルの置き換え的な位置付けだが、双方向の伝送とMIDI、リモートなどの伝送が可能で、同社のミキサーやモニターとシステムを組むことができる。
音声を記録する機材としては、6ミリテープやDATに代わり、ハードディスクやメモリーに記録するレコーダーが一般化しているが、ステレオ2chを記録するだけでなく、4ch以上記録できるものや、マイクを内蔵したものなどが各社から発売されている。また、記録フォーマットも16ビット/44.1kHzから24ビット/96kHz以上のPCM記録ができるものまで、様々な製品が出揃い、最近多少落ち着いた感がある。これらは運用形態にもよるが、カメラの音声収録より、多くのチャンネルを記録するサラウンド収録や、よりクォリティの高い音質を必要とする場合に使用されることが多い。カメラのオーディオトラックを使用する場合は、直接カメラに接続するか小型ミキサーなどを使うことになるが、最近の小型ビデオカメラにマッチした製品がアツデンやフォステクスなどから発売された。特にフォステクスのFM-4は、最近のミキサーとしては珍しく、電子バランスではなく入力と出力にトランスを採用しているところが目を引いた。
txt:稲田出 構成:編集部
PRONEWS AWARD 2009オーディオ部門ノミネート製品
- フォステクスFM-4
- ローランドS-0808
- アーニスSoundLocus
ノミネート基準と講評
「一口にオーディオといってもマイクやミキサー、レコーダー、スピーカーなど色々あるから絞り込むのが大変ですよ。それに、フィールドレコーディングやPA、レコーディングスタジオ用の機器やラジオやテレビなど用途によっても製品の性格が違うしね」
「ポータブルレコーダーもこの1年を見ても各社から一通り出揃った感があるけど、据え置きDATの置き換え製品をタスカムが出展していたね。ワイヤレスもデジタル化したものがソニーから出ていた」
「小型ミキサーは以前からあったけど、価格的に小型ビデオカメラとバランスが取れそうな製品をアツデンが発表したね」
「フォステクスのミキサーFM-4は、久しぶりの本格的な小型ミキサーだと思う。使い勝手もさることながら、入力と出力が電子バランスじゃなくてトランスを採用している。ただ、有機ELのレベルメーターは視認性はいいけど、好みが分かれそう」
「伝送系の機器としてローランドからS-0808とか発表になったけど、コブラネットもかなり充実したラインナップになってきた。それだけ、色々なところで、使われだしたということだろうね」
「マイクも新製品がいくつか出ていたけど、定番といわれるマイクはさすがに息が長くて、MKH-416とか今でも現行製品だよ。目新しいところでは、サラウンド収録ができるマイクがサンケンから出ていたね」
「サラウンドといえば、アーニスのSoundLocus。音楽とかネットで落としてiPodで聞くというのが一般化しているのを見ると、バイノーラルって現実的じゃないかな」
「それに、サラウンドのミックスって音の定位とか大変そうだったけど、あのGUIは直感的によくわかるし、使いやすそうだった」
「Windows版だけじゃなくてMac版も出るようだね」
「日本の住宅事情を考えると音楽だけじゃなくって、映画やなんかもバイノーラルっていう手もあるよね。Blu-rayなら音声トラックにバイノーラルバージョンも収録できそうだし」
PRONEWS AWARD 2009オーディオ部門受賞製品発表
音響部門 ゴールド賞 |
FM-4 フォステクス |
硬質アルミを使用した筐体やアルミ削り出しのフェーダーノブを採用するなど、業務用として過酷な使用に耐える高い耐久性を実現したほか、フェーダーも耐久性に優れたコンダクティブプラスチック導体と金属軸を採用している。また、TRIM、HPF、MASTERフェーダーのノブはチャンネルフェーダー操作時に邪魔にならないポップアップ方式を採用したほか、HI(10kHz)-MID(200Hz~8kHz)の2バンドEQを搭載。幅広い音質調整が可能となっている。電源は単三電池のほか、4ピンキャノンによる外部バッテリーオペレーションも可能となっている。
音響部門 シルバー賞 |
SoundLocus アーニス |
SoundLocusは、音声信号にデジタル信号処理を施す事により、三次元空間(前後上下左右)の任意の位置に音像を定位・移動させることができるので、効果音のほか、音楽制作、ゲームやドラマなど様々なジャンルの音楽制作で活用することが可能。従来、バイノーラル録音で問題とされていたミキシングによる定位感の喪失も最小限に留めている。また、個人差の大きなHRTF(Head Related Transfer Function)は、独自のシミュレーション技術や特徴抽出ノウハウにより、Referential-HRTFを設定する事で、広く一般の方々に立体音響を視聴できるようにしている。オーサリングは直感的にわかりやすいGUIを採用し、操作もマウスのほか、PS2やWiiのリモコンを利用することができる。
PRONEWS AWARD 2009オーディオ部門ゴールドを受賞したフォステクスについて
ポータブルミキサーFM-4は、今夏発売した3chミキサーFM-3の姉妹機に当たる製品で、機能や性能だけでなく、堅牢性や使い勝手などを追求することで、プロフェッショナルの現場で安心して使用できるように設定されている。高品位カスタムトランスを搭載したライン/マイクレベル(ファンタムP48V、T12V供給可)対応の4ch 入力のほか、高品位カスタムトランスを採用したメイン出力を装備。チャンネルダイレクト出力にも切り替え可能なサブ出力や、TAPEアウト、AUXアウト(ch選択可)も装備。Hi-Midの2バンドEQやリミッターを搭載し、様々な用途に対応可能なポータブルミキサー。