PCキャプチャーに見る同時収録

HDVと言うフォーマットが所謂”ハイビジョン”を身近にしたのは周知の事実だと思う。当時、小型テープ収録でのHDフォーマットをどう実現するのかと言うのが論点でもあった。筆者にしてみれば、ファイルベース収録は今に始まった話ではない。得意分野であった舞台撮影時において、長時間収録には欠かせない収録方法として、PCスペックがPentium III/1GHzになったぐらいのSD時代から現場にノートPCを持ち込んでビデオキャプチャーしていたからだ。ノンリニア編集製品で言えば、カノープスのDV-STORMが、Windows製品の事実上のスタンダートになった頃だ。

なぜ当時からファイルベース収録の前身とも言えるPCキャプチャーをしていたのかと言えば、バックアップ的な意味合いが一番強かった。報道系カメラマンにはバックアップ収録はピンと来ないかもしれない。しかし、筆者のように、インハウスでさまざまな収録を行うようなミドルレンジでの業務内容では、バックアップ収録は切っても切れないものだ。例えば,舞台収録やブライダル収録、企業相手のオンデマンド系収録では、取りこぼしがNGなのも当たり前だが、1フレームでも欠落するとロケ自体が使い物にならなくなる可能性も強い。ドロップアウトしてしまったら、バックアップ機材からその部分だけ映像を戻すこともする。カット・シーンごとにプレビューする時間や状況があれば、テイク2をお願いすれば良い。しかし、それすら出来ない現場では、スタジオに帰ってから収録映像に愕然としないように保険をかけておくのだ。

バックアップ収録とはいえ、2台もENGを現場に入れられる予算があるはずもない。そこで、小型民生カメラや据置テープデッキを使って同時収録したのだが、テープ収録であるために2台同時にドロップアウトという可能性も捨てきれない。こうした背景で行われたのがノートPCによるHDD収録であった。これがファイルベース収録の始まりであったかもしれない。

しかし、ビデオキャプチャーで同時収録時に、予期せぬシステムエラーが発生してPC自体がフリーズし、ビデオキャプチャーが終了してしまったことがある。こうなると、メイン収録でトラブルが出ないように神頼みするしかない。これを恐れると、PC収録からWテープ収録に戻ったりして本末転倒の自体に陥る事になる。 その後は、PCを使用しないHDD収録デバイスを選択してみたが、外国製品であるからなのか、IEEE1394の相性の問題なのか、なかなか安定して動作してくれない時もあった。保険のための同時収録が、保険にならないとすれば問題だ。

ファイルベースだからこそ同時収録を

ノンテープの収録をどうするかと検討していた時にソニーから登場したのがHVR-Z7JとHVR-S270Jだ。この2機種にはCFカードに収録できるレコーディングユニットが付属しており、ミドルレンジには理想的な同時収録を実現させたシステムだった。HDV画質をテープとCFカードに同時記録することは、ある意味、マスターテープと編集用ワークテープの2種類を同時に現場で作ることにもなった。これにより、撮影終了後のワークフローが俄然やりやすく時間短縮にも繋がった。

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ソニーHVRー270Jと付属のCFカード レコーディングユニット(右)

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このCFユニットは、DV端子から吐き出される信号を全て受け止めてくれるので、ソニーの上位機種であるXDCAM EXのHDV互換モードでの出力はもちろん、実は他社カメラの独自フォーマット(Canon 24Fなど)も扱えてしまうというマルチユニットだった。ここに至って、筆者はダブルメモリー収録の可能性を考えるようになってきた。メモリーの方がテープエラーによるノイズの発生が皆無になるため、メイン収録もメモリー収録にしたいと考えたのだ。

さまざまなパターンでのダブル収録が考えられるが、その根底にあるのは、やはり”保険”だ。しかし、ファイルベースではテープ収録時とは若干、保険の意味が変わってきたようだ。テープ収録であれば、テープが回りタリーが入れば”録画されている”と体感できた。実際にテープが回る音はしなくても、振動やかすかなメカノイズで”記録”を判断しているはずだ。

しかし、ファイルベースでは、メモリーにファイルが”記録”されることで振動やメカノイズが発生するわけではない。デジタルカメラであれば、メモリ記録ランプが点滅して、撮影した画像のプレビューが表示されるので記録されたと分かる。しかし、映像をリアルタイムで収録していくビデオでは、収録時に録画できていると判断する手段が無いのだ。メモリーがトラブっていて収録できていない可能性は収録後にしか分からないというところに、ファイルベース収録に対する不安を感じるカメラマンが多いのだ。撮り直しがきかない現場であれば、なおさらだ。同時収録ができれば、かなり不安を軽減出来るはずだし、ファイルベース移行も一気に進む可能性がありそうだ。

実現して欲しい2スロット同時収録

XDCAM EX+CFユニットという組み合わせを試したが、さすがに後付け感が強く、デザインや使い勝手に若干難があった。ここに今年登場したのがNXCAM HXR-NX5Jだ。理想としてたメモリーへの同時収録(メモリースティックPro DuoまたはSDHCカードと、フラッシュメモリーユニット)が出来、しかも本体とフラッシュメモリーユニットのそれぞれに異なるフォーマット(SD・HD)で記録できるという至れり尽くせり状態だ。

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本体とフラッシュメモリーユニットで同時収録を可能にしたNXCAM

このNXCAM以前にも、ダブル収録に対応したメモリーカムがある。日本ビクターのGY-HM700である。現存するカメラでメモリー同時収録が出来るカメラは、この2機種だけであり、確かに理想的なシステムなのだが何かがチョット違うと感じている。つまり、NXCAMもHM700も同時メモリー収録のメディアはメインとサブで全く異なるメモリーを使用しており、しかも同時収録のためには値段が張るオプションを購入しなければ実現出来ないということだ。こう考えると、HVR-S270JのCFユニットはカメラに同梱されて同時収録を実現していたが、この場合もテープとメモリーという完全な異種同録だ。

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メモリースティックとSDHCカードの混在も受け入れてしまうNXCAM。ここまでやるなら同時収録も実現して欲しかった。

昨今の機器導入予算が限られる状況にあって、どうせならカメラ本体で、安価な大容量メモリーを使用してミラーリングできる機能を付けてもらいたいというのが本音だ。現場の人間なら、せっかくメモリースロットが2つあるのだから、この2つを使って同時収録したいと感じているはずだ。

欲を言えば、Aスロットは通常のカット録画で、Bスロットはエンドレスで回せる完全バックアップ状態があれば理想だ。しかし、この場合はTCジェネを2種類搭載しなくてはならないため、本体の価格上昇ともに消費電力もかさんでしまう。A/Bスロットのミラーリング収録が妥協点なのではないかと思う。

こう書くと、ブライダルの様に何が起こるか解らないような現場では”使えない”と言う人もいるかもしれない。しかし、ファイルベースカメラなのだから、カメラ本体に映像を短時間バッファ記録する”キャッシュREC”機能があれば問題ないはずだ。そのバッファ時間は20秒もあれば良いのではないだろうか? どうしても2スロットがバラバラに動作して欲しいなら、NXCAMの様に長時間記録しっぱなしのメモリーに同期するようにTCをフリーラン記録すればよい。これならば技術的にもたやすいのではないだろうか。

同時収録アダプターが既存カメラを変える

最後に筆者が考える同時記録の形態も紹介しよう。カメラやメモリースロット自体には何も手を加えず、メモリーアダプター自体でミラーリングをすると言う考えだ。例えば、SxSカードにメモリースティックPRO DUOやSDHCカードを2枚挿入して、その2枚間でミラーリングを出来るようになればと思うのである。この場合は完全に同期RECしか出来ないが、キャッシュRECの機能と併用すれば撮りこぼしはないはずだ。SDHCカードなら、マイクロSDHCカードを2枚挿しというのはどうだろうか? SDHCカードにWiFiを組み合わせたEye-Fiもある今なら問題無く出来そうな気がする。

昨今の制作予算縮小で、これまで分業できたものがワンマンで動かなければならない現場が増えた。カメラマンとしては、少しでも収録トラブルという不安から解放されてシューティングに神経をつぎ込みたいものだ。ミドルレンジの収録現場では、何らかの形でダブル収録(同時収録)が出来るカメラを使うのが、スタンダートになるはずだ。そして、この声に応えてくれるメーカーこそが、次世代ファイルベースカメラを主導していくことになりそうだ。

岡 英史(VIDEONETWORK)