昨年末のInter BEE 2009でも確認できたように、2011年の地上デジタル放送完全移行に向けた取り組みは一段落した。制作市場の興味は、完全移行後に本格化する次世代映像の制作環境に急速にシフト始めているようだ。2009年を通して見たときに思い浮かべるキーワードには、「デジタルサイネージ」「4K」「ステレオスコピック3D(S3D)」「デジタル一眼ムービー」といったものがすぐに浮かんでくるだろう。映像制作のなかで、このキーワードの1つ1つは、まだ限られたところでの活用でしかないが、今後の映像表現には欠かすことの出来ない要素として、可能性を十分に秘めている。

こうした新たな表現を牽引しているのは、デジタル制作だ。収録から編集、配信まで一貫したデジタル制作になった、すなわちファイルベース・ワークフローが実現し始めているということに尽きるだろう。例えばS3Dについては、これまで何度もトレンドとなってきたが、今回ほど盛り上がることなく消えていった。それは収録の難しさであったり、制作後の上映時の再生精度であったり、ハードルが高すぎたとも言える。収録から上映まで、トータルに品質を管理出来るようになったことから、ようやく本格普及への道筋が付いてきた。

映像制作にノンリニア編集が採用され、20余年。加えて、平成になってからも20年余が過ぎた。見渡してみれば、カメラはデジタルカメラに、レコードプレーヤーはCDプレーヤーに、ビデオデッキはDVDレコーダーに変わり、ビデオカメラはHDDやメモリーになってしまっている。映像の活用範囲も広がり、Web、モバイル、携帯、デジタルサイネージ、DVD/Blu-rayとさまざまな活用を想定した制作が必要になり、まさにファイルベース制作時代になった。テープtoテープのリニア編集を経験したことのないエディターも増えた。これまではテープ収録をベースにしたワークフローを構築してきたが、ようやくファイルベース優先のワークフローを構築することを模索していかねばならない時期に入ってきたのではないだろうか。

今回の特集では、「デジタルサイネージ」「ステレオスコピック3D」「デジタル一眼ムービー」に加え、ファイルベースへの第一歩「テープレス収録」に焦点をあて、今後そして今年の映像制作の潮流を様々な方面から予想していくことにしよう。各カテゴリーから浮かび上がるヒントが垣間見られるはずだ。