前回はトランスコーダ製品のなかからRhozetトランスコーダの機能について紹介した。今回は、実際にトランスコーダ製品を利用している現場として、デジコン株式会社(東京都台東区)の取り組みを取材してみた。

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デジコン 山本善宣ディレクター

デジコンは、動画配信、メディアエンコード、Webサイト構築の3つのサービスを核に、ライブストリーミング/オンデマンド配信を利用したコンテンツの企画から撮影、配信までをワンストップで行う制作会社だ。デジコンでエンコード/トランスコードを担当しているのがデジタルメディア事業部だ。デジタルメディア事業部は、各コンテンツ事業者の持つ映像素材をエンコード/トランスコードする専門部署だ。同事業部の山本善宣ディレクターは、これまでのエンコード事業に次のように話した。

「当社は、ブロードバンド・インターネットが普及する以前の1995年から事業に取り組んできました。最初はストリーミング中継を中心に行っていましたが、2000年以降、VOD(ビデオ・オンデマンド)配信も手掛けるようになりました。2003年頃からはSTB(セットトップボックス)向けのエンコード作業をするようになっていきました。東京放送ホールディングス、フジ・メディア・ホールディングス、テレビ朝日の3社がテレビ番組のインターネット配信事業をするために共同出資して設立したトレソーラ(2009年10月に会社清算)でテレビ朝日の番組のエンコードを担当したり、最近ではブロードバンド回線を使用してデジタルハイビジョンテレビにコンテンツ配信を行うアクトビラのエンコード指定業者としても認可を受けています」

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デジコンではRhozetトランスコード技術を用いたNTTアドバンステクノロジ製のトランスコーダを使用している。Rhozetトランスコーダに、NTT研究所製ARIB対応H.264エンコードエンジンがデフォルトで追加されている。

デジコンでは、コンテンツ事業者の要望に応じて各種ファイルへのトランスコードを行っているが、現在はアクトビラ向け、Web配信用成人向けコンテンツ、インターネットカラオケ、デジタルサイネージ向けなどが多いという。事業者によっては、指定エンコーダがあったり、エンコードパラメータが指定されたりすることもあるため、デジコンでは、Harmonic製DiviComエンコーダ、Optibase製MovieMakerエンコーダ、朋栄IBE製HVP-100トランスコーダなど、各種エンコーダ/トランスコーダ製品を揃え使い分けており、最近Rhozetのトランスコーダ技術を導入した。

「今回は、RhozetトランスコーダにNTT研究所が開発したARIB対応H.264エンコードエンジンを組み合わせたパッケージとして、アクトビラ向けのトランスコードと動画検証を行うために導入しました。各種コーデックに幅広く対応でき、出力品質も高く、安定動作するトランスコーダであることが決め手となりました。RhozetトランスコーダでアップルのQuickTime ProResコーデックやトムソン・カノープスのCanopus HQコーデックを読み込んで、NTT研究所のH.264エンコードエンジンを利用できますから、汎用性が高いですね」

特に最近急激に増えてきた映像素材は、ProResやCanopus HQといった制作用コーデックのものだという。Windowsベースのトランスコード製品ではQuickTimeに対応した製品が少ないということもあって、Rhozetトランスコーダの幅広い対応コーデックは重宝しているようだ。

映像品質・サイズを考慮し、MPEG-2で作業

現在、24時間態勢でスタッフが常駐。交代で、休みなくトランスコードを行っているという。Rhozetトランスコーダは、MPEG-2ファイルからアクトビラ向けにトランスコードする部分に活用している。トランスコード作業は、テープの入れ替え作業がないのでバッチ処理が可能。ファイル生成とともに出力されるログを見て、問題のある個所を再生しながら目視で確認し、パラメータを調整して再トランスコードを実行することが基本になるという。

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各種テープデッキも常備。山本氏は、「ネット動画配信のための総合制作会社である当社は、デジタルメディア事業部がメディア変換に特化して作業しており、メディア変換のためだけに各種デッキを運用しているのが特徴です。アクトビラ認定業者で、当社のようにポストプロではない会社はほとんどありません」と話した。

「トランスコード/エンコード素材は各種テープや各種ファイルで持ち込まれますが、Rhozetトランスコーダを効率的に使用するために、MPEG-2ファイルからトランスコードするワークフローを基本にしています。各種映像素材を別のトランスコーダを使用して一旦MPEG-2ファイルとして書き出して、その後、Rhozetトランスコーダを使用して最終トランスコードをするスタイルです。HDサイズ・5.1chサラウンドのAVIファイルについては、5.1ch対応MPEG-2を書き出せるトランスコーダを持っていないので、AVIファイルを直接Rhozetトランスコーダに読み込ませる方法を採ります」

「ファイルで持ち込まれた素材についてはトランスコードだけで済みますが、テープ素材で持ち込まれるケースも多いんです。特に、長編映画などは、素材がテープ2本に分かれていることもあるので、その場合はノンリニア編集システムにビデオキャプチャしてからタイムライン上で1本にまとめ、それからトランスコードします」

素材を直接Rhozetトランスコーダで扱うのも、MPEG-2ファイルに変換してからRhozetトランスコーダに読み込むのも、最終ファイル出力までにかかる時間はあまり変わらないという。むしろ、画質を維持しながらも、作業中のディスクスペースを有効に使用するためにMPEG-2を作業用素材ファイルとして採用しているのだそうだ。

最終的にトランスコードされたファイルは、全視聴チェックするのか、全体から任意の3個所のシーンを各1分間に抜き出して3点チェックをするのかというように、クライアントの要望に応じて目視チェックを行っている。

納品はほとんどのケースで、ハードディスクでの受け渡しとなるようだ。

「ネットワークでの受け渡しができればと思うこともありますが、コンテンツ事業者側のセキュリティやサーバ管理の観点からあまり採用されません。直接、配信サーバにアクセスせずにFTPサイトなどへアップロードすることも可能ですが、大容量の映像ファイルをさらに配信サーバに転送するために時間がかかります。ハードディスクで受け渡して、コンテンツ事業者のサーバ管理者によってアップロードしてもらう方が、現時点では効率的です」

ネット経由しつつも、よりセキュアな方法でと検討すると、専用線ということになって、導入コスト・運用コストになって跳ね返ってきてしまう。すでにVPN(バーチャルプライベートネットワーク)などを利用している場合を除けば、ネットワーク経由で納品することは特殊ケースであるようだ。

目視中心の検証作業を改善するクオリティチェック機能

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アクトビラ向けトランスコードのチェック用紙の一例。シーンごとに、チェック項目がズラリと並ぶ。作業をいつ誰が行ったかを記入し、あとから確認でき、エラーの切り分けにも使用する。

山本氏は、トランスコード品質を検証したり映像を確認するためのシステムも不可欠なものになると話す。

「現状では、トランスコード作業にスタッフが常駐していますが、トランスコードを始めてしまえば、待機してプレビューを確認する時間になります。実際にエラーを修正する作業は、トランスコードを終えてからの視聴チェックが中心です。1本のトランスコードにかけられる期間は中1日というケースもあり、非常にタイトな作業となっています。トランスコード時のログを元に、エラーが生じた部分は素材の問題なのか、テープエンコード時のものなのか、トランスコーダの特性なのかなど、該当個所を1つ1つ目視で確認しながら作業を1つずつ遡って問題を切り分けていく必要があります。より効率的に映像品質を確認できるシステムがあればいいですね。目視では見逃しやすいノイズが含まれていることもあり、トランスコーダにクオリティチェック機能が実装されると、より精度の高い作業も可能になりますので、次世代バージョンに期待しています」

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デジコンの場合、月に数100本のトランスコードを行うケースもあるそうで、トランスコードのニーズは着実に高まってきているようだ。映像の品質管理やファイル転送チェックが、より精度よく効率的に行えるようになることで、ファイルベース・ワークフローにおいてトランスコードは、より重要な役割を担っていくことになるだろう。

(秋山 謙一)