「ステレオスコピック3D(S3D)活用事例取材の記事もいいけど、初めてS3Dをやってみようという人が実際にどんなことに直面するのか、とにかく何かを作ってみるという実験企画記事も欲しい」と編集会議で話し合ったのが、NAB Showから帰って来てからのこと。ゴールデンウィークもあり、機材調達が心配だったが、アスク(東京都千代田区)、東芝 デジタルプロダクツ&ネットワーク社(東京都港区)、レッドローバージャパン(東京都新宿区)の各社(五十音順)が快く機材協力してくれ、短時間ではあるが制作実験を行う事ができた。

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HDビデオアシストQTAKE HDがストップモーション機能に対応

S3D制作を試すとは言っても、時間的にも予算的にも、技術的にもそんなに大規模なものは作れないので、初めて取り組む人が直面する3Dリグやカメラのセッティングの雰囲気が伝わればと考えている。今回は、アスクが取り扱っているスロバキアのIn2Core社HDビデオアシスト製品QTAKE HDにストップモーション機能が搭載されたと聞き、S3Dストップモーション撮影を行ってみる事にした。

貸し出しいただいた機材は以下の通り。

・アスク:In2Core HDビデオアシストQTAKE HD、ZALMAN TECH 24型2D/3D液晶モニターZM-M240W
・東芝 デジタルプロダクツ&ネットワーク社:業務用3CCDフルHDカメラヘッドIK-HD1H、カメラコントロールユニットIK-HD1C
・レッドローバージャパン:並行式3Dリグ 3D DockingStation SDC-M200A、8型ハンディモニターTrue3Di View Finder

平行型リグ・小型カメラヘッドを使用して挑戦

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レッドローバージャパン製3DリグSDC-M200Aに載せた東芝製業務用3CCDフルHDカメラヘッドIK-HD1H

今回の制作実験では、比較的簡単にセッティングができると言われている並行式の3Dリグを採用した。レッドローバージャパンの3D DockingStation SDC-M200Aは、カメラ重量5kgクラスのショルダー型カムコーダーにも対応できるがっちりとしたリグだ。左右のレンズ間を100~290mmまで、カメラの仰角と回転角を±10度まで、それぞれ調整できる。また、視点位置(収束点、コンバージェンスポイント)を設定するカメラ光軸も、内側10度まで設定できる。SDC-M200Aはリモコンを使用して調整することも可能だが、今回は手動で行った。いずれにしても、3Dリグは、これらの調整部分をしっかりと設定する事が1つ目のハードルとなる。

東芝のIK-HD1Hは、本体65gの1/3型3CCD、Cマウント採用のビデオカメラヘッド。今回はオプション製品のCマウント4mm F2.2レンズJK-L04TFを使用してみた。カメラヘッドは幅が約33mm。重量もレンズ込みで約140gしかない。コンパクトなカメラヘッドでありながらも、映像クオリティに配慮した3CCD・フルHDなので、S3Dに使用するのは好都合だ。通常のビデオカメラで並行型3Dリグを使用すると、レンズの大きさから人間の目幅である65mm程に左右のレンズ間を設定する事が難しいが、このIK-HD1Hでは問題なく設定できる。

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東芝製IK-HD1H本体の幅は33mmしかない。S3D収録には好都合

SDC-M200Aは、5kgまでのカメラに対応しているということもあり、がっちりとした構造。3Dリグ本体の重量は10kgもある。三脚は、使用する2台のカメラ重量も考慮して選択する必要がある。今回はIK-HD1Hが軽量なため、3Dリグ重量を支えられれば良いため中型三脚で行った。小型カメラヘッドの利用は、こんなところでも有効だ。レッドローバージャパンによると、小型軽量のビデオカメラヘッドに適した3Dリグも現在開発中とのことだ。IK-HD1HからカメラコントロールユニットIK-HD1Cに延びるケーブルは1本。この1本にカメラヘッドが必要な電源も含まれているので、左右のカメラで2本しかケーブルが延びない。ケーブルの取り回しもしやすかった。小型カメラヘッドと小型3Dリグの組み合わせは、さらにS3D制作が身近なものになりそうだ。

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レッドローバー製8型3DモニターTrue3Di View Finder(右下)とZALMAN TECH製24型2D/3D液晶モニターZM-M240W(左)

IK-HD1CのHD-SDI信号を、QTAKE HDに入力。スルー出力をTrue3Di View Finderに導いてカメラヘッドのファインダーとして利用した。True3Di View Finderはコンポーネント入力とHDMI入力に対応している。今回はコンポーネント信号で入力した。くっきりとした映像表現はチラツキも感じられず、ファインダーとして長時間覗き込んでいても疲れないものだ。さらに、QTAKE HDからZM-M240Wモニターにも出力することで、QTAKE HDのプレビューモニターとして活用した。残念ながら、True3Diが直線偏光方式、ZM-M240Wが円偏光方式のため、同じ3D眼鏡を使用した確認は出来ない。また、ZM-M240Wは本来、PCに接続してパーソナル利用する製品のため立体に見える視野角が狭いのが気になったが、十分な立体感が得られていた。

3Dリグの操作に慣れる必要がある視差調整

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カメラ間隔とコンバージェンスの調整は架台部のダイヤルで調整(上)し、右側カメラ雲台部で視野回転、左側カメラ雲台部で上下角の調整を行う。調整つまみが分散しているので最初は戸惑った。

さて、実際のセットアップだが、やはり3Dリグの設定にとまどった。SDC-200Aは架台部で眼幅調整とコンバージェンス調整ができ、右側カメラ雲台部で視野回転角の調整、左側カメラ雲台部で上下角の調整ができるようになっている。片方のカメラを基準にして視差調整をしていくのではないところが、戸惑いの原因になった。調整部を分散させて1カ所あたりの可動部を減らしているので操作は難しくなるが、そのぶんガタつきがなく、カメラをしっかりと固定できる。実際に収録を始めてみると、この強度の重要性を感じた。

SDC-200Aは通常のカムコーダーを想定して作られた3Dリグであるため、レンズ間隔は最短でも100mmにしかならない。せっかく幅33mmの小型カメラヘッドを使っているのに、そのままでは幅を狭めることができない。そこで、今回はManfrotto modo pocketをプレート代わりに使用してカメラ間を狭くしてみた。レッドローバージャパンは、使用するカメラに合わせて間隔を狭くするためのオリジナルプレート製作にも対応しているそうだ。

左右の視差調整のためには、視点位置で視差を設定する必要がある。視点位置で左右の映像ズレを確認できるチャートがある方がよいとアドバイスをもらっていたので、視差のズレやカメラの回転が解るようにグリッドを描いたパネルをS3D確認チャートとして用意した。

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コンバージェンスポイントにS3D確認チャートを立てることで、視差調整は格段にスピーディーに行える。カラーチャート機能を持たせると色味の修正もしやすくなるはずだ。

ビューファインダーの視野をもとに三脚位置を設定。被写体の位置に確認チャートを配置して、いよいよ3Dリグの調整に取りかかる。チャートの位置がコンバージェンスポイントとなるので、シーンに応じてチャートを前後させたり、チャートのサイズを変更する必要もありそうだ。左右のレンズ幅は人間の目幅に近い65mm前後に合わせるのが標準的だが、今回はレンズから被写体までの距離が短く、被写体自体も小さめだったので40mm程に狭めた。ここから、左右のカメラ映像でチャートが一致するように視差調整をしていく。

右側の雲台部で視野の回転を調整してから、右側の雲台部で仰角を調整していく。水平方向の調整は架台部のコンバージェンスの調整で行う。調整するツマミやダイヤルが別々の場所にあるので、最初のうちは慣れが必要だった。用意したチャートはA4ほどのサイズで視野の半分くらいだったが、ビューファインダーを見ながら調整は可能だった。QTAKE HDのプレビュー出力を使用してZM-M240Wでも確認してみたが、やはり画面サイズが大きいぶん視野の傾きなどが分かりやすく、最終的な追い込みもしやすかった。チャートは、やはり視野に応じた大きさのチャートを用意するのがベストだ。

短時間でストップモーションS3D収録が可能に

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今回は、箱からぬいぐるみが飛び出てくるようなカットを撮影してみることにした。QTAKE HDは、左右のカメラ映像を同時に1フレームごとに記録するストップモーション機能を新たに搭載した。シーンを設定しては、必要なフレーム数分クリックする。今回は秒10フレームにすることにしたので、各シーンで3回クリックを繰り返した。

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QTAKE HDは、3D出力の設定をすることで3D対応ディスプレイに左右同期出力が可能になる。

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QTAKE HDのFRAME RECをA-ch・B-chともに設定しSyncさせることで1フレームごとの同期録画できるので、ストップモーション撮影に対応できる。

QTAKE HDがビデオアシストをうたっているのは、実際に収録で活用してみるとよく理解できる。3Dリグの視差調整時に2台のカメラの映像を組み合わせて3D対応ディスプレイに出力したり、3D LUTを適用して色味を変更してプレビューしたり、映像の一部分を拡大して確認したり。今回はクリーン/ブルーバックを使用してはいないが、クロマキーの収録時にも、背景を抜いて別の映像に合成してみたりといったことが、ノンリニア編集システムを使わずに確認できてしまう。ラフイメージを収録現場でリアルタイムで確認できることで、収録の効率を大幅に改善できることが実感できた。

今回のテストでは、機材を出して撮影を行い、機材を片付け終えるまでの時間は、トータルで4時間弱くらい。そのうちの前半は機材のセッティングと被写体の動きを確認しながらの視差調整に費やし、最後の小1時間も撤収作業に使っている。実際に、被写体のぬいぐるみなどを動かしながら収録を行って、映像プレビューで確認に費やした時間は1時間ほど。QTAKE HDを活用してスムースにS3D収録に入ることができたことは驚きだった。

今回制作した1カット4秒間のストップモーション動画(アナグリフ)。QTAKE HDはアナグリフ、ライン バイ ライン、サイド バイ サイドなどの各種S3D対応ディスプレイへの出力に対応しているほか、ファイル出力も可能。

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実際に撮影テストを終えてみて、あらためて視差調整の難しさを実感した。がっちりと固定できる3Dリグと収録映像を自由に加工してプレビューできるQTAKE HDがなければ、セッティングにさらに多くの時間が必要になったことは間違いない。ただ、視差を確認するためのチャートと、3Dリグの視差調整をリアルタイムに確認できる方法が用意できるのであれば、思ったよりも手軽にS3D収録を始められそうな印象も受けた。視差調整は、シーンに応じて調整する必要もあるので、どれだけ多くのシーン作りを経験したかがモノを言いそう。まずは試行錯誤しながらでもトライしてみよう!

(秋山 謙一)