史上初、業務用二眼カメラの登場
3D撮影の大きな話題のPanasonic AG-3DA1。誰でも「簡単に」3D映像撮影が可能になった。キャリブレーションなしで普段のカメラのように撮影ができる注目の一台
今回は早速AG-3DA1を使って撮影を敢行した!さてこの3DA1はとにかく使い勝手がいいという印象だ。なんといっても2つのHD-SDI出力を左右映像に確保できるというのは、うれしいところ。もちろん内蔵のSDスロットで、LRの映像をAVCHDコーデックでフルHD記録できるのも相当な魅力ではあるが、外部収録機器を用意すればハイエンドワークフローを組むことができる。
今回はなるべく「高解像度」な3D映像制作のワークフローを組みたいと考えているため、このHD-SDI出力をAJAのKi Proを2台使って左右の映像を収録することにした。Ki ProはQuickTimeのProRes422で記録できる外部収録機器。SDカードにAVCHDで記録する映像より高画質であるだけでなく、編集作業においてもFinal Cut Proとの親和性が非常に高いためストレスのない環境が実現する。この場合SDカードに収録されるデータはバックアップとして使うことができるので、非常に効率的だ。UDRのような機器で非圧縮記録するのも手だが、Ki Proを使う3D撮影というのはコストパフォーマンスを考えても一番理想的だろう。
キャリブレーション要らずの素晴らしさ~「コンバージェンス」で立体調整
コンバージェンスポイントより前の被写体はスクリーンの前に表現され、奥の被写体はスクリーンの奥に表現される |
筆者は3D撮影を1年以上前から行なっているが、3D撮影において、やっかいで時間がかかるのが「キャリブレーション」作業だ。キャリブレーションとは3D撮影における「視差」と「コンバージェンス」を調整する2台のカメラの位置調整のことだ。物理的に立体視を実現するための大切な作業といえ、3D撮影での重要なポイントだ。視差とは2台のカメラの光軸の距離を言い、コンバージェンスとは2台のカメラの光軸が交差する点までの距離を言う。実際に1時間以上の時間をかけてキャリブレーションを行なうこともあり、撮影のカットごとに行なうとなれば相当な作業量が発生するのだ。そこに登場したのが、この3DA1。二眼一体型で、煩雑なキャリブレーション作業は一切不要という長所を持っている。 3DA1の勝因は、まず「視差」を6cmに固定したところだ。従って撮影で調整するのはコンバージェンスの値のみである。二つの光軸が交わるコンバージェンスポイント上の被写体は再生時にはスクリーン上に現れ、コンバージェンスポイントよりも奥の被写体はスクリーンの奥の表現され、手前の被写体はスクリーンの手前に表現されるようになる仕組みだ。2Dの従来のカメラは、アイリスやズーム、フォーカス、色温度などを調整して撮影していると思うが、それらの値に3DA1に、「コンバージェンス」という新しいパラメーターが加わることなる。
3DA1を使えば、普段の撮影作業に加えて「コンバージェンス」の値を調整するだけでいきなり立体映像の収録を始めることができる。とにかく便利だ。コンバージェンスの値は「C」という記号を使って、C0~C99までの範囲で調節できる仕組みになっていた(検証期間現在)。これに合わせてズームの距離もテレ側からワイド側までZ0~Z99という値が設定されている。このCの値とZの値が3D撮影では肝になるのだ。ズーム距離とコンバージェンスの値の組み合わせで様々な立体感を演出することができる。
3D映像確認のためのモニター
スタジオ撮影での様子。今回はKi Pro2台そしてモニターを2台用意。アストロデザイン株式会社のWM-3209 -B(8インチ)とSM-3324(24インチ)
3DA1とKi Pro2台があれば、ハイエンドな3D映像収録が可能だ。今回はアストロデザイン株式会社より2台のモニターをご提供いただいた。一台はフィールドでも使えるSDIが2系統使用可能な小型8インチモニターWM-3209-B、もう一台は偏光式の3D視聴ができる24インチモニターSM-3324である。3D制作において収録時のモニター環境を整えることはとても大切で、この2台は多くの要望をかなえてくれるモニターだ。特に8インチモニターは優秀で、左右の映像のベクトルスコープを重ねて表示できるだけでなく、映像のズレを図るための「ピクセル数計測」が可能なピクセルライン表示、あるいはアナグリフ方式による3D表示も可能で2年前から発売されたとは思えないほどの機能の充実が見られるモニターだ。Vマウントのバッテリーで使えるというのも評価が高い理由だろう。一方の24インチモニターは左右SDI信号を受けて、円偏光による3D表示が可能なモニターだ。視野角も比較的広く、操作性も素晴らしい。撮影はスタジオと屋外で行なったが、スタジオでは2台のモニターを使って3D視聴しながら波形を確認した。屋外では小型モニターだけを使用したが、アナグリフによる確認ができるので使い勝手は抜群だった。
SM-3324(24インチ)は円偏光式の3D視聴ディスプレー。 |
WM-3209-B(8インチ)も3D撮影現場では活躍が期待される。アナグリフ表示もでき、Vマウントもいけるのでフィールドでは重宝する。波形の確認で左右の画をそろえるのに必要 |
3D映像の破綻
3DA1を使えば「簡単」に立体収録ができる。しかし気をつけないと映像が破綻する恐れがあるで注意が必要だ。ここでいう「破綻」とは、再生時にちゃんと3Dとしてみることのできない映像のことを指すのだが、3DA1で起こりうる3種類の「破綻」をここで説明しておく。
1.「前方発散」-これはいわゆる「飛び出しすぎ」の映像で、再生時に目が寄り目になってしまい大変疲れる映像となる。この現象は、カメラと被写体の距離が近いと起きてしまう。3DA1の場合、視差が6cmに固定されているため被写体との距離はCの値によってその距離は変わるのだが、最低でも被写体とカメラは1.8mほどは離れておく必要があるだろう。
2.「後方発散」-「前方発散」の逆で。実はこの破綻が一番人体には危険な映像となる可能性があり、一番の注意を払いたい。Cの値によっては、カメラから「離れすぎた」被写体は、立体映像では人間の目では捉えきれないものとして再現される。この映像を視聴すると、両目の軸が外に開いた状態になるので前方発散よりも人体には危険とされるのだ。特にコンバージェンスの距離が近いと後方は発散しやすくなるので、気をつけたい。
3.「片側収録」-これは片方の映像にのみ被写体が写っているシーンを指す。左目には写っているのに、右目には写っていない映像をみると当然立体映像としては破綻する。ステレオ映像の場合画面の左右ぎりぎりのところに必ず片側収録の可能性のあるスペースが生じるので、そのスペースには被写体がない様に心がけたい。
このような破綻映像を避けるためには左右の映像の「ぶれ具合」をしっかりと調整する必要がある。特に「前方発散」と「後方発散」に関してはコンバージェンスの値とズームの値を変えることで避けることができる。最終的な上映サイズが「何インチ」程度になるのかを知っておけば、2つの映像のぶれ幅の許容範囲を認識することができるので、収録時にはなるべくモニターを用意したほうがいいだろう。特に後方発散は見落とすことが多いので、コンバージェンスの距離を短くした際には気をつけたい。
コンバージェンスを上手に調整して、快適な3D撮影
視差を一定にして、コンバージェンスの距離を変えたときの比較。赤い矢印は左右の映像のブレを象徴する長さになるため、コンバージェンスの距離を長くとると、コンバージェンスが短い時と比べて前方発散しない被写体の位置と、後方発散しない被写体の位置は後ろにずれる(使用するレンズ画角でその比率は変わるため、図はあくまでもイメージ)
3D映像の破綻さえ理解できれば、あとはどんどんと撮影を進められる。3DA1の素晴らしい所は枚挙に暇がないが、左右の映像が常にしっかりとキャリブレーションされた状態で撮影ができるので、上下のズレや、回転のズレ、ズームのズレなどのリグなどを使って2台のカメラで撮影する際に起こりうる画角のズレを心配しなくて良い。コンバージェンスを適正値に合わせていけば快適な撮影が安心して行なえる。今回の撮影で使った機材は、3D撮影のワークフローにおいて「堅牢」な組み合わせだと実感できた。3DA1とKi Proの組み合わせは、3D撮影の一番の懸念である「立体視が適正に行なえる映像」の撮影を最も効率的な方法でできるシステムであると言えるだろう。
記録が同期するKi Pro~3DA1との相性は素晴らしい
3DA1とKi Proの相性は抜群。撮影の規模も最小限に抑えられるので、外ロケも問題ない。従来の2Dとほとんど変わらないスタイルで撮影が行なえるのが嬉しい
3DA1の内蔵SDカードは左右の映像記録のために2枚必要だ。AVCHD記録なので16Gあれば70分程度の記録が可能である。今回はKi Proを使った外部収録となるためあくまでもバックアップという位置づけで利用することにする。ここで素晴らしいのは、カメラ側のRECにKi Proが連動して動くということだ。つまりはSDカードによる内部記録とKi Proの左右の映像が自動で同期収録を開始することができるので、非常に効率的な編集作業を行うことができる。編集部分については次回の第2回で詳しく説明するが、Ki Proと3DA1の相性は抜群で、もちん2台のKi Proの記録も完全に同期しているため、3D素材収録としては完璧だ。次回はKi Proで撮影した立体視の映像の編集について話を進めて行きたいと思う。