株式会社マリモレコーズ 江夏由洋(FILTER KYODAI)

編集時にはCineForm Neo3Dを利用

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Ki ProストレージモジュールSSD 250GB。Firewire800で接続し、一気に収録したProRes 422のデータをPCにコピー。左右の映像の整理はきちんとしておくことが大切

史上初の業務用3DカメラであるPanasonic AG-3DA1を使用し、立体視映像の撮影編の続きとして、今回はその映像を更に効率的に編集するためのワークフローを説明する。AG-3DA1と最高の相性をみせてくれたAJAのKi Proを2台使って左右の映像を収録した。 もともと3DA1には内蔵のSDスロットがL・R2基ついており、AVCHDコーデックでの収録が可能だ。ところが3DA1には、更にL・RでHD-SDIサイマル出力が(同期した状態で出力)可能なため、外部レコーダーを使ったシステム構築を組むことができる。Ki ProはProRes 422でHD-SDIの信号を記録できるレコーダーだ。これを使えばAVCHDよりも高画質な映像の収録を期待できるため、今回使用を試みた。もちろんFinal Cut Proとの相性もいうことはないため、編集のストレスも大きく軽減できる。 まずこの映像ファイルであるProRes 422のデータをMacにコピーする。注意すべき点は、コピー時に「右」か「左」かファイルを必ず区別しておくことだ。映像だけではそのファイルが「右」の画なのか「左」の画なのか区別するのは非常に難しいため、最初から「左右の区別がつかられるファイル構造」を作成しておくことが望ましいだろう。またファイル名にLやRといった文字を入れておくことも大切である。

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ReMasterの画面。バッチ処理できるのでそれほど作業は面倒ではない。 CPUのコア16個をすべて活用してコンバートを行なったが、実時間の70%ほどで作業は終了した
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First Lightの画面。直観的に使用できる

今回編集で使うマシンはMac。Ki ProはProRes 422で収録される。ちなみにWindowsによる編集環境を整えるのであれば、最新のAvid Media Composer を使用すれば可能である。今回は3D編集の準備としてProRes 422素材をCineFormを使って中間コーデックに書き出すため、プラットフォームはMacに限られる。ここで使用する3D専用ソフトウエアが「CineForm Neo3D」となる。 今3D編集において大きく注目されているのがこのCineFormだ。もともとファイルサイズが軽くて高画質を謳う次世代のコーデックとして有名なCineFormだが、今回は3D編集機能を搭載した「Neo3D」を使って編集を進めていきたい。ここで特筆すべき点は、このソフトウエアはFinal Cut Proなどのノンリニア編集ソフトと「連動」して動くというところだ。自由度の高い3D編集のデータをリアルタイムでやり取りすることができる。使いなれたソフトを使って2D感覚で作業が行えるため、3D編集の際は是非一度使ってみていただきたい。 Mac版では「ReMaster」と「First Light」という2つのソフトウエアでCineForm Neo3Dは構成されている。「ReMaster」は素材をCineFormコーデック(10bit4:2:2、QuickTime形式)にエンコードするもので、「First Light」は左右のCineFormデータをひとつのファイルに再構成して、3D編集のためのメタデータを調整するものだ。なぜこのCineFormを使った3D編集が効率的か?それには大きな理由があるのだ。それは、アクティブメタデータ調整で2D感覚の編集が行えることだ。

アクティブメタデータという編集環境

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Final Cut ProとFirst Lightの連携はとても良い。First Lightのメタデータの情報はすぐにFinal Cut Pro上で確認できる

さらに注目すべき点は、CineForm Neo3Dにおいてアクティブメタデータによる編集が、他のノンリニア編集(NLE)ソフトウエアと同時に行えると言う点だ。つまり、左右の映像の位置補正やカラコレなどといった編集をメタデータを使って行なえるだけではなく(非破壊による調整)、そのメタデータをリアルタイムにNLE編集ソフトウエアに反映することができる。これによりFinal Cut Proのような汎用的なNLE編集ソフトウエア上で、左右の映像をあたかも2Dのごとく編集することが可能になった。また3Dの出力形式(モニター出力)もサイドバイサイドやインターレース(Fields)、アナグリフといった数多くから選択することが可能で、それらのフォーマットも全てアクティブメタデータとしてリアルタイムにNLEソフトウエア上に反映することができる。これら機能の数々は、今まで混沌を呼んでいた3D編集に大きな光明を生んだといっても過言ではないだろう。

ReMasterでCineForm変換

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CineFormコーデックのQTファイルをFirst Lightで読み込んでMUXを行なう。MUXの前に素材のMarkを行い、L/Rの判別をしておく。判別をすると、サムネイルの横にLeft/Rightの情報が表示される。

それでは早速撮影した素材を一度CineFormコーデックに変換していこう。「折角ProRes 422で撮影したのに…」と感じる方もいるとは思うが、後々の3D編集のことを考えるとこの変換作業は必要なのである。まずはReMasterを立ち上げて、Ki Proで収録した左右のデータを一気に選択してバッチ処理で変換を行う。この際に注意するべきことは、やはり左右のファイルが入り混じらないようにすることだ。変換にかかる時間はマシンスペックやハードディスクの速度にもよるが、16コアのMacの場合、実時間の約60%~80%ほどの時間を要する。またProRes 422だけでなく、AVCHD形式からのCineForm変換も可能なためAG-3DA1のSDカードに収録されたデータも同じようなワークフローを組むことができるのが特徴だ。

MUX作業をすれば、あとは一気に編集!

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ペアとなる2つのクリップを選択して、MUXを行なう。ソフトウエア上ではExport Stereoを選択。MUXしたファイルの名前も分かりやすく整理しておくことが大切

次のステップは、左右の映像のMultiplex化をしなければならない。この作業はCineFormコーデックに変換した左右の映像を1つのファイルに「合体」する作業で、略して「MUX」と呼ばれ、First Light内で行う。簡単にMUXの手順を説明しておこう。まずFirst Lightに使うCineFormに変換した素材を読み込み、それぞれの素材が左右どちらの映像なのか特定するためにMarkという判別を行なう。初めの段階でファイル名にLやRを入れておくことが必要なのは、このMark作業で左右の間違いを起こさないためである。次にペアとなる左右の映像を選び、FileメニューからExport>Export Stereoを選択する。この一連の作業でMUXのためのレンダリングが始まるのだが、おそらくLRのデータをコピーする作業が内部では行われているだけのため、かかる時間はそれほど気にはならない。ここからFisrt LightとFinal Cut Proを併用して3D編集を開始できる。一連の準備はディスク容量を必要とするだけでなく、少し時間がかかるかもしれない「編集仕込み作業」ではあるが、ここまで来れば後は自由自在な3D編集作業が待っている。

ちなみにKi Proの左右の録画時間がたまに1~2フレームほど違うことがある。これは録画中終了のタイミングが左右でズレることがあるからで、MUXにおいては短いほうの長さに合うようになっているようだ。RECの開始に関しては問題なく同期が取れているので、その点は心配はいらない。

アクティブメタデータで非破壊編集

デュアルディスプレーZALMAN社3D偏光モニターを使用。インターレースのラインバイラインで表示させれば、立体感を確認しながらの編集をすることができる
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出力設定も数多く用意されている。Fieldsを選べはZALMANの偏光モニターで立体視をしながら編集ができる。AnaglyphやDifferenceなど、用途に合わせて選択可能だ

今回使用する編集ソフトはFinal Cut Proである。そして編集で使用する素材はMUXしたCineFormコーデックのQT(クイックタイム)ファイルで、基本的には2D編集のようにプロジェクトウィンドウにMUX素材を入れていく。タイムラインにMUXしたファイルをドラッグアンドロップするとダイアログが表示されるので、素材と設定を合わせるように指定すれば、あとはどんどんと編集を進めればよい。今回はデュアルモニターの片方をZALMAN社の3Dディスプレーにして、これをモニターアウトの出力先にアサインした。リアルタイムの立体視確認をしながらの作業をする場合は、First Lightでインターレース(Fields)表示を指定すればFinal Cutの映像が自動的に切り替わる仕組みになっていて使い勝手が良いと感じられた。

2つのソフトウエアの連携はとても良く、サイドバイサイドやアナグリフといった表示方法も簡単に切り替えられるのが素晴らしい。もちろんFirst Light上のアクティブメタデータも瞬時にFinal Cut Proに反映されるのだ最大の特徴だ。Fisrt Lightのメタデータ編集タブのうち「Active」と「3D」の2つのデータがアクティブメタデータとして編集が可能で、「Active」のタブの中の編集は左右の映像のメタデータを一度に変える「カラコレ」のメタデータをいじることができ、「3D」のタブのパラメータは右と左の位置調整や色の調整を個々に行なうことができる。立体視を調整するための左右の幾何学補正は、破綻した映像などをガイドラインに沿った立体視映像に編集する際には必要不可欠であるため、こういった編集方法は非常に効率的だ。

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PassiveタブにあるGridを使えば、位置編集も効率的に行なえるので、いろいろと試していただきたい

特にFirst Lightの3Dダブにある幾何学調整のためのパラメータはとても充実していて簡単だ。ちなみに「Passive」タブの中にあるGrid表示などの機能も、位置調整の時には非常に役立つので一度試していただきたい。このような環境が整えば、3D編集は2Dと同様な感覚でワークフローを組むことができ、左右のステレオ映像をFinal Cut Proのような汎用的なソフトウエアを使って3Dの編集ができるというのが素晴らしいと感じた。ちなみに一度作業を終えて改めてプロジェクトを再開するときは、Final Cut ProとFirst Lightを立ち上げた状態で、Final Cut ProのFileメニューからimport>current FCP projectsを読み込むことでFirst Lightに使用されているMUXファイルがすべて読み込まれる仕組みになっている。

KONA 3を使った効率的な色補正

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色の波形のモニター確認は、AJA KONA3出力設定をStereoに、左右映像を同時にHD-SDIから出力。2系統入力できる波形モニターに接続、確認。ベクトルスコープやウェーブフォームで、左右の色のバランスを整える

左右の色を合わせる際に、あると重宝するのが2系統入力が可能な波形モニター。今回使用している映像出力のインターフェースはAJA KONA3である。KONA3は左右の映像を同時にHD-SDIで出力することができる、素晴らしいボードだ。KONA3の出力設定を「STEREO」にすると、MUX素材の左右の画がそれぞれ同時に出力されるので、この出力先に波形モニターをつなげて、左右の色のバランスを目視して色調整が行なえるという仕組みだ。ウエーブフォームやベクトルスコープを使えば、左右の色バランスを快適に整えられ、First Lightを使ったカラコレもスムーズに行なうことができる。KONA3は3D編集においては欠かせないインターフェースであると実感した。

収録素材の画質比較と考察

今回の撮影のワークフローとして、左右の映像の収録はKi Proで行い、AG-3DA1内蔵のSDカードに収録されるAVCHDファイルはバックアップとして運用した。Ki ProはProRes 422コーデックであるため、AVCHDよりも「高画質」な収録が予想されるのだが、実際にどのような違いが両者の映像に現れるか確認をしてみた。

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Ki Proで接続して収録したProRes 422のベクトルスコープ。
やはりKi Proの映像の方が1枚上手であることが分かった。
AG-3DA1の内蔵スロットでAVCHD収録した素材をProRes 422に変換した映像のベクトルスコープ。

まずは収録した素材を比較してみたい。3DA1内蔵のSDカードに収録されたAVCHD形式の素材をFinal Cutに取り込んでProRes 422に変換したものと、Ki Proで収録したProRes 422形式の素材を比較してみた。ぱっと見でわかる画質の違いに、現場では「やっぱり」という声が上がるほどだった。技術的な見方での違いをみるために、2つの映像の信号をそれぞれベクトルスコープを使って比べてみた。画質の違いは明らかで、写真を見ていただければその差はすぐにわかっていただけるだろう。 また、両者の映像をCineFormのFirst LightでMUXしてみて、エンコードをそれぞれ行った後の映像も比較してみた。エンコードを行うと更に画質に差が表れることもあり、その画質変化にわれわれも興味津々だった。左右のAVCHDファイルをCineFormコーデックでMUXしたQTと、左右のProRes 422ファイルをCineFormコーデックでMUXしたQTの2本を同様に比べてみた。やはりその差は更に大きく現れて、現場での「Ki Pro」運用は重要であるとスタッフ一同実感した。写真からも一目瞭然であるが、やはり圧倒的にKi Proで収録したProRes 422のファイルのほうがディテールの表現力が高いのが分かるだろう。 3DA1の撮影でより「高画質」な3D撮影を望む場合は、Ki Proを2台使ったシステム構築が期待に応えてくれる。3DA1内蔵のSDカードでAVCHDに記録することも「簡単」なワークフローではあるが、これだけProResの画質が良いとなると、Ki Proを使ったシステムには大きな意味があるといえる。内蔵のSDスロットをバックアップとして使用し、本線収録としてKi Proを使えば、堅牢な3D収録システムが完成するのだ。 さて次回は最終回だが、3Dの映像を「いかに再生」するかについて話を進めて行きたいと思っている。

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Ki ProでProRes 422で収録した素材をCineFormに変換、 MUXした映像のアップ(600%)。クリックで拡大 AG-3DA1内蔵スロットでAVCHD収録素材をCineForm変換、 MUXした映像のアップ(600%)。クリックで拡大

この画像ではわからないが、Ki ProでProRes 422収録した素材は問題なかったが、AVCHD収録した素材に破綻が見られた。