デジタル化がもたらしたもの

ビデオ機器のデジタル化は、VTRのフォーマットや放送方式に依存した様々なコーデックが開発される一方、ノンリニア編集システムは、アナログビデオ信号をキャプチャー(デジタイズ)して編集などの作業の終了後またもとのアナログビデオ信号にして出力していた。

デジタルVTRが一般化する以前からマルチメディアとかデジタルビデオというようなキャッチフレーズの元にPCで動画を扱うための仕組みがあった。ただし、当時のPC環境でSDの画質(640×480、60フィールド)を維持することは難しく、Sigma Designsなど画像専用コーデックを扱うディバイスを搭載した高価なキャプチャーボードや転送レートを維持するためのRAIDシステムなどが必要で、ほとんどの場合リアルタイムの編集も行うことができなかった。

こうしたシステムをPCで組むよりもVTRなど既存のビデオシステムの方が安定性やコスト、操作性といった面でメリットが当時はあったのである。PCでのノンリニア編集システムは、映画のSteenbeck.などフィルムの編集機をデジタル化したものとしてスタートし、ビデオに業界へも広がっていった。それをきっかけとしてビデオのデジタル化とこうしたPCベースの映像システムとの融合が始まったのである。

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16/35mmフィルム編集機Steenbeck ST3514

ネイディブ編集の是非

記録媒体がテープだとそれがアナログでもデジタルでもPCに取り込むキャプチャーという作業が必要になる。ファイルベースになるとメモリーなどに記録されたデーターをそのまま編集することができ非常に効率的な作業を行うことが可能だ。

アナログ的な感覚からすると記録されたコーデックのまま変換せずに編集することは画質劣化などもなく最適な方法のように思えるのだが、LongGOPの場合は必ずしもそうとはいえないので注意したい。

LongGOPは、IBPの組み合わせで構成されており、編集点がGOP単位の場合はGOPグループの関係性は保たれるが、確率的にもそうならないことのほうが多いはずだ。その場合厳密には、その編集点以降はGOPの再構築が必要になるはずである。ネイティブといっても再構築というデジタル変換が行われるわけだ。もっと細かなことをいうと、GOPグループの関係が保たれるように編集したとしてもフレーム間の相関をきちんと保とうとすれば、数フレームの再構築は必要である。実際各社編集システムがどこまでフォローしているか不明だが、機会があったら検証してみたい。

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編集点がGOP単位の場合はGOPグループの関係性は保たれるが、フレーム間の相関は保たれていない
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GOPグループの関係が保たれないので、編集点以降はGOPの再構築が必要になる

では、こうしたGOPのルールが守られていない場合どうなるかだが、ほとんどの再生機では何事もなかったかのように再生できてしまう。よく見ると編集点でフレームが飛んだり画質の劣化が見られることもあるが、気がつく人はいないだろう。ただし、Blu-rayのオーサリングを行い、プレスにする場合ベリファイヤーでエラーが出る可能性が高い。

ほとんどの編集システムでは、編集に適した中間コーデックを採用している。LongGOPであろうが、Intraであろうが編集に都合がいいコーデックに変換してしまおうというわけだ。わずかだがデジタル変換に伴う劣化の懸念や変換にかかる時間などデメリットもあるが、異なるコーデック同士の編集を行う場合や、HDVやAVCHD、XDCAMといったLongGOPのファイルの場合では、ワークフロー上中間コーデックへの変換を行った方が、結果的に良い場合もあるということだ。

中間コーデックの行方

Avidの編集コーデックDNxHD145を採用した池上通信機HDN-X10

放送や業務用としてAvidやEDIUS、Final Cut Proといった編集システムがあるが、いずれも独自の編集用の中間コーデックをもっている。アナログのビデオ信号をデジタイズ(キャプチャー)して編集を行うといった歴史的な流れの中で採用されたものやLongGOPの問題を解決したり、異なるコーデックの編集やSD、HDの混在編集などを行う場合の解決策であったり、ルーツは様々だ。いずれも編集システムの負荷を考慮して非圧縮よりは転送レートは少なくなるようになっている。結果、ファイルサイズも非圧縮ほど大きくはならない。

VTRに依存せずに編集を行うのであれば、こうした中間コーデックを撮影の段階から採用してしまえば、変換の必要もなく効率的なワークフローを構築することができる。すでにSD時代から池上通信機はAvidの編集コーデックを採用したEditcamを開発し、現在はAvid DNxHD145を採用したHD版のHDN-X10を発売している。

また、AJA Vido SystemのIOやKiProなどはAppleのProResという編集コーデックで記録可能なレコーダーを発売している。池上の場合は、VTRフォーマットを自社でもっていなかったという事情から満を持して開発・発売したものと思うが、いささか時期尚早だったようである。

編集コーデックで収録できるカメラやレコーダーは今後も開発されるだろうが、広く普及するためには、放送局の納品形態がVTRテープからファイルベースになることが必要だ。それ以外の業務用では、VTRというしがらみがない分野ではこうした方向性は加速されることと思う。ただ、現状の制作現場を見る限りはそれぞれの事情から単純には推し量れない。撮影コーデックと編集コーデックのあやしい関係はとうぶん続きそうである。その先に行き着くところは非圧縮なのだろうか。

その先に見えるモノ

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撮像部や記録、IOなどのコンポーネントが分離できるRED Digital Cinemaのepic

ビデオカメラは、箱型の大きなものからCCUレスのハンディカメラ、カメラと記録部分が一体化したものへと進化を遂げている。最初はニュース取材用のENGカメラも画質や周辺機材の充実、ポストプロダクションなどの環境変化により、従来は箱型の大きなカメラで制作していたドラマなどもENGカメラで制作されるようになり、番組制作のほとんどをカバーするようになる。すでにENGカメラというよりマルチパーパスとか汎用カメラといったほうが適切といえる状況があった。

デジタル化で小型ビデオカメラも業務用のほか放送でも使われるようになり、市民権を得たといえる。採用しているコーデックの種類やレンズ交換ができるもの、大型の撮像素子を採用したものなど様々な小型ビデオカメラが登場しており、汎用のカメラを使用するより使い勝手は良くなっているように見えるが、その実現場的には従来の汎用型ENGカメラとしての運用を求めている部分もある。

メーカーとしては適材適所のカメラを開発しているので、それぞれの制作に応じて最適なカメラを選択してほしいという思惑のようだが、実態はなかなかメーカーの思惑通りいかないということだ。レンズやカメラ部、記録部分が自由に組み合わせることができ、その時々の制作に応じて最適な構成にすることができるカメラ。REDのepicはある意味でそうした要求に一番近いポジションにいるように思うが、目指している方向性がビデオとは異なるようだ。NABではブースを出すそうなので、期待したいところだ。

コーデックの種類だけでなく、カメラの機種や編集などの後処理を考えるとワークフローは多岐にわたる。これをわずらわしいと考えるか、制作に適した制作フローを自由に構築できる幸せな時代が到来したと喜ぶべきかは人それぞれだろう。いずれにしてもコーデックやフォーマット、個々の機材の機能性能、実際の運用など総合的な知識がないと振り回されるだけなのは言うまでもないことだろう。メーカーがとか販売店がとか先輩がという他力本願的な考えでは通用しなくなってきている。ある意味真のファイルベースは自己責任の意味をきちんと理解し実行出来る人だけが到達できる桃源郷なのかもしれない。


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