最適なフォーマットとコーデックを組み合せを考える

アナログではコピーによる劣化があり、編集工程の工夫やコピーによる劣化の少ないVTRや機材を選択していた。デジタルでは原則コピーによる劣化や伝送系での劣化は考慮する必要は無くなったが、圧縮されたファイルの場合は単なるカットつなぎだけでも画質の劣化に繋がることもある。劣化を避けるには非圧縮ということになるのだが、一口に非圧縮といってもサンプリング周波数や量子化ビット数によってはデジタル化した段階で解像度や色深度が不足することもありうる。現状では、合成を伴う場合は10bit 4:4:4あたりが理想的だ。

ファイルベースで重要なことは、ワークフロー全体を通して変換を伴う操作をしないことが原則になるが、撮影から編集までこうした非圧縮で作業を行うにはコスト的な問題もあり難しいのが現状である。求めるクォリティは最終的なアウトプットを元に逆算していくことになる。たとえば放送が最終形態の場合1440×1080iというフォーマットだったり、Blu-rayでは1920×1080iだったりするので、撮影段階から編集までをこうしたフォーマットで行うというわけだ。問題は圧縮コーデックも統一するか否かだが、これはケースバイケースということになる。

一般的には、カット編集だけであれば業務用として採用されているコーデックを使えば画質劣化に関してそれほど神経質になる必要はないが、撮影時のコーデックで編集まで行うかどうかの判断は難しい。特にAVCHDのようなコーデックの場合は編集用の中間コーデックを利用したほうがいい場合もある。ただ、変換やキャプチャーに時間がかかるので、スピードを要求される場合はネイティブ編集することになるだろう。

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外付けのレコーダーが使える現場であれば、編集コーデックで直接記録できるKiProやATOMOSのNinjaやSamuraiを使うという選択肢もある

ファイルベースでは、ワークフロー全体を俯瞰して最適なフォーマットとコーデックを組み合わせることが要求されるわけだ。それをどのように見つけていくかは、手持ちの機材や仕事の内容、予算など様々なパラメーターがあるので一概に決めることはできないが、個人的には編集用の中間コーデックの利用をおすすめしたい。AvidであればDNx、EDIUSならHQコーデック、FinalCutならProResという具合だ。どの編集システムを使うかは予算やスキル、外部の編集プロダクションとの関係で決まることになるだろう。

撮影のコーデックは、こうした編集システムが対応出来るコーデックで記録できるものという事になるが、ビデオフォーマットを統一しておけばMPEG2系やAVCHDなどコーデックが混在していても編集コーデックに統一されるので問題は少ないはずだ。なによりも編集システムのコーデックなので、作業環境もそれぞれの編集システムで最高のパフォーマンスが発揮できる。また、外付けのレコーダーが使える現場であれば、編集コーデックで直接記録できるKiProやATOMOSのNinjaやSamuraiを使うという選択肢もある。

劇場用映画といえば2k4kの非圧縮ということになりそうだが、HD機材を使って制作した映画があるので、ファイルベースのワークフローとして紹介したい。この作品はドキュメンタリー映画ということもあり、撮影機材にデジタル一眼や小型ビデオカメラを多用している。ファイルベースのワークフローの一例として参考になると思う。

ドキュメンタリー映画「うまれる」のワークフロー

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ドキュメンタリー映画「うまれる」撮影現場より

ドキュメンタリー映画は役者さんではなく一般の人達が被写体になることが多く、予算のある作品制作でもあえて民生機や小型カメラを使うことがある。今回この映画でメインで使われたのはEOS 5D Mk2とAG-HMC155である。スタジオでのシーンもあり、こちらは合成が前提となっておりAJ-HPX3000Gが使われている。

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EOS 5D Mk2およびAG-HMC155、AJ-HPX3000Gで収録された素材は編集のため全て1920×1080の23.97fpsの ProRes422に変換された

記録フォーマットは全て1920×1080で統一されているが、フレームレートはEOS 5D Mk2のみ30fpsであとは23.97fpsとなっている。このあたり最初に撮影機材ありきで制作が進んでいたようで、フォーマットが完全に統一できなかったようだ。

ドキュメンタリーの場合、大きなカメラや照明を持ち込んで撮影する訳にはいかないとか一般の人が被写体のため、大掛かりな撮影スタイルはそぐわないし、取材の段階でいい絵が取れる場合もある。デジタル一眼はそうした環境では有利だがフォーマットはビデオカメラのようにはいかない。

一方、コーデックはEOS 5D Mk2がH.264、AG-HMC155がAVCHDで、AJ-HPX3000Gは後処理で合成をおこなうということもありAVC Intra 100で収録されている。収録された素材は編集のため全てProRes422に変換されるとともにBlu-rayに保存用バックアップ記録されている。フォーマットは1920×1080の23.97fpsである。

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キネコや音声、ダビングなど主にフィルムラボでの制作フロー

こうしてProResに変換されたファイルは監督である豪田トモ氏を中心に編集され、CG合成やテロップ、MAなど最終工程をUVNが行った。ファイルベースのいいところは、素材だけでなく編集のプロジェクトデータもまとめて共有できることで、素材とEDLを別々にやり取りすることなくスムースに作業できることである。素材や編集データのやり取りは外付けのハードディスクで行っているが、トータルでテラバイト単位となると現状ではこうしたスニーカーネットワークが現実的ではある。ただ、編集データや字幕のデータなどはネットでも充分やり取りできるので、素材さえ共有してしまえばあとはネットでのやり取りで済ませることができる。

その後はキネコを行うためフィルムラボへ持ち込むことになるが、ProResのままでは対応できないので、HDCAM SRでムービーデータを保存して納品している。ラボでは、HDCAM SRからネガフィルムへキネコすると同時に最終的な音声ミックス用のガイドとしてHDCAMにも記録している。音声処理はPro Toolsなのでファイルだが、フィルムの作業工程上このファイルから音ネガを作成してHDCAM SRからキネコした絵ネガとともに上映用のフィルムが制作されている。

フィルムの作業工程はこうした方法以外にもあるが、今回は作業分担の都合とラボの対応の都合からこのようなワークフローとなっている。映画のような大きなスクリーンで上映する場合小型ビデオカメラで撮影したHDのクォリティでどこまで通用するのか。実際に映像を見た限り特に破錠は見られなかった。作品がドキュメンタリーものということもあるのだが、劇場用の映画として充分なクォリティを持っているといえる。もちろん、フィルムのラチチュードのほうがはるかに広いことから後処理での苦労のあとが見られる部分もあるが、一般の人が見て問題となることはないだろう。

「うまれる」はすでに上映がスタートして1年ほどになるが、現在でもシネコンを中心として全国で上映されているので、小型ビデオカメラやデジタル一眼のクォリティがどこまで通用するのかご自身の目で確かめていただきたい。

うまれる ポスター

ドキュメンタリー映画「うまれる」

  • 企画・監督・撮影:豪田トモ
  • プロデューサー:牛山朋子
  • ナレーション:つるの剛士
  • 出演者:大葉ナナコ、池川明、鮫島浩二、岡井崇、見尾保幸、吉村正ほか
  • http://www.umareru.jp/cinema/



















Vol.02 [ファイルベース新時代] Vol.04