txt:安藤幸央
映像技術進化の要。SIGGRAPH論文発表トピックス
CGとインタラクティブ技術の学会/展示会であるSIGGRAPH、その本流となるのはやはり学会らしく論文発表である。SIGGRAPH初日の夜に開催される人気イベントPapers Fast Forwardでは、各論文のエッセンスのみ、約50秒づつという短い時間で発表者がアトラクションや笑いを交えて紹介する。多くの参加者がこのFast Forwardを見て、実際に詳しい論文発表を聞いてみたい人や、企業としてコンタクトしてみたい研究者を選出するのである。
今年の論文は432本投稿がありその中から82本採択された。採択数は約19%である。(SIGGRAPHは論文採択数があらかじめ決まっているわけではなく、ある一定の質を超えた論文はすべて採択されるため、採択数の多い年、少ない年がある)。論文のチェアー(採択審査を司る中心人物)はMicrosoft ResearchのHugues Hoppe氏だ。Hugues Hoppeは三次元物体の詳細度や距離に応じて変化するプログレッシブメッシュなど、3DCGの基礎となる数々の技術に関係している。
論文は投稿だけでなく、学会誌 ToG(ACM Transactions on Graphics) に載ったものも含まれる。今年の注目はプロシージャル(自動)モデリング、プロシージャルジオメトリ生成、フェイシャル(顔)キャプチャ、データドリブンアプローチなど、コンピュータパワーの向上をよりどころにした実用的な研究/技術が満載である。
SIGGRAPHの近年の論文の特徴として、遠い将来に役立つ技術ではなく、数ヶ月~数年といった、ごくごく近い未来に役立つ研究が多い。また、もう実際に現場で使い始めている新しい技術を紹介する論文も多い。実際にSIGGRAPHの論文発表で見た便利な機能が、翌年のAfter Effectsに新機能として取り込まれているといったようなスピード感もある。SIGGRAPHで興味深い研究を論文発表していた人が翌年Adobeに入社して驚いたこともある。欧米ではこういった学術系と企業系の人材の行き来が頻繁で、技術そのものの研究と、その成果による企業活動とのバランスがうまくとれているように感じられる。今回は、PRONEWSの読者に興味を持って頂けるような、映像系の技術論文からいくつかピックアップして紹介していこう。
Motion Capture from Body-Mounted Cameras
http://drp.disneyresearch.com/projects/mocap/特別な環境設備無しで、手、肘、足、膝に装着したカメラの映像からモーションキャプチャを行う手法。各カメラに記録された映像から周囲の映像を類推し、さらにその周辺映像からカメラの位置や向きを推定して人の動きをデータ化する技術。
Video-Based Characters – Creating New Human Performances from a Multi-View Video Database
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動画のデータベースから任意の動きを生成する技術。ある人物の様々な動きを収録した映像データベースから、特定の動きを再構成する技術。声優に細切れで言葉をしゃべってもらい、それを再構成して勝手な台詞をしゃべっているかのように編集することを想像して欲しい。そういった声の編集と良くにたアプローチを映像で実現したもの。
Edge-Aware Color Appearance
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エッジの滑らかさに応じ、色合いの見え方が変わることに関する研究。映像の中に映っているもののエッジが滑らかなほど、明るさを感じる感覚に影響する。つまりは、クッキリ、ハッキリ映っていると、より明るく感じるということだ。実際の色合いは同じでもぼんやり映っているものより、カラフルに明るく感じるという研究。
Realtime Performance- Based Facial Animation
詳細奥行きを計測できるゲーム機の周辺機Kinectを使った、リアルタイムの顔キャプチャ技術。テレビ電話などで応用できる。
Photo-Inspired Model-Driven 3D Object Modeling
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写真にある形状に似せて、三次元形状をモデリングする手法。写真にインスパイアされた三次元モデル。「○○風のイス」などといった形状が平易に作ることができる。
Interactive Furniture Layout Using Interior Design Guidelines
http://graphics.stanford.edu/~pmerrell/furnitureLayout.htm一流のインテリアデザイナーが考える、部屋のレイアウト、家具の配置を、コンピュータアルゴリズムによって自動化する研究。見た目にも心地よい空間が構築でき、撮影セットの検討などにも応用できそう。
Depixelizing Pixel Art
http://research.microsoft.com/en-us/um/people/kopf/pixelart/ファミコン時代の荒いドット絵を滑らかに変換し、今のハイビジョン解像度でも楽しめるようピクセル画像を変換する技術。単に拡大するだけでは、ぼんやりと荒くなってしまうピクセル画を、その意味合いやキャラクタ性を保ったまま拡大することができる。
Physically-Based Real-Time Lens Flare Rendering
http://www.mpi-inf.mpg.de/resources/lensflareRendering/フェイクではなく、光学的特性を正確にシミュレーションしたレンズフレアの再現。
Expression Flow for 3D-Aware Face Component Transfer
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同じ人が映っている複数の写真から、良い部分だけを切り取って写真を再構成する技術。
Image-Guided Weathering: A New Approach Applied to Flow Phenomena
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建物の劣化やさびなどをCGで模倣する技術。実写のサンプル映像を再構成して利用する。
Exploring Photobios
http://grail.cs.washington.edu/photobios/ソースとなる画像とターゲットとなる画像を用意すると、その間の画像をデータベースから探してとってくる技術。
Matting and Compositing of Transparent and Refractive Objects
http://www.math.ucla.edu/~saikit/projects/arm/index.html反射しているものを映像中から切り貼りして移動した際、移動先でも適切な反射/透過を再構成する技術。
Animating Fire with Sound
http://www.cs.cornell.edu/projects/sound/fire/CGで作られた炎に、適切な炎の音を自動的に付与する手法。
Computational Stereo Camera System With Programmable Control Loop
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http://people.csail.mit.edu/wojciech/CompStereo/index.html
動画:http://people.csail.mit.edu/wojciech/CompStereo/CompStereo.mp4
タッチパネルでコントロールできる立体視カメラの研究。フォーカスを決めたり、ピントが合う場所を設定できる。
Highlighted Depth-of-Field Photography: Shining Light on Focus
http://web.media.mit.edu/~roarkeh/HDOF_photo_kim.pdf特定の位置の明るさを後から変えることができる技術の研究。
A Perceptual Model for Disparity
http://www.mpi-inf.mpg.de/resources/DisparityModel/立体視における両眼視差には適切な量がある。その立体視の視差の違いを被験者を用意し、実際に提示して適切なものかを確認した研究。
A Versatile HDR Video Production System
http://agl.unm.edu/hdrcamera/一部分に極端に明るい部分があっても白飛びしないで撮影できる HDRビデオカメラの研究。
Subspace Video Stabilization
http://web.cecs.pdx.edu/~fliu/project/subspace_stabilization/単に二次元画像処理ではない、奥行きを考慮したソフトウェアによるビデオスタビライザー(ぶれ防止)技術。
Tonal Stabilization of Video
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http://www.cs.huji.ac.il/labs/cglab/projects/tonestab/
動画:http://www.cs.huji.ac.il/labs/cglab/projects/tonestab/files/TonalStabilization-video.mp4
カメラをパンすることによって、動画の明るさが変化し、かつ色合いが変わってしまう現象を抑制する研究。
ちなみにここで紹介した論文以外にも、どんな論文があるか興味を持った方は是非以下のリンクをチェックして頂きたい。近年の研究者は大抵ホームページを持っており研究内容を公開するとともに、デモビデオをYouTubeで公開しているので、便利である。
来年は SIGGRAPHの論文の分野として従来のCG技術、インタラクティブ技術に加えて、ファブリック(素材)や、触覚にまでカテゴリを広げるとアナウンスがあった。より多岐に渡った新技術の展開が期待される。
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