txt:安藤幸央

SIGGRAPHでは、数多くのセッションや展示が同時並行で開催され、例えばアート、ゲームなどと分野を絞ったとしても、なかなか一人では全ての情報を網羅することはできない。FacebookやTwitterで情報交換、情報を入手しつつ、会場を飛び回ることになる。 その中から話題をいくつか紹介しよう。

Job Fair

DSC06806.JPG

SIGGRAPH会場は、学会発表の場でありながら、巨大な求人/求職の場でもある。展示会場でブースを設けていた GoogleはGoogle Earth、Sketch Upといったプロダクトを売り込むとともに、求人用フライヤー(ちらし)を大量に配っていた。Googleというと検索の会社のように思えるが、実はSIGGRAPHにくるようなインタラクションデザインに強い人材を求めている。Googleの求人カテゴリは、以下のようなものだった。

  • User Experience Resercher
  • Interacton Designer
  • Visual Designer
  • Software Engineer,
  • Front End Software Engineer

また、同様にブースを構えていたCGプロダクションDigital Domainでは、細かに分野が提示された求人用フライヤーを配布していた。特に、特定の分野において何年くらいの現場経験があるのか、どのようなソフトウェア(ツール)が使えるのか、どのような技術を使いこなせるのか?といった細々としたニーズが明確に記載されているのが印象的であった。

業種によってはPythonやC++といったプログラミング言語の素養が求められたり、Real Flow、SynthEyes、PFTrack、Nuke、DeepPaint、VUE、ZBrush、Combustion、Silhouette、Mudboxといった特定用途向けの特殊なソフトウェアの技能も求められる。また、多くの人にとっては初めは映画業界での経験は無いわけで、CM映像制作、テレビ番組での特殊効果などの経験も評価される。各カテゴリは以下のとおり。

 
  • Animator
  • Cloth/Hair Technical Director
  • Compositor
  • FX Artist
  • FX Technical Director
  • Integration Artist : 実写映像との合成を司る、トラッキングツールを駆使するアーティスト
  • Lighting Artist
  • Look Development Technical Director:主にシェーダーを操り、映像の見栄えを司る仕事
  • Matte Painter
  • Modeler
  • Production Coordinator
  • Rigger:モーションキャプチャデータを扱ったり、キャラクタの骨格データのセットアップ等を行う
  • ROTO/Paint Artist
  • Texture Artist

また、展示会場横には、求人/求職の専用コーナー”Job Fair”が設けられた。Sony Pictures Imageworks、Walt Disney Animation Studios、LucasArtsといった大手から、The Millなどの CMプロダクション、IntelやNVIDIAといった技術系の企業、バンクーバーの地元プロダクションまで、24社のブースが立ち並んでいた。Job Fairでは学生らしき若手を中心に、大判のポートフォリオを見てもらったり、デモビデオのDVDを交換する様子が盛んに見られる活気のある場であった。

Pixar User Meeting

Pixarは、展示会場ではCars2の絵柄が目立つブースを設け、レンダリングツール PRMan(PhotoRealistic RenderMan) の製品紹介や、各種映像のメイキングセッションなどを開催していた。Pixarは、Cars2のような映画の制作を中心とするアニメーションスタジオと、そのCGアニメーションを作るためのレンダリングツールであるPRManの開発部署に分かれている。PixarのPRManはPixarのみならず、世界中のCG/VFX映像のための定番のツールであり、多くの利用ユーザーをかかえる。それらPRManのユーザーを集め、PRManのバージョンアップにともなう新機能の紹介や、ユーザーの事例紹介など、展示会場とは趣きが異なる場がPixarのユーザー会である。ユーザー会は会場近くのホテルで夕方から夜にかけて開催された。ユーザー会での事例紹介は、本来の目的を逸し、圧倒的な技術力を元にした受け狙いの発表が続き、会場の拍手と笑いを誘っていた。

audibly plausible rendering

DSC06324.JPG

デジタルデータによりレコードの溝をCGで表現している様子

mp3の音楽データをウェーブに変換し、レコードの溝をPixar PRManでレンダリングして、その溝をさらに光線を追跡するレイトレーシング法で読み取って音楽を聴くというデモ。リアルの世界をCGのバーチャルの世界だけで再構築したもの。ちなみに、レコードの溝の読み取りは恐ろしく精巧で、DJがレコードをキュキュキュと操るスクラッチの音まで再現できていた。

Rolling Shutter (Chris Harvey)

DSC06169.JPG

ヘリコプターのローターが変なカタチに映っている(実写)

皆さんは、高速で動くものをデジカメで撮影した時、画像が途切れているような不思議な現象に出会ったことは無いだろうか?これはデジタルカメラに搭載されているCCDの特性によるもので、フィルムカメラでは見られない現象だ。そういったデジタルカメラの高速シャッターで、ヘリコプターの羽根を撮影した時にコマ切れに映る独特のアーティファクト(不具合現象)をCGで再現した発表。今回のSIGGRAPHの論文の中に、カメラで生じるレンズフレアを光学的に正確に再現する方法が紹介されたが、このデジタルカメラのアーティファクトの再現は何に役立つのか疑問だが、技術的には高度な発表であった。

モーショングラフィックス BOF

BOFというのは 「Birds of a Feather」、同じ羽を持った鳥は群れる(類は友を呼ぶ)という言葉からきた集まりで、同好の人々が集まるカジュアルなセッションである。今回の SIGGRAPHではデモシーンやモーショングラフィックスなど、CGとしてのSIGGRAPHの本流でない話題や映像も広くリスペクトされ、見る機会、知る機会が増えてきたのが印象としてあった。その中の一つである、モーショングラフィックス BOF の中から話題を紹介しよう。

モーショングラフィックスはテレビCMや、企業のロゴのアニメーションするものや、科学的事象を映像で説明するものなど、アート作品ではなくクライアントワークとしての「動画」一般を広く示したものである。旧来の動かないイラストレーションに対して、動きや音を加えたアニメーションがモーショングラフィックスである。The Mill、Psyopといった有名どころの プロダクションであれば知る機会があるが、このモーショングラフィックスBOFでは、手がけたTVCMそのものも見たことの無い、小粒だが実力のある、見たことの無い映像を数多く見て、知ることが出来たのが収穫であった。

Rendermotion reel 2010

メキシコのプロダクションRenderMotionのデモリール。チープシックでありながら独特のポップな感覚を持つ。

matheieu J champagne氏のデモリール

クールでグランジな感覚を持つ映像。3DCGツールによる独特の形状、モデリングを活用した映像。

CREAMY ORANGE
trr.jpg

Nick Campbell氏の個人プロジェクト(当該Webサイトは残念ながらリンク切れ多し)。

GREYSCALE GORILLA
 

モーショングラフィックスに関するブログ。ここで開催されたコンテストWinner of the Five Second Project “Reverse”のWinnerの映像がかわいらしく、会場の笑いを誘っていた。

http://greyscalegorilla.com/blog/   
Brad Chmielewski氏

ヒップホップやグラフィティ的なものをうまく取り入れた映像を得意とする。

JKenning氏

企業のモーションロゴを中心とした力強い独特の色使いの映像。利用しているフォントが特殊で独特の感覚を醸し出す。

MQSbaitso

独特のアイコンやコラージュ的な映像を特徴とする作風。

Atomhawk Design

映像制作だけでなく、企業ロゴやユーザインタフェースデザインなども手がける。英国を中心として活動するプロダクション。独特のユーロ圏のコミック文化が反映している映像。

Mohamed ben Othman氏

ドーハを中心に活躍するグラフィックデザイナー

the garden
gardenpost.jpg

ワシントン/ボルチモアを中心とするプロダクション。ちょっとした動きにも脈動感のある映像。

http://www.gar-den.com/  

総括

今回の展示会場内で、NVIDIA Foundationの学生(未来のCGプロフェッショナル)をサポートしようというプロジェクトが紹介され、ブースやオンラインで寄付を受け付けていた。SIGGRAPHも今年で38回になり、CG技術者、CGアーティストの世代も大きく様変わりしてきた。専用の大型コンピュータでなければCG映像が作れなかった時代から、ノートパソコン一台でも優れた作品や、優れた研究が可能な時代になってきており、多くの若手に可能性が広がっていることが実感される。またオライリーの主催する手作りイベントMAKEやFabLabの活動の影響もあり、3Dプリンターを自作したり、立体視テレビを自作したりする「自作」の風潮も広がってきている。

来年のSIGGRAPHは、開催地として定番の、映画の街、米国ロサンゼルスに戻ってくる。また、その前に中規模ながら内容の充実したアジア圏で開催されるSIGGRAPH ASIA 2011が12月12日から15日にかけて香港で開催される。SIGGRAPHのCGとインタラクティブ技術が業種はもとより、世代と国を超えて、ますます広がってきていることが実感できたのが今回のバンクーバーSIGGRAPHであった。


Vol.04 [SIGGRAPH2011] Vol.01