デジタルシネマに参入したCanon

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NAB SHOW 2012のCanonブース。CINEMA EOS SYSTEMでいよいよ本格的にデジタルシネマに参入

Canonがデジタルシネマの世界に参入することを宣言した2011年11月。その流れはある意味必然的でもあり、「いよいよ」といった雰囲気でもあった。ハリウッドで行われたCINEMA EOS SYSTEMの発表は、集まった関係者の顔ぶれもさることながら、日本のカメラの歴史に刻まれるほどインパクトのある出来事だったと言えよう。巨匠マーチン・スコセッシ氏が壇上でCanonに対して送った賛辞の中で「Welcome to Hollywood.」というフレーズがとても印象的であった。

全てEOS 5D MarkⅡから始まった

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エポックメイキングの一台となったEOS 5D MarkⅡ

もちろんCanonがデジタルシネマの世界へ進出するきっかけになったのは、EOS 5D MarkⅡである。映像表現を根底から覆し歴史的な一台となったこの1台のカメラは、世界中で評価されただけでなく、多くのクリエーターや撮影監督に希望を与えることとなった。

Canon自身が、まさかここまでの旋風を巻き起こすことになるとは予想すらしていなかったとはいえ、自社が培ってきたEFレンズ群の切れ味と、フルサイズセンサーが捉えるボケ足豊かな映像はまさに「デジタルシネマ」の世界であり、多くの人に「大判センサーによる動画撮影」という可能性を投げかけることとなった。欧米では「Game Changer(革命的な一台)」と称されるまでに至ったことは、20万円を切る価格で手に出来るデジタル一眼レフカメラで、フィルム以上にフィルムライクな映像を撮影できるEOS 5D MarkⅡの真価を良く表していると思う。

もちろんそういった5Dユーザー達が期待したのが、Canonの次なるステップである。もともと動画撮影用に設計されていないDSLRタイプの5Dには、当然多くの改善点が望まれたのに加え、時代が進むにつれ相応のスペック向上も望まれた。しかしCanonは5D MarkⅡが発売になった2008年秋以降、3年間もの間そういった声に対して沈黙を続けることになったのである。

布石となったEOS C300

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昨年発表EOS C300。非常に使い勝手の良いシネマカメラ。8bitではあるが、Canon LOGのクオリティは高く、新センサーの性能も素晴らしい

その沈黙期間の間、Canonはハリウッドを中心に水面下で開発を続けていた。そこで2011年11月の「CINEMA EOS SYSTEM」の第一弾として発売にこぎつけたのがEOS C300である。スペック的には5D MarkⅡに同社のビデオカメラXFシリーズを足して2で割ったようなHDカメラに留まったため、ユーザーから少々不満の声が挙がったのは事実だ。しかし動画用にセンサーを大幅に改良した点などに加え、何よりもCanon LOGという8bitの中でLOG収録を可能にした技術が高く評価されることになった。

遂に登場、2機の4Kデジタルシネマカメラ

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NAB SHOW 2012で初お目見えとなったEOS C500。待望の4Kデジタルシネマカメラだ

そして遂にNAB SHOW 2012でお披露目となったカメラでCanonは4Kの世界に飛び込んだ。もともと開発は発表されていたDSLRタイプのEOS-1D Cと、突然の発表となった4Kのフラッグシップ機ともいえるEOS C500の2機種の実機を展示。もちろんEOS-1D Cにも大きな注目が集まったが、突然の4KカメラEOS C500の発表にCanonブースには大勢の人が集まった。

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同じく初登場EOS-1D C。世界初の4K/DSLR機である。24pのMotion JPEGであれ、フルサイズのセンサーが捉える4Kは見事

またCanonはブース内に4Kシアターを設置し、C500と1D Cで撮影したショートムービーを4Kで上映。自社の新製品の4Kの実力を正直に披露したことは、Canonの自信が伺える。2本の映像を4Kで視聴した個人的な感想としては、EOS C500の4K映像はHDに比べはるかに解像度が高いと実感しただけでなく、その圧倒的な美しさが映像に与える表現力の可能性を強く感じた。シアターではC300で撮影した作品も上映されていたのだが、HDとの解像度の差は歴然だったというのは誰もがうなずく点だろう。

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「Man & Beast」のメイキング写真。このジャングルのシーンの4K映像は、息を呑むほど素晴らしかった

今回EOS C500を使って撮影されたショートムービー「Man & Beast」は映画「ソーシャルネットワーク」や「ドラゴン・タトゥーの女」などで撮影監督を務めたジェフ・クロネンウェス氏が撮影を行ったのだが、ジャングルのシーンなどの葉っぱの質感だけでなく、学校のシーンなどにおけるハイスピードの映像の重みも完璧なほどまで表現されていた。またEOS-1D Cで撮影されたショートムービー「the TICKET」は、同じくハリウッドで活躍するシェーン・ハルバット氏が撮影監督を務めたもので、ナイトショットがメインであったにもかかわらず、その光の描写と肌の質感はまさに35mmフィルムそのものとって良いほどディティールまで描かれていた。2作品を見終えて、これからは4Kの時代が来るという実感を持つことができた。また更に驚きだったのは、Canonは参考展示として30インチの4Kモニターも出品。正確な4Kモニタリングが可能なパネルを今後発売していく模様だ。

待望の4K/RAWカメラEOS C500と4K/DSLR EOS-1D Cその中身

この2機のスペックを軽く紹介しておこう。C500の基本的な筺体はC300と似ているが、グリップ部分が削られ、そこにSDIなどのインターフェースが追加され厚みを帯びたスタイルとなった。4K RAWをSDIから出力させることが可能で、圧縮ノイズのない4Kを外部レコーダーに必要に応じたコーデックで収録することができる。RAWはベイヤーRGB RAWで、4Kで120pまでの撮影モードを選ぶことができる。また10bitのCanon LOGも選択することができるため、様々なワークフローを組むことができるだろう。現在のところ外部6社がC500に対応したレコーダーを開発中で、その中には計測技研やAJAといった会社も含まれている。

一方で世界初の4K/DSLRとなったEOS-1D Cだが、4Kの収録は24pのみのMotion JPEGに対応。4KのみならずフルHDの60pにも対応し、HDMIを通じて4:2:2非圧縮のクリーンアウトを同時に出力することができる。もちろんセンサーはフルサイズであるが、4K収録時にはAPS-Hサイズ相当のクロップが生じるため、レンズの焦点距離が変わる仕様となっている。2台とも今年の10月を目処に発売を予定しているとのことであるが、C500の筺体価格は250万円前後で、1D Cは120万円前後の予定だそうだ。REDやSONY F65といった4Kカメラに肩を並べることになるわけだが、いよいよこの秋には各社の4Kカメラの役者がそろうことになる。

Canonの強み~EFレンズという武器

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スチル用EFレンズをそのまま4K制作にまで活用できるのはCanonの大きな武器。特に「赤レンズ」と呼ばれるLレンズの表現力は圧倒的

そしてこういった4Kのカメラを発表する背景にはCanonの絶対的な武器がある。それがEFレンズ群だ。そもそも4Kを遥かに超える静止画の世界で培われてきたEFレンズ群にとって、4Kの動画撮影は最高のパフォーマンスを出せる場所である。フルサイズのセンサーをカバーでき、5K以上の描写力が確実に担保されているEFレンズのイメージサークルは完璧に4Kの世界を支える能力を持っていると言っていいだろう。EOS 5D MarkⅡがあれほどの注目を浴びたのも、PLレンズに勝るとも劣らない描写力を持つEFレンズがあってこそだった。いよいよCanonが「満を持して」4Kデジタルシネマの世界へ進出することになった。

txt:江夏由洋 構成:編集部


Vol.01 [R! S! High Resolution!] Vol.03