ハイスピード映像が織り成す時間解像度の高い映像
HD240fps機能に驚いた人も多いはず。SONY NEX-FS700には多くの可能性が詰まっている
数年前までは「ハイスピード撮影」をファイルベースで行おうとすると大体Phantomなどの専用カメラをレンタルする必要があった。Phantomは一台数千万円もするいわゆるハイエンドのハイスピードカメラで、レンタルするにも、PLレンズとオペレーター、収録機など込みで1日40万円程度はかかる代物だ。CM撮影などでよく使われるとはいうものの、「簡単」に手にできるものではない。もちろんPhantom自体の性能は相当高く、一般的なタイプのPhantom GOLDであれば毎秒1000フレームもの映像をフルHDで収録することができる。そのハイスピードの世界は、人間の目では絶対に捉えることの出来ない世界を描写できるため作品制作においては多大なる映像演出を行えるのだ。
最近の映画やショートフィルム、CMやPVといった様々な分野でハイスピードの映像は取り入れられており、今回の特集のプロローグにも記しているが、4Kなどといった空間解像度を向上させるだけでなく、毎秒の収録フレーム数を高める「時間解像度」を向上させることも、新しい映像制作を支える技術として考えられる。
そんな中、4月にSONYが発表したカメラNEX-FS700J(Jは日本仕様の末尾)はなんとフルHDで毎秒240フレームの撮影を可能にしたカメラなのである。従来のNEX-FS100の上位機種として、スーパー35mm相当の大判センサーを採用していることも大きな注目点である。驚きなのはその価格で、本体のみのメーカー希望小売価格が777,000円となっており、非常に高いコストパフォーマンスが期待できるだろう。
70万円台で投入したフルHD毎秒240フレームの需要
大判センサーとハイスピードが融合。その表現力は正に未知数
やはりフルHD画質における毎秒240フレームの効果はとても大きい。もちろん前述のPhantomは毎秒1000フレームという圧倒的な時間解像度を持っているが、CMや映画などでは毎秒240フレームで十分であるといえる。もちろん物理的な検証映像や研究撮影となるとPhantomレベルのものが要求されることもあるが、人物の動きや、風になびく髪、水しぶきや砂などが舞うシーンなど毎秒240フレームあれば十分に表現することができる。再生タイムラインが24fpsであれば、10倍ものスローをフレームバイフレームで表現できることになり、その可能性は計り知れない。Phantomを2日間レンタルする価格で「購入」することのできるNEX-FS700には十分な需要があるといって良いだろう。
NEX-FS700で撮影した240fps映像の切り抜き。水しぶきが一粒一粒見える
3Gの4:2:2出力に期待~非常に魅力的な一台
現行のNEX-FS100が発売になった当時、あのPMW-F3と同じセンサーを搭載したということで話題になった。しかしAVCHD記録というだけでなく、NDフィルターが無かったり、SDI出力がなかったりという点で様々な課題を残す結果となってしまった。そこで登場したのが今回のNEX-FS700ということになる。AVCHD記録というベースが変わらないものの、多くの点が改良され、さらに新機能が追加されて非常に魅力的な一台に仕上がっている。
まずはなんといってもフルHDで毎秒240フレームの記録を可能にしたスーパースローモーション機能だ。毎秒120フレームの記録と2種類選ぶことができ、毎秒240フレームの際は実時間8秒、毎秒120フレームの際は実時間で16秒の撮影を行うことができる。これは24pのタイムラインに載せた場合、80秒ものカットを収録できるということで、十分な長さを確保しているといえるだろう。またSD画質相当まで落とせば、なんと毎秒480フレームと960フレームという更にハイスピード映像を記録することが可能で、24pのタイムラインで最大40倍ものスローをフレームバイフレームで収録を行うことができる。
将来的に4Kにも対応
また3G HD-SDI出力を装備。AVCHDの記録に加えて外部収録で十分なクオリティの映像をプログレッシブで残すことができる。ハイスピードの映像も3Gの4:2:2 60pで出力可能で、今後60p対応のレコーダーが登場すれば、高いクオリティにおける撮影が行えることになるだろう。また同時にHDMIからも信号が出力されるため、様々なモニタリング・外部収録のシステムを組むことができるのも大きな魅力だ。
そしてNDフィルターも1/4、1/16、1/64の3つの濃度のものが内蔵され、レンズ交換式としては非常に使い勝手のいい仕様となった。更に驚きなのが、新しいCMOSセンサーが搭載され、将来的にはファームウエアのアップグレードで、なんとSDIから4K出力も対応するとこのことで、いやはや面白いカメラがいよいよ低価格で登場したというのが実感だ。
CanonのEFレンズ群を使用できるEF-Eマウント変換アダプター。Metabonesから発売。いよいよC300の対抗機として活躍が期待される
またMetabonesというサードパーティから発売になっているEF-Eマウント変換アダプターを使用すれば、Canon EFレンズの絞りをカメラ本体から制御が可能になる。このアダプターは大変効果的で、EFレンズが使えるようになれば間違いなくEOS C300などへの対抗機としてFS700が活躍することが予想される。一気に具体的な使用環境が整うこととなったのもこのカメラにとって間違いなく追い風になるだろう。
驚きの使用感と映像美
今回発売前の実機をSONYからお借りすることが出来たので、実際の撮影に挑むことになった。本体以外に使用した機材はフラッシュメモリーユニットのHXR-FMU128(128GB)と、MetabonesのEFマウントアダプター、EFレンズ群、それにLEDのリングライトを加え、特機としてはSteadicam Scoutを使用した。撮影は首都圏の海岸で行い、ブラジルの格闘技である「カポエイラ」を全てHD240fpsの設定で収録を行った。
まず撮影を終えた感想として「大変素晴らしい」の一言に尽きるカメラであると感じた。今回の記録は内部のAVCHDとなったわけであるが、当然圧縮の限界は認められたものの、それ以上にハイスピードの映像が美しいため画が汚いという印象はまったく受けられなかった。それ以上に毎秒240フレームが描く新しい世界は、なんとも言えない空気感を持っている。
これが高い時間解像度が描く世界なのである。特に水しぶきや筋肉の動き、更にはタイムラプス撮影した雲との合成は、予想を遥かに超える仕上がりになった。また大判センサーとEFレンズが織り成す素晴らしいボケ足と質感はなんとも言えない人間味を表現していると感じている。具体的にはCanon EF24mm F1.4L II USM、Canon EF50mm F1.2L USMといったEFレンズで撮影した画は相当なキレが描写できた。またもっとも効果的だったのはなんといってもシグマ8-16mm F4.5-5.6DC HSMで、8mmで撮影した雲の質感やワイド感は息を呑むほどのものであったと実感している。
シグマ8-16mm F4.5-5.6DC HSMとの組み合わせ。素晴らしい画を収めることができた
ちなみに編集はAdobe Premiere Pro CS5.5を使ってネイティブで行い、そのままAfter Effectsでスピード補正と色補正を行った。撮影から画の完成まで一週間というスピードで行えたのも、実は素材がAVCHDという汎用的で扱いやすいものであったからかもしれない。
一方で、もし60pの収録が行える外部収録機器が登場して、お手軽に使えるようになれば、こういったハイスピードを更に高画質で捉えることも可能になるだけでなく、将来的には4Kも出力できるとようになれば、このカメラの価値は倍以上に跳ね上がることになるだろう。大判センサーとハイスピードという組み合わせを持つNEX-FS700には飛躍的な映像表現の進化を見ることができた。
txt:江夏由洋 構成:編集部