txt:手塚一佳 構成:編集部

ますます加速するDSMCの流れ

CP+は本来スチルカメラの祭典だ。しかし、今回のCP+2013からは、ついにプロ向け一眼動画(HDSLR)専門のコーナーも設置され、CP+が動画、特にインディーズ系映画を内包するイベントになったことは誰の目にも明らかとなった。以前、私がコラムで書いたように、RED社の創設者Jim Jannard会長が提唱し、Canon EOS 5D mark 2から本格的に普及が始まったスチルムービー両用カメラ、DSMC(デジタルスチルモーションカメラ)の流れは、もはや誰にも止める事は出来ないのだ。

動画に対するスチルカメラの側からのアプローチは日本でも積極的で、今や、プロスチルカメラマンの7〜8割が動画撮影の経験があると言われている。実際、VimeoやYouTubeなどをみても、スチルカメラマンによる作品が多く上がっている。CP+でプロ一眼動画専用のコーナーが出来たのも当然の流れと言えるだろう。

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プロ一眼動画コーナーが設置され、CP+でも映像への本格的な取り組みが始まった。ミニブースの寄せ集めかと思いきや、講演ブースまで用意され、なかなかの人気!

ただ、ここで気をつけなければいけないのが、CP+での映像の扱いにおいては、ビデオカメラ系は少数に留まり、特に業務ビデオ機はほとんど意識されていないということだ。あくまでも、今、進行しているのは静止画を撮影するためのスチルカメラと、その静止画を毎秒24枚連続で撮影するシネカメラの融合であって、そこにはインターレースやブラーなどで一コマの画質を落としてでも動きを優先するENG的なビデオカメラは含まれない。そういう意味では、あくまでもCP+は写真のイベントであると言えるだろう。「活動写真」というのは映画の古い呼称だが、まさにそうした「連続で撮影した写真を並べることで動いて見える映像」つまり、DSMCとしての映像が、CP+の守備範囲なのだ。

CP+に展示されている動画カメラの大半がRAW、あるいはLogガンマ収録に対応している、いわゆるシネカメラばかりなのも、このあたりが関わっている。ビデオ系機材ではRAWやLogガンマというとハイエンドの印象があるが、RAWなどはスチルではありふれた機能であり、Logガンマも、今やHDRという名前で携帯やトイカメラにまで搭載されているごくありふれた機能だ。映画の世界でもこれは同様で、フィルムを取り込んだCineonファイルはLogガンマだし、業界標準になりつつあるREDカメラはRAW連番を売りにしている。

後処理に抵抗のあるものの多いビデオの世界とは事なり、スチル系カメラの経験者にとって、RAWやLogガンマをいじるのは、何ら特別なことでは無いのである。そういう点でもスチルカメラの世界は、DI処理が当たり前の映画の世界との相性は良い。思い返せば、そもそもDSMCの提唱者であるJim Jannard氏自身、スチルカメラマニアが高じてRAW連番シネマカメラ専業メーカーであるRED社を立ち上げたのだ。

CP+はいわゆる「普通」のビデオ機材はあまり無く、REDやCanon 1D C、SONY F55のようなRAW、Logガンマのカメラの展示が目立った。これはスチルカメラユーザーとの相性による

DSMC機、EOS-1D Cでの取材を敢行

今回は私自身、自社所有のCanon社製新型DSMCシネマカメラCanon Cinema EOS-1D Cを手に、取材を行った。同機は、4K Canon Logガンマ収録の可能なCinemaEOSの名を名乗る本物のシネカメラでありながら、ベース機であるEOS-1D Xの機能を一通り揃えており、十分な写真撮影も行うことが出来るマルチロール機だ。もちろん、CP+会場にも同機は展示され、話題をさらっていた。

今回はEOS-1D Cでの取材を行った。同機は会場内Canonブースの他、CinemaEOS専用の展示室にも複数台実働展示され、注目を集めていた

面白かったのは、私が持っているEOS-1D Cが来場者にはさほど注目をされなかったことだ。1D Cを行列して見ている来場者の後で、彼らが見たいはずのその1D Cで撮影をしていることもあるのに、ほとんどのケースで気づかれることはなかった。CP+の特性上、Canon社のスチルカメラの最上位機種である1D Xを持っているユーザーは数多く、その外見上の違いである小さなCマークにはなかなか気づかれなかったのだろう。今回の取材テーマ上1D Cを持って行かざるを得なかったのだが、実のところ、注目されなかったのはありがたかった。やはり、一見普通のスチルカメラに見えるDSMCやその延長線上の1D Cには、シネマカメラを意図させないという、そのカメラデザインならではのメリットがあるのだ(もちろんカメラを目立たせたい時にはRIGを組んでマットボックスでも付ければ良いのだから、問題は無い)。

反面、プレスルームなどで、報道系の人々には一目で見抜かれ、質問や逆取材を受けることが多かった。デジカメ Watchのフェイスブックにも紹介され、知人たちに冷やかされたのは何とも気恥ずかしかった。

今回は1D Cに、三脚やRIGでは無く一脚を着け、主にスチル写真撮影用途に用いたが、そういうフレキシブルな使い方が出来るのもDSMCカメラの特徴だ。DSMCカメラとは、普段のスチル写真撮影に、ロケハンに、本番の映像撮影にと、常に携帯して使い続けるカメラであり、クリエイターの相棒としてそばに置いて活躍し続けるカメラ、ということになる。とはいえ、「万能のカメラは無い」とはよく言う言葉だが、実は1D Cには長時間連続の動画撮影に欠かせないセンサーの冷却機能が付いていない。つまり、ビデオ的な長時間動画撮影を切り捨てることによって、スチルと映画の高次元での両立を図った傑作DSMCカメラが、このEOS-1D Cなのだ。連続写真が撮りたければ、連写機能を使うだけではなく、4K動画を撮ってもいい。Motion Jpegで各フレームが独立しているので、フレーム書き出しさえすればそれはそのまま写真になる。Canon Logで撮っておけば、Photoshop上でガンマをいじるのも楽だ。

カメラによって、何を重視し、何を切り捨てるのかが異なるのも、発展途上のDSMCの面白いところだ。DSMCの元祖であるRED社のEPICやScarlet Xは、撮影機能の内、携帯性とバッテリーの持続時間を思い切って切り捨てて、常に三脚やRIGでの運用をすることでビデオと映画、スチル撮影の全ての機能の高次元での実現を図っている。REDのCP+初参戦の今回は、動画だけでなくそのスチル機能にもしっかり注目して欲しいと言うことで、動画ブースと合わせて計2ブースを出しての派手な登場となった。

DSMCの元祖RED社は、スチルに力を入れはじめた。ひょっとしたら近々フラッシュ連動などのスチル機能強化も実現するかも知れない

もちろん、既存のスチルカメラメーカーもこうした動きを指をくわえてみているわけではない。例えばパナソニックは、その最新鋭機Lumix GH3で「旅カメラ」と題して、小型なマイクロフォーサーズの利点を生かした身軽なスチル写真と動画撮影の講演を行い、大盛況であった。DSMCというカメラスタイルは、まさにこうした両用撮影を意識したスタイルであり、中でもGH3のこのスタイルはアマチュア〜個人作品撮影向けのライトな撮影スタイルで、画素数や色数よりも楽に確実にワンマン撮影できる事を目指した独特の路線と言えるだろう。また、GH3の動画コーナーはプロ一眼動画コーナーに隣接して設置され、相乗効果で常に多くの見学者を集めていた。同カメラの前身GH2は、スチルカメラとしてというよりもファーム改造可能で極めて優秀なフルHDミニシネカメラとして名を馳せていたから、この配置には誰もが納得しただろう。また、SONYは同社製F55などの新型シネカメラを積極的に展示していたし、Nikonも、同社の新型カメラNikon 1 V2を利用した動画撮影術なども紹介していた。

GH3のコーナーは塙真一氏による「旅カメラ」講演等の新しいテーマで大変な盛り上がりを見せた。身軽にフルHD動画が撮れるのもDSMCならではの利点だ

様々なジャンルを飲み込むDSMC

奇数年のCP+は偶数年9月に開催されるPhotokina開催から半年後の開催となり、各社共に主力カメラは出にくい傾向にある。その代わり、奇数年のCP+は市場実験的な変わったカメラや機材が多数出る傾向がある。今回も、カメラの形そのものを変えようとするかのような意欲的なカメラが各社から多数出ていたのが印象的だった。そんな中、DSMCという軸を持って今回のCP+を見て行くと、様々なものが積極的に動画に関わってきていて、非常に面白い。

例えば、筆者が注目したのが赤道儀だ。赤道儀とは、天文観測用に使うとてもゆっくりしたモーター付き雲台で、北極星を利用して天測し、地軸に並行にセットすることで、星々や太陽、月の動きをぶれることなく撮影することが出来るという装置だ。この装置を写真や動画に応用して、自然の時間軸を圧縮するダイナミックなタイムラプスを実現する機能が各社から出ており、その中でもデジタル系赤道儀の元祖とも言えるTOAST TECHNOLOGY社が、参考出品で、ビデオ撮影にも対応した高度な超スロー回転・プログラム追尾機能、さらには北極星を天測する必要のない自動極座標出し機能を兼ね備えた機器「Toast-Pro Delicious」を出してきていたのには胸が高鳴った。ただタイムラプスが出来るだけでなく、北極星を覚えなくても天文が撮れる、あるいは南半球でも専門知識無しに天文を入れた風景が撮れるというのは、本当に画期的なことだ。

天文は、GPSが充分に普及する1990年代半ばまで、北極星や星座の形状から法学や現在位置を推定する天測に直結しており、航空機や船舶の航法に必須の実学であった。私自身、英国海軍系で英王室の組織するRYA(英国王立ヨット協会)のヨットマスター資格保有者であるが、実際、そこでは海図とコンパスによる予測航法の他、GPSのバックアップとして、簡単な天測の講義も受けている。現在、地球の南半球に人類が少ない理由も、北極星が見えないため充分に安全な航海が出来なかったためと言われており、GPSの登場までの間、天文は非常に実用性が高い、生命に関わる技術であったのだ。そのため、天文は、常に最新技術が投入されるジャンルでもあった。もちろん、GPSの登場後は急速に民間からは廃れてしまったのだが、今でも、小型船舶や軍事の世界では天測と星座の知識は緊急時の生存に直結する重要な技能として位置づけられている。そのため、天文には赤道儀やクロノメーターなどの高度な機器も古くから存在しており、その映像への応用は自然なことであったのだ。最近流行ステディカム系で流行のジンバルも、元を正せば船舶上での方位羅針盤や天測儀で古くから使われてきた仕組みだ。そうした過程を考えれば、赤道儀が、ついに天測の知識が要らない自動機能を備え、タイムラプス撮影などを意識してきたのは、実に面白い動きだといえるだろう。

TOAST TECHNOLOGY社のToast-Pro Deliciousは参考出品ながら完全動作をしていた。プログラムで地軸の動きに合わせて自在に動かせるカメラは、大胆なタイムラプス撮影にまさに最適だ

また、収録カードやストレージも動画に合わせて一気に高速化、大容量化をしてきている点も見逃してはならない。例えば、Lexar社では独自ブースを出し、筆者も愛用するx1000 CFカードに加え、SONYの提唱する新規格メモリーカードXQDにも対応したことをアピールしていた。いずれも1000倍速(150MB/s)以上の超高速記録カードで、RAWなどを意識した低圧縮HD動画や、来るべき4K時代に備えたものとなっている。 さらに、ストレージでは、ウェスタン・デジタル社がThunderboltストレージや高速NASを出してきており、これらも、大容量超高速で、明らかに動画を意識したものとなっている。

スチル写真の世界は2000年代中盤に5Kを越え、大抵の印刷やモニタ表示においてRetina(通常利用においてピクセルの目視が不可能な大きさ)になってしまって大画素化の流れが止まったが、動画を軸にして、再び一気に技術革新の波が訪れようとしている。

Lexar社では、x1000のCFカードやXQDカードなど、動画対応の超高速収録カードを取りそろえていた

スチル写真に特化するアマチュア

こうして積極的に動画、特に映画の世界へと挑みつつあるプロフォトグラファーの動きに対し、アマチュア写真家はあくまでもスチル写真に特化する傾向があるのも非常に興味深いところだ。例えばSIGMA社などでは、アマチュア向きには徹底的に動画が省かれたアナログ指向のスチルカメラ機種が用意され、それらも大いに人気を博していた。また各社からクラシカルなデザインのカメラが多数出ているのも、そうした回帰指向への対応だろう。

SIGMA DP3 Merill。Foveonの一枚三色素子を備え、50mm RAW撮影専門というマニアックなカメラだ。もちろん同シリーズはマニアックな人間の多い筆者の会社でも愛用されている

これはもちろん、そうしたカメラが団塊の世代の退職後の趣味をターゲットしているというのが最大の理由だろう。団塊の世代は、まだ映像がハイコストだったフィルムやビデオ時代に青春時代を送っているため、映像制作への親和性が高い人物がそれほど多くない。また、今のところ、それを退職後の年齢で学び直す仕組みもない。そうなるとどうしても撮り放しになり勝ちで、作品性が低くならざるを得ない動画よりも、既存の写真知識が応用でき、撮影時間も現像時間も短くて済み、作品性を高める事も出来るスチル写真に人気が出るのは自然なことだ。

また、反対側から見れば長引く官製不況と紙媒体の衰退で、プロ写真家が写真だけでは食べられなくなってきているというのが大きいだろう。もちろん、映像の世界も読者諸賢ご存じの通り、相変わらず低め安定傾向の経済状況ではあるが、絶滅しつつある出版に頼ってきたスチル写真の世界よりはまだ状況はマシなのだ。また、出版は生き残りを賭けて一気にデジタル化が進んでおり、例えばデジタル出版のフォーマットによっては写真と動画が並列に扱われはじめているという世相もある。そのため、写真で生計を立てるプロフェッショナルは動画併業を目指さざるを得なくなり、写真誌にも動画記事が多数出はじめている。これに対し、純粋にスチル写真そのものを愛するアマチュアはそうした動きへの反発として動画を避ける傾向が出てきている、という発言を今回は各所で耳にした。

前述のSIGMA社DP3 Merillのような先鋭化したスチルカメラ特化機種に人気が出ているのも、その現れだ。そもそも我らが一眼動画コーナーにわざわざ「プロ」の文字が付いているのもアマチュアの反発を意識しての事だろう。この状況は、映画の世界で、デジタル化が進めば進むほどフィルムにこだわる人が出てくるのと似ていて非常に面白い。

もちろん、業界各社もその状況を座視しているわけではない。元々たいして広くもないプロの世界だけを相手にしていてはメーカーも商売が成り立たないし、かといって、流行に合わせてアマチュア機種だけを追いかけていても技術発展は望めず、じり貧だ。スチルカメラは、プロ機で機能開発をし、それをコンシューマ機に下ろしていくことで量産効果を上げて価格を安定させて行くビジネスモデルだ。そして、プロスチルカメラマンが動画機能を望む動きが出ている以上、今後、スチルカメラは動画機能も充実させざるを得ない(そうでなければプロ機に搭載する動画機能部分の採算がとれなくなる)。そのため、各社、アマチュアでもわかる魅力的な機能を搭載しよう、あるいは機能がわかりやすいカメラデザインにしようと、試行錯誤を繰り返している。

プロ一眼動画コーナーに隣接するGH3 Cinemaコーナー。同社のGHシリーズはDSMCの入門ラインを見事に捉え、このコーナーは常時プロアマ老若混ざり合った大人気であった

そもそもDSMCという概念自体、こうした状況を先取りしたものだと言える。低価格で高性能なシネマカメラが欲しければ、コンシューマの多数いるスチルカメラに着目せざるを得ないのだ。また、DSMCという概念には、一つのカメラを多目的に使う事によって稼働率を上げて、1出動あたりのコストを下げる効果もある。事実、筆者はEOS-1D Cを導入してからこの機体が手元から放せなくなっている。なにしろ、取材に、ロケハンに、メモ代わりに、そして本番の映像撮影にと、とにかく何をするにしても万能なのだ。とりあえず仕事であれば、それが取材だろうが映像制作だろうが、このカメラを提げていけばまず間違いは無い。1D Cは105万円という一眼レフカメラにしてはとんでもない高価格のカメラではあったが、これだけの出動率で活躍すれば、あっという間に元は取れるだろう。現状のペースで使い続ければ。1出動あたりのコストは、単体のハイエンドスチルカメラと4Kシネカメラをそれぞれ購入するよりも格段に低くなるだろう。取材などで判断に困ったときには、とりあえず4Kで撮っておけば、映像としても切り出して写真としても使える。今回は、DSMCの概念の正しさを実証するCP+取材でもあったのだ。

また、こうした動きと連動し、一眼動画の啓蒙活動や一眼動画による映像制作の知識・技術の普及活動も積極的に行われている。今回のCP+では、並行して行われる各種セミナー・ワークショップにおいて、プロ向け一眼動画に特化した講義・講演が多数行われ、大人気であった。このまま上手く動画機能がフォトグラファーにも定着してくれれば。映像業界視点から見ても、一気に業界活性化が図れるだろう。もちろん旧来の映像職からみれば新たなライバルが増えるという見方もあるが、今後、画素数の増加やデジタル出版の普及に伴って映像の使われる機械はますます増えることと考えられるし、それ以前に、そもそも業界全体を活性化しなければ始まらないのだ。

CP2013_tezuka_10.jpgプロフォログラファー向けの一眼動画ワークショップは常時満員であった。この回は、プロ写真家なら誰もが持っているPhotoshopの動画機能を生かしての映像制作を解説していた

とはいえ、DSMCにはまだまだ課題も多い。まず、制作ワークフローが確立して居らず、メーカーもユーザーも手探り状態が続いていることが上げられる。例えば、デジタルシネマの根幹技術の一つであるLogガンマ一つとっても、旧来のCineonワークフローであれば撮影現場での外付けモニタに対してだけ、LUTでそれなりの映像を出せれば、あとはDIルームの中の試行錯誤で済んだものが、今では、PC編集時にも常にLUTをオンオフして撮影時の色と実際のオンライン素材の色とを比較しながら作業することが求められている。しかし、現状でこれに対応できているのはAfterEffectsCS6くらいで、まだまだソフトもカメラもメーカー側が対応し切れていない。

フォログラファーの流入で一気に増えるであろう映像のプロへのサポートをどうするのかという問題もある。映像には様々なトラブルがつきもので、また、欲しい映像に合わせた機材開発などがどうしても必要な場面も出てくる。今までのプロフェッショナル映像世界、特に映画系のそれは、少人数業種ならではの牧歌的な世界で、メーカーとユーザー、そしてディーラーやプロショップが非常に近い。しかし、一瞬を切り取ることを目指すスチル写真と異なり、映像のプロジェクトは予算的にも大規模で期間も長く、なかなかそれをフォローする仕組みは作りにくい。

プロという枠組みを大切にし、スチルカメラマンに対しては様々なプロフェッショナルサービスを行っているCanon社も、今のところは映画・映像系でのそうした特別なサービスは行っていないし、その予定もなく、あくまでも通常の製品保証範囲での対応になるという。とはいえ、同社やSONY社は、各地にサービスセンターがあるので、いざというときのトラブルでも安心だ。

これが、廉価なメーカーであれば更に悲惨なことになる。そうしたメーカーはそもそもサポートをしないことで値段を下げているわけで、そうした廉価なスチルカメラやPCパーツメーカーのような姿勢と何かとサポートが必要になるプロ映像の世界とは、そもそもマッチするのかどうか大変疑問だ。こういうメーカーにはサービスセンターもあるはずもなく、当然、壊れたり不調が出たら買い換えになるが、正直なところ映像機器はそもそも原価が高く、買い換えコストを考えればさほど安くは無い。

今までであれば、機材のプロショップやレンタル業者がそうしたサポートの役目を果たしてきたが、正直、この低価格化路線では、薄い販売益・レンタル益の中からそうしたサポートを続ける事は困難だろう。サブスクリプション制度や、あるいはサポート専門会社のような、有料でのプロフェッショナルサポートシステムなどの構築が急務ではないだろうか。

CP+入場待ちをする一般参加者の大行列。映像系ではあり得ないようなこうした熱気が映像世界に流れ込むのは大歓迎だ

とはいえ、RED ONEの発売から5年、Canon EOS 5D mark 2の発売から4年が過ぎた。一過性に過ぎなかった数々の映像機器や映像規格たちとは事なり、ここまで定着すれば、もはや、DSMCが急に消え去るということは当面考える必要はない。今年のCP+からは、映画や映像が、ただのカメラのおまけ機能やビデオ系へのコストダウンのための機材流用などでは無く、写真のジャンルの一つとしてスチルカメラユーザーたちに明確に認識されはじめた事がよくわかった。今後は、映画人とフォトグラファーとが組み合わさった新しい映像表現なども、どんどん積極的に模索する時代になって行くのだろう。


Vol.04 [CP+2013:新映像創世記] Vol.06