txt:石川幸宏 構成:編集部

360°VRパノラマ / アクションカメラと特殊撮影市場の行方

CP+で気になった展示内容として、GoPro HD HEROやソニーのアクションカム「HDR-AS15」、ビクターの「ADIXXION GC-XA1」など、アクションカメラの市場が確立したということ。アクションカメラの画像はカメラ自体の価格の安さはもちろん、ホビーユーザーだけでなく、エンターテインメントやバラエティはもちろん、ドキュメンタリーのアクセント映像としても、すでに欠かすことのできない存在となっている。CP+2013では、カメラ本体は特に積極的な展示などが行われていたわけではないが、バイクや車、ヘルメットなどへの装着用アクセサリーや周辺機材が豊富に展示されていた。アクションカメラはいまや映像制作をする者なら、当たり前のように持っている状況だ。

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360°画像をiPadなどのデバイスで閲覧できるようになったことで、様々な活用法が見えてくる

そしてまたDSLRムービーがもたらしたもう一つの潮流として、タイムラプスなどの特殊撮影という分野がある。中でもDSLRを使用した特殊撮影分野としてもあまり目立たない展示ではあったが、実は今後の新たな映像市場として注目されているテクノロジーがある。それが「360°VRパノラマ撮影システム」だ。360°画像は、これまでは不動産の物件紹介やホテルの部屋紹介などで見たことのある方も多いと思うが、このような特別な層(一部の不動産業界やマニア層)が一部活用していただけで、実際に撮影・運用するとなると閲覧するデバイスや回線スピード、そして撮影用ハード&ソフトウェアなどの問題も多く、一般にはなかなか普及しなかった。ところがDSLRムービーの発展と進化、またiPadなど閲覧環境の普及によって、こうした特殊撮影に誰もが興味をもちはじめ、また撮影を可能にするシステムも開発が進み、比較的入手しやすくなってきたようだ。

その中でも、Googleの「おみせフォト」の出現や、アマナイメージズの「360°パノラマ撮影・パノウォーク」といったサービスが開始されるなど、ここにきて日本でも360°映像がプロ業務方向への普及の兆しも見え始めたのである。
その技術も革新しており、これまでは横方向の360°画像のみだったが、今回紹介されていたのは上下を含む360°全天画像撮影が可能なシステム雲台が登場した。CP+の会場ではBENRO(三脚メーカー)のブース内でスタジオエビスが紹介展示していたが、これは三脚に360°撮影用の特殊なヘッドを配した「パノラマ雲台」と呼ばれるシステムで、レンズのノーパララックスポイント(=結節点)を中心に、カメラを回転させることができる雲台だ。ただしこれはあくまで静止画での360°撮影であり、現在、入手可能なものは、BENRO、マンフロット 303SPH、Nodal NinjaのNodal Ninja 4、Ultimate R10(参照:よしみカメラ)などがある。ここにデジタル一眼レフカメラに対角線魚眼、もしくは円周魚眼レンズを装着、概ね10mm前後のフィッシュアイレンズを装着して、水平90°ずつ4方向で撮影したものを専用ソフトで結束すれば、上下を含めて360°の全天周囲を撮影が可能となる。

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三脚メーカーBENROのブースで出展されていたNodal社/R-10。スタジオエビスでは、これら360°パノラマ撮影システムのレンタルサービスを行っている

現在、撮影可能な代表的なレンズとして、ニコン 10.5mm f2.8、キヤノン EF8〜15mm f4、シグマ 8mm f3.5といったレンズがあるが、レンズはそれぞれのズーム位置やフォーカス位置によってノーダルポイント(レンズを通る光が1箇所で交わる点)が変わる。 このノーダルポイントが正確に出ていれば、専用ソフトで画像をつなぐことが可能で、 このパノラマ雲台はノーダルポイントを中心にカメラを回転させて撮影することで視差のない画像を得られるシステムだ。各画像を結束する専用ソフトとしては、専用のステッチソフトやオーサリングソフトを使用する。現在知られているソフトとしては、オランダの「PTGui」「PTGui Pro」や、フランスのautopano pro / autopano giga、またフリーのステッチソフト「Hugin」などがある。またオーサリングソフトでは、アメリカのpano2VRや、フランスのpantour / panotour proがある。

スタジオエビスではこのパノラマ撮影システムの販売のほか、カメラとレンズ+パノラマ雲台のセットでレンタル事業を開始した。現在キヤノンのEOS Kiss Digital X6i+ SIGMA 8mm F3.5 EX DG / Ultimate R10のシステムを12,600円/1日。キヤノン EOS 5D MarkⅡ+キヤノンEF8-15mm F4L / Nodal Ninjaのセットを23,100円 / 1日でレンタルしている。

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360°パノラマ撮影の一番もネックは、魚眼レンズを使用するため、撮影時に自分が映り込んでしまうこと。それを回避するためのワイヤレスシャッターリモコンは必須アイテムだ

またパノラマ撮影の専門カメラマン、谷口とものり氏による「パノラマ撮影」セミナー(有料)も随時実施されている。パノラマ撮影にも撮影のコツや、システムの使い方など多少のテクニックが必要となるので、興味のある方、これからパノラマ撮影に挑戦したいと思われる方は、まず最初にこのセミナーの受講をお薦めしたい。

スタジオエビス
http://www.ebis.co.jp
http://www.facebook.com/studioEBIS.inc

動画も360°時代へ突入!

さらに海外では、GoProによる360°映像撮影が可能な特殊リグ(?)「360 Heros」なるものも登場してきた。GoProを水平4つの角度と上下の合わせて6台を同時に装着できる特殊リグで360°の動画撮影が可能になる。さらにその他にも「360 rig」など海外では360°映像市場が拡大しているようだが、これらはまだ国内には入ってきていないため、詳細は下記のサイトを参照してほしい(英語サイトのみ)。もちろんこれらも、実際に何に使うかはアイディア次第だが、今後こうした特殊撮影はカメラの小型高性能化が進むにつれて、ますますエスカレートして行くのではないかと思われる。

GoPro用の360°リグ
http://360heros.com/

360リグ
http://360rig.com

コンスーマ市場から見えるプロ映像との関係性

今回のCP+2013では、これまで紹介してきたような新しい映像の未来を彩る製品が数多く出品されてきた。こうしたコンスーマ(一般民生)製品の技術やアイディアは、誰もが興味を持てる、面白くて楽しいモノだ。それはやがてプロ映像制作の世界でも何らかの形でシフトされていく技術も多いので、当然PRONEWSでも随時取り上げて行く。しかしプロ視点として忘れてはならないのは、製品とその成果物の品質管理と、それに伴う”確実性”や”安定性”という側面である。ソニーが全面に4Kパネルを並べたこと以外は、CP+ではあまり目立った4Kソリューションは無かったが、それでも4Kという高解像度に対する関心は高いようで、各社とも何かしらの4Kテクノロジーを公開している。しかし具体的な4K時代を迎えるにあたって、特にデータ量が増大することは制作者にとって最も悩ましい問題だ。会場にはLexar等ストレージメーカーを筆頭にUHS-Ⅰ、UHS-Ⅱなど次世代のSDカードに関する展示も見逃せなかった。メモリーカードの容量やスピード、またデータアーカイブやバックアップディスクの管理など、今後のクリエイティブを考えると、様々な面でデータマネジメントはさらに重要なポジションを占めることになる。

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富士フイルムのブースにひっそりと展示されていた、次世代の高解像度画像に対応する「Photographic Ultra HDディスプレイ」。ここで流れていた画像も実は4K画像だ

当然、メモリーは大容量になり、スピードも上がって行くだろうが、更なる高解像度時代を迎えるにあたって、今後はこうしたバックヤードテクノロジーにも注目が集まるだろう。より確実で、かつユーザーフレンドリーであることを意識しつつ、今後の動向を見守って行きたい。


Vol.06 [CP+2013:新映像創世記] Vol.01