txt: 黒田伴比古 構成:編集部
さて、前回に引き続き、福岡博多で7月4日5日の両日開催された九州放送機器展の様子をお伝えしていこう。九州放送機器展は前記事でも述べたが、出展社119社、およそ2300名の来場者を誇る注目の映像音響機器展だ。
NABやInter BEEといった大規模な機器展ではカメラメーカーは各々に被写体を設け、それぞれのブースに自社製品を展開する。一方ここ九州放送機器展では、会場正面に設けられたメインステージに各社のスタジオ・中継車向けビルドアップカメラを一同に展示しており、試用することができるようになっている。今年もソニー、パナソニック、池上通信機、グラスバレーといった各社のビルドアップカメラたちが勢ぞろいしていた。
またこのメインステージだが、単に演者がカメラの被写体として座っているのではなく、会場を盛り上げるパフォーマンスが目白押しなのだ。例えば今年のメインステージには福岡の地元アイドルグループHRの面々が登場。歌とダンスを披露し、メインステージ前には黒山の人だかりができた。
当然この模様も展示された各社のビルドアップカメラで撮影することができるので、カメラごとの色あいやLCDビューファーや有機ELビューファーの視認性も確認できる。このような動的な被写体でカメラテストをできる機会はInter BEEのメーカーブースでも見受けられない。メインステージという九州放送機器展ならではの演出だ。
フォトロン スポーツ中継には欠かせないシステム群を展示
スポーツ中継のリプレイ、ダイジェストの制作に欠かせないのがビデオサーバーだ。収録しながらの部分再生や簡易編集をこなす装置で、同社の取り扱うEVS社のビデオサーバーシリーズとスローコントローラーは中継車の中で見ないことはないといってもいいほどだ。
今回の展示では、これまで中継車内というクローズな空間でリプレイ、ダイジェスト出しとして使われているビデオサーバーにマネジメントウェアのIP Directorを用いることで外部NASへインジェスト。Final Cut Proなど対応NLE側にはIP Linkと呼ばれるブリッジアプリケーションを導入しておくことで、並行編集を行うことができるシステムを展示。ビデオサーバー内部の簡易編集よりも作り込みが可能になるという。また最新のビデオサーバーXT-3はApple ProRes、Avid DNxHDコーデックなど多様なコーデックでの収録再生に対応しており、外部NLEとの連携においても、コーデックを統一することでトランスコードによる時間ロスのない編集が可能になるとしている。同社ではスポーツ中継の用途だけでなく、選挙特番のような多くの中継先で中継タイミングが重なる場合のディレード送出など、スタジオ用途での訴求も行っていた。
その隣には、スポーツ中継の解説で最近見かけるボールの軌道や選手位置を実写にCGで書き込める3Dスポーツ解説映像制作システムViz Liberoを展示。
あらかじめカメラ映像に写っている競技コートのライン情報をマーキングしておくことで、複数台のカメラから同一座標を元に立体空間を生成し、そこに3Dグラフィックを描画するという仕組みだそうだ。生成した立体区間内の視点移動やズーミング、選手位置の移動なども行えるため、視覚的な解説が行える。この製品は買取り商品というより使用期間や試合数、競技種目数など個別の案件により都度見積もりとのことだ。
そのほか、同社がシステムインテグレートしているAvid製品から先日発売を開始したMedia Composer 7の展示を行っていた。
アストロデザイン 数々の測定監視機器を一同展示
アストロデザインブースでは、同社の製品のうち、局内マスターやサブで使用される製品を主に展示していた。まず目を引くのが、大画面のマルチ表示だ。入出力計68chのスキャンコンバーター内蔵デジタルマトリクススイッチャーMI-2000から出力された映像だ。複数の異なるソースを入力でき、マスターの運行監視表示などに使用できる。
オーディオ関連機器から、高機能ラウドネスメーターAM-3807を展示。MA卓の上に置くと、コンソールの座面位置から距離が離れ、直接操作がしにくくなりがちだが、USBマウスを接続することができ、手元から直接コントロールすることが可能だ。また、USBメモリに測定結果の保存やプリセットを保存することができる。
1台でHDSDI4系統のピクチャ、ベクトル、ウェーブ表示が可能なマルチモニターWM-3207Aは、これまで複数のモニターを設置していたVE席周りを1台で構成できるメリットを紹介。モニターが複数台になるとどうしてもモニターごとの色のばらつきがあったが、1台になることで、常に均一な表示が可能になる。
また、CM番組バンク部門向けの商品として、字幕表示機能を持ったモニターを展示。ピクチャー画面での字幕、ANCデータの表示のほか、ログ表示やこれから増えるであろう字幕つきCMの規定内測定機能を有するモデルなどを展示していた。
そのほか映像制作関連機器として、4K表示の9.6インチ液晶モニターDM-3409や有機ELパネルを使用したフルHD電子ビューファインダーDF-3512を展示していた。
エーディテクノ DSLRモニターの雄はコンバータも
エーディテクノと聞くとDSLR用の外付け液晶モニターを思い浮かべる読者の方も多いだろう。たしかに同社はデジタルサイネージなど液晶ディスプレイを得意分野としている。今回の九州放送機器展でもDSLR向けの液晶モニターを数多く展示していた。
CL75HOXは厚さ20mm、280gと軽量ながら、1280×800のIPS液晶パネルを採用した新製品だ。輝度分布を色で表示するフォールスカラー機能やDSLRカメラのHDMI出力がフルスクリーンでない場合にも自動調整するオートスケーリング機能を持つ。
そのほか、SDI入力にも対応したCL76SDIや8インチのウルトラワイドパネルを使用したCL85HOなどが展示された。その一方、ブースの半分を裂いて、見慣れないブルーとホワイトのコンバーターを展示していた。同社が取り扱う韓国デジタルフォーキャスト社のコンバーターBridgeシリーズだ。SDI to HDMI、HDMI to SDIのコンバーターが現在同社から発売中だが、スケーラーを内蔵しており、VGA、UXGAなどのPC解像度のコンバートにも対応するマルチフォーマットモデルとなっている。
そのほかにもBridgeシリーズには小型マトリックススイッチャーやオプティカルコンバーターなどもあり、同社では、今後Bridgeシリーズ製品を順次発売していきたいとしている。
ローランド 一歩ナナメ上を行く映像音響製品群
スイッチャーにコンバーター、オーディオミキサーまで幅広く製品展示を行ったローランド。特にスイッチャー関連では、待望のHD対応のマルチフォーマットAVミキサーVR-50HDが九州初お目見えした。これまでのVR-5、VR-3がSD画質だっただけに待ちに待ったという感じだ。ワンマンオペレートでスイッチング、オーディオミキシングができ、さらにはUSBでコンピュータと接続すればキャプチャー配信まで行える。当然ベースバンドのスイッチング出力もあるので、SDIやHDMI入力のレコーダーに収録できる。
面白いのが、USB出力にも専用のスケーラーを設けてあり、現場のスイッチングはHD収録だが、USBからはSDで出力することもできる。配信は回線品質上SDで行いたい場合でも、配信するコンピュータにスケーリングさせる必要がなく、コンピューターは配信エンコード以外の余分な処理を行う必要がない。配信番組制作における高画質二次使用までワンパッケージで完結できる非常に優れた製品だ。
また、HDMIマルチフォーマットビデオスイッチャーのV-40HDは九州放送機器展直前に公開されたアップデートが適用されたVer.1.1を展示。ビデオ切り替え時にHDMIオーディオを連動するオーディオフォロー機能の追加や、設定を内部メモリーに自動保存する「オートメモリー」機能を追加。次回の起動時に前回の設定を維持して使用することができるようになった。
同社のコンバーターシリーズには発売前製品のスキャンコンバーターを内蔵したVC-1-SCが展示されていた。コンポジット、RGBコンポーネント、HDMI、SDIの入力に対し、外部リファレンス入力に対するFSとしての機能や、スケーラー処理を行い、HDMI、SDIから出力することができる。
オーディオ関連からはフィールド録音用途に最適な8chレコーダーR-88他、ライブミキシングコンソールM-200i、M-480を展示。R-88は8chのパラ録音と内部ミキサーの2mixの計10chを録音できるレコーダだ。こちらも九州放送機器展直前にVer.1.1のアップデートが行われており、8chを1ファイルで記録できるポリフォニックWAV録音や、外部MIDIコントローラーへの対応など機能追加が行われた状態で展示された。会場では、同社のUSB MIDIインターフェース UM-ONE mk2を接続し、トモカ社製のR-88に最適化されたフェーダーユニットTMF-08-Rを接続して展示されていた。
そのほかHDビデオワークステーションDV-7HDもVer.1.5のアップデートを展示。使用できるトラック数が増えたほか、ラウドネス値の測定が可能になり、ボイスチェンジも可能になった。
平和精機工業 国産三脚メーカー ENG向け雲台、三脚システムを展示
従来のハンディカメラ~小型ENGカメラ向けのRSシリーズに加え、報道制作の大型ENGカメラ向け三脚パッケージRS+シリーズを展示。耐加重17kgの雲台RHP75を使用した三脚パッケージRSP-750は、軽量なカーボン三段三脚をパッケージング。グランドスプレッダーモデルの伸長は175.5cm。一般的なENG取材に適した使いやすいパッケージだ。さらにリグを組んだシネマカメラなど重量級のカメラに対応した耐加重25kgの雲台RHP85を使用した三脚パッケージRSP-850もラインナップ。アルミ三段三脚をパッケージとし、グランドスプレッダーモデルの伸長は191.5cm。規制のある報道取材などで威力を発揮する。
これらのRS+シリーズの雲台には新たなカウンターバランス機能が盛り込まれている。これまでカウンターバランスは雲台のトルクを抜き、カメラの重心を探った後、カウンターバランスのスプリング強度で釣り合うポイントを調整する必要があった。RS+の雲台はバランススタビライザー機構を設け、このスプリング強度がある程度カメラが静止する状態ができれば完全バランス状態を作り出すことができるというものだ。
また、昨年の発表以来、あっという間に現場への浸透が進むSWIFT JIB50とリモートヘッドREMO30の組み合わせも展示。NEX-FS700Jを搭載したデモを多くの参加者が試していた。
マンフロット DSLRユーザーの食指が動くSYMPLAシリーズ
マンフロットブースには定番の504HDや509HD、MVH502Aなどのビデオ雲台の三脚パッケージが一堂に会した。また、DSLRムービーのユーザーへの提案として、同社のリグ製品SYMPLAシリーズを展示していた。ショルダーサポートキットはウェイトパッドで重心が取れるほか、ハンドグリップ部にも同社のスチル用自由雲台の技術を投入したことで、自由なグリップ位置での固定を可能にしているほか、調整時も自由雲台の如き滑らかな動きで調整ができる。また、さまざまなカメラ、レンズに対応するため、雲台部分は昇降・左右調整ができるようになっており、マットボックスとの軸調整などにも別にプレートを用意する必要がないのもよく考えられている。
その横には、EOS 5D MarkIIになにやらリモコンが取り付けられている。これもSYMPLAシリーズの商品で、キヤノンのDSLRカメラにUSBで接続するリモコンだという。カメラのAFがレンズのフォーカスをコントロールしている点を利用し、フォーカス調整を可能にしている。また、ライブビューの拡大ボタンやRECボタンなど一通りのコントロールが可能になっている。上位モデルは、さらにISO感度や絞り値、色温度、シャッター速度までもリモコンから調整できるようになっている。EOSユーザーは注目の商品といえるだろう。
アイ・ディー・エクス 新型バッテリーとWi-Fi伝送
バッテリーメーカーの最大手、アイ・ディー・エクスからは、今年発売した新EnduraバッテリーDUOシリーズを展示。DUO-150は146Whとこれまでにない大容量バッテリーだ。12Vリミット機能を有しており、バッテリー保護機能を持たないライトなどで使用した際も過放電しない設計となっている。その結果バッテリーセルの劣化を防ぎ長期使用することができるとしている。
バッテリー側面にはD-Tap端子とUSB端子を装備。外部照明やレコーダー、USB電源で駆動できるコンバーターなどに同時給電できる。メーカーの担当者によると、5V2Aの電力を要するiPadの充電もできたとのこと。USB端子の出力は規格以上の余力を持っているそうだ。
そのほか、5GHz帯で屋外使用が可能なHDMIワイヤレス伝送システムCW-1Sを展示。SONYの旋回型カメラの映像伝送に使用してデモンストレーションを行っていた。
またENG向けハンディLEDライトMK-L3はLEDの改良で演色性能を高めたものを展示。そのほか小型カメラCS-10や同社の取り扱うTV Logic社の液晶モニターなどが展示された。
地方で展示会が開催される意味とは?
九州放送機器展は雨に見舞われることが多い。今年も初日は昼ごろから激しい雨と雷鳴が轟いた。奇しくも参議院選挙の公示日と重なり、放送局関係者は機器展どころではなかったはずである。それでも初日の参加者は1118名(主催発表速報値)。筆者も九州に身を置いて数年経つが、新製品のみならず業務用機器を手に触れてみる場はこの展示会以外には個別のデモンストレーションでもない限りほとんどないといっていい。
このようなWebサイトで情報は入手できるが、実際に商品を目にするには大阪、東京まで足を運ばなければならないのである。それゆえ、この九州放送機器展に対する関心が高い。とあるメーカーの担当者が「九州の人は、熱いですよね」と。東京や大阪とは違うのだ。普段商品を見ることができない歯がゆさ、それこそが熱さの原動力なのだ。次回九州放送機器展レポートは、音響系メーカーと、筆者独断の注目商品ダイジェストをお送りしよう。