txt: 黒田伴比古 構成:編集部

シリーズでお伝えしてきた九州放送機器展レポート。Vol.3は福岡国際センターの2階に広がる音響フロアをお伝えしよう。福岡国際センターの2階は吹き抜けの回廊になっており、その回廊に沿うように音響系メーカーがブースを構えている。例年ならば、1階フロアの1/3ほどのエリアが音響系メーカーのブースで占められていたのだが、出展社数の増加だろうか。ついに2階まで使わなければ収まらなくなってしまった。会場の規模としてもそろそろ手狭になってきた九州放送機器展。次はヤフオクドームへ進出するしかないのだろうか…。

ティアック|TASCAMブランドの放送局向けレコーダーを展示 

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TASCAMのブランドで業務用オーディオ機器を展開するティアックのブースには、フラッシュメモリを活用したレコーダー/プレーヤー製品のほか、DSLR用PCMレコーダーや設備イベント向けオーディオプレーヤーなどが所狭しと並んだ。このうち放送業務仕様のオーディオレコーダー/プレーヤーコーナーでは、4chレコーダー/プレーヤーHS-4000や2chオーディオレコーダー/プレーヤーHS-2000にポン出しユニットRC-HS32PDを接続して展示。これまでのMOに替わる送出媒体として局内のSE送出やM送出機としての導入が広まっている。

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とくにHS-4000とRC-HS32PDの組み合わせでは1台で2ch×2系統送出が可能となりA/Bクロスなど幅広い音楽表現を1台でこなすことができる。また、ステレオマスターレコーダーの新製品DA-3000を展示。PCM192kHzによる録音に加え、DSD2.8/5.6MHzの録音に対応。高品位なオーディオ回路と高精度なクロック発振を搭載したことで高品位なAD/DAコンバータとしても活用できるとのことだ。ハイサンプリングな高音質マスターを制作するレコーディング現場に訴求したいという。

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映像関連商品として、DSLR向けのオーディオレコーダーDR-60Dを展示。4chマルチレコーダとしてSDHCカードにオーディオファイル記録ができるほか、2chMIXをカメラのマイク入力へ出力でき、カメラの動画ファイルにもガイド音として収録することが可能。さらに画音のきっかけ合わせができるよう1kHzトーンの発音機能など便利機能も搭載されている。

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設備用CDプレーヤー製品からはBluetoothレシーバーを搭載したCD-200BTを展示。iPhoneや音楽プレーヤーなど、Bluetooth音楽送信に対応した機器とペアリングすることで再生送出が可能となる。イベントの持ち込み音源が携帯音楽プレーヤーの中にあってもBluetooth接続ができれば再生できる優れものだ。

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そのほか、局内スタジオ向けの送出用CD/CFプレーヤーCD-9010CFシステムや、同社取り扱いのbeyerdynamic社のマイクロフォンやヘッドフォンの展示を行っていた。

オタリテック|抑え込まずにラウドネス規定値内に収める驚きの製品

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オタリテックはオタリ社製品のほか、数々の海外オーディオ製品を取り扱っている。今回の九州放送機器展には、ドイツJünger Audio社の2chラウドネス・プロセッサー D*AP LM2-JSを中央に展示。D*AP LM2-JSは生放送サブなどラウドネスの厳密な調整が難しいセクションに置くことで、ラウドネス規定値を超えた音量を、独自アルゴリズムのダイナミクス制御とラウドネス制御を行い規定値内に収めてくれる装置だ。ただ単純に大きな音を潰すという処理でなく、大きな音はそれなりに大きく、小さな音もレベルを持ち上げるなど単純処理でない自然な音作りができる。

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写真の白い線が元音の波形で、青い線がD*AP LM2-JSが補正した音の波形だ。単純なダイナミクス処理やコンプレッサ処理ではないことがわかる。

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そのほか、オタリ社の光伝送装置Lightwinder Broadcastingにコメンタリーボックスを接続しての展示や、ドイツRiedel社のリアルタイム・マルティメディア光伝送システムMediorNetによる伝送設備を展示していた。これらの伝送装置は光ファイバー1本で映像、音声、連絡線などのあらゆる信号を伝送することができ、中継車とコメンタリー席などの出先のワイヤリングを簡素化できるメリットがある。

エレクトリ|ビンテージマイクロフォンの復刻

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エレクトリは数多くの海外のプロオーディオ機器の輸入販売を行っている。同社のブースには、韓国SUNGJIN社のワイヤレスインカムシステムのほか、新規取り扱いを開始したアメリカのチューブマイクロフォンメーカーPeluso社のビンテージスタイルマイクロフォンが展示されていた。

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SUNGJIN社のワイヤレスインカムシステムWL-100/WH-100システムは、2.4GHz帯を使用するワイヤレスインカムシステムで、親機となるWL-100に対し4台の子機WH-100が同時通話可能となるシステムだ。親機WL-100を既設の2Wインカムシステムに接続できるオプションや、3台の親機を有線接続することで、4台の子機×3の12台相互通話を可能にするオプションなど拡張性に富んでいる。インカム性能も優秀で遅延を25ms以下に抑えており違和感のない通話が可能だ。

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またアメリカのPeluso社のビンテージスタイルマイクロフォンP67と2247SEを展示。U67は1960年代のビンテージマイクロホンNeumann U-67に限りなく近い音響特性を実現。9つの異なる指向性切り替えができる。2247SEは、こちらもNeumannのビンテージマイクロホンU-47に近い特性を得られるマイクロホンだ。このようなビンテージスタイルマイクロホンが生まれる背景には、現存するNeumannのU-67やU-47から程度のよいものを探し出すことが難しくなる中、いかにそのサウンドを残すかが求められているところにあるという。そのためPeluso社では、音を左右するチューブは1本1本選別テストを行い、厳しい検査測定の上で製品出荷されているという。古き良き音を現代に残す最大限の努力の結晶ともいえるだろう。そのほか、エレクトリブースにはアメリカApogee社のiPadなどのiOSデバイスで使用できるオーディオインターフェースDuetとQuartetが展示されていた。

Line 6|Inter BEEに登場の近未来ステージミキサーがバージョンアップ!

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昨年のInter BEE会場で弊誌でもおなじみのマリモレコーズ江夏正晃氏がUstream中継でお伝えしたLine 6社の近未来ステージミキサーStageScape M20dが、九州放送機器展に初お目見え。同社が九州放送機器展に出展するのも今年が初めてとなる。

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StageScape M20dは7インチの大型タッチパネルの中でボーカルの特性や楽器特性をグラフィカルに設定でき、強力なオートセンスとDSP処理で複雑なミキシングを簡単にかつ高品質に実現することができる驚きのステージミキサーだ。今回、Ver.1.1のアップデートが行われ、既存のワイヤレスネットワークに接続できるようになった。会場ではUSB-Ethernetコンバーターを介してルーターに接続、ルーター-iPad間をワイヤレス接続し、StageScape RemoteアプリによるiPadコントロールのデモンストレーションを行って見せた。

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そのほか、2.4GHz帯のデジタルワイヤレスマイクロフォンパッケージXD-V75/V55シリーズの展示デモを行った。担当者曰く、放送機器展という点から来場者がブースを訪れるか心配だったが結果的には予想以上に足を止めてくれたと安堵の様子だった。

ヒビノ|マイクロフォンから大型コンソールまでプロサウンド商社の大型展示

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ヒビノといえば、ステージサウンドからレコーディングまで幅広い商品を取り扱うプロフェッショナルサウンドのマルチベンダーだ。放送局のスタジオ音声卓やMA卓などに数多くの導入実績をもつ同社では九州放送機器展でも局向けデジタル卓としてイギリスCALREC社のARTEMISを展示。コンソールとメインユニット間など各所がリダンダント化され、常に安定した動作を求められる放送卓にふさわしい信頼性と最大640chのプロセンシングと豊富なBus出力で、多チャンネル運用と多点への送り返しに対応する。同社の最上位コンソールAPOLLO譲りの高音質と処理能力をそのままにコンパクト化した。

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ブース内で一風変わった設備イベント向けミキサーを見つけた。Soundcraft社のデジタルミキサーSi Performer 2だ。フェーダー部の中にあるLEDの色を変えることができるフェーダーグロウシステムで、1本のフェーダーがレイヤー構成で複雑化するデジタルミキサーでも視覚的に的確な操作ができる。またオプションにはMADIのほか、CobraNet、Aviomなどのインターフェースカードがあり、搭載することでステージボックス間の多チャンネル伝送にも対応する。

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またこのミキサーの最大の特徴が、照明機器のDMX対応機器をコントロールもできるという点だ。DMX出力端子を備えているので、フェーダーの一部を照明機器用フェーダーとして設定することで、1台で音響、照明両方をコントロールできる。展示機にも多色ライトが用意され、フェーダー4本をDMXコントロールに設定し、4色の照度をコントロールするデモを行っていた。結婚式場など、設置場所の狭小やオペレーションする人数の少ない現場に訴求したいとしている。

そのほか、PCベースのスタジオ用ポン出しアプリケーションBE-200TIIも展示されていた。ラジオ局などのMOオーディオファイラーに替わる送出機で、PCベースのソフトウェアであるため、波形編集のしやすさや、ポン出しリストのPADマッピングが簡単に行える。専用の送出パネルも用意されているので、仕込から送出まで幅広い用途に使える送出機だ。他社環境とも互換性がとれるよう、ポン出しプレイリスト規格に準拠した書き出しも行える。

黒田伴比古流 総括

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さて、お伝えしてきた九州放送機器展だが、その魅力はInter BEEに匹敵するといっても過言ではない。特に各メーカーが主力製品やニーズの多い製品に焦点を絞ってコンパクトに出展しているため、1つのブースで得られる情報の有益度が格段に高い。放送機器展と銘打っているがそのジャンルは幅広く、放送、映像制作、音響、照明のソリューションや製品のほか、細かなガジェットまでがカバーされている。来年も7月3日、4日両日の開催がすでに予定されているので、興味をもたれた諸氏は、来年の夏は関門海峡を越えて来場してみてはいかがだろう?


Vol.02 [QBEE 2013] Vol.04

WRITER PROFILE

黒田伴比古

黒田伴比古

報道・ドキュメンタリーエディターでありながら、放送機器に造詣が深く、放送局のシステム構築などにも携わるマルチプレーヤー。