txt:黒田伴比古 構成:編集部
ひきつづきお伝えしていく九州放送機器展。HD放送が始まっておよそ10年。放送局やプロダクションは設備更新の時期を迎えている。となると4Kがどうのというよりも、今使う製品が必要となってくる。今あるニーズを拾い上げる、新たな機能を追加する、さまざまな形で答えを出した製品が九州放送機器展にはあふれていた。
朋栄 | ファイルベースソリューションを担う新製品群
放送局のファイルベースに向けた製品のほか、テロップシステム、スイッチャーなど放送にかかわる数多くの製品を展示した朋栄では、新製品のマルチチャネルビデオサーバMBP-500VSを核としたインジェスト、送出システムのほか、LTO-6に対応したアーカイブ向けLTOサーバLTS-60のほか、滑らかなフレームレート変換を実現するPremiere Pro対応のプラグインソフトウェアFRC Premiere Pro Export Plug-inやテロップシステムの紹介など幅広い展示が行われた。
なかでも多チャンネルビデオサーバーMBP-500VSは4系統の入出力を装備したビデオサーバーで、たとえばインジェスト用に2入力、送出用に2出力のような構成で、インジェストしたファイルを編集した後編集済みのファイルを同製品に転送、送出ポートから送出するといったファイルベース化を一台で実現している。
そのほか、フローベル社の高感度ハイビジョンカメラHBC-3600を展示。1ルクス程の暗闇で色情報を失うことなく撮影できるというデモンストレーションを実施。優れた高感度性能で、セキュリティ用途や報道用途などで提案していきたいとしている。
黒田’s eye | これは見逃せない!キラリと光る逸品たち
およそ3,500平方メートルの広さの福岡国際センター1階に100以上のブースが並ぶ九州放送機器展。その会場で筆者の目に留まった気になる製品・サービスたち。書き漏らすには惜しいので、ここにまとめて紹介させていただこう。
■リーダー電子
リーダー電子のブースには、QuadSDI入力による4K対応のマルチ波形モニターLV5490が登場。本体の液晶パネルはフルHD、SDI出力から外部HDモニターに測定画面を出力することもできる。表示領域は従来製品の田の字配列だけでなく、USBマウスを接続して表示領域を変更することができる。
■IDX
IDXブースでは、開発中の無線LAN映像伝送システムCW-F25を展示。外部アンテナをレシーバーに装着すると、見通し2km程度の伝送が可能。また、一方向の伝送だけでなく、リターン映像、インカム系統の送り返しもできる。年内の商品化を目指している。
■アストロデザイン
アストロデザインブースで見かけたのは、放送局が大きな災害により放送局~送信所のSTL回線が途切れて停波することを防ぐための、バックアップシステムCX-5540だ。放送TS信号をIP伝送するための装置で、STL回線が断になった場合でもこの製品でIP伝送する設備を構築しておけば、バックアップ回線となりうるというものだ。また、平常時は逆伝送のバックアップ設備としても使用できるという。
■YAMAHA
オーディオ系からは、YAMAHAブース。まもなくバージョンアップが予定されているSteinberg社のDAWアプリケーションNuendo 6.5が先行して登場。Nuendo 6.5ではラウドネス処理を効率よく行うため、ラウドネストラック上のトゥルーピーク部分を赤く表示できるようにし、直感的に修正すべき部分を見つけられるようにしたほか、プロジェクト出力時に指定したラウドネス値にノーマライズして出力する機能などが追加されている。
このほかにもアフレコを簡単に収録できるようにしたADRテイカー2.0や、トラックの表示 / 非表示が簡単に行える機能など多くの追加がされている。Nuendo 6.5の追加機能に対応する形で、YAMAHAのDAWインターフェースNUAGEシステムもバージョンアップされて展示されていた。
■ゼンハイザー
ゼンハイザージャパンのブースには変わったサラウンド収録装置が国内初登場。収録するマイクロホンは同社のMKH 8000をベースにしたSPM 8000というマイクロホンをXY配置にしたもの。当然この状態での録音はXYのステレオ録音だが、このXYステレオを同社のEsferaサラウンドプロセッサーSBP 8000に入力させると、5.1chサラウンドとして出力できるという。音場設定などはPCから設定する。価格は80万円程で、手間をかけずにサラウンド収録を行いたい地方局やプロダクションに提案したいとしている。
また、NEUMANNの新型コンデンサーマイクロホンTLM107は、PAD、ローカット、5つの指向性を持ったマイクロホンだが、LEDが点灯する十字のナビゲーションスイッチで切り替えるというこれまでにない操作性のマイクロホンになっている。
■ディストーム
ディストームのブースにはNABで発表されたばかりのNewTek社製のインスタントリプレイ装置3Play 440が初登場。4ch入力2出力のリプレイ装置で、T字バーで再生スピードを調整できる。スポーツ競技中継のリプレイ装置の選択肢が広がる製品だ。ディストームといえば、同じくNewTek社のオールインワン映像制作ストリーミングシステムのTriCasterシリーズがおなじみだが、この商品と似て非なるシステムをジャパンマテリアルのブースで見つけた。
■ジャパンマテリアル
オランダVidiGo社のVidiGo Liveは、タッチパネル液晶もしくは、操作パネルでビデオスイッチャー機能やオーディオミキサーを直感的に操作できるトータルスイッチャーだ。Adobe Flashグラフィックスを素材として使用できるほか、配信制作を得意とするTriCasterに対し、VidiGo Liveは放送に重きを置いたオールインワンスイッチングシステムだという。さらに各機能をコントロールするAPIが公開されているので、自動化アプリケーションなどの開発がユーザーでも可能だという。昨年のInterBEEから取り扱いを開始したそうで、九州には初お目見えだそうだ。
黒田的九州放送機器展2014総論
九州放送機器展を訪れる来場客は、放送・映像関係者や地場企業、学生などさまざまだ。2600名あまりの来場客の中にはご挨拶程度に主要なメーカーだけを見て帰ってしまう人も少なくない。だが、九州放送機器展は小さなブースがたくさんあることを思い出してほしい。実はそこにこそ役に立つ、ニーズにかなう製品があふれているということを筆者は来るたびに実感している。レポート冒頭、九州放送機器展はAfter NABの色合いが濃くなっていると筆者は論じた。確かに海外で行われるNABで華々しくリリースされた製品たちが国内にやってくる。それも国内では比較的早い段階でだ。そのため、そこにどうしても目が行きがちなのだが、ぜひ来年は小さなブースの奥に潜んだお宝を見つけてほしい。