txt:黒田伴比古 構成:編集部
雨…もはや決定事項か…
2014年7月3日早朝、福岡在住の筆者は滝のような雨の音で目が覚めた。少雨の梅雨が一転、この日北部九州では各地で冠水や土砂崩れの被害が出るほどの大雨となってしまった。いよいよ始まる映像音響機器の祭典夏の陣、「九州放送機器展2014」は今年もご多分に漏れず雨での幕開けとなった。
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今年で11回目を迎える九州放送機器展。今年も福岡市の福岡国際センターで7月3日~4日の両日、100社を超える企業・団体がブースを開き2600人を超える過去最大の来場者のもと盛況のうちに開催された。ここ数年米NAB発表の新製品が軒並み勢ぞろいするAfter NABの印象が色濃くなってきた九州放送機器展だが、特に4K元年の今年はいったいどのような出展がユーザーの目を引いたのだろうか。
ソニー | 4Kで気を吐くPMW-F55に新製品カムコーダーと報道ワークフロー
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FIFAワールドカップ2014ブラジル大会の4K撮影でもその実力を発揮したPMW-F55は各メーカーのカメラが揃う中央ステージ前に、先月リリースされた最新ファームウェアVer.4.1を適用した状態で展示されていた。
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InterBEE以降のファームウェアのアップデートでの追加機能として、純正ソフトウェアであるRAW ViewerやBlackmagic DesignのDaVinci Resolveで作成されたLUTファイルをインポートすることができるようになった点や、RAW ViewerをインストールしたMacBook ProにBlackmagic DesignのUltraStudio 4Kを接続して、4Kモニターに映像出力を行いながらグレーディングの作業が行える点などをアピールしていた。
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また、カメラコーナーには来月発売予定のハンドヘルド型カムコーダーPXW-X180や今秋発売予定のXDCAMショルダーカメラのPDW-850のほか、コンシューマー商品でありながらISO409600という圧倒的な高感度撮影と4K出力が可能なフルサイズミラーレス一眼α7Sが展示され、既存製品群と新製品の密度の濃い展示がなされていた。
PXW-X180は、新開発の25倍ズームレンズが従来のハンドヘルド型カムコーダーのような回転式ズームリングではなく、ワイド端 / テレ端のあるズームリング方式である点や、新デバイスの可変NDフィルターが撮像素子とレンズ間に配置した液晶に与える電圧を変化させることで、透過度を変える仕組みであることが説明された。
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音響製品のコーナーでは新周波数帯デジタルワイヤレスシステムDWR-R02シリーズを展示し、従来製品よりもディレイが短く、またAndroidアプリによる受信レベル管理が行えるなど、ユーザーの声とユーザビリティを製品に反映させている点を紹介。その他ニュース制作ソリューションの取材、編集、送出、アーカイブにいたる一連の関連商品を展示、訴求していた。
ブラックマジックデザイン | 1年という月日でこうも変わる、圧倒的商品開発力
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昨年のBlackmagic Designのブースといえば、発売直前だったBlackmagic Pocket Cinema Cameraが九州に初登場し発売を心待ちにしていたのだが、それから1年で様相は変わりあっという間にNABで発表したカメラ新製品群が注目の的と変化している。
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光ファイバーケーブル一本で、映像線、コミュニケーションラインを伝送できるまったく新しいスタイルのスタジオカメラBlackmagic Studio Cameraは、ペデスタルの上に鎮座し、武蔵オプティカルのマウント変換アダプターを介してB4マウントのワイドENGレンズを装着、さらにはズームフォーカスデマンドもつけられ、よく見る一般的なスタジオカメラ仕様で展示された。これが未来のスタジオカメラかといわん風体に正直驚かされた。欲を言えば、リターンのPGM映像はカメラ本体のボタンで切り替えるだけではなく、ズームデマンドの背面ボタンで切り替えできると言う事はないのだが、これはサードパーティメーカーの商品開発に期待をしたい。
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その横には、同カメラの4K仕様Blackmagic Studio Camera 4Kと、話題の4KカメラBlackmagic URSAのPLマウント版が並べられていた。いずれも開発途中の製品のため、いくつかのメニューが有効にならないなどの状態ではあるが、実機を触れることができるため、多くの来場客の関心を集めていた。
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そのほか、先日ダウンロード公開が始まったグレーディングソフトウェアDaVinci Resolve 11のベータ版を展示。日本語表示ができるようになり、編集機能も強化された点を紹介。4Kでの撮影、収録、送出をコストを抑えながら一社で構築できる強みをアピールする展示となっていた。また、Blackmagic Design社は今年4月、福岡市に西日本事業所を開設した。九州・沖縄~関西方面の営業、サポートを行う拠点が設けられ、国内の細やかなニーズに対応できるとしている。
パナソニック | 新生VARICAMとAG-GH4Uで挑む4Kと放送周辺ソリューション
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今年のNABでいよいよ姿を現した4Kソリューションがそのまま国内にやってきた形のPanasonicブースには、これまでのENGカムコーダーを意識させるスタイルとは打って変わってモジュール構成となった新生VARICAMの姿があった。しかも似たようなVARICAMが2つ。
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一方はPLレンズを装着した4KカメラAU-V35C1GにレコーダーAU-VREC1Gがドッキングした「VARICAM 35」、もう一方はB4マウントのENGレンズがついたハイスピードHDカメラAU-V34HS1Gに同じレコーダーAU-VREC1Gをドッキングした「VARICAM HS」だ。4Kカメラとなる「VARICAM 35」は、オプションのCODEX社製のRAWレコーダーでRAW記録を行い、ドッキングしたレコーダーAU-VREC1Gは4Kもしくは2KのAVC-IntraコーデックのファイルとHD品質のAVC-ULTRA、もしくはProResコーデックのファイルを記録できる。さらにLUTファイルを読み込んだ場合はインカメラグレーディングすることができ、グレーディング後の映像をAU-VREC1Gで記録することもできる。その結果、インカメラグレーディングを行ったファイルをもとにオフライン編集を行うことができるので、およそのグレーディング結果を確認しながら編集できるメリットがあるという。
一方のVARICAM HSは、最大240fpsのバリフレーム撮影が行えるハイスピードカメラとしての位置づけだ。もちろんワイドダイナミックレンジのセンサーと14stopのラチチュード、従来のVARICAMのガンマカーブも受け継いでいる。
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これら大型カメラの一方で注目が高いのが、コンシューマーミラーレス一眼をベースとしたAG-GH4Uだ。単体での4K記録のほか、拡張インターフェースユニットという構造で、10bit 4:2:2の4K Quad SDI出力を実現している。おまけにオーディオメーターやピーキング・ゼブラ表示にビデオユーザー向けの動画用メニューなど、DSLR動画というジャンルに抵抗を感じるビデオユーザーにも導入しやすい製品だ。今回は、こちらも他社の4Kカメラ同様B4マウントに変換され、ENGレンズを装着、スタジオカメラテイストでの展示となっていた。
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4Kカメラだけではない。ブース内には一見すると放送用機器ではなさそうな商品をちらほらと見かける。たとえばタッチスクリーンディスプレイ。主に文教や企業向けの電子黒板ソリューションが一般的だが、一方で放送局の再撮用モニターとしての導入も進んでいるという。コメンテーターや司会者が書き込みながら図画解説するといった用途に用いられているのだ。
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また、業務用ブルーレイレコーダーDMR-T4000Rは、昨年HD-SDIやHDMI入力のできるレコーダーとして紹介したが、今年は製品の有償アップグレードが追加され、ブルーレイレコーダーの内蔵ストレージに録画したファイルを、ネットワーク経由でPCにコピーすることができるようになった。そのため、このレコーダーを簡易的なベースバンドからのインジェスト装置として使用できるという提案がなされていた。なかなか単体製品では思いつかない発想、ユーザー目線の提案がパナソニックブースにはあふれていた。
キヤノン | まもなく発売の新ビデオカメラXF205のほか、レンズが熱い
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キヤノンブースでは、まもなく発売予定の新型ファイル記録ビデオカメラXF205がXA25やXF105などと一緒に展示されていた。また新しくオプションとして発売されるリモートコントローラーRC-V100が接続されズーム、アイリス、フォーカスコントロールを行える状態になっていた。発売間近の製品ということもあり、ひっきりなしに来場者が詰め掛けており、その関心の高さが見て取れた。
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CINEMA EOSシステムでは、C300を暗室に時計とともに置き、ISO80000の高感度で撮影。暗闇の時計が撮影できるというデモンストレーションを行っていたほか、EOS C500は、4KレコーダーのAJA Ki Pro Quadと接続し、キヤノンの4KディスプレイDP-V3010に出力して展示されていた。そのC500のレンズには、新製品のCINE SERVOレンズCN7×17KAS S/P1が装着され、ズーム / フォーカスデマンドを取り付け、スタジオカメラライクに操作できるように展示され、その操作性に多くの関心が寄せられていた。
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また、ENGレンズの新製品として従来のHJ17e×7.6Bの後継となるHJ18e×7.6Bを展示。引き尻は同じままズーム比を18倍にまで引き上げている。フォーカス至近距離も0.56mと従来のHJ17e×7.6Bと同様となっている。おまけにズーム比が伸びたのにもかかわらず、重量は軽く、消費電力も少なくなっている。報道制作用途における高ズームの要望にこたえる形の製品だ。
富士フイルム | ENG新レンズと4Kシステム向けレンズを提案
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富士フイルムのブースでは新製品となるENGレンズHA18×5.5BEを展示。こちらはキヤノンの新製品に対し、コンセプトをワイド端に置いた製品だ。室内ロケや街頭ロケなど、演者数によってはもう一歩引きたいという要望が多く、ショートズームに付け替えると寄れない、1本でカバーしたいという要望を形にした製品だ。
こちらも従来のHA16×6.3BEレンズの後継として発売されるもので、引き尻を下げ、ズーム比をあげることで、HA16のテレ端101mmに対して、100mmと同等のテレ端画角を維持している。さらにフォーカス至近距離は0.4mと狭い室内でも物撮りができる特徴を持つ。
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さらに、拡大する4Kマーケットに対応するレンズとして、電動ドライブユニットを採用したPLマウントレンズZKシリーズを提案。PMW-F55に装着して4Kカメラのズーム・フォーカスデマンド運用を提案していた。
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またスポーツ中継やイベントの高倍率撮影を4Kカメラで行う場合の提案として、同じくPMW-F55に同社製のB4マウント変換アダプタを介し、箱型レンズのXA99×8.4BEを装着した状態で展示。PL-B4変換でやや暗くなるものの、4Kのスポーツ撮影スタイルを体感できた。そのほか、メディア部門からXDCAM Professional discの展示や来場者の持ち込んだレンズを点検するレンズクリニックなどが催された。
あちこちに垣間見える4Kの姿
ざっと主要なメーカーのブースを見渡しただけでも4Kに関する製品があちこちに見受けられた今年の九州放送機器展。まだまだ全貌が見えない九州放送機器展を引き続き、お伝えしていく。
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