破壊価格!コストパフォーマンスに優れた4Kカメラ
4KをProResで収録できるBlackmagic Production Camera 4K
2014年2月に登場したBlackmagic Production Camera 4K(以下、BMPC4K)は、数ある4Kカメラの中でも異彩を放っている。同社の前機種Blackmagic Cinema Camera(以下、BMCC)をそのまま4K撮影に進化させた後継機であり、「高画質・低価格」という相反する二つを4Kで可能にしたカメラだ。
編集用の高画質コーデックとして重宝されているProResをそのまま4K収録用のコーデックとして導入したことはもちろん、収録メディアに汎用のSSDを採用し、インターフェースにはSDIのみならずThunderboltなどを搭載しているのも素晴らしい。レンズ交換型でEFマウントを持ち、さらにスーパー35mmサイズセンサーにグローバルシャッターも実現。RED EPICやSONY F55などハイエンドのデジタルシネマカメラに肩を並べるような機能を持つにもかかわらず、価格がなんと30万円であり、4Kカメラの中でも圧倒的な安さを誇っている一台だ。
4Kで仕上げてYouTubeにUP。再生設定を2160pにすると4Kで再生される
ハイエンド機に引けを取らない高画質。ProResによる4K収録
BMPC4Kは10bit ProRes 422/ProRes 422(HQ)/ProRes 422(LT)/ProRes 422(Proxy)を4K収録コーデックとして採用している。4Kのサイズは3840×2160のUltra HDだ。29.97fpsで撮影した場合のビットレートが約800Mbpsという高い数値を持っており、1Gbpsに届く勢いである。もちろん、1フレームを切り出してもその画質は美しい。その高画質が編集タイムライン上でサクサク動くのであれば、とても魅力的だ。また、ProResと聞くとHDサイズをイメージしがちであるが、ProResはHDサイズにとどまらず、オーバー4Kサイズなど任意の解像度に設定できるのが特徴である。
収録フォーマットは12bit RAWと10bit 4:2:2のProResから選択することができる
先日のファームウェアのアップデートで、ProResだけではなく、BMCCでも採用されたCinema DNGによるRAW収録もBMPC4Kで可能になった。CinemaDNGは12bit RAWという高いビットレートを持っているため、編集タイムライン上では少し動かしにくい部分もある。この辺りは、ワークフローによりどちらを使用するか考慮すればいいが、ProResを通常のコーデックとして使い、ダイナミックレンジを稼ぎたいような細かい描写が必要な被写体、さらにはクロマキーなどの合成の際にRAWを使うという具合で選択するといいかもしれない。
グローバルシャッターの採用
写真左:グローバルシャッター方式を採用したBMPC4K。電車を撮影して、BMCCと比較したが、BMPCではローリングシャッターはない
写真右:BMCCではローリングシャッターが発生してしまう。ハンディ撮影や動きの速い被写体ではBMPCを使用する方がいいだろう
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BMPC4Kはグローバルシャッター方式を採用し、ローリングシャッターによる動体歪みが起こらないことも大きな特徴の一つだ。DSLRユーザーであれば、ローリングシャッターを抑えるために試行錯誤された人も多いだろう。ハイエンド機のRED EPICやARRI ALEXAですら標準でグローバルシャッターを搭載できずにいるのが現状であり、30万円のカメラがグローバルシャッターを採用していることに驚かされる。
ちなみにAdobe Premiere Pro CCに標準搭載される手ブレ抑制エフェクト「ワープスタビライザー」を使う場合、動体歪みのない素材はスタビライズの効きが良くなる。ローリングシャッターが強い素材の場合、ワープスタビライザーがかかりにくく、時として画がさらに歪んでしまうこともあるのだ。ポストプロダクションでの作業も含めて、グローバルシャッターの効果は偉大だ。
ダイナミックレンジを生かすLog収録
写真左:BMD FILMの素材はコントラストと彩度が低いのが特徴だ。そのため全体的にグレーがかって見える
写真右:グレーディングを行えば、ハイライトからシャドウまでの細かな諧調が綺麗に表現され、ダイナミックレンジの広さがうかがえる
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BMPC4KはBMCCと同様に「BMD FILM」というBlackmagic DesignオリジナルのLogを採用している。カメラではLogとREC.709のビデオガンマを任意に選択でき、Logはカメラ内で、BMD FILMは「FILM」、REC.709は「VIDEO」と表示される。FILMモードでは12ストップものダイナミックレンジをもつ映像を収められ、高品質なグレーディングが可能である。
収録された画はコントラストと彩度が極端に低く、フォーカシングなどの確認も難しいような画になるのだが、グレーディングを行うと人物の肌の細かいディテールや曇天の雲の立体感などがしっかりと表現される。ただし、SN比は抜群に良いというわけではなく、ISO800などで撮影すると、グレーディング時にノイズが顕著になってしまうため、ISO400を常用ISOとし撮影するといいだろう。
優れた次世代のインターフェース
インターフェースはシンプルに構成されており、SDI、フォン入力、LANC、そしてThunderbolt端子が備わっている
BMPC4Kが優れているのは画質だけではなく、インターフェースのスペックも非常に高い。カメラ左側面には、SDI出力、音声フォン入力、ヘッドフォン端子、LANC端子、そしてThunderbolt端子が用意されている。Thunderboltは、カメラとMacを接続することで、UltraScopeというグレーディング用のソフトウェアと連動するために用意された端子である。カメラ本体に露出チェックのアシスト機能がゼブラしかないため、露出管理には十分な配慮が必要となり、その際にUltraScopeを使用すれば、Macを波形モニター代わりに使用できる有効なツールだ。
また、SDI出力はHDの出力だけでなく、6G-SDI規格に対応しており、SDIケーブル1本で4K信号を送ることができる。4K出力がSDI1本であれば引き回しも楽であり、ワイヤリングに手間はかからない。特にBlackmagic Designから発売されている、Ultra Studio 4Kなどのキャプチャデバイスを使用すれば4K信号をHDMIにも変換されるため、モニタリング環境もシンプルにまとめられるのも大きな利点だ。
EFマウントによる4K撮影
スーパー35mmセンサーにEFマウントを採用したBMPC4K。キヤノンレンズ資産を活かせるのはありがたい
レンズマウントはEFマウントを選択。スーパー35mmサイズのセンサーのため、フルサイズ用のレンズを使用すれば1.6倍程テレ側による特性がある。最近のデジタルシネマカメラではこの組み合わせがとても多く、使いにくいと感じることもないだろう。それよりもキヤノンレンズユーザーがレンズコンバーターを介せずに、BMPC4Kで撮影できるというメリットはとても大きい。
ただし、スチルレンズと4Kカメラの組み合わせではフォーカシングがとてもシビアなのも事実であり、フォーカスアシストを使用するといいだろう。カメラ背面液晶に表示される、エッジフォーカスアシストは非常に高精細で実用性はとても高い。
ドットで表示されるエッジフォーカスは視認性が高く、人物の顔の寄りなどで確認すると、奥行き感もしっかりと認識できるため、ファインフォーカスの位置が鼻のトップなのかそれとも目なのかなど、被写界深度を感じながらフォーカシングができるほど優秀である。カメラの背面液晶はバリアングルではないため、EVFなどの外部モニターを用意すると更に撮影を効率的に行えるだろう。
エッジフォーカスアシストは非常に視認性が高く、精度も高い。背面液晶で撮影する機会はそれほど多くないかもしれないが、非常に有効なツールである
カメラ本体だけでは不十分!?
充電式のBMPC4Kでは、外部からの電源供給が必要不可欠となり、リグを構成することとなる。今回は担ぎも想定されていたため、ショルダータイプなどのリグを組んで撮影を行った
BMPC4Kのカメラとしてのスペックは高いものの、アクセサリーや周辺機器を追加することが必要不可欠なカメラだ。特に電源には交換型のバッテリーがなく、カメラ内部にある充電式の内蔵バッテリーでカメラを起動させることとなる。そのため充電がなくなるとRECができなくなるため、カメラ本体ごと充電させるという少々乱暴な規格だ。
BMCCの発売当初から指摘されている仕様ではあるが、残念ながらBMPC4Kで改善はされなかった。そのため、BMCC同様にVマウントなどの外部電源を別途用意する必要がある。必然的にリグを組むこととなり、カメラのサイズはそれなりに大きいものになるというのが、少々の弱点かもしれない。ただし、リグをうまく活用することでショルダーリグとして担げる形にもできるため、自分なりのスタイルを組めるという前向きな考え方もあるだろう。
BMCCと同じ使い勝手。気にするのはフォーカスだけのBMPC4K!
撮影ではCineroidのEVF4RVWでモニタリングをした。HDモニターで4Kのフォーカシングは少しシビアではあるが、ミスなく撮影を進められた
今年の2月に四重楽奏の現場を4Kで撮影をする機会があった。実際に撮影をしてみるとBMPC4KはBMCCのボディと大きさが全く変わらないだけではなく、カメラのメニュー構造にも変更点はなかった。そのため新しいカメラを触っているような感覚もなく、安心して撮影が進められた。今回はワンマンでの撮影だったため、レンズは主にキヤノンの24-105mmのズームレンズを使用。カメラマン用のモニターはCineroidのEVF4RVWを使用し、ディレクター用としてSmallHDのAC7を導入した。4K撮影の大きな課題でもある「フォーカシング」のミスを防ぐためにも、外部モニターは大きな役割を果たすと思う。
USB3.0やThunderboltでのメディア管理
現場では、すぐSSDのコピーを取った。USB3.0対応リーダーとストレージでのコピーは高速かつ安定して行うことができた
データ管理に関しては、現場にIntel製のSSD/480GBを1枚と240GBを2枚用意し、メディアをフルにする前に交換をするように心がけた。ちなみに800Gbpsのビットレートで29.97fpsで撮影した場合、30分の撮影で180GBほど使用するので、撮影内容に合わせてバックアップの準備が必要だ。コピーに関しては、USB3.0に対応したMacBook Proと、外付けのUSB3.0対応ストレージを用意。SSDリーダーはSATA6G対応のもの使用し、Macを通じてストレージへのダブルバックアップを取るようにした。
特に、BMPC4K本体にはSSDのフォーマット機能がないため、SSDのフォーマットはMacで行う必要があるのだ。現場でコピー作業を行わないにしても、BMPC4Kを使用する際はMacBook Proは必需品である。今回はUSB3.0を使用したが、Thunderbolt対応のストレージやリーダーを使用すればさらに転送速度は上がる。価格は高いが現場によって用意するといいだろう。
4K映像制作には強力なAdobe Creative Cloud
4K映像の編集では、Adobe Creative Cloudの登場により安定した制作を行えるようになった。さらにProResという収録コーデックは編集に適しているため、4K素材のコーデックの中でも扱いやすい素材である。Adobe Premiere Pro CCに搭載されている、Mercury Playback Engineによる後押しもあり、再生解像度を調整することで、ストレスを感じずに編集を行えるのである。編集はPremiere Pro、グレーディングはAfter Effectsで行った。
ProResは安定した編集を与えてくれる。今回、全8テイクの映像を使用したが、タイムラインに並べても再生にストレスは感じなかった※画像をクリックすると拡大します
なお、演奏者用のモニタースピーカーを編集では“バレ消し”する必要があったため、この作業ではPhotoshopを使用した。Photoshopの機能である「コンテンツに応じる」を使ったバレ消しは非常にシンプルで強力なものだ。4Kの編集と聞くと敷居を高く感じるかもしれないが、実はとてもシンプルにフィニッシングまで持っていける。Adobeのソフトの連携はとてもシームレスで、ソフトウェア間での素材編集が大変効率的に行える。4K映像制作という少し重いデータだからこそ、ネイティブのままソフトウェア間を移動し、完成させられるAdobe Creative Cloudの汎用性はとても高いのである。
バレ消しはPhotoshopの「コンテンツに応じる」でスピーディに対応。Adobe製品の連携を活かしたワークフローとなった
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まとめ
BMPC4Kが捉える映像はまさに「高画質」であり、加えて「低価格」というこれまでになかったカメラであることは間違いない。ProResという収録コーデックは信頼性が高く、編集ワークフローでの実績がある。加えて単体だと10万円以上もするグレーディング・編集ソフトウェアであるDaVinci Resolveも同梱しており、4Kの編集ソリューションを一度に手にすることができるというのが、Blackmagicらしいにくい演出だ。
4Kの視聴環境など未だメインストリームが見えない状況ではあるものの、早い段階から4Kに慣れるためには魅力的な1台だろう。今後2014 NAB Showで発表した新しいカメラ2機種の発売も控えておりBlackmagic Design社の躍進は止まらない。
txt:金戸聡和(マリモレコーズ) 構成:編集部