空飛ぶバーチャルリアリティ

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Cyberith社による仮想歩行体験環境Virtualizer © 2014 ACM SIGGRAPH

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チューリッヒ芸術大学研究チームによる飛行体験環境Birdly © 2014 ACM SIGGRAPH

安価で平易に利用できるバーチャルリアリティ(VR)ヘッドセット

Oculus Riftの浸透により、SIGGRAPH会場では数多くのOculusの展示・体験コーナーを見ることができた。一昔前であれば、そのようなヘッドマウントディスプレイの製作自身が一つの研究分野であったり、高額の機材を準備しなければ実現しなかった事項も、今では少しの知識があれば、数万円の機材とノートパソコンで誰にでも実現できる。

さらにSIGGRAPH展示会場にも出展していたGoogleの段ボールでできたVRメガネCardboardであれば、自作可能なうえに、手元にあるAndroidスマートフォンをそのまま活用できる。一歩すすんだ応用や、デバイスそのものはもうすでに一つの機材として一般化し、それらを活用した斬新な使い方や体験そのものを考えなければいけなくなった。研究要素、競争や評価のステージが変化してきたことが強く感じられる展示の数々であった。

Oculus Riftを活用した中でも評価が高く、人気だったのは、「歩行」の要素を加えたオーストリアのCyberith社による「Virtualizer」。これは1台約5万円ほどのゲーム周辺機器で、滑りやすい専用シューズを履いて、湾曲した床面を歩くことで、ゲーム世界の中を歩いているかのような体験ができる。

また、下を見下ろした姿勢をとりつつ、扇風機で風を浴びることによって、鳥類の飛行を疑似体験するチューリッヒ芸術大学の研究グループによる「Birdly」も常に長蛇の列が出来るほどの人気であった。まさにバーチャルリアリティでなければ不可能な体験が構築されている事例だ。

Birdly(Peter Sikachev氏撮影)

古くからのバーチャルリアリティの研究者であれば、Oculus Riftの映像は品質として満足できない。Oculus Riftの利用は研究としては主流ではないと考えるきらいがあるようだが、どうしてか体験してみると、その未知の感覚には驚かざるを得ない。その一方、画質や追従性によっては、とても映像酔いが起こりやすい印象もある。品質とコスト、得られる体験と驚きや楽しさのバランスなど、まだまだ工夫の余地、研究要素は山積みかもしれない。

研究と実務との親密性

SIGGRAPHでは、研究機関とCGプロダクション実務との距離が近く、人材の行き来も頻繁だ。論文発表の中には企業と大学の共同研究も多く、人材交流は双方に良い相乗効果を生み出している。市販のツールにすぐにでも組み込まれそうな新機能や、ハリウッド映画における特殊効果のニーズから開発された技術など、実務と研究のバランスが上手くとれている。その一方、長期間に及ぶ基礎研究的な地道な研究の評価が難しいという印象もある。

■動画の手ぶれ除去機能Microsoft Hyperlapse

従来、専用ハードウェアや、高額の専用機器でしか実現できなかったことが、安価な機材で実現できるようになり、さらにソフトウェアによる補正や修正で平易に実現できるようになってきた。そのおかげで撮影条件の幅が広がるとともに、機能や利用例が一般化して広がってきている。今回SIGGRAPH 2014で発表のあったMicrosoft Hyperlapseは、動きの激しい撮影済みの動画像から、撮影角度や移動量を分析し、いちど撮影状況を解析する。

その後、スムーズなカメラの動きを想定しながら、安定した動画像を再構成するのだ。ステディカムのような効果な機材や、特殊な技能も必要無い。現在はまだまだ膨大な計算パワーを必要とするが、今後に期待したい。平易な手ぶれ除去機能であればYouTubeや、iPhoneアプリに実装されているものもあり、GoProなどのアクションカメラが普及しつつある今、手ぶれ除去の仕組みは確実にニーズがあるとともに、まだまだ現場での利用に適した使い方や、さらなる高品質を求めて研究が続く分野である。

■テレプレゼンスの実用化
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ボランティア学生の手を借りながら、自身のパネル発表をロボット経由で見るMachado氏

ブラジルに住むPaulo Machado氏は、病気により子供の頃からベッド生活を続けている。そんな彼は、現在子供向けのアニメーションを作成しており、SIGGRAPHのパネル展示での発表も行われた。ブラジルのMachado氏は、今回ビデオ通話と遠隔操作できる映像ロボットで会場の中を闊歩するという試みがなされた。遠隔ロボットは、一般参加者と同じ参加者バッジをつけ会場内を移動していた。テレイグジステンスとして研究が進んでいる分野でもあるが、今回の例は、すでに市販されているロボット機器を活用し、今すぐできる一つの可能性を示した素晴らしい事例であった。

これからのSIGGRAPH

今年はカナダで開催されたため、昨年の米国開催時より若干少なめの14,045人の参加であった。全体で110のコースとトークセッション、173本の論文発表、35のE-Tech展示とスタジオ展示、19のCGプロダクションによるセッションと、今年も内容満載、盛りだくさんのSIGGRAPHであった。

また、昨今のイベントらしくSNSの活用が目立ち、イベント会期終了後も情報提供が続いている。数ヶ月経てば来年の情報もいち早く入手できるので、チェック&フォローしてみてはいかがだろうか?

その他YouTube、Google+、LinkedIn、Flickrにも公式アカウントあり。

今年の冬に開催されるSIGGRAPH ASIA 2014は、世界の工場と呼ばれる中国の深圳(シンセン)にて12月3日から6日の4日間開催される。今年以上にモノ作り系の展示が充実することが期待される。来年のSIGGRAPH 2015はロサンゼルスにて8月9日から13日の5日間、SIGGRAPH ASIA 2015は6年ぶりの日本開催。神戸市にて11月2日から5日の4日間が予定されている。日本ならではのコンテンツや技術をアジア各国のみならず世界に知ってもらう良い機会になることを期待している。

国際展示会SIGGRAPH ASIA 2015の開催決定について(神戸市からの公式発表)
http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2014/08/20140819142001.html

txt: 安藤幸央 構成:編集部


Vol.04 [SIGGRAPH 2014] Vol.01