4K・8Kの高解像度化に伴い、いわゆる大容量データ運用が必須とされる数年後、放送局を含めて、IPベースもしくはそれに変わる新たなコネクティング技術によるプロダクションシステムの再設計が当然ながら必須になってくる。
問題視されているものは沢山あるが、例えばそのケーブル量の比較が分かりやすい。4K中継車に必要となるケーブルの総長数は、従来のSDI・BNCケーブルで引き回したとすればなんと268kmになってしまう。
しかしこれをIPベースで置き換えるとわずか11kmの総長数で済むといわれている。しかしまだデータ遅延の問題等は残っており、従来のベースバンドの使い勝手をそのまま踏襲するレベルに至っていないことも確かだ。乗り越えなければならない技術的な壁も少しずつ改善されている状況にある。
また、解像度以外の高画質条件、「色域」「フレームレート」「ダイナミックレンジ」についてもこれからの4K・8K=高画質化へ向けて、避けて通れない道でもある。これらを満たすための技術開発がようやく一般ユーザー向けに表面化してきたことも今回のIBCの大きなポイントだろう。
Canon | カラースコープでのBT.2020撮影の体験コーナー
「アリス・イン・ワンダーランド」をテーマにした、今回のキヤノンブース。目立った新製品は無かったものの、先頃発売された業務用HDビデオカメラXF205・XF200(海外のみ発売)も展示。
欧州でも回転グリップとIS機能が人気のようで、放送局系の取材用小型カメラとして導入が進んでいるという。
CINEMA EOS関係では、NABで参考技術として紹介されていた、キヤノンCinemaRAW Developmentの最新バージョンv.1.3で、インテル社の最新GPU、Iris Pro Graphicsが搭載されたラップトップPCで、RAWディベイヤーも高速になり、さらに4K RAWデータの24コマのリアルタイム再生(コマ落ち無し)が可能になった。
もう一つの大きな話題は、EOS C500と4Kモニターの最新ファームアップで、特に4K試験放送に採用された放送規格、ITU-R BT.2020の色域で映像収録が可能になり、また業務用4Kディスプレイ、DP-V3010との連携により、映像の入力から出力までネイティブで同色域をサポートしている。
今回のブースではこれをカラーグレーディングシステム(DaVinci Resolve)でグレーディングした結果を、4KモニターによるRec.709との色域の違いの比較として見せたり、実際にEOS C500撮影デモにおけるカラースコープでのBT.2020撮影の体験コーナーが設けられていた。
実際に各種スコープ等では、Rec.709の色域をはみ出す部分も収録されていることが確認できる。4K高解像度では、解像度のアップに伴い、この色域拡張も重要な要素になってくるだろう。今回のデモでは、色域のみが拡張されたわけだが、モニターで確認できる映像は、人間の目の視認ではダイナミックレンジも広くなったように感じられた。
Dolby | ドルビーが放つ映像技術、Dolby VisionとDolby 3D
本特集の冒頭でもお伝えした通り、ドルビー社が開発中のDolby Vision。今回のメインテクノロジーとして同社ブースでも従来のTV(Rec.709)との比較上映をしていた。
Dolby Visionは高解像度時代において本来の高品質な映像を各家庭にまで届けるための、より具体的なテクノロジーとして注目を集めているが、同社がお得意とするライセンスビジネスが、現在のネット中心の映像配信になったときに、配信側と受信側(一般ユーザー)がどのように参加・取得できるのか?また他企業の同じような新技術も当然ながら出てくる訳で、果たしてどこまで参入し、または他の企業のテクノロジーとどれほど差別化できるかは不透明だ。
この分野もドルビーがいまの時点では一歩先を走ることになったが、これからの群雄割拠に暇が無い。
ドルビー社のもう一つのトピックは、裸眼での3D視聴技術である。数年前の活況がウソのように、展示会場を見渡しても3Dに関する展示はほんのわずかになってしまった。今回は表示側の技術だが、実はドルビー社のように粛々と開発を進めている企業もある。
会場のドルビーブースでは、上映コンテンツとしてオリジナルのデモに加えて、ディズニー作品「アナと雪の女王」、トム・クルーズ主演作「オール・ユー・ニード・イズ・キル」、「スタートレック2」の一部が3D上映されていたが、偏光3Dグラス等を必要とせずに鮮明な奥行き感のある映像が観賞できる。実際に観てみると、3Dグラスを掛けたときのような飛び出し感覚は少なく、むしろ奥行き感が増したという印象だ。この技術であればどこでも誰もが3D映像を不自然さなく楽しめる時代が来るかもしれない。
JVCケンウッド | 3軸ジンバルシステム「MT-GB001ジンバルシステム」に注目!
こちらもNABで発表した3つの4Kcamシリーズを全面にアピール。シネマ・TV向けの大型4Kカメラ「GY-LSX1」はまだ試作段階でモックアップのみの展示。小型ハンドヘルド型のハンディ4Kカメラ「GY-LS300」は実機1台を参考展示。
JVC GY-LSX1は、試作段階でモックアップのみ
小型カメラヘッドとレコーダー部が独立したGW-SP100
ハンディ4KカメラGYLS300
3種のうち最も力を入れているのは小型カメラヘッドとレコーダー部が独立した「GY-SP100」だ。NABのときにもあった3軸ジンバルシステム「MT-GB001ジンバルシステム」はさらに発展型が展示されており、リモートコントロールユニットで遠隔操作が可能になるなど、進化の度合いが伺われる。
3軸ジンバルシステム「MT-GB001ジンバルシステム」
JVCケンウッドが今回もう一つ大きく力をいれていたのが、IP中継システムだ。特に新しい通信技術や新型ソフトウェアを積極的に取り入れている点に好感が持てた。新しいGY-HM650 3.0には次世代の高品位パケット伝送の実現する話題のソフト「Zixi(ジクシー)」がメーカー系カメラとしては初めて実装された。ブースではその実演デモも行われていた。
Zixi | 多くの企業との提携、映像配信向けのソフトウェアZixi
そのZixiだが、次世代のネット系、通信系テクノロジーを一同に集めた14ホールに出展。Zixiは、イスラエルの開発本拠地とし、会社自体は米国籍の企業。インターネット等における、レイテンシー(遅延)やパケットロス(データ欠損)、ジッター(映像音声乱れ)を解決し、IPネットワークに放送品質の配信および伝送を実現させる次世代の映像配信向けのソフトウェアシステム。
スポーツ中継やライブイベント、企業イントラネットでのエンタープライズ映像配信などにおいて、通常IPネットワーク通信に使用されるTCP / IPプロトコルの仕様特性によって、レイテンシーやパケットロス、ジッターが発生する不安を伴うが、会場デモにおいても通常見られるパケットロスによるモザイクノイズなど、ほとんどロスは見られない。これまでは安定性と品質を高めるためには専用回線や衛星回線など高コストな手段が必要だった。
仕組みとしては、いわゆるルーターやスイッチングハブなどに使用されるQoS(Quality of Service)を、ビデオストリーミングのエンコードする側とデコード側に各ソフトで提供するというもの。そのためラップトップPCやクラウドでも使用できるというまさに目からウロコというべき発想で、安定した配信や伝送を可能にする革新的ソリューションだ。このZixiは、放送品質のIPビデオストリームの配信用途で既に100社以上の導入実績があり、そのスケーラビリティと自由度のある運用が魅力となっている。また今後の4KによるIP映像配信でも有効だと言う。
先のJVCケンウッドをはじめ、すでにTeradek、Livestream、Telestreamなどのメジャー企業がパートナーとなっており、このIBCでは、「Innovation Award / Technical Partner of Winner」を獲得している。さらにこのIBC発表では新たに、Akamai、harmonic、VITEC、Microsoft(Microsoft Azure)、NewTekなどビッグネーム企業が名を連ねていることからも注目すべきテクノロジーであることは一目瞭然で今後の動向にも注目だ。日本ではDPSJが販売代理を行っている。
Innovation Award Technical Partner of Winnerを獲得した、Zixiのプレジデント / ファウンダーのIsrael Drori氏
Grass Valley | 4K対応ノンリニア編集ワークステーションHDWS-4K
日本で先行発売している4K対応のノンリニア編集ワークステーション、HDWS-4Kは、欧州や諸外国でも、スムーズなリアルタイム処理等に評価が集まり、これから具体的な導入時期の検討に入っているという。
前回のEDIUS Pro 7.3では、XAVC Sなど最新カメラの最新コーデックへの業界最速対応は、もはやEDIUS開発陣のこだわりだ。次期バージョンが楽しみだ。
また最近ノンリニア業界で流行になりつつある、ソフトのサブスクリプション(定時課金制:適宜自動アップグレード)については聞いてみると「一部のパワーユーザーなどに特化した場合以外、ユーザーのビジネスパートナーに直接的に弊害を及ぼす可能性や、日常の使用頻度が低いユーザーもあることから、いまのところ総合的にメーカーにとってもユーザーにとっても具体的メリットが見いだせない」という見解を得た。
現状、4K対応や新フォーマットの出現度合いが非常に多く、よってNLEのバージョンアップ頻度も非常に頻繁であることもあり「サブスクリプション化を行う予定はない」とのことだ。
txt:石川幸宏 構成:編集部