Millenium DXL:65/70mmレンズ資産を活かす8Kカメラ
パナビジョンのラージフォーマットレンズを活かすカメラ「Millenium DXL」
Cine Gear Expoが始まる直前にパナビジョンから突如発表された、今回最も注目が集まった8Kカメラ、Panavision「Millenium DXL」は、RED 8K WEAPONをベースに、元来のRED EPICやWEAPONの仕様であるモジュール型構想ではなく、すでに5つのSDI出力を含む出力端子を充実させ、すぐに結線して撮影に入れるカメラとして、また大判撮影用のパナビジョンマウント・レンズ資産を活かすカメラとして同社がRED Digital Cinemaなどと共同開発したもの。
Millenium DXLで撮影された8Kフッテージを併設の専用シアターで観賞。上映は4Kプロジェクター
初お目見えとなったCine Gear Expoの会場には、実稼働する実機3台と対応するラージフォーマット用レンズ各種、そして8Kで収録されたサンプル映像が併設の4Kシアターで上映された。またオンセット(ロケ現場)での8K収録機材“OUTPOST”などの展示があり、開催初日の頭から大盛況の人気ぶりとなった。Millenium DXLはレンタル専用として、世界中のパナビジョンから2017年初頭のレンタル開始に向けて開発を進めていくという。現在、発表されているDXLの主な仕様は下記の通り。
オンセット(ロケ現場)での8K収録機材“OUTPOST”
■Millenium DXL概要
センサー | 16bit/35.5メガピクセルCMOSセンサー ※21メガピクセル4Kアナモフィック |
センサーサイズ | ラージフォーマット40.96mm×21.60mm(対角長46.31mm) |
解像度 | 8192×4320ピクセル |
ダイナミックレンジ | 15ストップ |
フレームレート | フルフレーム8K(8192×4320)/60fps シネマスコープ8K(2.4:1/8192×3456)/75fps |
記録コーデック | 8K RAW・4Kプロキシ(ProRes/DNx) |
記録メディア | SSD |
ファイルフォーマット | r3d |
カラープロファイル | Light Iron Color(他の全てのカラーガマットへの互換対応可能) |
重量 | 約4.5kg(10ポンド) |
出力 | 6系統(SDI×5系統+リターン) |
その他 ワイヤレスレンズコントロール |
PRIMO 70/各WFメーカー製品対応、ワイヤレスタイムコード6種の1D LUT 4種の3D LUTに対応ほか |
パナビジョンは2005年に当時のソニーF35カメラを元に、ソニーと共同開発でデジタルシネマカメラ「Genesis(ジェネシス)」を開発、元のF35に加えて同社独自のPanalogガンマを搭載し(F35はS-Log)、フルRGB収録などができるカメラを発表している。ちなみにこのGenesisは「単板撮像素子によるデジタルカメラの技術開発の先駆者であり、スーパー35mm CCDによりゴールデンタイムの番組制作で創造性の向上に多大なる貢献をしたこと、デジタルシネマカメラで革新的なブレークスルーを成し遂げた(米国テレビ芸術技術アカデミー)」として、2011年10月にエミー賞を受賞した。今回のMillenium DXLはまさにそのGenesisカメラ以来となる、パナビジョンが自社製品として他社と共同開発したシネマカメラであり、その最大の目的は、大判映像撮影用の同社のレンズ資産をより有効活用するためだという。
また昨年末に買収したLight Ironのカラーマネジメント技術をふんだんに活かし、過去に映画「ゴーン・ガール」などで見せた、RED特有のカラーをARRI ALEXAのようなカラーへと馴染ませる独自のLight Iron Color Science技術を同梱し、RED 8K WEAPONをより進化させた大型映像作品専用カメラとして仕上げて来た。
Colorfrontをベースにした、オリジナルのオンセット用グレーディングシステム「OUTPOST」は、モジュラー式のユニット分離が可能。よく見てみるとユニット内にMac Proが横向きに装着されている
現在、スーパー35mmセンサーのデジタルシネマカメラが群雄割拠する中で、IMAXなど大型映像への関心が高まり、こちらもフィルムからデジタルへの移行期に差し掛かる現在において、65/70mm、そしてビスタサイズに適合する大判撮影用レンズを、最も同社が保有しているという背景がある。
ブース内“Lens Bar”では、バーテンダーがお好みのレンズをDXLへ装着してくれる
その先にはオールドファンションに身を包んだ男女のモデルがいるセット配置。その表現力をその場ですぐにお試しできる粋な演出
今回もブース内には、通称「Lens Bar(レンズバー)」と呼ばれるコーナーが設けられ、そこでは、パナビジョンのラージフォーマットレンズ「Primo 70」「Ultra Panavision 70」「Sphero 65」「System 65」「Super Panavision 70」と5種の70mm、65mmのレンズ群が一同に揃えられ、来場した客は自分の見たいレンズを“バーテンダー(Panavisionのレンズ技術者)”に装着してもらい、実際のモデルを撮影しながらその質感をテスト出来る趣向を凝らした展示が行われていた。
パナビジョン製品開発ディレクター貞廣春樹氏が今回製品開発を牽引して来たひとりだ
筐体で特筆すべきは、元のRED 8K WEAPONに加えて5つのSDIなど出力系統が充実していることと、“オペレーターサイド”と“アシスタントサイド”と呼ばれるカメラの左右両側に同じ操作パネルが配置表示されているデュアルメニュー方式を採用している点。これはこれまでのシネマカメラにはなかった設計だ。また元となったREDの基本構造であるモジュラー式の筐体は、1台で様々なスタイルでの撮影にあわせ自由に筐体のデザイン設計ができるため、1台で何役もこなすカメラとしては向いているが、同社が“Studio Camera”と呼んでいる、要はドローンやMoVIなどのジンバル搭載カメラ、またはハンディとしてのカメラでなく、三脚に載せて使用するメインカメラ(=スタジオカメラ)として、すぐに結線して撮影できる即応性と安定性を重視している。
左右両面に操作パネル部がある斬新なデザイン。向こう側に見えるのが今回の立役者Light Iron CEOマイケル・チオーニ氏
それに加えてカスタムチーズプレートやハンドル等、同社のオリジナルシネマアクセサリー群も活用でき、実際の現場での様々な周辺機器にも対応可能だ。併設のシアターで上映された8Kのデモフッテージは、まだ筐体が出来上がって間もない事もあり、ストップ数がさほど見えて来ないなどまだそこそこの完成度ということだが、8K解像度を表現するには十分なものがあった。今後来年のリリースに向けてまず3台が世界中でテストされるとのことで、来年度からの本格レンタル開始の実稼働に向けてブラッシュアップされていくという。
txt:石川幸宏 /猪川知紀(編集部) 構成:編集部