txt:江口靖二 構成:編集部
隆盛誇るVR。その課題はなんだろう?
今年はノースホールの一角に、Virtual and Augmented Reality Pavilionを構成し、30社以上が出展する盛況ぶりである。とくにVRは360°映像が主流である。NokiaのOZO、Insta360のInsta 360 Pro、今年中に発売とされるRICOH THETAの4K版などの単体カメラ、GoPROをはじめとするさまざまな既存のカメラをマウントするリグやストレッチ用のソフトウエア、制作コンテンツのノウハウを提供するサービスなど、会場内でもひときわ勢いを感じる領域である。
RICHO THETAの4K版のプロトタイプ
RICHO THATA 4K版での撮影サンプル動画
VRは、すでにB2B領域ではデザインやUIの開発、建築物設計ではHMDでのウォークスルー利用が一般的である。ここではB2Cでの利用について考えてみたい。B2Cでの360°VRの課題は明確である。どこで見るのか、なにで見るのか、なにを見るのか、という点である。
最初に、どこで見るのかという点から考えよう。もしもそれが家だとすると、HMDのような装着型のデバイスが必須となる。部屋の壁面全部をディスプレイ化したり、プロジェクターで投影するというのは非現実的であるからだ。となると、HMDの装着感の大幅な改善が課題である。どうしても目の近くに表示デバイスを持ってくる必要があるので、ある程度の軽量化は可能だろうが、メガネ的なものの装着は避けられないだろう。さらに技術が進化し、視神経や脳に直接信号を送れるようになればこれらは解決するかも知れないが、まだSF的な領域と言わざるをえない。
HMDは装着感が大きな課題
HMDの装着感が改善されるとして、なにを見たいと思うだろうか。それはおそらく、家という日常的な場所に居ながらにして、別の場所で起きている何らかの状況に高い臨場感を感じることができると嬉しいものだ。そしてそれは、もたらす映像の臨場感が高いがゆえに造り物ではない本物、ライブ感があるもの、あるいはライブそのものである可能性が高いと思うのである。
Canonのドーム型シアター
ドーム内部
せっかく映像による高臨場感を感じられるのに、わざわざニセモノの世界を体験する必要はなく、より本物を感じるためにはLIVEが最適であるはずだ。それを見越しているのかどうかはよくわからないが、各社の360°カメラは盛んにライブストリーミング対応を謳っている点が非常に興味深い。
NokiaのOZOを利用したライブストリーミングのデモ
では、家以外の場所ではどうだろう。例えばプラネタリウムと同様のドーム型スクリーンに、映像を投影するケースだ。この場合は家庭用の蚊帳のようなものもあるかも知れないが、やはりプラネタリウムや映画館は非日常的な特殊な場所である。だとすれば映画のような作品性の高いもの、ライブやスポーツなども、コンテンツの可能性として考えられる。
こういう非日常のエンターテインメントはすでにビジネス化されているものが多いので、その延長上で考えることはできるだろう。逆にテレビ番組のようなコンテンツはこうした利用方法、ビジネモデルにはおそらく向かない。テレビ番組本編に連携した、あるいはリアルなイベントのようなものと組み合わせるなどの、発想の転換をする必要があると思う。
このように、視聴される場所と表示デバイス、そしてコンテンツにいくつかの組み合わせが存在する。どこで、なにで、なにを見るかをしっかり吟味していかないと、3Dテレビの二の舞いになりかねないので要注意である。
txt:江口靖二 構成:編集部