txt:倉田良太 構成:編集部

ソニーのα7 IIIとシグマのプライムレンズを組み合わせて撮影

さて今回はシグマ編。シグマのHigh Speed Prime Lineの中から「28mm T1.5 FF」「40mm T1.5 FF」「50mm T1.5 FF」「105mm T1.5 FF」の4本をお借りした。

なぜ選んだかというと、周りの評判が良かったから。知り合いのプロデューサーに「カメラマンが映画で使いたいって言ってるけどどうなの?」って聞かれたり、セカンド(フォーカスプラー)に「解像力がすごい。ピントが合っているところから急にボケる」みたいな話を聞いたこともある。

カメラはソニーのEマウントミラーレスデジタル一眼カメラ「α7 III」。完全にシネレンズなシグマのプライムレンズシリーズとαの組み合わせは非常にバランスが悪い。もしαとシグマのこのレンズでムービーで使うなら、なんらかのリグと組み合わせて使いたい。NDなどフィルターを入れるにはマットボックス必須。95mmの前枠径は最近のシネレンズでは小さい方に入る。

シグマからはEFマウントモデルをお貸し出し頂き、シグマ純正のEFマウントーEマウント変換「MC-11」を使ってαで使用した。この変換アダプターはしっかりしていて、遊びもなく良くできている。

Vol.02のコシナのフォクトレンダー編に続いて、被写体として「天気の子」のロケ地の聖地巡礼をしてみた。

28mm T1.5 FF、40mm T1.5 FF、105mm T1.5 FFは、IBC 2018で発表されて、昨年から今年にかけて発売された新製品

お借りしたプライムレンズとα7 III

天気の子のロケ地を撮影

■朝日稲荷神社
https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-03-DSC00458-625.jpg 50mm T2.8 1/8000 ISO 800
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朝日稲荷神社は銀座の一角にある。アニメ上では、代々木会館の上。まずは50mmで撮影。隅々までシャープな印象。



https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-06-DSC00477-625.jpg 40mm T4 1/3200 ISO800
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この日は晴れて、光量がありすぎた。マットボックスはあるのだが、NDフィルターは手持ちで良いものがなくて絞りをT4に絞っている。



実はこの写真は、上の写真中央の鈴の緒一部をピクセル等倍に拡大したもの。ピクセル等倍でもねむく感じないレベル。ベイヤーセンサーのピクセル等倍に今までいい印象はなかったが、レンズやカメラの進化、現像技術によってかなり改善されている。



https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-09-DSC00493-625.jpg 28mm T4 1/8000 ISO 800
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屋上はスペースが少ない。28mmの広角で、街並みとの高さがわかるショット。フォーカスの位置は手前ののぼりにあるが、奥の背景は28mmでもこれぐらいボケる。

■のぞき坂
https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-11-DSC00671-625.jpg 105mm T4 1/4000 ISO 800
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映像での坂の表現は難しい。アニメではここがよく使われるらしいが、坂に対して平らな部分がレイヤー状に見えるのが理由かもしれない。すでに劇場で2回天気の子を観ている息子と回った。105mm T4の絞りのピントの芯はシャープ。T2やT2.8くらいで使うと気持ち良さそうだ。腕のいいフォーカスプラーが必要だけど。

■田端駅付近
https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-11-DSC00559-2-625.jpg 105mm T4.5 1/5000 ISO 800
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縮小画像ではモアレがあるが、実際には無い。この柵のような細かい網目はデジタルの宿敵。写真の右側は斜面で木が多く、横位置での引き画を撮れるアングルが見つからず。この柵の上のトゲトゲ(忍び返しと呼ぶらしい)は、アニメではなくしていると思われる。

聖地巡礼の撮影はここまで。レンズテストの話から脱線するが、聖地巡礼撮影の感想をまとめよう。

「天気の子」のロケ地は実写でも魅力がある場所ではある。コンテ、作画の高い技術力により実際にはカメラが入れない位置や、写真のようにレンズを通してできるパース感の再現、美術的な省略など、より良い方向へとアニメーションならではの強みを生かしている。

「天気」という現実世界ではコントロールできないモチーフを選んだこと、逆ズームまで表現できる技術力には大変感心している。

■銀座にて
https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-14-DSC00507-625.jpg 28mm T4 1/8000 ISO 800
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28mmのパース感とレンズのキレのテスト。クリックしてぜひピクセル等倍でみて欲しい。小さい画像ではレンズの持ち味は伝わりづらい。6000×4000のピクセル等倍での描写力は、ひと昔前とは明らかに違っている。

フォーカスの位置は手前の横断歩道あたりにある。奥の方のビルがややあまいのは深度の範囲に入っていないと思われる。ワイドで遠景でもある程度絞らないとパンフォーカスにならない。観客の視点の誘導、立体感の表現において絞りをどう決めるか?撮影の面白さであるがなるべく大きな画面で確認したい。

フートキャンドルに挑戦

フートキャンドルという言葉をご存知だろうか?光量を表す単位の一つで、ロウソクの光が1フィート離れた所に届く光の明るさのことである。セコニック社の伝統的な名機「スタジオデラックス」で現在も使われている単位である。

キューブリックの映画「バリー・リンドン」(1975年)ではロウソク光による照明のシーンを低感度のフィルムで撮影するためにCarl Zeiss Planar 50mm f/0.7という非常に明るいレンズを使用した話は有名だが、それから40年以上経った現在はデジタルによる高感度化でかなり撮影しやすくなった。

今回はチャッカマンを使用したので、1チャッカマンの光量に挑戦!とでも言うべきか。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-16-DSC00839-2-625.jpg 105mm T1.5 1/50 ISO 800
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ロウソクの炎の色温度は約2000K。チャッカマンも同程度だろう。今回もISO 800でシャッターは1/50に設定した。炎や花火の飛び具合も考慮して、もっと高感度にするのはやめた。シグマのレンズは開放T1.5なので、それでもいけると判断したのだが…。

結果から言うと、1フートキャンドルではアンダーだったと思われる。S-Log3の設定で写真を撮るということが根本的に間違っていたのかもしれない。感度2000や5000のほうがノイズが少なく、発色が良いかもしれない。

T1.5の深度は恐ろしく浅く、ムービーでは状況に応じて絞ることも検討すべきだろう。



https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-18-DSC00778-625.jpg 50mm T1.5 1/50 ISO 800
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花火が明るいと光量も増えて発色も良くなった。 50mm開放のテスト。繰り返しになるがフルサイズのT1.5は深度が浅すぎる。よほど狙いでなければ、少しは絞った方がいいと考える。



https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/201908-Lenz-VOL03-20-DSC00742-625.jpg 40mm T1.5 1/50 ISO 800
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今回の花火撮影のベストショット。レンズテスト的にはあまり意味がないかもしれない。動きがあって表情が良い瞬間をマニュアルフォーカスで捉えるのは至難の技だった。

総評

今回はα7IIIと共に写真を撮るというかなりバランスの悪い使い方になってしまった。シグマのシネレンズは各レンズの前枠径が95mmに揃えられていて、フォーカスリング、絞りリングのギアの位置も揃っていて解像感も高い。

本格的なシネレンズであるのに値段はリーズナブル。ぜひとも映像を撮影して紹介したかったが、今回はできなかった。また最近、高解像感とクラッシックな表現を両立させたというFF Classic Prime Lineも発表された。このレンズも非常に楽しみにしている。リベンジの意味を含めて、今度SIGMA fpで映像をテストしてみたい。

今回このようにペリカンのケースに入れて機材を運んだ。本格的なレンズはカメラや三脚含めて全体に機材の重みが増す。車両やスタッフの人数などバランス良く制作する体制が必要と痛感した

■撮影Tips03 シネスコ撮影に備える

フルサイズ機で撮影すると、やってみたくなるのがシネスコの画角。上下トリミングすることになるが、スーパー35よりかなり横長のセンサーサイズにはなる。

シネスコの魅力の一つである、大型センサーの魅力(厳密には横1/2に圧縮)は出せる。その時、上下を切るとどんなことが起こるか?

1:1.5
先ほどの写真の例。



HD 1:1.78
これはまだ画として成立している



シネスコ1:2.35
こうなると成立しない。もう少し引かざるを得ない。レンズをワイドにするか、もしくはカメラポジションを後ろに下げるか。

つまり結論としてシネスコでは縦が短くなる分、レンズ的に全体にワイドが必要になる場合が多い。そしてひとひきすると、横が大きく入ってくるため美術的により横方向の飾りこみが必要になってくる。これは予算に直結するため、要注意事項である。

txt:倉田良太 構成:編集部


Vol.02 [新世紀シネマレンズ漂流:フィールドインプレッション編] Vol.04