txt:酒井洋一 構成:編集部

ANIME GIRLのMVを16mmフィルムとデジタルで撮影

10月に公開したVol.01では、フィルム撮影の魅力やフィルムの種類、入手方法を紹介しました。今回は、下町清澄白河エリアにある弊社HIGHLANDスタジオでコダックの16mmネガフィルムとデジタルで撮影しました緋岡ユウヒとリノズカのユニットANIME GIRLのMV撮影現場を紹介します。

ANIME GIRL|プロフィール
ANIME GIRLは、Vocal緋岡ユウヒとKeyboardリノズカからなる二人組ユニット。ジャンルレスな次世代のロックサウンドが特徴であり、ハイクオリティーな楽曲とハイペースな楽曲制作が強み。また、聞いている人の背中を押す、そして叩く!ポジティブな歌詞とパワフルな歌声にインパクトがある

twitter@AnimeGirlJpn

MVのディレクターは筆者が担当し、カメラマンにはCMやミュージックビデオの撮影で活躍中の小林基己氏を迎えてANIME GIRLの魅力を引き出した映像に仕上げました。完成した映像はYouTube「ANIME GIRL-アニメガ-チャンネル」で公開中です。16mmフィルムでの撮影によって得られた独特な質感を実現した映像をぜひご覧下さい。

筆者(左)とカメラマンの小林基己氏(中央)、撮影部チーフとして参加された小林英彦氏(右)。このほかにも多数のスタッフにご協力を頂きました

10月27日に2ndアルバム「2IMPACT」を発売。その中の収録曲「Colors in my heart」のMVを撮影しました

MV撮影環境の背景

今回は撮影スケジュール上、筆者の自社スタジオで撮影を行いました。HIGHLANDのスタジオには南窓と西窓があり、午前中から夕方にかけて自然光が入るのを特徴としています。しかし、今回は移動する太陽の影響を受けるために、南窓のみを遮光し、HMIやLED照明を用意して撮影に臨みました。

太陽光の入らない室内で今回使用しましたフィルム感度の500を担保するのは案外大変で、そこは被写体のコントラストを考えつつ撮影。照明でバランスをとっていくことを意識していただいたと思います。

主にハイスピード撮影で登場してくる木の根っ子に関しては、このMVのシンボル的な存在を狙いました。スタジオや小道具の暖かな雰囲気だけではなく、一石を投じる作品中での心地よい違和感を生む役割を担ってもらったと思います。

撮影現場となったHIGHLANDスタジオの様子

自然光+HMIを窓の外から打っています

シンボル的な存在として木の根を使いました

今回のMV撮影は、大きく分けて「リップシーン」「イメージ」「OHP」の3つの構成に分けて進行しました。リップシーンのカメラワークにはドリーを使い、OHPのシーンでは背景にイメージを投影して撮影を行いました

16SR2で撮影する小林基己氏(左)とフォーカスを送る小林英彦氏(右)

リップシーンは16SR2をドリーに載せて撮影

OHPを使ったシーンでは背景にイメージを投影して撮影を行いました

16mmネガフィルム800フィートをARRIFLEX 16SR2で撮影

今回の撮影では、16mmフィルムカメラの中でも実績の高い「ARRIFLEX 16SR2」を16mmトライアルルームにご協力いただきました。マウントは、ARRIバヨネットマウントです。ARRIFLEX 16SR2も後期モデルはビデオアシスト機能を搭載していますが、今回借りた機種には付いていませんでした。

「撮影現場のみんなが画を観られなくてもビジョンを共有できる時代だったら良いのですが、今は現場にモニターを何台も出してみんなで共有することで安心感を得る現場がほとんどですね。それに比べるとビジコンのないフィルム撮影だと撮れている画はカメラマンしか把握していません。ちょっと剛毅な感じですけども…。現像するまでどんな画を撮っているのかファインダを覗いてる人しか分からないというのは、カメラマン冥利につきますね」と小林基己氏はフィルム撮影時代の現場をこう振り返りました。

そこで今回は、16mmフィルムとBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kの両方で撮る方法でこの問題を解決しました。まったく同じ画角に設定したBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kで先に撮って、被写体に見てもらいOKだったら16mmフィルムで撮ります。デジタルはバックアップの意味もありました。

左はARRIFLEX・16SRシリーズの16SR2。右はBlackmagic Pocket Cinema Camera 4K

フィルムは、16mmのカラーネガフィルムを使用しました。現在、コダックから発売されているネガフィルムの種類は、「50D」「200T」「250D」「500T」の4種類です。今回はその中から、16mmの中でももっとも感度の高い「コダック VISION3 500T カラーネガティブフィルム7219」の400ft(1秒24コマで約11分の撮影が可能)を2缶、合計800フィート用意しました。

感度500の「500T」を選んだ理由は、今回の撮影が全編室内撮影のため、絞りT2.8の開放気味でもそれほど明るくないことが予想されていました。逆に、真夏で海辺しか撮影しない場合は、50D・1本で撮ることになるでしょう。

今回のMV撮影では16mmフィルムを800フィート使用しましたが、これまで筆者が経験してきた全編フィルムのMV撮影現場では、さらに多くのフィルムを使うケースが多いと思います。トータル缶数は、全体の制作予算によってまちまちでした。

コダックの公式オンラインストアで注文して届いた400フィートフィルム2缶。缶のシールに記してある「7219」という4桁の数字がフィルムのタイプナンバーで、最初の数字が「7」であれば16mmフィルム、「5」であれば35mmフィルム

フィルムの装填とマガジンの管理

txt:編集部

今回の撮影現場でフィルムの管理をするのはチーフの小林英彦氏。まず、撮影開始前にフィルムをマガジンに詰める作業を解説していただいた。本来は、フィルムをマガジンに装填および、抜き取る作業は主に撮影部サードの仕事であるが、今回のMV撮影では規模により撮影部が1人しかいないためチーフが作業を行っていた。

(01)まず大前提として、きちんと発注とおりのフィルムタイプが来ているかを確認する。フィルム缶の上部に各情報を記したシールが貼ってあるので確認をする。フィルム缶の横にはテープで封がしてあり、ここにはフィルムタイプやエマルジョンナンバーなどが明記されている。この缶テープをマガジンに貼ることで、中に詰めたフィルムの種類がわかるようになる。

(02)フィルムをマガジンに詰める作業は、暗室やフィルム交換バッグ(チェンジバッグ)の中で行う。16SRシリーズは、コアキャルクイックチェンジマガジンと呼ばれる技術を採用しており、フィルム供給マガジンと巻き上げマガジンの2つの部屋に分かれている。露光したフィルムは、フィルム供給マガジンから巻き上げマガジンにループして巻き取られる仕組みになっている。

特別に機材チェック用の露光しても構わないフィルムを使って、フィルムを装填したマガジンの中の様子を紹介していただいた

(03)フィルム装填後の様子。縦にシールを貼ってあるのは、マガジンのロックを保護するため。基本的に撮影部以外にマガジンを触ることはないが、人為的ミスを防ぐ意味を込めて貼っているとのこと。

(04)ガファーテープに各情報を書いて、マガジンの側面に貼る。フィルムタイプの「7219」の後に書いた「399-020.01(26.3)」は大切なフィルムの情報。「399」はエマルジョンナンバー。「020」以下は製造された原盤(マスターロール)のどの部分を切り出しているかを判別する番号。製造されたフィルム原版のどこの部分を切り出したか、すべてわかるようになっている。

ここにはトラブルがあった場合にマガジンを特定できるように、マガジンの個体ナンバーも記入する。撮影部ごとに記入するフォーマットは若干異なるが、基本的にガファーテープには上記のフィルム情報は確実に記載するとのことだ。

ビューファインダーから見える枠の位置を撮影

マガジンにフィルムの装填が終わったら、カメラにマガジンを装着して、カメラマンがビューファインダーを覗いたときに見える枠の位置を撮影する。カメラマンはビューファインダーを通して枠を参考に撮影をしても、現像した16mmネガフィルムにはカメラマンが参考にしていた枠は映っていないためだ。

そこで撮影開始前にビューファインダーから見える枠の四隅、画面の中心をマーキングし、そのマーキングを撮影しておく。このようにすることで、フィルムからデジタルの変換作業を依頼する際にオペレーターが画面の四隅、画面の中心を正しく把握できるようになる。

ビューファインダーを覗いて、ビューファインダーの枠の位置に撮像エリアの印を付けていく。小林英彦氏がビューファインダーを覗き、別のスタッフに位置を指示してポイントを打っていく

フレームチャートを参考にして、印を付けていく

フィルム現像後のチャートを撮影した映像より。位置を撮影することで、カメラマンのフレームの基準がかわかるようになる

スキャン時の色変換の基準となるカラーチャートを撮影

全撮影終了後には、タイミングやスキャニングの際に色味がわかるようにカラーチャートを撮る。現場ではタングステンタイプのフィルムをデイライトで撮影していたので、カラーチャート撮影時もまったく同じ環境で撮影をする。

タングステンタイプのネガフィルムは、3200K固定で変更はできない。しかし今回、ライトは5000Kのデイライトで撮っているため、ネガからポジにプリントすると青い画になってしまう。この問題は、スキャン後のグレーディングで変換することで対応した。

ちなみに、撮影時に「ラッテンフィルターNo.85」と呼ばれる色変換フィルターをかけて5500Kを3200に色の調整は可能。例えば、学生の映画制作でポジにプリントする場合に色の転び防止に「ラッテンフィルターNo.85」を使う。ただし、No.85を使うと光量が約2/3絞りほど落ちる。今回の撮影は可能な限り光量を確保したかったので、No.85を使わずにスキャン後のグレーディングで戻す方法を選んだという。

今回の撮影では、7219のネガフィルムをデーライト、ノーフィルターで撮影をして結果として問題はなかったが、厳密にはカラーバランスや粒状性に影響する場合もあるという。ノーフィルターで撮影をしたのは、可能な限り光量を確保したかったために選んだためで、この方法にはデメリットもあるとのことだ。

本編と同じ7219のフィルムと撮影現場のキーライトの色温度5000Kのライトを使ってカラーチャートを撮影

現像所にフィルムの現像出し準備

撮影が終わったら、現像所にフィルムを届ける準備を行う。

撮影済みのフィルムをマガジンから取り出す作業をする。まず、カメラボディからマガジンを外し、チェンジバッグ内にマガジン、フィルム缶、フィルムが入っていた黒装を入れ、完全に光を遮った状況でフィルムを黒装に入れ缶の中に収納する。その際に、フィルムがきれいに巻き取られているか、トラブルはないかを手で確認しながら作業をする。また、フィルムを缶に収納する際に、センターコア(メタルコア)を抜き取るのを忘れないようにする。

チェンジバッグから取り出したフィルム缶の側面に赤いビニールテープを巻く。露光したフィルムを収納した缶には「赤色」のビニールテープ、マガジンに装填してあまった未露光フィルムを収納する時は「白色」のビニールテープと色が決まっている。

各現像所が配布している缶表に必要事項を記載してフィルム缶の上面に張り付けて、現像所に届ける。

次回は16mmフィルム現像編を紹介する予定だ。

チェンジバッグを使ってマガジンからフィルムを抜き取り、缶に入れる作業を行う

撮影済みは赤のテープで封をする

カラーチャートの撮影含めて、3缶分のフィルムを現像に依頼する


Vol.01 [Film Shooting Rhapsody] Vol.03