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映像制作の世界でも求められるリモートソリューションの世界

新型コロナウイルス感染症拡大によって、4月の緊急事態宣言後、映像制作の現場においても急激にリモート対応が求められた。各所でガイドラインが用意され順守して映像制作に臨む。以前とは景色が一変した。

編集室や撮影現場ではなるべく人が集まらないように密を避け、編集中の映像や撮影現場での素材確認を遠隔地で行うことが求められたのがこの半年の出来事になる。そのような状況に対応すべく、自社でクラウド配信システムを構築し、高品質・低遅延を実現し映像制作に適したサービスを提供するのがポストプロダクション株式会社デジタル・ガーデンだ。

リモート試写の際の素材確認から始まった「DGI LIVE」は、今やオーディションに始まり、撮影、編集などにもその利用幅は広がっているという。同ソリューションがどのように生まれ活用されているのか、NEW NORMALが標榜される2020年以降の映像業界のことを推し測ってみた。一旦落ち着いた7月上旬にお話しを聞きに伺い、同ソリューションを通して見えてきた映像制作、そしてポストプロダクションの未来を語ってもらった。

コロナ禍でポストプロダクションがとった道とは?

──コロナ禍は通常業務にどのような影響がありましたか?

島崎裕嗣常務取締役

島崎氏:デジタル・ガーデン(以下:DG)は、元々ポストプロダクションがメイン事業ですので、お客様に編集室を利用していただくことで成立しています。当然スタジオには人が集まり密になりやすいため、まずは編集室に入れるお客様の人数制限を設けさせていただきました。非常にリスキーですが、新規案件を受注しないと関係各所にアナウンスもしました。

3月までは影響なく、4月の緊急事態宣言を境に大きな変化が起きました。映像業界全般がそうでしたが、弊社でも撮影は、ほぼストップしました。編集に関しては撮影素材がある案件は編集作業の依頼があり、作業を進めました。

弊社もコロナ禍で社員の健康優先を第一として対策しました。ガイドラインを用意し、従業員は一部リモートワークとなりました。自動車や自転車の通勤も一部認めました。もちろん会社でなければできない作業もありますのでその辺は部署毎に検討しました。

柄木田英俊氏

柄木田氏:この状況ですので、長期戦に備えて体力を温存し、今は安全に仕事をこなそうというスタンスでした。短期で終息するのか?長期化するのかは読めていなかったのが正直なところですが、対策を万全にしました。

5月の緊急事態宣言解除後からは、ガイドラインに則って業務を再開しました。7月に入り編集室はほぼ予約で埋まっています。なにもなければ在宅勤務ですが、作業があれば編集室に入ることになります。業務の全体量は減りましたが、止められないものもあり、リモートでプロダクションを行えないのか?ということで生まれたのが、今回運用している「DGI LIVE」となります。

──「DGI LIVE」とは具体的にどのようなサービスですか?

白崎氏:映像制作は現場に多くの人が集まり、撮影や編集の過程を経て完成させるものでした。DGI LIVEは、その制作過程である撮影、編集、MAなどの中で素材確認やコミュニケーションをリモートで、且つ高いクオリティで可能にするサービスとなります。撮影であれば、撮影現場から収録映像や現場の状況を遠隔地へ配信できます。各スタッフ所有のPCやタブレットなどの端末を利用し、映像の確認が手元でできます。

編集の過程では、監督とコミュニケーションを取りながらの作業やクライアントの試写などが、編集室だけでなく、家や会議室からでも対応可能になります。またMA作業の確認やナレーション収録時の配信も対応可能です。

白崎達彦氏

DGI LIVEは、オリジナルのサーバーを使用した映像配信サービスです。FHD配信で遅延も約0.5秒くらいとクオリティには自信があります。URLとIDパスがあればWindowsでもMacでも機種を問わず利用できます。セキュリティに関しても、1つの案件に対し一つのサーバーを割り当てていますので、非常に安全で万全を期しています。類似のソリューションもありますがOSが制限されたり、従量課金であったりとオリジナルの開発でWebブラウザのみで対応できるのがDGI LIVEの強みと言えます。

──試写のリモートは多いと思いますが、撮影から一気通貫はおもしろいですね。どのような経緯で「DGI LIVE」は生まれたのでしょうか?

遠藤氏:DGでは、コロナ禍以前から遠隔地で確認できるリモート試写を実際に試みていました。コロナ禍において最初は編集室の映像をVimeoライブで実現できないかとシステム部の提案がありました。そこで編集室から会議室に映像を飛ばし、7~8人にモニターしてもらう実験を行いました。

しかしで1対1の映像チェックであれば遅延は問題にならないのですが、複数人チェックの場合はそれぞれ遅延幅が大きすぎて、実際にコミュニケーションを取ろうにも皆話す内容にズレが生じて噛み合わず、良い結果は得られませんでした。この課題をなんとかしなければということで、良いソリューションを求めて改善が行われ、その中で生まれたのが独自開発したDGI LIVEとなります。

遠藤知洋 取締役

元々会社の社風といいますか、リモート業務については抵抗がありませんでした。というのも既にアメリカのポストプロダクションCompany 3と回線をつなぎ、リモートでカラーグレーディング作業ができるサービスを提供していました。これらの経験値があるので、DGI LIVEは早急にパッケージ化が可能だったと思います。

やはりコロナ禍になり、元々の弊社のリモートグレーディングサービスを知っている方から、リモートでできるんですよね?という問い合わせは増えました。既存サービスを組み合わせても可能ですが、ご存知の通りCM業界ではクオリティが最重要課題です。やはり「低遅延」「高クオリティ」そして「セキュリティ面」、この要素をクリアするためには独自開発が正解でした。

──すでに「DGI LIVE」は、緊急事態宣言後、約150件の案件があったということですが、困難だったことや印象深いことはありますか?

白崎氏:海外案件も含め多くの案件をこなしました。VimeoやZoomなどの他にもリモート向けの様々なソリューションは存在しますが、ポストプロダクションが独自開発したDGI LIVEのクオリティは高く、ご好評をいただいています。

DGI LIVEは、Webブラウザでの提供となります。よってPCの他に携帯電話やタブレットでも確認することができます。また全てのリモートサービスに言えることですが、利用時のインターネット回線速度が大事です。回線速度はアップロード側、試聴側ともに50Mbps以上を推奨しています。よって特にアップロード側は有線LAN接続を推奨しています。弊社のサーバー数も限りがあり、リモート案件でサーバーがすべて稼働中で事前チェックをしたいというリクエストへの調整が難しいこともありました。

DGI LIVEは、Webブラウザー試写を行う

遠藤氏:DGI LIVEがスタート時に実際に何人までスムーズに試写可能か検証しました。映像のコマ落ち原因がどこなのか?不明な場合も多々あります。実際にプロダクションや広告会社は綺麗に視聴できたのに、クライアントが見ると映像に不具合が出ることがありました。理由は、世の中的にリモートワークが始まった頃で、自宅マンションの回線問題であるとか、企業が用意したPCのセキュリティ問題などがありました。

またネットに対するリテラシーの問題もあるかもしれません。しかしながらソリューションを提供する側として、クオリティが担保できないというのは理由がなんであれ、よろしくありません。早急に「REALTIME MODE」に加え、より安定した視聴ができる「PREVIEW MODE」を実装し改善しました。

柄木田氏:MAなどのナレーション収録もDGI LIVEでのリモート収録が増えています。撮影が中止になり、そのスケジュールでナレーション収録を行うことがありました。タレント含め、監督、クリエイティブ、それぞれが誰とも会わない現場で実行されました。時間差で入るタレント3人と制作の1人だけという超ミニマムな現場となりました。収録の光景はなかなかシュールでした。監督が自宅からリモートで参加し、スマホ一台で指示をして収録を行いました。コミュニケーションはZoomを使用して、音声のクオリティチェックはDGI LIVEで行いました。

6月末までの3ヶ月で約150件こなしましたが、このソリューションを説明するために事前説明会を60回以上行いました。機能説明にも時間がかかるので、これには少しばかり苦労しました。実際に使用しないとわからないソリューションであることも確かです。

遠藤氏:撮影の場合は撮影現場と同じ環境を好まれる方がほとんどです。DGI LIVEであれば、DITが立ち会って行う現場のモニタークオリティをほぼリモートで再現可能になります。

編集の場合は普段編集室のモニターで見ている映像と同じものを自宅などで見ていただけるのですが、色味の違いなどを気にする方も一定数いますね。基本普段自分が見ているものを信頼されていますのでどういう画ができるかというのもあるでしょう。グレーディングに関しては本来マスモニが必須ですが、マスモニに出力している映像を配信しているという事と、以前から弊社のカラリストとカメラマンとの間で信頼関係ができている事がスムーズに受け入れられた要因だと思います。

またWeb用CMの場合、最終のアウトプット先がWebなので抵抗なくご利用いただけていますね。

──このソリューションを展開することによってDG社スタジオの在り方は変わると思いますか?またどのように変わると思いますか?

島崎氏:ポストプロダクションは場所でサービスを提供しますが、現在のビジネスモデルへの危惧はもちろんあります。今回の状況と別にしても遅かれ早かれ、スタジオの在り方は変わっていくと思います。同じクオリティで確認が確実にできれば状況は変化すると思います。移動時間の大幅な短縮にもなります。

編集室に集う人々が徐々に減り、ほぼオンラインでというスタイルに移行しているように思います。制作に携わるスタッフが一堂に会さないという光景も普通になるのかと思っています。

リモートワークが浸透すればスタッフ移動がなく、場所の呪縛から解かれて自由度は上がりますし、居住地も首都圏でなくとも良くなります

柄木田氏:今後の課題としては、効率化がすべてなのか?という議論は出てくるかと思います。クライアントや広告会社が、リモートで自分のPCの前だけで完結するのが良いのか?クライアントの方々にとって普段足を踏み入れない編集室で試写を行う時の特別感はあると思います。ポストプロダクションで試写をすることはある意味儀式的な部分はありますね。普段は編集室という最高の環境で広告会社がチェックしたり、クライアントもOKを出す場となりますからね。

もちろん制作スタイルが変化していくのであれば、それに合わせて私たちも変えていくしかないですね。今回のように変化には柔軟に対応できるのが弊社の強みでもあります。今回「DGI LIVE」にいち早く取り組めたのは良かったと思います。このソリューションは要望に合わせて機能を含めアップデートしていこうと思っています。会社としてはこれからもチャレンジしていくのが良いだろうと思っています。

コロナ禍が明らかにしたリモートソリューションの行方

リモートソリューションをいち早く開発し商品として実践投入している。そこから見える課題もあり映像制作のこれまでのフローとは違うものも見えてきたという。Withコロナを経て、近い将来終息した場合もリモートと合わせたハイブリッドのソリューションを提供していくという。これは映像制作全般にも言えることだろう。

txt / 構成:編集部


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