Voigtlander VMシリーズメインカット

txt:栁下隆之 構成:編集部

ライカMマウント互換のVoigtlander VMマウントに注目

2019年の年末に駆け込むように購入し、2020年の撮影はこれらのレンズに支えられたと言っても過言ではない。

日本が誇るレンズメーカー、コシナのMマウント互換レンズ「Voigtlander VMシリーズ」、その中から筆者が選び抜いたレンズ群が以下だ。

  • ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical III
  • ULTRON 21mm F1.8 Aspherical
  • NOKTON 35mm F1.2 Aspherical II
  • NOKTON 40mm F1.2 Aspherical
  • NOKTON 50mm F1.2 Aspherical
  • NOKTON Vintage Line 75mm F1.5
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ギアリング「Tailored Lens Gear VM」を装着した状態
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なぜ、筆者がVoigtlanderのVMマウントに注目したのか。カメラとレンズが進化する過程の中で、レンジファインダーから一眼レフに主流が移ったことで、フランジバックが長くなり、光学設計的に無理が生じて性能の限界が発生していた。

特に高画素センサー化が進む中で、それが顕著になっていた矢先に、ミラーレス化の波が押し寄せたことで、各社が一気にショートフランジバック化を進めてきた。そのような中でMマウントが各種ミラーレス用マウント規格に相性が良さそうだと考えた時に、現代設計のMマウントレンズとしてVoigtlander VMマウントに注目したのだった。

実はこれらのレンズを初めて試したのが、2019年初夏に撮影したこのPVで廃校の中の雰囲気を良く捉えることができた。

Chima×古賀小由実「水の舟」

この時はNikon Z6 2台で撮影。Zマウントにアダプターを介して装着した。好意にしているコシナのご担当の方に、撮りたい雰囲気を伝えて一緒に選んで頂き、デモでお借りして撮影させて頂いた。

次に2019年秋に撮影させて頂いたのがこれで、この時は4K撮影した物を縦にFHDでトリミングしているが、上下の周辺部まで良く解像していることに注目して貰いたい。

AATA「Sway」

当然、この時も購入前で、再び好意に甘えてテストでお借りして撮影させて頂いた。コシナの御担当者さまには足を向けて眠れない。その後、購入して本格稼働を始めたのは2020年1月中旬からなのだが、権利関係もあってここでは動画のリンクを控えるが、別の動画を後述の中でご紹介しているので観て欲しい。

VMマウントレンズの魅力

購入したレンズの中で、12mmと35mm F1.2 IIは既にディスコンになったが、35mm F1.2はIII型が発売になっている。

※各レンズの写真は、ギアリング「Tailored Lens Gear VM」を装着した状態

■ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical III
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12mmを選択した理由について、10mmの周辺部のディストーションと、光学性能的に有利な15mmとも比較した上で、画質と画角の2つのバランスを考慮して12mmに落ち着いた。静止画であればレンズのディストーションの補正も可能であるが、動画での使用を前提としていたので、バランスとしての落とし所である。

とはいえ、12mmはそこそこの癖玉なので、現在主力で運用中のカメラLUMIX S1Hでは、ディストーションを生かすならフルフレーム、それを嫌うならSuper35で撮影している。S35だとしても12mmという画角は大きな強みで、ここ一番で引けるのが大きな魅力だ。

■ULTRON 21mm F1.8 Aspherical
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21mm F1.8は昨年春に追加で購入した、21mm F1.4に主力の座を明け渡したのだが、レンズの味(=ディストーション)を活かしたい時は、F1.8に入れ替えて運用している。周辺部までシャッキリとしたF1.4の描写は少し絞って更に鮮鋭度が増すのが魅力だが、F1.8をあえて周辺が多少甘い開放付近で使うことで、レンズの味がだせるメリットもある。

■NOKTON 35mm F1.2 Aspherical II
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35mmと40mmが近しい画角で、2本の導入理由が気になると思うが、35mmは絞りも円形に近く、描写も極めて現代的な雰囲気に対して、40mmはクラシカルな絞り羽根形状に加えて、レンズ構成の違いからもボケ味が異なっている、40mmは現代的なシャープさを持ちながらもクラシカルなボケ味で、シーンに変化を持たせたい時には2本の違いが大変面白い。

■NOKTON 40mm F1.2 Aspherical
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40mmは前述の作品のこのシーンが分かり易い。シャープで柔らかいトーンと、独特な玉ボケが、クラシックレンズでは出せないこのレンズの良さが見えていると思う。

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工夫を凝らして同一口径のフィルター装着を実現

購入前に何度もテストさせて頂いたメーカー様には頭が下がるが、それ以外にもこのレンズセットを導入するにあたり、いくつかお世話になった点がある。

12mmと21mm F1.8は組み込み型のレンズフードなので、プロ用の77mmといった大口径の、ねじ込み式フィルターが装着できないのだが、試験的にフード部分を切断加工して、アダプターリングが装着できる様にして頂いた。12mmについては、前枠のネジ切り自体がないのだが、ステップアップリングを接着加工することで対応している。

これによって、全てのレンズの前枠を77mmにステップアップさせてあり、同一口径のフィルターが装着できる様になっている。

201908-Lenz-VOL05-TLG-VM1256_2_s

また、VMシリーズは絞りのクリックのON/OFF切り替え機構が付いていないので、動画用には不便なのだが、これもクリックボールを取り外し、グリスを注入してシネマレンズの様な無段階絞りに改造してある。

これらの改造は全て試験的にメーカー様に行って頂いた物だが、1年あまりの間運用してみて不具合は全くない。

優秀なレンズであるが、デメリットがない訳ではない、距離計連動のレンズのため、最短撮影距離が長いことに加えて、写真用の設計なのでブリージングが多少あること(他のスチルレンズに比べて多い訳では無い)などがあるが、多くのメリットがあるので列記しておきたい。

  • 極めて明るいのに、口径が小さい(コンパクトである)こと
  • 光学性能に対して、全長が短い(コンパクトである)こと
  • 歴史の長いMマウントで、マウントアダプターが豊富なこと
  • フルマニュアルでヘリコイドの回転角が十分あること

セットレンズで運用することを考えれば、これ以上のメリットは見出し難いが、これにワガママ仕様のレンズ前枠統一口径と無段階絞りで、コンパクトなシネマレンズセットに仕上がった訳である。

■コシナ Voigtlander VMマウントシリーズ
価格:
・ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 Aspherical III:税別115,000円(生産終了)
・ULTRON 21mm F1.8 Aspherical:税別118,000円
・NOKTON 35mm F1.2 Aspherical II:税別135,000円(生産終了)
・NOKTON 40mm F1.2 Aspherical:税別120,000円
・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical:税別135,000円
・NOKTON Vintage Line 75mm F1.5:税別125,000円
問い合わせ先:コシナ

Lily Hill WorksからVMシリーズの専用のレンズギア「Tailored Lens Gear VM」登場

こちらのリンク先の動画を見て頂きたい。これもS1HとVMレンズの組み合わせで撮影した物だ。

レンズの特性と照明演出がマッチして、白の中の微妙なグラデーションが独特の透明感を出せたと感じている。

この撮影に合わせて、専用のレンズギアを試作して貰った。製作は前職の後輩で今は独立して撮影機器のガレージメーカーを立ち上げた。Lily Hill Worksの柏原さんの手による物だ。手と言っても3Dプリンター製な訳だが、レンズの前枠口径に合わせて外径を77mmとして、ギアリング装着位置を全て統一化することにも拘って頂いた。

Voigtlander VMシリーズ説明カット

撮影ではスライダーを多用する予定だったので、フォローフォーカスを使用することを前提にしていた。そのためにはレンズギアを事前に装着しておく必要があったのだが、レンズがコンパクト過ぎて市販の物では使い勝手が良くなく、新規に製作したという訳だ。

この撮影の時は試作1号で、いくつか要望通りとは行かなかったのだが、その後に改良を重ねて完璧な製品に仕上がった。現在は銀一株式会社発売元として流通しているので、皆さんも手にすることができるようになっている。

レンズごとの専用設計になっており、はめ込むだけでしっかりと装着できて、外れることもない。また、全周ギアになっているので、どの位置でもフォローフォーカスのギアを噛ませることができる

ここでマウントアダプターについて触れておきたい。
数あるマウントアダプターの中で、Mマウント変換にはクロースフォーカスタイプという、近接撮影用のヘリコイド内蔵の物が存在してる。

このヘリコイド内蔵タイプには高価なものが多いが、動画を撮る上で支障がある物が多い。なぜなら、ヘリコイド繰り出しことにマウントのガタが生じるのだ。筆者の場合は、MからEマウント、Xマウントの物はコシナ製の物を採用している。これは他社に比べて加工精度高く、マウントの繰り出し時にガタ付きが少ないからだ。MからLM変換に関しては、満足できる製品がまだ無いので、比較的安価に入手できるブランドの物に、中間リングを組みあわせて近接撮影用としている。
この中間リングが豊富に入手できるあたりも、Mマウントの魅力ではないだろうか。

Voigtlander VMシリーズ説明カット

さて、いろいろと持論を展開させて頂いたが、一眼動画を極めるにあたり、最大の障害がレンズでは無いだろうか。高性能なズームレンズに目が行きがちであるが、実際の描写となると単焦点の際立つ性能はレンズ交換の手間以上に価値がある。

また、VMシリーズの持つ豊か諧調描写と解像感のバランスは、昨今主流の高解像度・高コントラストを売りにしている、高画素センサー向けレンズとは一線を画す存在だと言える。

オートフォーカス性能と光学性能のバランスを重じている現代のAFレンズとは違い、描写力とコンパクトさのバランスに注力しているこのレンズ群は、現在筆者が最もお勧めしたい逸品である。

■Lily Hill Works Tailored Lens Gear
価格とラインナップ:
・Tailored Lens Gear for VM12/5.6 税別8,000円
・Tailored Lens Gear for VM21/1.4 税別8,000円
・Tailored Lens Gear for VM21/1.8 税別8,000円
・Tailored Lens Gear for VM35/1.2 税別8,000円
・Tailored Lens Gear for VM40/1.2 税別8,000円
・Tailored Lens Gear for VM50/1.2 税別8,000円
・Tailored Lens Gear for VM75/1.5 税別8,000円
問い合わせ先:Lily Hill Works

txt:栁下隆之 構成:編集部


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WRITER PROFILE

栁下隆之

栁下隆之

写真家アシスタント、現像所勤務を経て、撮影機材全般を扱う輸入販売代理店で17年余り勤務の後に、撮影業界に転身。一眼カメラによる撮影を得意し、代理店時代に手がけたSteadicamや、スタビライザー系の撮影が大好物。