ビシッと止まる手ブレ補正機能を搭載
発売前のGH6を使わせて頂きました。私の仕事や作品作りにおいて、GH5Sは欠かせない存在だったので、GH6が予約受付を開始したその日に予約を入れました。それほどまでに、私にとってはマイクロフォーサーズ機は欠かせない存在なのです。だから常にマイクロフォーサーズ機の最高峰を持っていたいと思っています。
GH6を箱から出した瞬間に目に入ったのは、放熱機構のファンの排出口です。GH5Sよりも胸板が厚くなった印象です。業務機の印象を強く受けて、機材としての魅力もアップした気がします。持ってて嬉しいマイクロフォローサーズ機ですね。いや、私には細かいスペックについて語ることを求められていないと思いますので、実際に使った印象を書いてみます。
GH6とGH5Sとの大きな差は手ブレ補正の有無でしょう。今までGH5Sに手ブレ補正があったら良いのにと何度思ったことか。GH6の手ブレ補正はレンズキットの「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm/F2.8-4.0 ASPH./POWER O.I.S.」と相まって、本当にビシッと止まります。ワイド側で撮ると三脚で撮ったかのように止まります。そして望遠側で撮ると、自然な手持ち感を感じるぐらいの揺れになります。これはとても気持ちのいい手持ち感です。
そしてこの「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm」というレンズがレンズキットのレンズであるところにも、業務機っぽさを感じてすごくカッコいいと思いました。「12-60」という数字部分もオレンジですし。
手持ちのバランスや解像感、フォーカス性能も確実に向上
私はGH5Sで長編映画を撮影したことがありまして、その作品を海外の映画祭の大スクリーンで見た経験もありますが、映像クオリティとして他の映画に劣っている感じは全くありませんでした。だから私の中ではGH5Sがマイクロフォーサーズ機の完成形でもありました。逆に言えば、マイクロフォーサーズ機で撮影した映画で世界的に有名な映画祭に行くことが出来るのです。これは声を大にして言いたいことです。マイクロフォーサーズ機を思いっきりど真ん中にして映画を作ることが出来るのです。
そして、実際にGH6を使ってテスト撮影してみました。ガチッとしたグリップ部分ですが、GH5Sに比べて重くなったという印象も無く、当たり前のように使いやすいカメラでした。レンズにもよると思いますが、片手で持った時のバランスが良い気もします。
今回は私が仕事や作品作りで使うであろう、5.7KのProRes 422 HQのV-Logで撮影しました。Macに取り込んでデータを見たところ、とても解像感の高い映像でした。4Kではなく5.7Kということで解像感が高いのは当たり前なのかも知れませんが、滑らかというのかシルクのような感じというのか、そんな印象がありました。何気ないテスト用の撮影ではありましたが、早くカメラの前に人物をおいて映画のショットを撮りたいと思わせられました。そういう質感があるんですよね。
私はGH5Sを使っている時に、ほぼ100%マニュアルフォーカスで使っていたので、GH6のフォーカス性能がどう変わったのか、シビアに感じることは出来なかったかも知れませんが、何のストレスもなくフォーカスも合いました。
最低ISO2000の「ダイナミックレンジブースト」に期待
そして、私にとって本当に嬉しい機能が「ダイナミックレンジブースト」という機能です。この機能をオンにするとV-Log撮影時のダイナミックレンジが上がるようなのです。実際に撮影して、Davinci Resolveに読み込んで、カラーグレーディングをしてみたんですが、GH5Sよりもハイや暗部の伸びが良い気がしました。私がマイクロフォーサーズにこだわる理由は、パンフォーカスが好きだからなのです。だから、私は軽々にフルサイズのカメラに移行出来ないのです。
そんなパンフォーカス好きの私にとって、この「ダイナミックレンジブースト」のベース感度がISO2000というところにも感動しました。ISO2000がベースだと、多少暗いところでも割と露出を絞ることが出来て、マイクロフォーサーズのセンサーサイズと相まって、パンフォーカスにしやすいのです。
私は今年作る予定の長編映画ではこのGH6を使う予定です。それはさっきも言いましたが、パンフォーカスの作品を作りたいからです。パンフォーカスと言っても、遠景だけで作品を作るのではありません。手前と奥を使って芝居の動きを作りたいと思っていますので、フォーカスを送ること無く、手前と奥でフォーカスが欲しいのです。だからダイナミックレンジを広げつつ、ISO感度も高く絞りやすいダイナミックレンジブーストはものすごく欲しかった機能でもあります。
撮影を終えて、データをコピーした時の5.7KのProRes 422 HQのデータ量の重さにはビックリしましたが、それを当たり前のように記録しているLexarのCFexpressカードの安定感にも驚きました。CFexpressカードはメディア自体もしっかり作られている感じがあって安心感があります。
マイクロフォーサーズ機だから劣るということはまったくない
最後に、私がマイクロフォーサーズ機が好きな理由ですが、それは作品作りにおいてパンフォーカスが好きだからだけではありません。今は映像業界にも制作費の相場というものがなくなってしまい、今までではあり得なかったような少ない予算でそれなりの映像を求められることが多いのです。そんな時はディレクターである私も自分で撮影をします。もちろん助手など付けずに、ディレクター兼カメラマンを1人でやる訳です。そうすると、機材はコンパクトにしなければ成立しません。
マイクロフォーサーズ機はボディも小さいですし、割と良いレンズを使ったとしても、レンズも小さいのでカメラリュック1つですべての機材を持って行くことが出来ます。そしてカメラとレンズが軽いので、持っていく三脚も軽くて小さいものにすることが出来ます。マイクロフォーサーズ機があることで、私のディレクター兼カメラマンという仕事が成立しています。
これからは、フルサイズ機でフルラインナップのレンズを持っているよりも、マイクロフォーサーズ機でフットワーク良く撮影できる体制にしている方が、仕事のチャンスは増えていくんだろうと思われます。今までの撮影体制に慣れている人たちからしたら、劣化した体制と思われるのかも知れませんが、時代の流れを止めることは出来ません。もちろん贅沢を言えば、フルサイズとマイクロフォーサーズの両方の体制にしておく方がいいとは思いますが。
そして、私がマイクロフォーサーズ機で撮影した長編映画が、海外の映画祭の巨大スクリーンで上映された時に、他の作品と比べても映像クオリティとして見劣りしなかったことが証明している様に、マイクロフォーサーズのセンサーサイズで十分にハイクオリティの映像は作れるのです。それをカメラリュック1つで持ち運べるマイクロフォーサーズの利点はもっと評価されるべきだと思っています。
もっと突っ込んで言いますと、すべての映像に背景のボケは必要無いはずなのです。どれだけ背景のボケが美しいかがカメラのスペックを語る上でありがたがられていますが、それはその映像において何が優先されるかによって変わるはずなのです。私の場合は、出来るだけ深い被写界深度が欲しいのです。そんな時にわざわざフルサイズのセンサーのカメラは使いません。フルサイズのセンサーを使って、極端に絞って、大げさなほどの光量を使ってパンフォーカスにする意味はありません。最初からマイクロフォーサーズのセンサーで撮ればいいんです。
そういう意味では、道具の種類の1つとして、マイクロフォーサーズというセンサーサイズは無くなっては困るのです。職人が使う工具にいろんな大きさがあるように、カメラのセンサーサイズにも、仕事に応じた適切なサイズがあるはずですから。
平林勇|プロフィール
映画監督・映像ディレクター。短編映画が、カンヌ、ベルリン、ベネチアなどの映画祭で上映される。
2019年、長編映画「SHELL and JOINT」が完成。今年、2本目の長編映画を撮影予定。
▶ISAMU HIRABAYASHI