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ボリュメトリック撮影スタジオの様子

ボリュメトリックからバーチャルプロダクションまで次世代映像コンテンツ制作を提供

ニコンが2022年4月に次世代映像コンテンツの企画・撮影・制作を担う新事業のためにニコンクリエイツを⽴ち上げた。その後2022年10月に東京・平和島にて、⾃由視点3D映像ボリュメトリックビデオ撮影システム「POLYMOTION STAGE」を⽤いたサービスの提供を開始し、さらに2023年1月にバーチャルプロダクションを用いたサービスを提供開始した。このタイミングでスタジオ見学・取材ができたので、報告したい。

ニコンクリエイツは、この平和島の拠点を複合型撮影施設「平和島ステージ」と名づけているが、複合型と呼んでいる意味はボリュメトリックビデオ、バーチャルプロダクション、モーションコントロールシステム、ハイスピードカメラの設備を有しており、複数の最新撮影技術が集まった拠点だからだ。

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カフェテリアの様子。冷蔵庫やシステムキッチンがあり、料理の撮影シーンにも対応することができる

バーチャルプロダクション用のスタジオでは、約10.4m×4.1mのメインLEDに加えて、天井部と左右のサイドにもLEDが配置されており、カメラはARRI AMIRA、カメラトラッキングシステムはRedSpy、メディアサーバー・レンダリングサーバーにはdisguiseを利用するなど、本格的な構成になっている。

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常設のバーチャルプロダクションスタジオ。広さは約100坪程度あり、荷物搬入のために大型トラックで直接スタジオ内に乗り入れることも可能

スチル撮影や動画撮影のスタジオスペースには、モーションコントロールシステムを導入。2016年よりニコンのグループ会社になった英国のロボット制御ソリューションを提供するMark Roberts Motion Control(以下:MRMC)のBOLTやハイスピードカメラには4K動画を1000fpsで撮影可能なPhantom VEO4Kが採用されていた。

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一般的なスチル撮影や動画撮影のスペース。ロボット制御ソリューションのBOLTを採用

ボリュメトリックビデオ撮影システム「POLYMOTION STAGE」

さて、本題のボリュメトリック撮影システムであるが、ニコンクリエイツの平和島ステージは、Microsoft Mixed Reality Capture Studios(以下:MRCS)の日本唯一の拠点とのことであった。マイクロソフトは製品化されているAzure Kinectのようなデプスカメラ、HoloLens 2のような実空間を認識した上で空間にホログラフィックを表示させるヘッドマウントディスプレイのようなハードウェアだけでなく、2018年頃よりボリュメトリックビデオ撮影システムのサービスを展開している。

そのMRCSのシステムを使用した公式パートナーが世界に5拠点あり、ニコンクリエイツの平和島ステージはその内の1拠点というわけだ。ちなみにその他の4拠点はロサンゼルス、ワシントンDC、ロンドン、ソウルである。

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MRCSのスタジオパートナーにはDimension、Metastage、Jump Studio、Avatar Dimension、ニコンクリエイツなどがある

MRCS公式パートナースタジオのレンダリング処理は、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Azure」によって行われる。オンプレミスのハイエンドサーバーは不要になり、ボリュメトリック撮影スタジオの開設で課題の大掛かりな設備コストを抑えることが可能だ。

また、公式パートナースタジオ同士の互換性も特徴としている。例えばColdplay×BTSの楽曲「My Universe」(2021年)のミュージックビデオは、イギリスのDimensionとソウルのJump Studioで撮影が行われ、全く別々の地域で撮影されても公式パートナー同士のスタジオであればシームレスに合成が可能だという。ニコンクリエイツも今後、各国パートナー同士で連携の展開もあるかもしれないとのことだ。

100台以上のカメラで構成されたボリュメトリックビデオ撮影システムを導入

撮影システムの構成としてはMRCSの拠点は世界各国で同じような構成なようで、ニコンクリエイツのスタジオにおいても約100台以上の4K30fpsのカメラが同期されて使われている。MRCSの公式Webページによると、カメラシステムを被写体に近づけてより高解像度に撮ったりと、撮影内容に応じて設定を微調整できるとのことだった。

撮影したデータはobjとpngの連番ファイルなどで提供され、汎用的な3DCGソフトで読み込み編集することができる。また、撮影している様子をライブ・3Dでモニタリングできる空間も用意されていた。

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コントロール室
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撮影したボリュメトリックビデオは、撮影システムの隣のコントロールルームですぐに確認が可能

バーチャルプロダクションやモーションコントロールシステムとの連携にも期待

2023年1月に米国で開催された展示会であるCESにて、ニコンは「Unreal Ride」というバーチャルプロダクションとモーションコントロールシステムを連携したシステムをデモ展示していた。来訪者は未来的なバイクにまたがり、背景のLEDでは街を疾走しているかのような映像が流され、その様子を高速度カメラロボット「Bolt X」に搭載されたニコンの最新カメラである「Z 9」で撮影するという構成だった。(ニコン CES 2023 – バーチャルプロダクション)

平和島ステージでは、まだボリュメトリックとバーチャルプロダクションやモーションコントロールシステムと連携して撮影したデモコンテンツはないとのことだったが、今後「Unreal Ride」に似たような最先端技術を併用した事例が出ることを期待したい。その時こそ複合型撮影施設である平和島ステージの真価が発揮される機会になるだろう。

ニコンクリエイツ 代表取締役 宮原康弘氏インタビュー

ボリュメトリック撮影スタジオ立ち上げの経緯やサービスの狙いについてニコンクリエイツ 代表取締役 宮原康弘氏に話を聞いた。

――ニコンブランドでボリュメトリック撮影スタジオ開設の発表には驚きました。開設までの経緯を教えてください

宮原氏:

ニコン子会社のMRMCは2018年から、MRCSパートナーであるdimensionと協業しボリュメトリックビデオキャプチャスタジオ「POLYMOTION STAGE」のサービスを英国・欧州で開始し、高品質なデータは大きな反響を得ました。同じ頃、ニコン本社もボリュメトリックビデオシステムの導入を検討していたため、今回同様のシステムで営業を開始しました。

――平和島ステージは構想段階からバーチャルプロダクション、スチル動画撮影ステージ、ボリュメトリックの複合施設でしたか?

宮原氏:

企画段階から複合撮影施設の構想でした。できるだけ広いスペース、かつ海外からの需要を想定して羽田空港付近に開設することも条件としました。

――ニコン製品中心のスタジオだと想像していましたが、見学をしてみると違いまして驚きました

宮原氏:

ニコンクリエイツはコンテンツ制作会社です。制作会社として最先端の映像制作を実現するために何が必要なのかを最優先に考えています。

――バーチャルプロダクションとBOLTの連携は可能ですか?

宮原氏:

各ステージにはスロープがあり、電動パレットでBOLTの移動は可能です。バーチャルプロダクションとモーションコントロールシステムとの連携はすでに行いました。ボリュメトリックとBOLTの連携はこれから検証を行う予定です。

――最後に静止画と動画と3Dはターゲットが異なると思いますが、今後の展望をお聞かせ頂けますか?

宮原氏:

これからのクリエイターは新しい技術を組み合わせ、思いもよらないコンテンツを制作するのではないかと予想しています。その時には、従来のような静止画/動画/3Dといった区切りがなくなっていくと考えています。新しい発想でこの施設を活用して、想像を超えるクリエイティブ誕生の場所になっていくことを目指しています。

青木崇行|プロフィール
カディンチェ株式会社代表取締役。2009年慶應義塾大学より博士(政策・メディア)取得。ソニー株式会社を経て、カディンチェ株式会社を設立。カディンチェではXRに関するソフトウェア開発に従事。2018年には松竹株式会社との合弁会社であるミエクル株式会社を設立、2022年1月に代官山メタバーススタジオを開設し、バーチャルプロダクション手法を用いたコンテンツ制作に取り組む。