ボリュメトリックキャプチャの老舗
ソフトバンクのグループ会社であるリアライズ・モバイル・コミュニケーションズによるボリュメトリックキャプチャの歴史は6年前に遡る。当時のプレスリリースである「VR・AR・MRで活用できる米8i社の3Dホログラム生成ソリューションを日本国内で提供開始」にあるとおり、2018年8月には日本国内で商用スタジオを開設していた。
拠点については、当初は品川スタジオだけだったのに対して、現在では辰巳スタジオも加わり、複数拠点で営業中である。その歴史の長さや複数拠点展開ということもあり、日本で最も撮影実績数の多いボリュメトリックスタジオと言ってもいいだろう。
8iとの連携
リアライズ・モバイル・コミュニケーションズのボリュメトリック撮影システムは、米国のロサンゼルスに本社がある8i社のものを利用している。8i社は2014年創立のボリュメトリックキャプチャシステム(同社はホログラムと呼んでいる)の会社であり、この分野の黎明期からシステム開発をしている。歴史が長いこともあり、2017年には社員数の半分が解雇されるニュースもあったものの、その後の経営合理化やシステムの汎用化が進み、現在まで継続的な技術改善やスタジオ運営が続いている。
8iの特徴として、ボリュメトリックキャプチャのシステム一式を外部に販売していることもある。ASPX Hologram Stagesというのがシステム名であるが2023年3月現在、使用しているカメラの解像度や台数の違いにより、Pro 2K、Pro 4K、Pro 4K Ulitimateの3種類の撮影システムを展開している。
辰巳スタジオと東品川スタジオ
今回見学させてもらったのは辰巳スタジオであり、こちらにはPro 2KとPro 4Kの2種類のキャプチャエリアが用意されていた。広い方のPro 4Kの方では、直径2.5m、高さ2.2mまでの被写体が撮影可能になっている。この範囲内に収まれば複数人を同時に撮影することも可能になっており、実際にアイドルの方が3人同時に歌っているデモ動画も見せてもらえた。
Pro 2Kの方では、直径1.5mが撮影可能エリアであり、1人の被写体を撮るにはこちらでも十分な広さだ。撮影されたデータは、同じスタジオ内にあるレンダリングファーム(100台近くのサーバー)で処理がされ、撮影後約1時間でボリュメトリックビデオデータが出来上がっていた。納品データとしては15fpsもしくは30fpsのデータが提供され、フォーマットとしては点群フォーマット、glTFベースフォーマット、FBX連番ファイル等、顧客ニーズに合わせた対応をしているという。
最新事例:FASHION TECH TOKYO
同スタジオでの撮影・制作された最新事例として、2023年1月27日に同社が株式会社KINGBEATと発表したメタバース時代の新ファッションテックサービス「FASHION TECH TOKYO」を紹介する。同サービスでは、ボリュメトリックビデオ(3Dホログラム)×デジタルファッションの活用により、VRやAR、メタバース向けの3Dデジタルファッションの制作や3Dファッションショーの実施など、新しいファッションの表現ができる革新的なファッションテックサービスになっている。以下の動画において、同スタジオで撮影されたデジタルファッションを着用したモデルを確認できる。
ライブストリーミングにも対応
さらにスタジオからボリュメトリックビデオのライブストリーミングにも対応している。スタジオ内で歌ったり踊ったりしたデータが10秒から20秒程度の遅延後に、エンドユーザーのPC、スマホ、ヘッドマウントディスプレイに送信できていた。訪問時に体験させていただいたのも、Pro 4Kキャプチャエリア内で歩いているスタッフの方を、外のエリアに用意されていたMeta Quest ProというVR用ヘッドマウントディスプレイにて6DoFなデータとして確認ができた。
低価格
今回の一連の取材でいくつかのスタジオにお邪魔させてもらったが、ボリュメトリックキャプチャに関する料金表が明示的に提示されたのはリアライズ・モバイル・コミュニケーションズ社のみであった。
ボリュメトリックキャプチャの場合、撮影する対象、尺、使用用途等により準備や対応工数が変わるために、都度見積もり対応するところがほとんどのところ、リアライズ・モバイル・コミュニケーションズ社では規模の小さめな東品川スタジオでは約70万円から、辰巳スタジオでも130万円程度からという価格感であった。他社では数百万円かかるところを、この価格に抑えられているのは撮影システムの合理化・汎用化や長い歴史から生まれた改善の賜であろう。
ちなみに案件によっては上記の価格からさらに頑張れるかもしれないということで、ボリュメトリックビデオ制作やライブストリーミングに関心のある方は相談してみるといいだろう。
青木崇行|プロフィール
カディンチェ株式会社代表取締役。2009年慶應義塾大学より博士(政策・メディア)取得。ソニー株式会社を経て、カディンチェ株式会社を設立。カディンチェではXRに関するソフトウェア開発に従事。2018年には松竹株式会社との合弁会社であるミエクル株式会社を設立、2022年1月に代官山メタバーススタジオを開設し、バーチャルプロダクション手法を用いたコンテンツ制作に取り組む。