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NBAとのパネルディスカッションでクリーブランド・キャバリアーズはC-View導入を発表

PRONEWSでは、ボリュメトリックビデオの動向は積極的に着目すべきと考え、「ボリュメトリックビデオスタジオ-川崎」「キヤノン×日本テレビ野球中継映像」などの最新動向をどこよりも早くから紹介をしてきた。川崎スタジオ紹介は過去の掲載記事を参考にしていただくとして、本稿ではキヤノンの海外や国内のボリュメトリックビデオ動向について紹介をする。まずは海外動向から紹介をしよう。

キヤノンUSAは今年も世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」に出展。現地時間2023年1月4日にプレスカンファレンスを行い、「CESベスト・オブ・イノベーションアワード」を受賞した「AMLOS」や仮想現実プラットフォーム「Kokomo」など同社のイノベーションを紹介した。その中でも主要メディアはプレスカンファレンスに登壇したM・ナイト・シャマラン監督に注視してレポートしていたが、実はNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)とキヤノンのパネルディスカッションも大変見逃せない内容を発表していた。スポーツの試合を撮影したボリュメトリックビデオをVRヘッドセットで視聴するサービスで、コートの中から試合を体験できる新しい試みをキャバリアーズの関係者が発表したのだ。

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キヤノンUSAとNBAとパネルディスカッションを実施。キヤノンUSAからはMichael Larson氏、NBAからはSteve Hellmuth氏、キャバリアーズからはMichael Conley氏、Sports Innovation LabからはDavid Cole氏が登壇した

Inter BEEからラグビーワールドカップ、そして世界のスポーツへ

新サービスの紹介に入る前に、キヤノンのボリュメトリックビデオシステムの歩みを振り返ろう。キヤノンはボリュメトリックビデオシステムの開発を2017年9月にプレス発表し、Inter BEE 2017で映像事例を公開した。当時、Inter BEEで「キヤノンブースのボリュメトリックビデオの展示が凄い」とプレスルームで話題になったが、映像を見ていない自分は「視点が自由の映像なんて実現できるわけがない」と半信半疑で話を聞いたそのときの衝撃をはっきりと記憶している。

ボリュメトリックビデオが確信的な存在になったのは、2019年の「ラグビーワールドカップ」だ。未知の技術で静かなスタートだったが、没入感のあるハイライト映像がネットに公開されると世界中で大反響を巻き起こした。米国のスポーツ業界からも反響が寄せられ、特にNBAからの関心が高かったと聞いたことがある。

そしてついにブルックリン・ネッツ本拠地のバークレイズ・センターとクリーブランド・キャバリアーズ本拠地のロケット・モーゲージ・フィールドハウスにボリュメトリックビデオシステム設置が決定。両チームとも基本的には同じボリュメトリックビデオシステムだが、施設の仕様により、カメラの配置やシステム構成などの最適化が行われている。

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クリーブランド・キャバリアーズ(Cleveland Cavaliers)の本拠地ロケット・モーゲージ・フィールドハウス

CESのパネルディスカッションの話題に戻すと、クリーブランド・キャバリアーズのチーフインフォメーションオフィサー技術トップのMichael Conley氏は、新サービス「C-View」システムの独自展開について紹介をした。C-Viewは、ブルックリン・ネッツがボリュメトリックビデオシステムのことを「Netaverse(ネタバース)」と呼んでいるのと同じで、クリーブランド・キャバリアーズがキヤノンのボリュメトリックビデオシステム関連に付けた愛称だ。

キャバリアーズでは、2022-2023シーズン(2022年10月18日~2023年4月9日)の開始に合わせて、放送用途やソーシャルプラットフォームへの対応、会場内の大型スクリーンへの表示などのサービスの拡張準備が完了。それに合わせてキヤノンがキャバリアーズに提供するサービスの総称を「C-View」にリニューアルしたというのが今回の発表内容だ。

コートの中央に立って選手がすり抜ける臨場感を味わえる

Conley氏の紹介の中でも特に興味深かったのは、「C-View VR」の紹介だ。C-View VRは本物のキャバリアーズの過去の試合の内容を再現し、そのVR仮想空間上のセンターに立つことができる。実際に選手が近づいてきて駆け抜ける臨場感を体験可能だと紹介した。

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キャバリアーズのプレス発表によると、2022年12月16日に、ロケット・モーゲージ・フィールドハウスで、実際の試合のボリュメトリックビデオとVRヘッドセットを用いた新たな取り組みを実施。VRヘッドセットを通して、 C-Viewで撮影した12月6日に行われたキャバリアーズ対ロサンゼルス・レイカーズの試合から生成されたボリュメトリックビデオデータを視聴するVRアクティベーションを行い、VRヘッドセットを装着した来場者はキャバリアーズのダリアス・ガーランド選手が3ポイントシュートを決めたシーンに並び立ち、コートの中央から好きな視点や好きなカメラアングルで動き回り、試合の重要なシーンを視聴できたという。

家庭からVRのリアルタイム視聴も夢ではない

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Meta社(旧Oculus社)のヘッドセットを装着し、指定された範囲を自由に動き回ることができる

実はNBAでは、2015年から積極的にVR技術を活用した生中継配信に取り組んでいる。しかし、自由なカメラアングルを実現できるといってもVRカメラをコートの脇に設置して、そこから視聴者にVR体験を提供するサービスがほとんどだった。結局、コートの外から視聴することとなり、没入感や臨場感に限界があった。

C-View VRはその限界を超えた体験を実現できそうだ。キヤノンのボリュメトリックビデオ技術はコートをまるごとキャプチャしており、視聴者は空間上のどこにでも好きな位置に立つことが可能。そういう意味では迫力ある体験を会場内のファンに提供できるという大きな発表といっていいだろう。

キヤノンのスタジアム&アリーナ向けボリュメトリックビデオシステムはリアルタイムに特化した技術で、撮影から3秒後に映像生成が可能だ。今後将来的には、自宅でコートのどこからでもリアルタイムに観戦できるようになるのではないかと期待が高まるばかりだ。

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試合中にアリーナ中央の大型スクリーンに映し出される「C-View」ハイライト映像

キヤノンのボリュメトリックビデオ技術の秘密に迫る

ここからはキヤノンの国内の動向について紹介しよう。キヤノン株式会社のSV事業推進センター所長 伊達厚氏と橋本貴幸氏にキヤノンのボリュメトリックビデオ技術の強みについて話を伺った。

始めに、キヤノンはスタジアム&アリーナ向けとスタジオ向けのシステムの違いから聞いた。本特集でも紹介してきたソニーPCL、ニコンクリエイツ、NHK放送技術研究所、クレッセントはすべて屋内スタジオだ。しかしキヤノンだけはスタジオとスタジアム&アリーナの2種類を展開中だ。なぜキヤノンだけスタジアム&アリーナを展開できるのか以前から疑問だった。キヤノンのスタジオ向けとスタジアム&アリーナ向けのシステムの違いは何だろうか?

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2020年9月に「ボリュメトリックビデオスタジオ-川崎」を設立。実はキヤノンはスタジアム&アリーナ向けの撮影システムが先で、後から川崎スタジオ設立を展開している

伊達氏の回答を要約すると次のようになる。

同じシステムで基本的な考え方も一緒とのこと。スタジアム&アリーナ向けは多少のカメラの台数やボリュメトリックビデオを撮影するエリアの設置で、会場ごとの微調整がある程度だという。

ではなぜアリーナやスタジアムのような広範囲をボリュメトリックビデオ撮影できるのか?

一つの技術で広いエリアがキャプチャできるというわけではなく、様々な技術の積み重ねで対応を実現しているというのがその回答だ。ボリュメトリックビデオはカメラとレンズの性能が重要で、撮影する被写体の距離が遠くなると解像度は下がる。しかし、キヤノンはカメラメーカーであり、そのあたりの問題に対処できる強みがあるという。

また、広いエリアで撮影をするためには、約100台のカメラをコンピューターにつなぐ配線が必要となる。そのままカメラからコンピューターに約100本以上の線の結線でつなげようとするとケーブルの長さは約10kmにも及ぶという。そこでキヤノンはリレー的なケーブル接続方式を開発して配線量を減らす仕組みを構築。それが広いエリアで設置ができる一つの理由だとしている。

さらに、被写体の動きが激しいスポーツでの撮影を実現するうえで、100台以上のカメラのシャッターを切るタイミングを正確に合わせないと被写体が消えてしまったり、ボケてしまう。そこで100台以上のカメラでマイクロ秒オーダー単位に正確にシャッターが切れる仕組みを開発。この技術を実現しなければ、広いエリアで動きの激しい被写体をボリュメトリックビデオにすることはできないという。

キヤノンは公益財団法人全日本柔道連盟とともに、柔道の魅力を訴求するプロモーション動画をボリュメトリックビデオ技術で撮影・制作した

また、ラグビーのハイライトシーン撮影でトライを捉えるには、フィールド全体をボリュメトリックビデオ化する必要があった。そこでフィールド全体の映像を同じ品質で作れるカメラ配置を実現する新しい技術を開発したという。この技術はボリュメトリックビデオ-川崎にも応用されているとのことだ。

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カメラ配置の技術はボリュメトリックビデオ-川崎にも応用されているという。ボリュメトリックビデオ-川崎のカメラは一方向を向いていない。一見どこを向いているか分からないほどバラバラの方向を向いている

最後に、キヤノンのボリュメトリックビデオの強みを橋本氏にご紹介頂いた。

橋本氏:1つ目の特徴は品質です。品質はどこにも負けていません。テレビの歌番組やドラマ、CM等でもお使いいただけるクオリティをすでに実現しています。また、例えば洋服の生地感やスカートのなめらかな揺れ方をきちんと再現可能なのも特徴です。

2つ目は広さです。弊社のボリュメトリックビデオ-川崎は8m×8mの空間撮影範囲を実現しています。そのエリアの中であれば、複数人が同時に入った場合でも高画質な映像をご提供可能です。

3つ目は、スポーツでも使えているリアルタイム映像生成です。スポーツでリプレイやハイライトでお使いいただけるほかに,スタジオ側でも同様のシステムを採用しているので、リアルタイムにプレイバック映像を再生することができます。弊社のシステムならお待たせすることなく現場の撮影を進めていただくことが可能です。

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8m×8mの撮影スペースは世界最大級の広さだ

キヤノンのボリュメトリックビデオコンテンツは、プロ野球中継やM・ナイト・シャマラン監督とのコラボレーションなど驚かされることばかりだ。国内でも近いうちに、さらにパワーアップしたプロ野球中継やC-View VRのようなエンドユーザーファン向けのサービス展開がされるのではないかと予想している。キヤノンのボリュメトリックビデオへの期待は高まるばかりだ。