RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEとEOS R5 C

何も知らない編集部、VR制作に取り組む

今回の取り組みは、VR初心者がVR映像制作を行うまでの一部始終だ。PRONEWS編集部は、日々取材、記事執筆し、映像制作関連のニュースをお届けしている。

今回、キヤノン社へのVR取材が縁で、VR初心者の編集部がVR映像制作に取り組むことになった。

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はじめてVRとは何か?に触れるPRONEWS編集部員

実際にVR映像は体験したことはあっても、制作になると右も左もわからずに路頭に迷ってしまう。これは編集部の若手からベテラン部員までが一致団結し、VR映像制作に取り組むストーリーである。まずは、先達に聞こう。VR全般、そしてキヤノン製品を使ったVR撮影についてキヤノンマーケティングジャパン株式会社の矢嶋歩氏にお話を伺った。

180°VRに挑戦!基礎編[動画版]

VR(Virtual Reality)とは

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キヤノンマーケティングジャパン株式会社 矢嶋歩氏

矢嶋氏:

近年XR(Extended Reality)という言葉がありますが、その中にVR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)などが含まれます。VRは仮想現実、つまり「自分がいる場所に関係なく全く違う体験ができる」というものです。
VRと聞くと、CGとかゲームを思い浮かべられる方が多いかと思いますが、それらは自分がイベントなどに参加できるタイプです。実写のVRの場合は参加できない代わりに実際にそこにいるかのようなリアリティを感じられるというのが特徴になります。

360°VRから生まれた180°VRを知ろう

矢嶋氏:

180°VRは、規格としては360°VRの後に生まれた新しいフォーマットになります。従来の360°VRは、当然360°映るので撮影者が写り込まないようにRECを開始してから撮影者が退避しないといけないという撮影のハードルがありました。
また、ハイクオリティーの360°映像は複数台のカメラで撮影するために撮影機材、データ容量、編集機材のスペックなど、制作する上で非常に難しくなりがちです。
それに対して180°VRは前側180°しか映らないのでカメラの後ろ側で作業ができます。従来の撮影スタイルを応用できますし、撮影範囲が狭くなることで、その分機材も少なくできるメリットもあります。
また360°VRを視聴する際に、全方位が見えてもどこを見れば良いのか迷ってしまうこともあり、結果として前側を多く見る傾向にあります。そのようなことを踏まえて撮影を前側のみにすることで、撮影、編集をより手軽に行うことができるのが180°VRの特徴かと思います。

180°VRの活用範囲とは?

矢嶋氏:

比較的手軽にVR撮影ができる180°VRの活用という意味では、映像クリエイターの方々がメインになるのかなと思っています。ライブ、イベントなど、エンタメ系のコンテンツを提供する方々ですね。
また、観光や教育、教育も学校などだけではなく社員教育といったトレーニング的な分野でも使われ始めています。
さらには、保存状態などを考慮して一般公開できないような文化財の新たな記録方法としても良いのではと考えています。
そして、今後の展開の1つとして、写真、映像を趣味にしている方々などにお子さんの記録などをよりリアルに残したいという、よりパーソナルな使い方も提案していければと考えています。

キヤノン製品での180°VR撮影

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矢嶋氏:

比較的煩雑なVR撮影をこの機材を使用すれば手頃に扱えますのでご紹介します。
キヤノンのVRレンズ、RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEと、EOS R5あるいはR5 Cとの組み合わせでの撮影となります。
RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEはステレオ魚眼レンズを搭載していて、EOS R5/R5 Cに装着するだけで3D 180°VR撮影を実現します。

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RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEと、EOS R5 C

矢嶋氏:

従来は、3D 180°VR向けの撮影は視差を利用するため、カメラが2台必要でした。そしてその2台分の設定と位置調整、露出調整、映像の同期設定など様々な作業が必要でしたが、この組み合わせではカメラ1台で済むので、露出調整なども1台分で済みますし、映像データも単一センサーなので、後から合体させるという手間がありません。
そして8KセンサーとLレンズという弊社で培ってきた光学技術を活用しているため、今までのVR業界ではあまりなかったような高画質を得ることができます。
またこのレンズは逆光にも比較的強く、従来撮影しにくいと言われていた晴天の屋外でのVR撮影も、このレンズでは撮影できるので、それもメリットかと思っています。

撮影後のポストプロダクションワークフロー

    テキスト
撮影から編集までのVR180°ワークフロー※画像をクリックして拡大

矢嶋氏:

撮影すると、1つのムービーファイルに全周魚眼の映像が2個並んだような状態で映像が出てきます。こちらをEOS VR Utilityというソフトを使うことで、平面が2つ並んだような視差を利用した3Dで見られる状態に変換します。
従来は自分でVRに対応したソフト上でうまく視差が出るように重ね合わせる作業が必要でしたが、それを全部ソフトが自動でやってくれるので、面倒な作業が全く必要ありません。読み込んで変換して終わり、というのがこのソフトの最大の特徴になっています。
その後、Adobe Premiere ProやDaVinci Resolveなどの編集用ソフトでカラーグレーディング等をして作品性を持たせて視聴することもできますし、単純にそのまま撮って出しでVRゴーグルに取り込んだり、YouTubeにアップロードしての視聴も可能になっています。
また、Premiere Proのみにはなりますが、プラグインも用意しており、プラグインを適用することによって最初からPremiere Proに読み込んで編集等ができるようになっています。

3D 180°VR撮影時の注意点

矢嶋氏:

撮影時に特に気にしていただきたいのが手ぶれ補正が無効になるというところですね。EOS R5 Cはボディ内手ぶれ補正はありませんが、R5はこのVRレンズを装着すると、ファーム側で検知して手ブレ補正をオフにするようになっています。2つのレンズから入ってきた映像を1枚のセンサーで手ブレを補正するのが現状難しく、ファーム側で制御をして手ブレ補正をオフにするというような仕様になっていますのでご注意いただきたいと思います。
また、このレンズはかなり広角なので、レンズについたゴミが目立ちやすい場合があります。撮影前にブロアーで掃除などメンテナンスを心がけると良いと思います。
そして、実は実際の画角が190°あります。そのため真横からちょっと下がったぐらいだと映り込んでしまうので、撮影の際にはそこも注意していただければと思います。

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VR撮影で疑問に思うこと

VRに関する基礎知識や活用方法のレクチャー後、編集部員の頭の中に浮かぶ疑問。さらに我々は質問を矢嶋氏に投げかけた。機能以上にどう使うのが良いのかはこの時点で未知数である。

編集部:

音声、つまり録音はどうすればいいでしょうか?

矢嶋氏:

録音に関しましては、普通の動画撮影の時に用いられるような集音用マイクでも良いですが、立体音響集音マイクを使用することでライブイベントなどでは映像とリンクした音が収録可能です。音は、没入感を増すという意味では重要な要素です。VR映像の訴求として良いかなと思います。

編集部:

フォーカス合わせはオートフォーカスでしょうか、マニュアルフォーカスでしょうか?

矢嶋氏:

マニュアルフォーカスになります。弊社の製品ではオートフォーカスが主流ですが、このVRレンズに限ってはマニュアルフォーカスのみとなっています。

編集部:

ピントピークは確認できるでしょうか?

矢嶋氏:

マニュアルフォーカスピーキングの機能があるので、そちらを使っていただいて拡大表示しながら確認していただけると思います。

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編集部:

ジンバル撮影は可能でしょうか?

矢嶋氏:

まずVR映像のそもそものお話になってしますが、自分の視界とは違うテンポで視聴している映像が動くので、非常に酔いやすいという特徴があります。少しでも映像が揺れると非常に不快感を呼び起こしてしまうことがあります。
基本的には三脚で固定した撮影が前提になるのがVR映像になります。
スタビライザーですと若干揺れることが多く、不快感を伴う映像になってしまうため、あまり推奨はしていません。三脚で固定か、もしくはクレーンやドリーでゆっくり動かすような撮影手法になるかと思います。

編集部:

夜の撮影は可能でしょうか?

矢嶋氏:

夜の撮影もかなり得意になったかなと思っています。単純にセンサーサイズが大きいということと、明るいレンズですので他社に比べてもかなり明るく撮ることが可能です。

そして我々は何を撮影するのだろうか?

何をテーマに撮影するのか?議論が白熱!

編集部では、180°VRを実現するために1番の近道であるRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEと、EOS R5 Cを入手し、早速VR撮影に取り組んでみた。まずは何を撮影するのか?編集部員たちで議論した。

議論の結果、いつもの状況を切り取るのはどうだろう?ということで意見が落ち着きそうだ。矢嶋氏の言葉の通り、180°VRにおいて効果的な撮影対象は、その場を切り取ることだ。その意味ではPRONEWS編集部にとっては、「取材風景」そのままを切り取るのが良いのではないか?と意見がまとまった。早速撮影に臨むことにした。その模様は次の章でお届けしたい。