今回はグローバルシャッターであることをメインに「α9 III」に関しての使用感を紹介しよう。また、ボディと共にレンズを3本お借りしたのでレンズについても少しだけ紹介したい。
高感度のα7Sシリーズ、高解像度のRシリーズ
思えばソニーは確実にαを発展させてきた。
ハイエンドのα1、2023年10月には「α7CR」、「α7C II」と小型化しつつ性能もアップしている機種を出しているがそれに続いて今回のα9 IIIだ。
筆者は基本的に映像用途にαを使ってきた。α7Sは発売後すぐにその小型、軽量なボディを活かして世界中をロケする仕事に使い、約4万キロの旅を共にした。その後もフルサイズセンサーを映像用途に使うため、α7シリーズを機会があれば使用してきたが、S-Log2からS-Log3になり、8ビットから10ビット収録が可能になり、今回のα9 IIIは遂にグローバルシャッターになった。
グローバルシャッターとローリングシャッター
PRONEWSの読者の方なら、このシャッターの違いについてご存知の方も多いと思うが改めてここで説明しておくと、ローリングシャッターのカメラは1フレームの画素全体を取り込むのに、上の画素から下の画素まで順番に読み込んでいく。そのため1フレームの画の中で時間差が生じてしまい、高速で動く被写体が歪んでしまう。
例えば、電車の車窓の中の電柱が斜めになってしまうとか、素早いパンをすると映像が斜めになったり、手持ちの時の映像がフニャフニャしたりしてしまういわゆる「コンニャク現象」が起きる。一口にローリングシャッターとしているが、1フレーム内の時差にも程度があり、時間差がほぼ気にならないくらい速いものから、ちょっと気になる速さ、つまり遅いな、と感じるカメラもある。
筆者も新しいカメラが出ると海外サイトでローリングシャッターのスピードをチェックしたり、実機に触る機会があれば高速なパンをしてみて感覚的にローリングシャッターの具合を確認してきた。一般的に高画素であるほどローリングシャッターのスピードが遅くなりその影響が感じられる傾向にある。
これに対してグローバルシャッターは全画素同時読み出しなので1フレーム内に時間差が生じない。まずは車窓ということでテストしてみた映像を見てほしい。
24fps、シャッター1/50で撮影している。その中の一コマがこの画像だが
秋田新幹線の車窓。手前を通過する電柱がまっすぐだ。シャッター1/50なので流れてはいるがまっすぐなのがわかる。これは素晴らしい。
グローバルシャッターのカメラがこれまでなかったわけではない。ソニーでいえばPMW-F55(以下:F55)はグローバルシャッターである。筆者も仕事の撮影内容でグローバルシャッターが必要な時があり、F55を借りて撮影したことがある。しかし、F55がスーパー35サイズのセンサーなのに対して今回のα9 IIIはフルサイズセンサーだ。
フルサイズセンサーでグローバルシャッターは記憶にない。α9 IIIのサイトにも、「グローバルシャッター方式フルサイズイメージセンサー世界初※搭載」(※レンズ交換式デジタルカメラとして。2023年11月発表時点。ソニー調べ)と書いてあった。センサーが大きくなるほど、そして高画素化するほどグローバルシャッターにするのは難しいのだろう。
7人組メンズグループ「ROYAL NOVICE」ライブ撮影
筆者がこれまでにローリングシャッターで気になったことの中で「フラッシュバンド」というものがある。例えば記者会見のシーンで、多くのフラッシュがたかれている時などに発生しやすい。
前述した1フレーム内の時差の関係で、フレーム内に横に帯のような明るい部分ができてしまう現象である。フレーム全体が明るくなったり暗くなったりするのが自然な映像なのだが、特にデジタルセンサーでは帯の部分がくっきりはっきり出てしまい目立つことがある。
そこで何かフラッシュバンドが出そうな環境、光の明滅が激しい環境で撮影したいと考えた。何かいい案はないだろうか?
2023年「100秒の拳王」(千村利光監督)という映画を撮影したのだがその時に知り合ったSTREETLABOさんにお願いして、「ROYAL NOVICE」という7人組メンズグループのライブを撮影させてもらうことができた。ライブなら曲によってはストロボライトを使うかもしれないし、いろいろな光の変化もあるから今回のテストには最適だ。
ROYAL NOVICEのライブの中でも、この「Speak out!」という曲が今回の目的にちょうどマッチした。光の明滅が激しく、ストロボライトも結構使われている。
本来ならマルチカメラで撮影してもう少しいろいろなアングルの画を入れたいところだが、α9 IIIのカメラテストということで1台のみの映像になっている。ごまかしが効かない分オートフォーカスや手振れ補正を含めた総合的な感触は伝わるのではないだろうか?
撮影情報としては、
- ライブシーン:レンズ FE 24-70mm F2.8 GM II
- フォーカス:基本オートフォーカスをメインに気になったらマニュアル
- 手振れ補正:撮りながら手振れ補正を入れたり外したりしている
- グレーディング:S-Log3で撮影、あまりグレーディングで作り込むとカメラの性能を把握しづらくなると考え、ソニー純正LUT(SLog3SGamut3.CineToLC-709TypeA.cube)をあてている
ライブシーンに関しては少しだけ暗部を持ち上げているが、さほど印象は変わらない程度にした。グローバルシャッターに関してはもうテストは必要ないだろう。被写体が歪むことがないという安心感。ローリングシャッターを気にする必要がないという解放感は非常に大きい。
その他α9 IIIの感想
手振れ補正
ダイナミックアクティブ補正が非常に強力だ。詳しくは最初のテスト映像の後半を見てほしい。画角は狭くなるが、歩きながらでも結構いい感じに補正してくれる。また手振れ補正はREC中にオンオフが可能なので、引きが足りなければその時だけオフにして画角を優先するという使い方もできる。
ファインダー(EVF)
有機EL、約944万画素のEVFは非常に見やすく魅力的だ。常にこのファインダーを覗きながら撮影したくなるが、角度をつけることができないためアイレベルで撮影する時にしか使用できない。
いつかファインダーの角度を調整できるαが出てくれないものか。もしくはHDMI信号を入力できるEVFを単体で発売してくれないだろうか?
FX3やFX30というCinema Lineのカメラにはファインダーがないため、カメラ購入時に「ファインダーを取るか放熱対策を取るか」が、αにするかFXにするかの決め手になる。できればファインダーのあるFXを出してほしい。
レンズ
今回借りたレンズについて。
レンズはほぼFE 24-70mm F2.8 GM IIを使用した。また、前から気になっていたFE 70-200mm F4 Macro G OSS IIをお借りできたため、アップのショットなどFE 70-200mm F4 Macro G OSS IIを使った画もテスト映像に入れた。MODを気にせず使える望遠レンズは非常に使い勝手が良い。価格的にもFE 70-200mm F2.8 GM OSS IIよりお安いので、マクロ系の撮影を考慮すると欲しいレンズだ。
FE 50mm F1.2 GMもお借りしたのでいくつかショットを撮ったが、編集したテスト映像にはうまく入らなかった。ドキュメンター的な撮影にはズームが必要で、単玉はもっと作り込むような撮影で使いたいというのが本音である。
テストできなかったこと
熱についてはライブで4K24fpsで1時間半前後ほぼ回しっぱなしでも問題なかった。特に何か警告が出ることもなく、今回のテスト期間全てにおいて全く問題なし。
真夏の暑さの中ではどうなのか?そういう環境を作ることができなかったので、今回は過酷な条件下ではどうなのかは未確認。ダイナミックレンジについても、厳密に調べてみたい気持ちはあったが時間がなかった。公式には特に発表されていないように思われる。
総合的な感想
フルサイズセンサーでグローバルシャッターというα9 IIIは、完成度が非常に高い。ローリングシャッター歪みを全く気にする必要がなくなる安心感、解放感は大きい。動く被写体、スポーツや車の走りなどの撮影に適している。見やすいEVFや強力な手振れ補正、クロップしない4K120fpsも魅力がある。
反面、高感度側はローリングシャッターのカメラに優位性がある場合もある。どういう撮影のためにカメラを使うか?それによってカメラを選択していくのがベストだ。
筆者も最近はテレビや配信の撮影の仕事もしているのだが、フルサイズセンサーを使う撮影がどんどん増えている。FX6、FX3、α7S IIIといったカメラを使うことが多い。
自分としてはDP的な意味で撮影と名乗っているので、照明、グレーディングまで含めた映像のルックを作るという事をメインの仕事にしているが、カメラオペレーターとしての仕事も増えてきた。その中で今、フルサイズセンサーのカメラをいかにENGの肩のせカメラのように、自分の目のようにカメラをオペレートできるか、ということを要求される時代になったと感じる。
ワンマンオペレートで、フォーカス、絞り、ズームを自在に操る技術が必要なのだ。αシリーズはボタンやダイヤルをカスタマイズできるので、いかに自分が使いやすく設定するかが鍵であり、日々使うカメラが変わっていく中で、共通の設定を維持していくこと、これが必要だなと改めて思った。
α9 IIIをお借りしている間も、FX6やFX3を使う仕事を同時にしていたため、時間があればボタンやダイヤルの設定を追い込んでいた。そして自分のα9 IIIの設定がほぼ完成した時に返却のタイミングになってしまった。返却するのが少し寂しくなるような、割と濃密な時間を過ごしたと思う。また今度使ってみたい。
倉田良太
フィルム撮影の知識、経験をデジタルシネマに生かしRED ONE発売当初からRED ONEを使用してきた中の一人。EOS C300の発売に合わせて作られた「Canon Log Guide book」のDP&Photoを担当、キヤノンCINEMA EOS SYSTEMにも精通している。撮影、照明、グレーディングと総合的に映像作成に関わる撮影監督として活動している。近作「お帰りなさい」(2022)、「GONZA」『魔法使いの見習い」(2023)「100秒の拳王」が今年公開予定。近年はアプリケーション制作にも力を入れていて、AR画角確認アプリ「AR Finder」は「ゴジラ -1.0」の撮影現場で採用されている。