デビュー曲「夜に駆ける」でいきなり日本初のビリオンヒットを達成し、2023年4月リリースの「アイドル」は全世界的大ヒットを記録で話題の音楽ユニットYOASOBI。武道館公演やアリーナ公演の電光石火ツアー、自身初のアジア・ツアーなどの単独公演は毎回大盛況で、回数を重ねていくごとに演出もパワーアップ中だ。そして2024年1月より全国6カ所で開催したYOASOBI ZEPP TOUR 2024 "POP OUT" では、リアルに飛び出す世界を実現したImmersive LED Systemを導入し、アジアにおける先駆者としてハイクオリティな3Dライブを実現した。
今回導入した没入型体験を実現したImmersive LED Systemの効果や今後の可能性について、ヒビノの取締役 常務執行役員、芋川淳一氏とソニー・ミュージックエンタテインメントのコンサートプロデューサー、永里道人志氏にインタビューを敢行した。
絵本から飛び出す世界観をImmersive LED Systemで実現
小林氏:ZEPP TOURでImmersive LED System導入にいたった経緯をお聞かせください。
永里氏:
今回の「YOASOBI ZEPP TOUR」は、絵本から飛び出すを意味する「POP OUT」をタイトルとしました。そして楽曲から物語を飛び出すステージをZeppという小規模なライブ会場で体現するのがテーマでした。そんな時に、ヒビノさんから「Immersive LED Systemのサービスが始まる」とのご案内をいただき、すぐに見に行きました。その場で「これでいきましょう」と話をさせて頂きました。
小林氏:「YOASOBIのツアーで採用決定」と聞いて、どのようなお気持ちでしたか?
芋川氏:
私たちも業界を長く続けていまして縁というものを大切にしていますが、今回はタイミングも最適でした。Liminal SpaceのImmersive LED Systemを常設した「Hibino Immersive Entertainment Lab」を開設し、2023年11月15日、16日に弊社ラボのほうで新しい研究開発拠点のお披露目会(メディアプレビュー)を行いました。初日の15日に、ソニーミュージックの永里さん、関係者の皆さんにご来場いただいてプレゼンをさせていただきました。ちょうどタイミングが合致したという感じですね。
後にYOASOBIのメンバーの方々にもラボに来ていただきましてImmersive LED SystemとHibino Immersive Entertainment Labをご紹介いたしました。皆さんに気に入っていただけてトントン拍子で進み、素晴らしい機会をいただきました。
しかしその当時は、レンタル向けの在庫はまだ納品されていない状態でしたので、ラボのデモスクリーンを提供とさせていただきました。
永里氏:
「すみません。ここにあるLED全部持っていっていいですか?」という感じで、使わせていただきました(笑)
小林氏:昨年11月にImmersive LED System導入を決定してから、Zepp Hanedaの初回公演まで約2ヶ月しかありませんでした。間に合うか、不安になりませんでしたか?
永里氏:
結構焦りました。ギリギリでクリエイターには苦労をかけたところはありましたけれども、判断は早かったです。
リアルな3D演出とYOASOBIの生の演奏が加わることで今までにない体験を実現
小林氏:お客さんの反応はいかがでしたか?
永里氏:
やはり初日に大変大きな反響をいただきました。ツアー入場時にPOP OUTグラスが配られて、「これ何がはじまるんだろう」といった感じで、お客さんはびっくりした様子でした。ライブ中に専用の3Dメガネをお客さんに着用していただく行為自体も、これまでのライブでは、ほぼなかったと思います。リアルな3D演出とYOASOBIの生の演奏が加わることで、今までにない体験を実現できたのではないかと思います。
小林氏:ヒビノさんは、お客さんの反応をどのように感じましたか?
芋川氏:
非常に反響を感じています。お客さんが心の底から感動しているのを肌で感じることができました。そういう意味では、3D導入を告知VTRでアナウンスしていただいたことは、非常に効果的だったと思いました。お客さんも「来るぞ、来るぞっ」と構えているところに新曲の「Biri-Biri」で初めて3Dのコンテンツが始まるという構成も非常によかったと思っています。
あと、3Dメガネといっても、バッテリーは搭載していません。パッシブ型といわれるものを採用しており、見た目も普通のメガネです。
永里氏:
3Dグラスも今までになかったおしゃれな感じでよかったです。3Dメガネというと、昔は赤と青の紙のフレームのメガネみたいな印象でしたが、それとはまったく別物です。
今回お客さんにお配りするのは黒なんですけれども、購入したいという人向けにZeppとYOASOBIのコラボモデル「YOASOBI×Zepp "POP OUT"グラス」を販売いたしました。
小林氏:立体映像で意識された点というのはありますか?
永里氏:
3D演出のライブ中盤の5曲に関しては、ストーリー性を含めてすべて繋げていくようにしました。「Biri-Biri」から始まって、どのようなストーリーを進行していくかをコンテンツ含めてシンクロできるように作りました。
また、メガネを配るタイミングも悩みました。アンコール中に全員に配ることは可能なのか?という検証もしました。結果、この3Dに頼りすぎないことやライブ感を失ってはだめということもあり、ライブ中盤に挟むこととなりました。
芋川氏:
永里さんの話にもつながりますけれども当初、メンバーさん、マネージメントの方、コンサートプロデューサーの永里さんとお話をされたときに、皆さんおっしゃったのは、映像だけがよくてもしかたがない。やはりメンバーもいて、それがきちんと3Dと背景がシンクロするような象徴的なシーンを作りたいと考え、3Dパートの最初の2曲「Biri-Biri」と「怪物」は3Dの効果を最大限に発揮できる経験を持つLiminal Spaceのアニメーターにお願いしました。
「Biri-Biri」で象徴的なのは、メンバーと3Dがきちんと同期する瞬間です。バーチャルセットの中で、メンバーが演奏をしていることを伝えたかったですが、それがきちんと表現できたと思っています。「怪物」は、音楽と3Dのコンテンツが同期して、リズムとビートに合わせて3Dが常に動き続けます。
「もしも命が描けたら」では、歌詞が飛び出す演出を行いました。非常にシンプルですけれどもお客さんの心を掴むことができたのではないかと思います。
「優しい彗星」の中では、ikuraさんに、スクリーンの中段まで上がっていただきまして、星空が包みこむようなシーンを作り込むことができました。お客さんの印象に強く残っているのではと思っています。
そこで、最後に締めるのが「ツバメ」です。客席上にツバメが実際に飛び回るようなシーンを作ることができました。こちらも印象に残っていると思います。
小林氏:本編自体は、導入は通常のライブ。中盤はLED上に現れる本が開いて3D空間の物語が始まる、3Dパート終了後、ドライブ感あるヒット曲の応酬で盛り上げるという観客の心を掴む三部構成でした。Immersive LED Systemは3Dのインパクトも凄いですが2Dにも対応できる。その点も優れていると思いました。
芋川氏:
そういった意味では、本当に短い時間の中で、迅速に判断をいただいたプロデューサーの永里さん、舞台関係者にも大変感謝しております。先程、永里さんから「ライブ感」という言葉がでましたけれども、「怪物」では森が登場する象徴的なシーンがありまして、その奥行きを出すために特殊効果でフォグを入れて、シーンが奥行きを感じさせることもできました。
永里氏:
Immersive LED Systemは、飛び出すことが注目されていますけれども、効果的に必見なのは奥行きです。奥行きをあそこまで出せると、Zeppの舞台ではないようにも感じました。レーザーなどのリアルなものとの組み合わせということで、より没入感が出せると思います。
小林氏:この効果を出すのにZeppというライブホールの大きさが一番最適のように感じました。
永里氏:
それは今回の導入の動機にもなっています。いろいろ見させてもらった中で、Zeppの舞台と客席の幅は一緒なので、視野角は効果的に得られるのではと思いました。
芋川氏:
本当に立体感のあるものを作り出せたなと感じています。メンバーの立ち位置なども含めて、3Dのコンテンツは、弊社のHibino Immersive Entertainment Labで同じLEDのスクリーンの形状に組んで実際に映像を出して、立ち位置に人が実際に立って、いろいろ調整をしながら作り込ませていただきました。そういった背景もあって、現場ではスムーズに実現できたと思います。
Immersive LED Systemでアーティストが表現したい世界観をサポート
小林氏:ソニーミュージックさんには数多くのアーティストの方がいらっしゃいますが、今後、Immersive LED Systemの採用もあるのではないかと思います。その点はいかがでしょうか?
永里氏:
問い合わせめちゃくちゃ多いですよ。ただ、難しいのは、社内でプレゼンをしても魅力は伝わらない。それが一番むずかしいところです。実際に見て体験をしてもらうのが一番わかりやすいかなと思います。なかなか魅力が伝えづらいのですが、今後、いろいろなことで使えるとは思います。
芋川氏:
やはり私たちの仕事は、基本的に観客に対して楽曲、アーティストの世界観、これを没入させるという一大使命があります。そういう没入という意味では、このシステムというのは非常に向いていると思います。今後アーティストさんの見せ方、伝え方、そういうものをきちんとサポートできなければと思っています。
そういった意味では、バーチャルプロダクションを弊社も取り組んでいますけれども、それと同じキーワードで、Immersive LED Systemでもメンバーさんをいたるところにつれていくことができます。例えば、飛行機の滑走路や、アメリカの荒野など壮大な奥行きがあるようなスケール感。このディスプレイシステムでは、そういった表現が可能です。よりアーティストさんが表現したい世界観をサポートできるというふうに思っています。
小林氏:最後にImmersive LED Systemの可能性をお聞かせください。
永里氏:
Zeppという空間の中で普通にライブをすることですらプレミアムなものを、さらにImmersive LED Systemを導入したことで、さらにリッチな演出を実現できました。体験として、非常に素晴らしいものが残ったなと思います。そういう意味で、本当に導入してよかったと思っています。
芋川氏:
そうですね。私たちは縁があって、最初に日本のツアーで使っていただきました。今後ももちろん、美術セットがImmersive LED System上にエクステンションすることで巨大セットがリズムやビートに合わせて動くようなスケール感を大きくしてバージョンアップしていきたいと思います。
そういう意味では、現在Liminal Spaceと共に取り組んでいることがあります。今はコンピューターグラフィックスが中心になっていますけれども、今後、ひょっとしたら実写映像の分野にもこのテクノロジーを利用していきたいと考えています。ソニーミュージックさんはいろいろなところでライブビューイングを行っていますが、今後、このテクノロジーを利用して、3Dで撮影をしてそれをパブリックビューイングの会場にいる方に3Dで提供することができたらと考えています。劇場で見ている方にもっと立体的で臨場感を得る映像を届けられるのかもしれません。そのために私たちは、また日々努力をしていきます。乞うご期待いただきたいと思います。
実現できれば、ライブビューイングの会場の皆様にもさらなる臨場感と没入感のある映像が提供できると思っています。知見や経験などをインプットしながら、アーティストさんとともに成長させていただければと思っています。