
CP+2025で注目を集めた「Immersive LED System×実写3D」

CP+2025でひときわ異彩を放っていたのは、キヤノンブースの左側に陣取る10.8m×4.8mの巨大LEDディスプレイだろう。
展示会などでの巨大LEDディスプレイは今更目新しくもないが、このLEDは偏光レンズを付けた3Dグラスを付けることによって立体に見えるという代物だ。今まで「YOASOBI ZEPP TOUR 2024 “POP OUT”」や「STAR ISLAND」などのイベントに使われた際にもレポートしてきたが、今回はEOS R5C にRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE / EOS R7に RF-S7.8mm F4 STM DUALを使用して撮影された実写3D映像を公開していた。
3D映画などで映像が立体に見えること自体に驚きは少ないだろうが、そういった場合はプロジェクターを使用しているという条件から暗い部屋に限定されていた。それが高輝度のLEDになることによって明るい展示会場での上映や、その場にいる出演者と共存出来るなど使用用途が格段に広がった。
この取り組みはヒビノが手掛けるImmersive LED Systemと、IMAGICA EEXの実写VR制作ノウハウ、そしてキヤノンのEOS VRシステムによる3D撮影が融合したものだ。今回はヒビノの東田氏とIMAGICA EEXの鈴木氏、キヤノンの薄井氏に取材する機会をいただいたので、今回の展示の狙いや制作のポイント、そして今後の展開を探ってみたい。

Immersive LED Systemの採用経緯
――今回、キヤノンと協業してImmersive LED Systemを活用するに至った経緯を教えてください。
東田氏(ヒビノ): もともとIMAGICA EEXとは、Immersive LED Systemを活用した新たな演出手法を研究開発するため、連携していました。そうした中でCP+の演出に関するご相談をいただき、キヤノンが持つEOS VRシステムと弊社のLED技術、そしてIMAGICA EEXの実写映像制作力を掛け合わせて何ができるか一緒に試してみよう、ということで今回のプロジェクトにつながりました。
――CP+2025でImmersive LED Systemを導入した経緯や決め手があれば教えてください。
薄井氏(キヤノン): キヤノンは、EOS VR SYSTEMという実写3D映像を簡単に制作できるレンズ交換式カメラシステムを展開しています。これまで、ヘッドマウントディスプレイでの視聴を前提としてきましたが、一般の方にとって視聴のハードルが高いことが課題でした。
また、イベント会場では、多くの方が同時に実写3D映像を体験することが難しく、周囲からも何を見ているのか伝わりにくいという問題がありました。
しかし、Immersive LED Systemを採用することで、大人数が同時に立体映像を体験できる環境を提供し、展示会のような大規模な場面でも3D映像の没入感を多くの方と共有できます。これにより、新しい映像体験をより多くの方に届けるとともに、活用シーンのさらなる広がりを来場者に感じていただける点が採用の決め手となりました。

――今回の展示に使われたLEDシステムの仕様や特徴を改めて教えてください。
東田氏(ヒビノ): スクリーンは10.8m×4.8mで、ピッチは3.75mmです。解像度は2880×1280ピクセルになります。暗い部屋が必須になるプロジェクター方式の3Dシアターと違って、高輝度LEDであれば明るい展示会場でもくっきりと立体映像を体験していただけます。


実写映像を活かす制作・撮影のポイント
Immersive LED Systemの特性を最大限に活かした実写映像コンテンツ制作に挑戦したIMAGICA EEX・鈴木氏に話を聞いた。
――Immersive LED Systemで作品を上映することに、どのようなメリットを感じましたか?
鈴木氏(IMAGICA EEX):
Immersive LED Systemの最大の特長は、高輝度であることです。従来の3D映像はプロジェクター方式が主流で、上映には暗い環境が必須でした。しかし、Immersive LED Systemでは明るい展示会場でも鮮明な3D映像を再現できるため、CP+のような明るい環境でも臨場感のある立体映像を実現できました。
また、リアル空間と仮想空間がシームレスに融合する点が魅力です。例えば、LEDの周囲に3DCGで作成したオブジェクトと同じデザインを配置することで、映像と実際の空間の境界を曖昧にし、より強い没入感を提供できます。今回の展示でも来場者から「LEDと映像が一体化して見えるのがすごい」という声が多く寄せられました。
さらに、従来の3Dシアターは閉鎖された空間で視聴しなければならないのに対し、Immersive LED Systemは開かれたエリアで大人数が一斉に3D映像を体験できるのも大きな強みです。これにより、展示会やイベント、ライブ会場など、さまざまな場面での活用が期待されます。

――Immersive LED Systemと実写3D映像を組み合わせるうえで、特に気を付けたことは何でしょうか。
鈴木氏(IMAGICA EEX): 実写3Dでは、視差やカメラワークによって映像の見え方が大きく変わります。特に大型ディスプレイでは、視点が固定されるため、カメラの動きには注意が必要です。今回は、シャボン玉や炎といった立体的なモチーフを用い、没入感を高める演出を心がけました。
一方で、通常のVRゴーグルとImmersive LED Systemでの視聴体験の違いについては、ヒビノ 東田氏はこう語る。
東田氏(ヒビノ): 大きな違いは、プレビューの方法です。VRでは視差があっても問題になりにくいですが、Immersive LED Systemでの上映では視差が強すぎると目が追いつかず、不自然に感じることがあります。VRゴーグルに比べ、Immersive LED Systemでは、制作段階での視差調整やイメージ合焦点をどこに設定するかなども重要になってきます。

――家族を題材にした狙いを教えてください。
鈴木氏(IMAGICA EEX): 実写3Dの面白さは、"空間と時間を丸ごと切り取る"という発想にあると思います。身近なテーマとして家族シーンを撮影することで、CP+に来場される一般の方にも「自分でもこんな映像を撮りたい」と感じていただけるようにしました。大画面LEDで観ると、まるでその場にいるような臨場感を味わえるのが強みです。

CP+での展示と来場者の反響
キヤノン・薄井氏に、4日間の運用を終えた手応えや、来場者・業界関係者の反響について聞いた。
――展示会期中の反応はいかがでしたか?
薄井氏(キヤノン): 来場者や関係者からは非常に好反応をいただきました。映像の世界に入り込むような新しい体験を提供し、3D化による映像表現の広がりを感じていただけたと思います。視聴者の心を動かす映像体験が可能になる、魅力的なデバイスです。
EOS VR SYSTEMは、一般の方でも実写3D映像を制作できる商品です。こうした表示・視聴デバイスが普及することで、実写3D映像を制作してみたいと考える撮影者のインスピレーションにつながることを期待しています。
今回は初めての試みであり、技術検証も兼ねていました。その結果、視聴距離によって立体感に差が出ることや、シーンや撮り方によって映像に違和感が生じる課題が明らかになりました。キヤノンとしても、こうした視聴デバイスに対応し、表現者の意図に応える撮影システムをさらに充実させていきたいと考えています。

今後の展開
ヘッドマウントディスプレイを使わず多人数が同時に立体映像を体験できるImmersive LED Systemは、ライブ会場やスポーツ中継、常設施設などでの応用が期待されている。キヤノンやヒビノの展望はどうか。
――Immersive LED System×EOS VRシステムを、今後どのような場面で展開が期待できると感じましたか?
薄井氏(キヤノン): EOS VR SYSTEMを使った3D映像制作は、高画質なImmersive映像をはるかに低コストで、またリアリティの高い体験として届けることができます。 将来的にはリアルタイムで3D映像を投影するシステムを展開したいと考えておりますので、エンターテイメントやスポーツシーンなどの広い会場においても活用は見込めると思います。
――ヒビノとしては、どのような展開を見据えていますか?
東田氏(ヒビノ): コンサートや展示会といった短期イベントはもちろん、長期上映する常設施設などでも十分に活用できると考えています。Immersive LED Systemをメインとしたエンタメ空間を作っておけば、観客が入れ替わって繰り返し体験できますからね。いろいろな企業やコンテンツホルダーと連携し、運用コストとのバランスも踏まえながら、新たなエンタテインメントを模索していきたいです。

まとめ
Immersive LED Systemと実写3D映像の融合は、従来の3D演出とは異なるインパクトをもたらしている。EOS VRシステムが撮影や編集のハードルを下げたことで、より手軽に高解像度の3Dコンテンツを制作できるようになった点も大きい。技術的な課題もあるが、それをクリアすれば常設施設や大規模ライブ、スポーツなど幅広いシーンで新しい映像体験が定着していくだろう。
実写が持つ本物の奥行きや臨場感を大画面で共有するImmersive LED Systemの可能性はまだ始まったばかりだ。業界関係者や来場者の反響を見る限り、今後の発展がますます楽しみである。