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Hibino Immersive Entertainment Lab(ヒビノイマーシブエンターテインメントラボ)が2023年11月15日にヒビノ日の出ビル3階でお披露目されたときは、確か「2024年春からこの『GhostTile』を使った『Immersive LED System』のレンタルを開始します」という発表だった。

その時の様子がこちらの映像になっている。
イベント時の映像をまとめたプロモーション映像は2分ほどのところからスタートする。

そのImmersive LED Systemが、早くも2024年1月25日からスタートしたYOASOBI ZEPP TOUR 2024"POP OUT"で採用されたという。あまりの急な展開に最初の東京公演を見逃し、鑑賞する機会を見失っていたが、最終日のZepp Nagoyaに駆けつけることができた。

アリーナツアーでさえ即完売のYOASOBIが、2,000人規模のZeppでのツアーとなるとプラチナチケットとなることは必至だ。そして、その会場の大きさはImmersive LED Systemにとって最大限の魅力を発揮できるサイズだったことに気付かされた。

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ライブの内容に入る前に、まず、その「Immersive LED Systemとは何なのか?」ということについて説明しよう。

2023年11月15日のお披露目時にも動画収録と編集を担当させてもらったが、その場で目にする立体感というか、音と映像の臨場感は、どうしても2Dの映像で表現することは難しい。仕上げで合成などを使って疑似的に表現しているが、言葉や写真、映像では、その場で体験する驚きには及びもつかないのがとても歯痒い。

Liminal Space社が開発したImmersive LED Systemは、偏光フィルターを使った3Dグラスをかけて鑑賞するパッシブ方式の立体映像と立体音響から構成されている。3Dグラスを付けて鑑賞するということでいえばIMAX3Dや4DXなどで観たことのある方も多いと思う。そう考えると目新しいものでもないように感じるが、プロジェクターでの映写からLEDの発光にかわることで革命ともいえる変化をもたらした。

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映写の場合はスクリーンを使う上でどうしても真っ暗な状態でないと効果が出ない。テーマパークなどでも立体映像のシーンと演者が登場するライブシーンは、別々のシチュエーションに分けなければいけなかった。それがLEDになることで、立体映像とライブパフォーマンスの共存が可能になり、派手な照明演出も可能になるのである。

今回はヒビノ日の出ビル3階につくられたHibino Immersive Entertainment labにデモンストレーション用に設置されたものを、急遽ツアーに持ち出したと聞いている。会場ごとに設置撤収を行い、最終公演の名古屋では、このGhostTile192枚の設置を2時間という短時間でできるようになったというのはライブイベントに慣れているヒビノならではだろう。

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横14.4m×高さ4.8m、2840×1280pixelのLEDディスプレイは、少し湾曲して配置され、Zeppのステージ両端いっぱいに広がる大きさだ。それ以外はシンプルなバンドセットのみのステージになる。

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GhostTileは2D映像にももちろん対応する。2Dから3Dへのシームレスな移行が今回のライブにも上手く生かされている。この大きさともなると2台のプロセッサーに割り当てて送出される。映像のコントロールはDisguiseを使用している。

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今回のツアーではPOP OUTグラスと名付けられた偏光フィルターの3Dグラスを使用している。それを付けないと3D映像は2重になって見える部分もある。そのPOP OUTグラスは、スタッフにより毎回清掃され、ライブ会場前にはひとつひとつちゃんと機能するかどうかチェックされ、来場者全員に渡される。

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LEDのテスト発光時に左眼側が赤になればOKだ。YOASOBIのツアーグッズとなる白縁のものと貸し出しになる黒縁のもの、子供用サイズのもの、眼鏡の上からクリップで付けられるものの4種類が用意された。回収率98%以上という数字はYOASOBIファンの紳士度の証だろう。

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さて、本命のライブ本編の話に移ろう。

最初の曲が始まると、レーザー光線舞う中ゴンドラの高い位置からikuraが登場。ライブハウスならではの一体感で会場が埋め尽くされる。この段階では照明用のトラスは低い位置に設置され、大型LEDも下部半分だけを使用している。電飾のようなグラフィックでスクリーンを意識させない演出だ。

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前半戦はLEDも照明的な使い方が多くシンプルなステージに立体感を出していく程度の演出に抑えている。照明的な演出ができるのも輝度の高いLEDならではだろう。

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中盤に差し掛かり、ツアービジュアルのキャラクター2匹が照明のトラスを押し上げていく。

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そして横幅14.4m×高さ4.8mの巨大ディスプレイの全貌が現れる。

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「POP OUTグラスをとりだしてください」というアナウンスが表示されると本が宙を舞い、そのページがめくられ3Dの世界へといざなわれる。

中盤最初の曲「Biri-Biri」が始まるとZeppのステージが無限に奥に広がっていくような感覚に襲われる。そして観客の目前へとボクセルで表現された世界が広がっていく。

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アーティストと観客が一体となって物語の世界に入り込んでいく感覚だ。

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目前に迫るうねる物体を触ろうと宙に手を伸ばす観客。
次の曲「怪物」では闇に潜む“怪物“が牙と目だけをぎらつかせて観客の目前に迫ってくる。

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照明の光芒の中を縫うように迫ってくる“怪物“は圧巻。こういった照明と3D映像が共演できるのもLEDの強みだろう。

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「もしも命が描けたら」ではZeppの会場全体に言葉が広がっていく。リリックの強さを空間全体で感じることができる演出になっていた。

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そして「優しい彗星」ではikuraを包み込むように光る星々とレーザー光線が美しいハーモニーを奏でる。

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そして、POP OUTグラス装着パート、ラストの曲「ツバメ」では、ツバメが観客の頭上を縦横無尽に舞いステージ奥に消えていき本は閉じられる。
という壮大な5曲の物語へと昇華していた。

その後、ビッグヒット曲「アイドル」で後半戦の口火を切り、前半とは打って変わって2Dの巨大LEDを最大限に生かした映像的なステージ演出でライブを加速させていく。

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これだけ密度のあるライブステージはなかなか体験したことがない。Zeppというハコの大きさのおかげで、すべての観客がイマーシブ体験をスイートスポットで味わうことができた。

全ての偶然が重なって奇跡のような空間を生み出すことに成功していた。YOASOBIという国民的なアーティストがZeppという2,000人規模の会場でツアーをするということも、そのタイミングでImmersive LED Systemという革命的な技術が日本に入って来たことも、それが"POP OUT"というツアー名だったことも含めて稀有なライブ体験を構成していた。

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Immersive LED Systemは最初にして最高の使用例に巡り合えたように感じる。ただ、今後より一層今まで体験したことのないよう新たなエンターテインメントの提供の一端を担う存在になってくるのではないだろうか。

このように記事と写真で伝えようとしても、なかなかその場で体験した感動を伝えきることはできないのがもどかしい。

是非、何かの機会に体験してほしい。未体験の世界がそこに広がっているのだから。

WRITER PROFILE

小林基己

小林基己

CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、建築と撮影の会社Chapter9のCTOとしても活動。