近年、PTZカメラの技術が急速に発展しており、特にAI技術を活用した自動追尾やシーン認識が注目されている。さらに、PTZコントロールソフトウェアの充実により、カメラの遠隔操作や複数台の管理が可能となり、操作性が一層向上している。
今年ついに、新たにソニーからフラグシップモデルのPTZカメラ「BRC-AM7」が発売される。国内大手メーカー「キヤノン」「パナソニック」と合わせてフラグシップ機のラインナップが出そろった。今回はこの3大メーカーのフラグシップ機を使用してみたので、レポートする。
本体外観比較
パナソニック「AW-UE160」、ソニー「BRC-AM7」、キヤノン「CR-N700」の3機種を並べてみた。
3機種並べてみてまず感じたのが、ソニー「BRC-AM7」のコンパクトさである。
4kgを切る約3.5kgと非常に軽量で、耐荷重が大きくない三脚でも設置しやすいモデルとなっている。
AW-UE160は約4.6kg、CR-N700は約4.4kgの重量を持ち、BRC-AM7は約3.5kgと軽量である。各モデルともに堅牢な筐体設計が施されており、現場での使用に適した作りとなっている。
また、タリーランプの位置も少し違いがあり、BRC-AM7のみ両サイド、AW-UE160とCR-N700は前後とメーカーによって異なる場所に配置されている。
入出力端子
各モデルの背面にはSDIやHDMI、XLR端子をはじめ、コントロールや電源供給のためのLAN端子など多彩な端子が備わっている。
AW-UE160はUSB3.0 HOST端子を備え、USBテザリングに対応したモバイルルーターを接続してのインターネット通信が可能な点だ。出先にAW-UE160と5Gのモバイルルーターのみ設置してSRT等のストリーミングが可能。
BRC-AM7は背面下部に、CFexpress TypeAとSDXCメモリーカードに対応したデュアルスロットを搭載しており、4K 120pまでのハイフレームレートでの収録が可能。ただし、PoE++給電の場合は、内部収録機能が使用できない点は注意が必要だ。
CR-N700は背面の12G-SDI出力端子と3G-SDI端子で、2系統の映像を同時出力することが可能だ。片方は映像全体、もう片方は映像の一部をクロップして出力することができ、1台で2台分の映像演出が出来る。SDカードスロットが有るが、今後の機能拡張のためなようで、現状は利用できない。
ストリーミングプロトコルについて
近年ではNDI®をはじめ、SRT、FreeDなど数多くの、IPプロトコルが登場しており、今回紹介のフラグシップ機にも数多く採用されている。
AW-UE160は、RTMPをはじめ、SRT、FreeDに対応している。
特に他機種と異なる点は、NDI®認証を取得しており、NDI High BandwidthとNDI HX2に対応している点である。NDI High BandwidthはH.264やH.265ベースのNDI HXフォーマットと異なり、低圧縮で高画質なストリーミングが可能だ。さらに、NDI HX2にもアップグレードライセンス不要で対応しているため、用途に応じて規格を柔軟に選択できるのが大きな利点である。
放送用途で広がりつつあるIPストリーミングプロトコル、SMPTE ST 2110にリモートカメラで唯一対応している。KAIROSをはじめとした放送用スイッチャーとの接続が想定される。
BRC-AM7はRTMP、SRT、FreeD、NDI HXに対応している。NDI HXライセンスを買わずとも利用できる点はコスト面でありがたい。
次にCR-N700は、他2機種同様にRTMP、SRT、FreeD、NDI HXに対応している。加えて、キヤノン共通IPプロトコル「XCプロトコル」に対応。これにより、XF605やEOS C500 Mark IIなどのキヤノン製カメラを混ぜての一括操作が可能だ。
映像の質感と暗部撮影性能をテスト
まずは、フルオート設定で明るい日中の屋外を撮影してみようと思う。屋内から撮影しているので映り込みが多少あるがご容赦いただきたい。
CR-N700は、フルオート設定においても白飛びを抑えた安定した撮影が可能で、明るい環境下でも自然な色合いが保たれている。AW-UE160とBRC-AM7については、明るい環境でNDフィルターを使用することで、白飛びが抑えられ、全体の明るさが整った。
次の検証では、明るい場所、暗所、ナイトショット(赤外線撮影)下で検証を行った。
まずはCR-N700、明るいシーンでの発色が良好で、バランスのとれた画質が特徴である。ナイトショットモード時には、映像の明暗が強調されるシーンもあるが、全体的に高い視認性を提供している。
続いてBRC-AM7では、明るい場所での解像度が高く、質感がはっきりと表現されているのが特徴だ。ナイトショットモードでは、暗所の撮影においても安定感があり、全体的に自然な明るさが確保されている。
AW-UE160の映像では、フルオートで撮影しており、全体的に安定した画質を提供している。また、暗所でも高ダイナミックレンジ(HDR)機能により、詳細な映像を捉えることができるため、さまざまなシーンでの活用が期待できる。
まとめ
ソニー、キヤノン、パナソニックの3大メーカーから登場したフラッグシップPTZカメラはいずれも高性能かつ多機能であり、プロフェッショナルな現場での使用に適したポテンシャルを備えている。
各モデルにはそれぞれの特徴があり、用途やニーズに応じて最適な選択が可能である。比較映像や詳細な機能を確認し、自分に最適なPTZカメラを選ぶことで、映像制作や放送の現場での活躍が期待できる。
泉悠斗|プロフィール
神成株式会社、AVC事業部 部長。マルチカムでの収録および配信をはじめとする映像制作全般を得意とし、最新の機材を取り入れた映像制作に取り組む。近年では、西日本一の長さを誇る水上スターマインを打ち上げる「福山あしだ川花火大会」の生中継をはじめ、「TOYAMA GAMERSDAY」などのe-Sports映像制作まで幅広く手掛ける。また、高校放送機器展事務局長として、学生の映像制作活動支援を行う。