近年のPTZカメラ市場では、自動追尾機能の「オートフレーミング」および「オートトラッキング」機能がトレンドとなっている。これらの機能の精度は年々向上し、成熟しつつある。
今年は国内の大手PTZカメラメーカー「ソニー」「キヤノン」「パナソニック」からフラグシップ機をお借りしたので、各モデルの機能と性能についてレポートする。
なお、本テストを実施するにあたり、PTZカメラ以外の機材に関して、スイッチはネットギア社よりPoE++対応の「M4250-10G2XF-PoE++ (GSM4212UX)」、平和精機工業社より中型から大型のリモートカメラ専用の三脚モデルのLibec LX7とLibec LX10をお借りした。
自動追尾機能の比較動画
ソニー「BRC-AM7」:AI搭載により、進化した「PTZオートフレーミング」機能
ソニーからは、自動追尾機能を搭載したフラグシップのPTZオートフレーミングカメラ「BRC-AM7」が登場した。SRG-A40同様、カメラ内部にAI機能を搭載し、高精度な従来のPTZカメラでは実現できなかった、自然で滑らかな自動追尾を可能にしている。
インターフェースはWeb UIを採用しており、ネットワークに関する複雑な知識がなくても、本体底面に貼り付けられたQRコードまたはURLから簡単にアクセスできる。下位機種ではPTZオートフレーミングとカメラ設定が別画面で操作する必要があったが、BRC-AM7では一つのUI内に統合され、非常にわかりやすくなった。
PTZオートフレーミング機能の設定変更は、機能使用中でも可能で、フルショットからバストショットまでをスムーズに切り替えられる。人物を画面中央だけでなく、右や左にもドラッグするだけで簡単に構図を変更できるため、非常に便利である。
ソニー「BRC-AM7」、「PTZオートフレーミング」機能 テスト動画
キヤノン「CR-N700」+「自動追尾アプリケーション」:高度な自動追尾を実現
キヤノンの「CR-N700」は、「自動追尾アプリケーション」をアドオンとして別途購入・インストールすることで、自動追尾機能を解放できる。今年の夏からは自動追尾アプリケーションのLite版が標準搭載され、限定的ながらも自動追尾が標準で利用可能となった。
機能比較表 | ||
機能 | Lite版 | 有償ライセンス版 |
追尾対象 | 自動選択 | 自動選択/手動選択 |
追尾感度 | 固定 | 10段階設定可能 |
被写体サイズ | 2段階 | 5段階 |
被写体位置 | 中央固定 | 自由設定 |
追尾対象自動選択 | ON | ON/OFF |
追尾設定値の保存 | 5つまで保存・呼び出し可能 | – |
インターフェースはWeb UIを使用するが、「カメラ検索ツール」を利用することで簡単にウェブ画面にアクセスできる。ただし、自動追尾アプリケーションとカメラ設定が別ページとなっている点に注意が必要である。
カメラ設定ページでは、リアルタイム映像に人物シルエットがオーバーレイされ、操作画面がすっきりとしているため、わかりやすい。画面上の人物シルエットを左右や上下に移動するだけで簡単に構図を変更でき、自動追尾実行中でも柔軟に対応可能である。
キヤノン「CR-N700」+「自動追尾アプリケーション(有償ライセンス版)」 テスト動画
パナソニック「AW-UE160」+「Media Production Suite」+「Auto Trackingプラグイン」:顔認証と人体検出で高精度な自動追尾
パナソニックの「AW-UE160」は、本体のみでは自動追尾機能が使用できず、パソコンで「Media Production Suite」と有償の「Auto Trackingプラグイン」を別途用意する必要がある。パソコンの要件としては、CPUが第7世代Intel Core i7以上、GPUがRTX2050以上などといったハイスペックが求められる。
PC必要スペック | |
OS | Windows Server 2022、Windows 11、Windows 10 64bit(バージョン21H2以降) |
CPU |
同時動作カメラ数4台まで: 4コア以上、PassMark値7000以上 同時動作カメラ数8台まで: 4 コア以上、 PassMark 値が 7000 以上の CPU 2 台構成 (Dual CPU)またはPassMark値18000以上のCPU1台 |
GPU |
同時動作カメラ数1台: RTX2050以上、RTX 4000以上、RTX3050以上、RTX A2000以上、RTX4050以上、RTX2000ada以上 同時動作カメラ数2台: RTX2050以上、RTX 4000以上、RTX3050以上、RTX A2000以上、RTX4050以上、RTX2000ada以上 同時動作カメラ数4台: RTX2060以上、RTX 4000以上、RTX3060以上、RTX A4000以上、RTX4050以上、 RTX2000ada以上 同時動作カメラ数8台: RTX2080Ti、RTX3070以上、RTX A4500以上、RTX4070以上、RTX4500ada以上 |
メモリ | 16GB以上 |
ストレージ空き容量 | 16GB以上 |
ディスプレイ | 1920×1080以上 |
Webブラウザ | Google Chrome、Microsoft Edge |
Media Production Suiteの詳細
「Media Production Suite」は、従来のリモートカメラ用ソフトウェア「EasyIP Setup Tool Plus」や「PTZ コントロールセンター」が統合されたソフトウェアである。インストールされたPCでブラウザを立ち上げ、Web UIにて操作を行うことができる。また、「Auto Trackingプラグイン」はMedia Production Suite上にインストールする形で利用可能である。
Media Production Suite上では、リモートカメラ映像を見ながらコントロールが可能である。サイドパネルにはPTZコントロールやAuto Tracking機能の操作ツールを同時に表示させておくことができるため、効率的な操作が実現できる。
Auto Tracking操作は、Auto Trackingボタンを押すことで追尾が開始される。Angleの「Full」「Full body」「Upper body」をクリックすることで簡単に構図を変えることも可能だ。
パナソニック独自の特徴として、ディープラーニング技術による高精度の人体検出機能が搭載されており、顔などの個人情報を登録せずとも、人物を識別して特定の被写体を追尾することができる。さらに、パナソニックが独自に作成したライブラリによる顔認識機能も搭載されており、演者の顔を事前に登録しておくことで、映像内での顔を識別し、複数の被写体がいる環境でも特定の被写体をより精度高く自動追尾することが可能である。
パナソニック「AW-UE160」+「Media Production Suite」+「Auto Trackingプラグイン」 テスト動画
新プラグイン「Advanced Auto Framing」
テスト時には未発表で検証できなかったが、24年10月に発表されたばかりの「Advanced Auto Framing」について紹介したい。これはMedia Production Suiteの有償プラグインで、AW-UE160、AW-UE150、AW-UE100、AW-UE80で利用可能なオートフレーミング機能。事前に自由に設定した構図を自動で高精度に再現することが可能であり、3ショットのような複数人の被写体を含む構図も設定できる。被写体が動いた場合、構図を保つために自動追尾も実施する。
撮影エリアを広角で撮影する全体用のリファレンスカメラと連携し、例えば、オートフレーミングを行うカメラに撮影対象が映っていない場合でも、リファレンスカメラの映像から選択した撮影対象へのフレーミングが可能である。
また、AW-UE160であれば、カメラファームウェアとMedia Production Suiteをアップデートすることで、その一部機能を無償で使えるとのこと。
パナソニック AW-UE160 「Auto Framing機能」デモ動画
まとめ
3機種ともに、フラグシップ機にふさわしい追尾機能を兼ね備えている。
ソニー「BRC-AM7」は、自然で滑らかな追尾性能を持ち、動きの速い現場や舞台など多様な撮影現場で活躍できる。
キヤノン「CR-N700」は、マニュアルでの細かな設定が可能なため、セミナーや企業の発表会など、演出を重視した撮影現場での活用が期待できる。
パナソニック「AW-UE160」は、「Media Production Suite」を通じてAuto TrackingやVisual Presetなどの機能を活用でき、AV機器類と連動したシステム構築が可能であるため、学校や会議室での利用に適している。
泉悠斗|プロフィール
神成株式会社、AVC事業部 部長。マルチカムでの収録および配信をはじめとする映像制作全般を得意とし、最新の機材を取り入れた映像制作に取り組む。近年では、西日本一の長さを誇る水上スターマインを打ち上げる「福山あしだ川花火大会」の生中継をはじめ、「TOYAMA GAMERSDAY」などのe-Sports映像制作まで幅広く手掛ける。また、高校放送機器展事務局長として、学生の映像制作活動支援を行う。