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国際放送機器展Inter BEE 2024 アドビ生成AIに関する特別ステージ

アドビは、国際放送機器展 Inter BEE 2024 において、革新的な製品や最新技術を体感できるイベント「Adobe Day」を開催した。

本イベントでは、多くの関心を集める Adobe Firefly による生成AIの新ツールをはじめ、その活用例や可能性を紹介するセッションを実施。また、Premiere Pro や After Effects などのビデオ製品の最新情報、Frame.io の Camera to Cloud を活用した新しいワークフロー、さらには3D制作の最新トレンドまで、多岐にわたる内容で6つのセッションを展開した。ここでは、アドビの米国チームを招いて行われたセッションを紹介する。

このセッションでは、「映像制作をさらに革新!アドビのAI/生成AI機能を徹底解説」 をテーマに、アドビが過去10年間にわたりAI開発の最前線を牽引してきた歴史を振り返るとともに、商業的に安全な生成モデルとして設計された Adobe Firefly の詳細を深掘りした。

さらに、映像制作における具体的なユースケースも紹介。AIが作業の効率化を促進し、クリエイターがより魅力的なコンテンツを生み出せる環境を支援することで、映像制作が今後も革新を続ける可能性について議論が交わされた。

本セッションのために、米国本社から Premiere Pro やビデオ製品を担当するメンバーが来日。登壇者は、マーケティングマネージャーの カイリー・ペーニャ 氏、Premiere Pro のプロダクトマネージャーを務める フランシス・クロスマン 氏、そして日本の Premiere Pro ユーザーの要望を本国の開発チームに伝える役割を担う 山岸あつこ 氏が通訳を担当した。

アドビのAIへの取り組み

登壇したペーニャ氏は、製品の紹介に入る前に、クリエイターやアーティストへの想いを語る時間を設けた。

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ペーニャ氏:私たちに毎日インスピレーションを与えてくれるアーティストの皆さんに、まず敬意を表したいと思います。クリエイターは、まさに私たちの活動の中心です。私たちのツールが、才能あるクリエイターの手に渡り、革新的なテレビ・映画・ビデオ作品の制作を支えていることを誇りに思います。

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アドビは長年にわたり、AI開発に力を注いできた。多くのクリエイターが、「音声をテキストに変換する機能」、「文字起こしベースの編集」、「After Effectsのロトブラシ」 など、Adobe Sensei を活用したツールによって、作業時間を大幅に短縮していることだろう。これらの機能は、制作フローを妨げる単純作業を減らしたいというユーザーの要望から生まれたものであり、アドビでは「アシストAI機能」と呼んでいる。これは、クリエイターの創造性を支えるアシスタントとして設計されているのだ。続けて、ペーニャ氏は発展を続けるAI機能について次のように述べた。

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ペーニャ氏:しかし、この1、2年の間でまったく新しいAIの定義が定着しつつあります。言葉から新しいアートを生み出すことでコンテンツ開発はすべての人のものになりました。このタイプのAIを「生成AI」と呼んでおり、実際に新しいピクセルが生成されます。どのAIツールを使うにしても利用する理由は『時間がもっと必要で、制作するコンテンツが増えていて、より生産的なことに時間を使いたい』と感じているからではないでしょうか。これこそが私たちが多くの努力を注いでいるエキサイティングな可能性です。

アシストAI機能も生成AI機能も、クリエイターの生産性をより倍増させる要素として位置づけていることを強調した。

アシストAI機能からAdobe Firefly Video Modelへの継承

Premiere Proに搭載されている多くのアシストAI機能の中から、カイリーはお気に入りをいくつか紹介した。

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  • オートリフレーム:ソーシャルメディア用に簡単に出力可能
  • オーディオリミックス:音楽の長さを調整
  • スピーチの強調:音質の悪い対話音声を改善
  • 文字起こし:18言語で自動的に文字起こしを行い、キャプションを作成
  • 文字起こしベースの編集:テキストのコピー&ペーストのように簡単にビデオ編集が可能

これらの アシストAI機能 の利便性と、アーティストの利益を損なわない設計思想は、ビデオ生成AI機能 の開発にも受け継がれている。

アドビはここ数カ月にわたり、ビデオ編集コミュニティと密接に連携しながら、「Adobe Firefly Video Model」の発展に取り組んできた。クリエイターの権利を尊重し、彼らのフィードバックを反映させながら、このモデルを活用した新しいワークフローの開発を進めている。目指しているのは、エディターがクリエイティブなビジョンを形にし、タイムラインの空白を埋め、既存の映像に新たな要素を加えられる環境を提供することだ。

この理念に基づき、2024年10月に開催された Adobe MAX 2024で発表されたのが、「Adobe Firefly Video Model」を活用したPremiere Proの「生成拡張(ベータ版)」、および Firefly における「テキストから動画生成」や「画像から動画生成」である。

これらのビデオ生成AI機能は、テキストプロンプトを使用することで、アイディアを瞬時に魅力的なクリップに変換することができ、アイディアの提案やBロール、ビジュアルエフェクトなどさまざまな用途に対応できる。また、写真から素早くビデオを作成することも可能だ。ペーニャ氏はAdobe Firefly Video Modelのメリットとともに大切なポイントを述べている。

ペーニャ氏:安心して創作することがユーザーやクライアント、コラボレーターにとって重要であることをアドビは理解しています。そして重要なことは、ほかのFirefly生成AIモデルと同様に、Adobe Firefly Video Modelも商業利用に安全な設計となっており、許可を得たコンテンツのみで作られるように訓練されているということです。ここではアドビユーザーのコンテンツは一切使用されません。

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Adobe Firefly Video Model

編集部註:「Firefly Video Model」は、2025年2月に開催された「Adobe MAX Japan 2025 」でパブリックベータ化され日本語でも対応可能となった。詳細な情報は以下の記事を参考にしてほしい。

▶︎アドビ、「Firefly Web版」リニューアル。動画生成AIがパブリックベータに

テキストから動画生成

Fireflyの「テキストから動画生成」を使用すると、「テキストプロンプト」「さまざまなカメラコントロール」「参照画像」を活用して、タイムラインの隙間をシームレスに埋めるBロールを生成できる。また、撮影が難しいショットのクリエイティブな意図を視覚化したり、合成できるオーバーレイを作成できる。

ペーニャ氏の説明とともにスクリーンには「テキストプロンプト」によって生成されたトナカイの映像が上映されていた。幻想的な雪の景色を背景にしたトナカイの映像は映画のワンシーンから切り出したような質感を表現している。

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生成拡張(ベータ版)

現在、Premiere Proのパブリックベータ版で提供されている生成拡張機能では、クリップを延長して映像の隙間を埋めたり、トランジションを滑らかにしたり、完璧なタイミングでショットを長く保持することができる。映像に関しては最大2秒、音声に関しては最大10秒まで追加が可能になる。そしてセッションでは生成拡張機能の具体的なユースケースも上映された。

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インタビュー・コメント編集における利用例

デモでは編集のタイムラインが表示され、「出演者が話し続けているのでフェードがかけられない」という問題点が挙げられた。インタビューやコメント動画によくありがちなこの例を使って、生成拡張の有用性がリアルに語られた。

ペーニャ氏:彼が話し続けているせいでエンドロゴが入れづらいので、彼の話を止めたいと思います。まず、彼が話していないフレームを見つけます。そのカットに新しいツール「生成拡張」の機能を適用して拡張します。新しく生成されたビデオが今スクリーンに表示されています。

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出演者が自然に話しを止めているクリップが生成され、話がストップした状態のまま違和感なくエンドロゴへとフェードされる動画が上映された。

この生成拡張はもちろんオーディオにも活用できる。デモでは、氷山が崩れる音や林の中を駆け抜けるバイクの音、馬が駆けている音をピックアップして、自然に拡張された音声も披露された。

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なお、これらの新しく生成拡張されたクリップにはタイムライン上で「AI-generated」とレーベルが貼り付けられる。

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ドラマ編集における利用例

ドラマの場面でどんな拡張ができるかについても取り上げた。緊迫した様子の宇宙飛行士2名が登場するSFシーンだ。こちらも撮影時にリテイクできなかったのが悔やまれるような問題点を例に挙げている。

ペーニャ氏:こちらのシーンでは宇宙飛行士の頷きがいりません。また、次のショットでは女性が目をキョロキョロとさせているところを直したいです。とても一般的な編集の問題ですね。

デモでは宇宙飛行士が頷いていないフレームまでコマを戻して、そこで拡張を行った。そして女性の目のカットに対しても同じように拡張した。

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また編集中にショットが到着するのを待っているときは、スレート(画面テキスト)でインサートや合成カットなどが入ることを示して編集を保留しておく場合もあると思う。デモでは「Insert shot of moonscape」という月面風景のイメージが指定されているシーンだった。ここに代わりに生成AIでできたショットを作成するところが実演された。Fireflyに「雪原をドローンショットで撮る」というプロンプトを入れて生成したものをPremiere Proに読み込んだ。

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さらに静止画として読み込んで生成する例も挙げられた。「プラグのスイッチを上げる」という動作のクリップからプラグだけの静止画を切り出して読み込み、「プラグを引き抜く」という動きを生成AIによって作成。そして最後に、降りしきる雪のエレメントも生成して追加するところも紹介された。

Premiere Pro上の短いタイムラインの中で、これら複数の生成および生成拡張に関する機能と操作方法が紹介されたあと、生み出されたクリップで構成されたシーンが上映された。ペーニャ氏はデモの終わりに次のように述べている。

ペーニャ氏:Adobe Firefly Video Modelはタイムラインの隙間を埋めたり、ショットに深みを加えることによってクリエイティブな意図を損なうことなく、自分の方法でストーリーを語ることをサポートします。

Premiere Proの最新機能

セッションの後半ではフランシス・クロスマン氏が登壇し、Premiere Proの最新機能の中からトピックを紹介した。

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コンテンツクレデンシャル機能

Adobe Firefly搭載機能による生成拡張やAdobe Firefly Video Modelから生成された成果物は、「コンテンツクレデンシャル」によって作成に使用されたツールや作者を識別することができる。これは生成AIにまつわるさまざまなリスクやユーザーの懸念を払拭するための有力な機能のひとつだ。ユーザーがマーケティングに認知される機会を増やし、視聴者は受け取ったコンテンツが信頼できるかどうかを判断できる。

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このコンテンツクレデンシャル機能は、技術仕様を策定する標準化団体「Coalition for Content Provenance and Authenticity(C2PA)」によって開発されており、コンテンツの出自と真正性を確保するためにオープンスタンダードであり、多くのソフトウェアツールやニュース組織、カメラメーカーなどによって採用されている。

オブジェクトセレクションツール

続いて、今年のAdobe MAXで初めて披露されたPremiere Proのプレビューとして、「オブジェクトセレクションツール」が紹介された。このツールによってマスキングとトラッキング作業が格段に高いレベルへ引き上げられる。

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新しいツールセットの下の方にある「オブジェクトセレクションツール」を使うことで、選択したいサブジェクトにホバーオーバーをするだけで自動的にサブジェクトが選択できる。

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選択されたオブジェクトをトラッキングしてフレームを増殖できるので、たくさんの可能性が生まれる。例えばLumetriカラーで露出の数値を変えられるし、不透明度を変えることによってオブジェクトだけを切り取ることもできる。

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テキストをオブジェクトの背後に表示したり、カラーコレクションやエコーエフェクトをかけることも可能だ。

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クロスマン氏:私たちはこういった新しい機能を皆さんに利用していただけることをとても楽しみにしています。

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本セッションは朝早くからの開催にもかかわらず満席となる盛況ぶりで、ビデオ生成AIやPremiere Proの最新情報に対する関心の高さを窺い知ることができたという。