
クリエイティビティを"拡張"する!Firefly Video model&Premiere Pro 生成拡張 実践例
国際放送機器展「Inter BEE 2024」において、アドビの製品・サービスやテクノロジーの最新情報を紹介するイベント「Adobe Day」が開催され、6つのセッションが行われた。講演は生成AI「Adobe Firefly」に関する話題が多くあったが、なかでもAdobe Firefly Video modelとPremiere Proの生成拡張についての講演は立ち見が出るほどの盛況ぶりで、来場者の関心度の高さが伺えた。
編集部註:「Firefly Video Model」は、2025年2月に開催された「Adobe MAX Japan 2025」でパブリックベータ化され日本語でも対応可能となった。詳細な情報は以下の記事を参考にしてほしい。
今回はビデオ生成AIによって私たちのワークフローがどのように進化し、クリエイティビティを拡張できるのかを伝えてくれた「クリエイティビティを"拡張"する!Firefly Video model&Premiere Pro 生成拡張 実践例」をレポートする。たくさんの実践例とFirefly Video Modelユーザーだけが知り得るようなTipsも多数紹介された。

登壇者はエディター・コンポジター・モーションデザイナーを務める白戸裕也氏。これまで大手制作会社でTVCMやWebCMの制作を経験し、サイバーエージェントが展開する新しい未来のテレビ「ABEMA」、サイバーエージェントグループの株式会社6秒企画を経て、2023年より株式会社Cyber AI Productions(CAI)に所属している。


このセッションでは大きく3つのブロックに分けて解説が行われた。
- (1) 映像制作とFirefly Video model
- (2) Firefly Video model実践例
- (3) 「思い通り」に生成する方法
白戸氏:皆さんに覚えて帰ってほしいのは、「Firefly Video Modelはあらゆるクリエイターの強力な相棒になっていく」ということです。
(1) 映像制作とFirefly Video model
Firefly Video modelを使うのは、どのような場面が考えられるだろうか。

白戸氏:TVCMだと15秒を1本、30秒を1本など、いわゆる"珠玉の1本"を作ります。一方、WebCMはいろんな媒体に向けてタテ・ヨコ・スクエアの縦横比で作ったり、訴求違いで大量のパターンを作るんですね。こういうときにFirefly Video Modelを使えるんじゃないかと考えています。
(2) Firefly Video Model実践例
Firefly Video modelの画面をスクリーンに映し出して指定項目などの紹介が行われた。なお、今回の実践例は、Firefly Video Modelのベータ版(2024年11月時点)を使用している。

画面左上の「Camera(カメラ)」では、文字通りカメラに関する設定をする。クローズアップ、ミディアム、ロング、エクストリームロングなど、ショットサイズを指定できる。

「Camera angle(カメラアングル)」は、空撮やアイレベル、ハイアングル、ローアングル、真俯瞰など、さまざまなアングルを指定できる。
「Motion(動き)」は、ズームイン、ズームアウト、左に動く、右に動く、ティルトアップ、下から上に、上から下になど、カメラの動きを指定できる。もちろん動きの固定もできるし、ハンドヘルド(手持ち)で手ブレ感があるような画も設定可能だ。そして画面下側にあるのがプロンプトだ。2024年11月現在では、4語以上175語以下という語数制限がある。
手始めに「犬が窓際でまどろんでいる」というシーンが例として生成された。

「サイズ」をミディアム、「アングル」はちょっと上からのアングル、「カメラの動き」は右に動く設定。生成を開始して、少し待つと完了した。数語のプロンプトでかわいい犬が生成されるのを白戸氏は高く評価した。
以降、さまざまな作例をもとに、実践的な設定方法やTipsが紹介された。
実践例(1)シズルカット
ホワイトシチューの真俯瞰カットのシーンが示された。

「シズルカット」とは、肉の焼けるジュージューした感じや、ツヤのある寿司のクローズアップなど、お腹が減ってくるような表現を意味する。プロンプトは現時点で英語のみ対応している。「ウィズベジタブル(以下:英語表記のものも日本語で表している)」と記述すれば野菜が一緒に生成されるし、ほかにも「カレーライス」などの指定もできる。この例について、白戸氏はいくつかの注意点も添えてくれた。
白戸氏:少しおかしな生成がされているところもありますが、そこは適宜編集で削って使っていただければと思います。また、スライドにプロンプト例を載せていますが、あくまで例です。同じプロンプトを入力をしたからといって、完全に同一のものが生成されるわけではないのでご注意ください。
実践例(2)商品カット
シチュー繋がりということで次の例が示された。商品のヨリから引いていくとパッケージが映り込むという、カメラの動きがあるCMでよく見かける表現だ。

白戸氏:生成AIは単純な動きしかできないだろうと思って意地悪をしてみたのですが、案外うまくいったところがすごいなと思っています。ディテールの部分は及第点ですね。
実践例(3)商品カット
次は化粧品のCMでよく見かける表現。「森の中にある1つのボトル」という例が挙げられた。この世界観は実写で撮影しないとなかなかできない表現だが、生成AIなら、ある程度トライアンドエラーを重ねられるメリットがある。

「レンズフレア」や「ボケ」といったワードが含まれているほか、「ソフトフォーカス」「葉っぱの間を通っていく光」などの細かいイメージも記述している。
実践例(4)商品+人物カット
商品カットなら人物を出演させたいときもあるとして、商品と人物が同居する、ハイブランド化粧品のワンシーンをイメージした例も示された。生成された違和感のないムービーを見て、白戸氏は「素晴らしいですね」と述べた。

実践例(5)VFXカット
「実はこんな表現もできます」と、大作映画のようなVFXカットも示された。

プロンプトには「スペースバトルシップ」や「ディープスペース」などの記述がある。これらのプロンプトをすべて自分で考えて書くのは難しいが、そういった方のために、プロンプトの書き方のポイントもあとで解説する。
実践例(6)抽象空間
写実的な表現だけではなく抽象的な表現も可能だ。このような抽象的なシーンはVP(ビデオパッケージ)のタイトルの背景素材として使われたりする。

プロンプトは意外とシンプルで「グラデーション」や「バックグラウンド」、あとは「色のトーン」の記載もある。「パステルカラー」など、色についてプロンプトに記述することで好みの色にすることも可能だ。
実践例(7)モーションデザイン
抽象表現の例としてもうひとつ示されたのが、3DCGで制作したようなモーションデザインのシーンだ。

こちらは「Text to Video」で直接生成したものではなく、いったん「Text to Image」で画像を作ってから、その画像を動画化したものだ。[プロンプト例]の最初3行が画像を作るときのプロンプト、下1行が Firefly Video Modelに入力したプロンプトだ。
実践例(8)湯気素材
「これを必要とする方はあまりいないかもしれませんが…」という前置きをしつつ示されたのが湯気の素材。白戸氏は食品のCMをたまに担当するということで、商品をより美味しく熱々に見せるために使えそうだと語っている。

白戸氏:いまは湯気が画角から切れていますが、「もっと(カメラを)引く」とか、そういったプロンプトの追加次第で自由自在に調整できると思います。湯気って条件に合う素材を見つけるのがなかなか難しいですよね。もちろんAdobe Stockでも購入できますが、このようにFirefly Video modelで生成もできます。
Premiere Pro生成拡張
Premiere Pro ベータ版を使用した生成拡張の実践例も紹介された。ビデオクリップでは最大2秒、オーディオクリップは最大10秒拡張できる。

実践例として、先ほど生成した「化粧品のボトルを持った女性」のクリップが使用された。クリップをシーケンスに載せて、画面左側のツールパネルにある「Generated Extend Tool」を選択。クリップを選択して端の部分を伸ばしていく。
白戸氏:光やフレアもちょうどいい感じに入って、2秒分尺を伸ばすことができました。

次の例は白戸氏が札幌旅行の際に撮影したジンギスカンのクリップ。「ちょっと意地悪な素材」とのことだったが、肉をひっくり返す動きをしっかり生成できた。クリップの下部にある「AI-generated」の箇所を右クリックすると再生成も可能だ。生成結果が気に入らない場合は、何度かトライアンドエラーを重ねることをオススメしていた。

もう1つ例として使用されたのは、列車が写ったロングショットのクリップ。これがどのように生成拡張できるのかを試した。
列車が進行している様子がうまく拡張されるのか気になるところだったが、しっかり表現できていた。小さく映っている自動車も破綻なく生成できている点に白戸氏も着目していた。

生成拡張で作られたクリップは、単純なネスト構造になっていることを白戸氏は説明している。
白戸氏:ネストを開くと、元クリップの上に生成したクリップがあります。ちょっと裏技になりますが、開いたネストの中でもう一度拡張もできます。ただし、うまくいかない可能性は大いにあります。

生成したクリップは「Generative Assets」というフォルダに格納される。プロジェクト設定で、好みの場所を指定できる。
白戸氏:オフライン編集のときに生成拡張で尺を伸ばすと、オンライン編集の際に伸ばした分のデータが存在しない…というミスも起きると思います。生成されたクリップを必ず渡してください。

(3) 思い通りに生成する方法
Adobe Firefly Video modelの効果的なプロンプトについては、アドビのヘルプセンターでドキュメントが公開されている。

そのポイントは3つ挙げられている。
- プロンプトを工夫する
- より具体的な情報を与える
- 参照画像を使用する
この3つを噛み砕いて説明してくれた。
1.プロンプトを工夫する
Fireflyが理解できるように、明確かつ説明的に記述する必要がある。

まずはショットのタイプの説明。カメラの遠近感や動きだ。つぎにキャラクターの説明。キャラクターは誰なのか、どのような見た目をしているのか、さらにキャラクターのアクションや場所。何をしていて、どこにいるのかなどの記述が必要になってくる。
白戸氏:美観とはショットの雰囲気のことですね。35ミリフィルムで撮った感じとか、荒々しいルックなど、そんなイメージを指定する必要があります。
2.より具体的な情報を与える
より具体的な情報を与えるコツとして、ヘルプのスクリーンショットが抜粋して示された。

視覚的なスタイルを指定するには「シネマチック」「リアリスティック」「アニメーション」「アーティスティック」などを記述するのが効果的だ。また、アクションを明確に定義するには、説明的な形容詞を使用して記述することがオススメだ。「静かな朝もやが立ちこめるビーチ」「ビーチチェアから漏れる柔らかい日差し」など、まるで小説のように情景がわかる記述をするのがポイントだ。
これらを踏まえた比較例として、白戸氏がテストした画像も紹介された。

左上は単純な4語のプロンプト「a car is driving」だ。
白戸氏:夕日になっているのは、おそらくFireflyが補完して考えてくれたのではないか。
それに「midnight」というプロンプトを追加したのが左下。そして右はさらに「snowy day」という言葉を追加した。
このように、より具体的な情報を与えることで、自分が求めるシーンに近づけることができる。
3.参照画像を使用する
プロンプトの左側に、画像をアップロードするボタンがある。ここから参照画像をアップロードすることで、画像から動画を生成できる。

白戸氏:ちょうど福岡空港を離陸したときの、窓外の風景です。この画を「夜にしたい」というオーダーを受けたらあなたはどうしますか? 夜にするには空を合成しなきゃいけないし、山際も調整が必要です。街もあるのでなかなか難しいオーダーですよね。
結果は、思っていたよりもいい感じに生成できたとの評価だった。


白戸氏:特にうまく表現できていると思ったのはこのフラップのところです。ちゃんと街の明かりを受けた光になっている。これを手作業でやるとしたらなかなか難しい。ディテールに関しては及第点の部分はありますが、これがどんどん進化していくとDay for Night(昼に撮影した素材を夜に見せること)など、難しい表現も生成AIでできるようになると信じています。
そして先ほど紹介したモーションデザイン的なシーンも、「参照画像を使用する」を利用したことが明かされた。こちらは「Text to Image」で画像を生成して、それをFirefly Video Modelに読み込んで動画化したものだ。

さまざまな画像をアップロードできるが、もちろん他者の権利を侵害する画像を読み込むことは禁止だ。

これまで見てきた「思い通りに生成する方法」は、実は撮影や照明に関する知識やノウハウを活かせると白戸氏は語っている。
白戸氏:生成AIと聞くと、何やら得体の知れないまったく新しいもののように感じますが、エディターだけではなくカメラマンや照明、デザイナーなどいろいろなクリエイターにとって便利なツールになり得るんですよね。 プロンプトを考えるのが難しく感じる場合もあるかもしれません。あくまで個人のやり方ですが、私はClaudeやChatGPTなど文章生成AIにプロンプトを書いてもらうこともあります。


このとき、Fireflyの語数制限もプロンプトに追加している。次が例だ。
「下記の内容を踏まえて175語以下で、Adobe Firefly用のプロンプトを生成してください」「ニューヨークのオフィス街、昼、金髪の美しい女性が化粧品のボトルを持っている。カメラ目線」
すると先ほどの化粧品を持った女性のクリップが生成された。
白戸氏:これらの文章生成AIは現時点でFirefly Video modelの存在を未学習であり、最適化はされていません。そのうちFirefly Video modelを学習して、より最適化されたプロンプトが生成できるのではと思います。
Firefly Video modelの活用ポイント
セッションの最後では、いくつかのポイントをおさらいした。

サイトに記載されている「アドビのアプローチ」を取り上げつつ、白戸氏は次のように語った。

白戸氏:いろいろな生成AIサービスがありますが、学習に使われている素材が権利的にクリアではない場合もあり、クライアントワークでは安心して使えないというのが実状です。そんな中、Adobe Fireflyは「安心して商用利用できるよう設計している」と宣言しているんですよね。皆さんにも安心して使っていただけると思います。
そして、白戸氏は冒頭の言葉でセッションを締めくくった。

白戸氏:Firefly Video modelはあらゆるクリエイターの強力な相棒になっていく。
同セッションは実践的な例と細かなTipsが満載で、より身近になった生成AIの現状を知ることができる貴重な講演となった。
Adobe Firefly Video modelとPremiere Pro生成拡張に関する基本的な情報や、広告・ショートフィルムにおける事例などは他のセッションでも解説されている。