
香川県高松市にあるG-WORKSが、LEDバーチャルプロダクションスタジオ「SITE V」を設立し、オープニングセレモニーを開催したのが2024年6月。それから約1年、ようやく念願だった見学の機会を得ることができた。1年経ってから訪れたことは、むしろ幸運だったのかもしれない。

バーチャルプロダクションは、設備を整えるだけでは成立しない。技術と知識を持つ人材が育たなければ、設備は活かされない。SITE Vは、この1年をかけて高松という街に映像文化を根付かせる象徴のような存在へと成長しつつある。

スタジオの規模は、幅12.5m、奥行き37m、高さ9m。最奥には横10.5m×高さ6mの背景用LED(ROE Ruby 2.6F)、左右と天井の3面には環境光用のLED(ROE CB5mk2)を設置。LEDプロセッサーはBrompton、メディアサーバーはDisguise VX4+とrxII、カメラトラッキングはMo-Sys Star Tracker Max、カメラはSONY BRANOにFUJINON Premista 28-100mmを装着するという、妥協のないハイエンドな構成だ。

さらに、ステージには車を360度回転させることができる鋼鉄製ターンテーブルが設置されており、キャスターでの搬入出も可能。このあたりは親会社であるタグチ工業の技術力の賜物だろう。


「なぜ、こんな設備を備えたスタジオが高松に?」と、誰しもが疑問を抱く。社長の吉川氏も、見学者や取材者のほとんどが最初に口にする言葉だという。実際、筆者もその一人だった。今回の訪問は、まさにその答えを求める旅だった。
G-WORKSは、建設機械アタッチメントメーカー・タグチ工業のインハウスクリエイティブチームであり、SITE Vはタグチ工業グループの協力により誕生した。

BtoC分野では映像広告の活用が成熟する一方で、BtoB分野ではまだ十分に活かされていないのが現状だ。吉川氏は、業界トップのBtoB企業であっても知名度の低さから採用活動に苦戦していること、また、海外展示会で目にする欧州メーカーの映像のインパクトに比べ、日本企業のプロモーションが見劣りしてしまうという課題を感じていたという。
その課題を自社の手で解決するため、メーカー主導で映像スタジオを立ち上げたのがSITE Vの背景にある。
都内でもなかなかお目にかかれない、高さ6mのLEDディスプレイも、重機の撮影を想定すれば納得の仕様だ。

G-WORKSは映像制作だけでなく、展示会のブース設営やイベント演出にも携わっており、イベント用のVR映像制作も多数手がけている。その経験が背景映像の撮影にも活かされており、高松各地の360°撮影素材は、ターンテーブルを使った車窓シーンなどに活用されている。
SITE Vの利用料金は、都心のLEDスタジオに比べて非常にリーズナブル。イベント限定のさらに割安なプランも用意されており、これまでにも大阪万博のプレイベントや企業説明会などで活用されてきた。巨大なLEDの前に立てば、参加者は圧倒されるに違いない。今後は上映会などのイベントも企画されているとのことで、地元住民がうらやましく感じるほどだ。
2階には、キッチンを備えた約100㎡・高さ5mの第2スタジオもあり、撮影だけでなくセミナー会場としての利用も可能。ライブ配信にも対応する設備が整っている。

四国というロケーションを考慮すると、撮影用途に限らず多用途に開かれたこのスタジオは、文化のハブとしての役割を担う可能性を秘めている。
この1年で、SITE Vのスタッフたちは、実践の中で技術を磨いてきた。バーチャルプロダクションは、実際に映像を表示してみなければわからないことが多く、トライ&エラーの積み重ねこそが最大の学びとなる。その環境がここにはある。

スタジオ始動からちょうど1年のタイミングで訪れられたからこそ、その蓄積を肌で感じることができた。それが、今回の訪問のタイミングを「幸運だった」と思えた最大の理由である。
地方だからこそできる、余白のあるスタジオ運営。映像技術の可能性と人の熱意が交差するこの場所は、単なる「施設」ではなく、文化の発信地へと進化している。SITE Vは、これからも高松の風景を背景に、新たな映像体験を生み出していくだろう。
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