報道の最前線で活躍するCanon XF605〜鹿児島テレビ・笠井カメラマンに訊く実戦レポート Vol.06 [XF605 SCENES]

Canon XF605は、業務用ハンドヘルド型ビデオカメラとしてテレビ番組の撮影においても、活躍している。筆者も2021年10月の発売以降、数え切れないほどテレビロケにメインカメラとして投入している。

筆者の場合は情報バラエティーロケなど制作系がほどんどだ。地上波やケーブルテレビはオンエアがHDなため4Kカメラは不要なのだが、実際の選択肢としては現行機は4K対応カメラのみとなるため、それをHDフォーマットで使用するというのが現在の運用だ。そうした中で、XF605はデジの魅力的な選択肢になっている。

その選択肢の中でXF605は3連リングを備えた光学15倍のレンズを有しており、テレビカメラマンの有力な選択肢となりうるカメラだと考えている。ズームリングはENGレンズと同様に約90°の回転で広角端と望遠端を往き来するようになっている「端付きリング」である。じわりとしたスローな立ち上がりから、クイックなズームまでカメラマンの意図にほぼ問題なく付いてくる感覚で、バラエティーロケでも十分にレンズワークで遊べる。

FHDで撮影する場合には画質劣化を抑えたアドバンストズームによる30倍ズームが使用できる。これはテレビロケなどで使用しても全く問題ないクオリティで、導入して以来この3年半常時ONにして使っている。

またアドバンスト30xには倍率以外のメリットもある。クローズアップレンズを必要としなくなったのだ。通常、料理接写などではクローズアップレンズを使うことで、望遠側の最短焦点距離を短くして、より対象物を大写しできるようにセッティングする。しかし、XF605でアドバンスト30xを有効にしたまま接写を行うと、クローズアップレンズを必要とする機会が極端に減る。詳細は前回のVol.05をぜひ読んでいただきたい。

このように制作系の現場のテレビカメラマンにとってXF605は非常に魅力的な選択肢であることは述べた通りだが、一方で報道の現場でどのように使われているのだろうか。報道では信頼性やカメラマンの要求に対して答えられる操作性が制作系と比較してもより求められることがある。筆者も元は報道の現場出身のカメラマンだ。ENGカメラとハンディレンズの信頼感・操作感は機材の小型化が進む中でも未だに代えがたいときもある。

そんな報道の最前線で活躍するXF605があるということで、鹿児島県にある「鹿児島テレビ放送(以下、KTS)」さんにお邪魔してインタビューをさせて頂いた。

Canon XF605が報道現場で活躍

鹿児島テレビ放送株式会社 報道制作局 報道部 カメラマン 笠井徹氏

――鹿児島テレビさんは鹿児島に拠点を置かれるテレビ局ですね。本社のほか、支社支局が鹿児島県内に5つあると聞いています。島もありますよね?

笠井氏:

鹿屋支社、霧島支局、薩摩川内支局、種子島支局、奄美支局があります。島も多い分、例えば奄美支局は徳之島など近隣の島も全部カバーする必要があります。支局は、基本1人体制でカメラマンじゃなくて記者がカメラを回します。鹿屋支社以外はワンオペで取材もしつつカメラもやる、インタビューももちろんやる。基本全部やるということです。

――鹿屋支社以外は、ワンオペなんですね。

笠井氏:

鹿屋支社では記者とカメラマンの2人体制で取材に行きます。私が支社に異動した2019年にはENGカメラ(ショルダーマウントカメラ)もあったのですが。アシスタントが居ない。そうすると初動が遅れてしまう。そこで当時すでに配備されていたXF305をメインで使っていくことになりました。今まで肩に担ぐカメラしか使っていなかったので最初は戸惑いました。

XF605導入の背景と決め手

――KTSさんは以前からキヤノンのデジを使われていたので馴染みがあったということですが、XF605を導入された理由や決め手は何だったのでしょうか?

笠井氏:

ズーム・フォーカス・アイリスの3連リングを備えたカメラというのが決め手でした。実際、私もデモ機を使い、操作性などに問題がないと判断して導入を決定しています。またキヤノン製のカメラを引き続き選んだのは、サポート面からの信頼感も高かったためです。

XF605を報道現場で導入してみて

――御社のXF605は各支局に配備されて、今日も報道現場で稼働しているということで今回は私のXF605を大阪から持参しましたので、こちらを手元に置きながらお話をお聞きして行きたいと思います。まずは、XF605の最初の印象はどうでしたか?

笠井氏:

やはりコンパクトで軽いですね。操作性もすごく良いというのが最初の実感です。制作デジとしても軽量で操作性が良いのはポイントですよね。一方で、初見では光学15倍ズームっていうのが気にはなりました。報道という仕事は事件・事故、火事の現場も行きます。
また私は自衛隊基地が近い鹿屋支社に居たので、年に何度も基地の撮影に行きます。当然、中には入れなくて柵越しにカメラを向けて中の物を狙わなきゃいけない。望遠レンズが必要な現場が多いわけです。
XF605の導入直前に、基地に関係して大きなニュースがありましたが、その時はENGカメラに本社から借りた望遠レンズをつけて撮影していました。そして途中からXF605が入ってきてテストで現場に持って行きました。
その時に私が一番使い勝手が良かった機能は「アドバンスト30x」ですね。XF605が30倍ズームのカメラになるこの機能にはすごく救われました。報道だと撮れているか撮れていないかが重要なので、報道現場で戦力になるカメラだなと感じた時でした。

――アドバンスト30xは光学ズームとデジタルズームの境界がない、シームレスなズームができるのが良いですね。私も基本的には常時機能有効にしています。

AF性能とタッチ操作の活用

笠井氏:

あとはフォーカスの使いやすさですね。XF605のフォーカスアシスト機能が報道現場と相性が良いです。合焦しているとマーカーがグリーンになって分かりやすい。自衛隊機などを撮っている時はマニュアルに固定してフォロー。人物を撮るときは被写体がよく動くのでオートフォーカスが基本ですね。

――XF605のオートフォーカスの印象はどうですか?

笠井氏:

フォーカスはバッチリですね。そこで補助してくれるのが、やはりタッチパネルです。合わしたいとこを指でピッとしてフォーカスが合わせられるのが便利です。
例えば選挙の時などは、被写体の後に顔のポスターが貼ってあって、顔検出AFを使っていると迷ってしまうことがあります。なのでそういう時は顔検出を外してタッチで狙うように運用しています。

――カメラにはカメラマンが何を狙いたいかまでは分からないですもんね。もちろん、複数の顔検出枠が出ているときはカメラ本体のジョイスティックで対象を選べるんですが、タッチパネルで選択するのが素早いですね。ちなみにXF605の顔検出機能には「顔優先」と「顔限定」の他に「顔検出&追尾」機能もあって、タッチした被写体をずっと追い続けるという機能も付いてきます。

笠井氏:

あと、私は結構ビューファインダーを使います。XF605のビューファインダーは一番信用できます。屋外だと液晶モニターに自作の遮光フードを付けて使ったりもしますが、やはり日差しが入ったりするため、シビアなピント取りだったり、被写体を追っかけなきゃいけないときには常にビューファインダーを覗いています。あと、液晶モニターとビューファインダーが同時に使えるのが良いです。これは制作・報道どちらの場面でも重宝しますね。

――確かに。他社製品だと表示出力が液晶モニターかビューファインダーかどちらかという排他仕様のものもありますね。あとはビューファインダーはオマケ的な扱いで、画質や解像度が低かったりすることも。

笠井氏:

鹿児島ではロケット打ち上げ現場の撮影もあります。やはり集中したい、カメラマンは覗きたい…という思いが強いです。ちなみに、内之浦宇宙空間観測所で2024年11月に打ち上げられた観測ロケット(S-520-34号機)はXF605で撮影しました。
また、表示される情報が液晶モニターもビューファインダーも両方一緒というのがすごくありがたいですね。液晶モニターを使っていても「ちょっとピント来てるかな?」「絞りどうかな?」と確認する時にはファインダーを覗いた方が判断が早いということですね。
あとキヤノンのカメラで一番ありがたいのは「露出バー」が出ることですね。ENGの時などは今も露出の指標にゼブラを使いますが、XF605では露出バーを基準にして液晶モニターを見ながら絞りを決めたほうが、今どんな感じに画が設定されているのか見やすいです。

記録フォーマットと撮影設定

――記録フォーマットなどの設定もXF605は豊富ですが、現場ではどういう設定にされていますか?

笠井氏:

XF-AVCの1920×1080 60i/50Mbps L.GOPですね(YCC422 10bit)。50Mbpsあれば画質としては綺麗だなと思います。あと各支局に導入されているSDカードが64GBなので、それよりも上の設定(100Mbsp/MP4(HEVC))だと1時間20分しか収録できません。報道だとそれはシンドイですね。
私はカードスロットの設定は「リレー記録」で長時間撮れるようにしたいですが、他の支局はバックアップという意味で「ダブルスロット記録」で回しています。各カメラマンや支局の使い方を考慮して、フレキシブルに設定できるのはいい点です。

レンズ性能と操作感

――レンズ周りは、どう評価されていますか?

笠井氏:

ちょうどいい大きさというか、カメラをレンズを下から支えるように持つことも多いのでサイズ感すごくいいです。

――レンズリングの粘り気、重さはどう思われます。

笠井氏:

以前のXF305からすると良いです。しかし、私は報道なので、もっと早く動かしたい時もあります。その時はもうちょっとリングの動きが軽くてもいいかなと思います。弊社の制作系ENGではハンディーレンズはキヤノンを使用していて、そのキヤノンのレンズの感覚に慣れているため、XF605のように小型のカメラになって戸惑ったのは、やっぱりレンズの粘りなどですね。

――そうですね。私もこの適度な粘りはワークの丁寧さにはつながるので、スカスカも困るんですけれど…もうちょっとリングのフィーリングは軽くてもありだなと思います。

――XF605はいわゆる端付きのズームリングを採用していますよね。リングの動きにワイド端とテレ端があって、リングの角度で画角も決まる。そうした端付きリングの採用はどうですか?

笠井氏:

日頃ENGカメラもやってるからでしょうか、やはりズームリングの位置がどこにあるかというのは液晶モニターなどを見ずに手だけで探る時もあります。例えば今はテレ側だとリングで分かりたい。パッとリングを見て今どの辺に焦点距離があるのか、というのを確認しやすいんです。それは端付きレンズならではですね。

――あとキヤノンのデジはズームサーボの性能が良いですよね。特にスローズームが本当にスローなのが個人的には嬉しいんですよ。XF605の場合、ワイド端からテレ端までの最低速ズームが約4分38秒で動く超スロー。反対に高速ズームは約0.9秒という高速。この価格帯でこの駆動性能というのはスゴイです。

笠井氏:

制作陣が求めるのはやはりスローですね。ただ、ズームロッカーでズームをしていて、途中でマニュアルリングに切り替えたくなる時があります。そうすると、切り替えた瞬間に画角がリングの位置を優先してしまうので、画角が動いてしまいます。

――そこは要注意ですね。XF605はENGレンズのようにサーボズーム中にズームリングが動いてくれるわけではないので、リングが示している焦点距離との差異が生まれてしまう。これをENGと同じようにしようと思ったら、もうレンズの駆動機構がENGレンズと同じになってしまうから難しいですよね…。

報道のプロからみた"報道カメラ"としてのXF605とは

――報道のプロである笠井さんからみて、報道カメラとしてのXF605はどうですか?

笠井氏:

軽量かつ信頼性の高い操作性は相性よいですね。画質を保持したままの最大約30倍のアドバンストズームやオートフォーカス機能は重宝していますので、ENGから置き換えても遜色なく、場面によっては上回る性能を発揮するかと思います。報道現場でも非常に実戦的なカメラです。

――逆にXF605を使っていて、困ったことや改善して欲しい点はありますか?

笠井氏:

実は私、1回カメラ壊していて…。どのカメラもそうですけど、災害級の大雨には弱いですね。その時は送検撮りで、こんな荒天下でもあるのかというぐらいの土砂降りでした。雨カバーをつけていたのですが、どこからか水が入ったんでしょうね。熱が籠もらないように空いた時間はカバーを外したりとかしていたのですが…。その時は無事に送検は撮れて、素材も送った後だったのですが、その後にレンズが曇り始めて急にカメラが止まるという経験がありました。
鹿児島は災害も多く、報道だと悪天候の現場でも待つことがあります。時間が長い、雨だからやめとこうにはならないですからね。

――送検が撮れて、素材送りの後での故障で、まだ良かったですね…。言い換えれば今まで過酷な鹿児島の島々での撮影を経てその1回ということですね。雨で絶対壊れないカメラはないですからね。

――最後に、本音で今のXF605に笠井さんが点数をつけるなら何点ですか?

笠井氏:

100点満点で80点は超えています。ただどのカメラも一緒なんで100点というカメラはないです。多分80点は過去最高ぐらいだと思います、私の中では。デジもここまで来たかっていうのは当然あるし、でもやはり使っていると欲が出てきますよね。

――そうですね。万人受けする100点というカメラはないですね。XF605はカスタムも細かくできるし、ユーザーの要望に応えるファームウェアアップデートも続いていますから、まだまだ点数は上がっていくかもですね。今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

笠井氏:

ありがとうございました。

まとめ

報道という不確定要素だらけの撮影対象に加え、天候次第で使用環境が過酷となる現場でも使われているCanon XF605。鹿児島テレビさんの場合は支局への配備で、笠井さんのようなカメラマンも使うが記者も使用するカメラとして、マニュアル操作の使いやすさもオート性能の正確さも両方求められる。そうした条件下でXF605は高い評価を得ていることが分かった。

筆者の場合、XF605の使用用途は主に制作系の撮影になるため、報道現場で求める機能やカスタマイズ内容の差異が興味深かった。と同時に、そうした幅広いユーザーの要望を受け止めるだけのポテンシャルをXF605が持っているということが分かり、いちユーザーとしてXF605に頼もしさも感じた。

報道の最前線でカメラを構えるカメラマンが認めたCanon XF605。これからも様々なフィールドで活躍していきそうだ。

WRITER PROFILE

宏哉

宏哉

のべ100ヶ国の海外ロケを担当。テレビのスポーツ中継から、イベントのネット配信、ドローン空撮など幅広い分野で映像と戯れる。