![XF605登場から4年!実戦の現場を通した再評価 Vol.05 [XF605 SCENES]](https://jp.static.pronews.com/pronewscore/wp-content/uploads/2025/04/XF605SCENES_top.jpg)
「XF605」はCanonの業務用4Kハンドヘルドカメラである。小型軽量ながらイントラフレームによる4K60p収録対応で、操作系はプロフェッショナルユーザーには必須の3連リングを備えたズームレンズを装備する。
2021年10月28日に発売を開始し、デビューからすでに3年半を迎えるモデルだが、その性能やハンドリングに古さを感じることはない。筆者のタイムコード・ラボでは発売と同時にXF605を購入し、現在もロケや配信の現場でメインアームとして活躍している。
筆者が主戦場とするテレビ撮影の現場では、昨今はショルダーマウントタイプのENGカメラを要求される案件は少なくなり、ミラーレス一眼系カメラか業務用ハンドヘルドカメラ(以下、デジ)での撮影を求められる機会が多い。
地上波やケーブルテレビはオンエアがHDなため4Kカメラは不要なのだが、実際の選択肢としては現行機は4K対応カメラのみとなるため、それをHDフォーマットで使用するというのが現在の運用だ。そうした中で、XF605はデジの魅力的な選択肢になっている。

現在、当ラボではデジ取材のほとんどをXF605で行っている。導入当初は、制作陣に「今回からXF605という最新機種を使う」「サンプル動画ファイルを送るので、編集上で問題なく取り扱えるか確認して欲しい」、オンエア後には「Canonのカメラはどうだったか?」など、事前申告と事後確認を行った。
結果、XF605を敬遠するディレクターもクライアントも居らず、オンエアも日常的に問題なく行われている。
また、協力スタッフとして当ラボに出入りしてもらっているカメラマン達からも「○○社がXF605を導入して、そちらの現場でも使っているので使い慣れている」という声も聞くようになった。さらに、東京で配信系の現場に私が呼ばれた際、マルチカメラ収録で揃えられたカメラの4台全てがXF605だったということもある。ほぼほぼ他社のデジしか見掛けなかったこのフィールドで、XF605を選択するユーザーがこの3年余りの間に確実に増えたのを実感した。

このようにCanon XF605が選ばれる理由が確かに存在する。XF605登場から4年を迎えようとする今、実戦の現場を通して改めてこのカメラを再評価し、プロが求める業務用ハンドヘルド機を考察したいと思う。
XF605概要

XF605は、1.0型単板CMOS/約829万画素センサー搭載の4K 60P 4:2:2 10bit記録に対応するハンドヘルド型ビデオカメラだ。デュアルピクセルCMOS AFで「頭部検知」や「瞳AF」といった同社のEOSシリーズで培われたオートフォーカス機能が搭載された。光学ズームは15倍で、25.5mm〜382.5mm(35mm換算)をカバーする。

広色域撮影やHDR撮影にも対応し、Canon Log3/Cinema Gamut、HLG、PQといった規格を採用する。SDカードWスロットによる多様な異種同時記録、12G-SDI・HDMIによる出力解像度設定や同時出力も可能。RTP/UDPなどによるIPストリーミングにも対応し、USBモードにUVCを選択しPC接続することでWebカメラとしても使用できる。
発売後も定期的な機能向上のファームウェアアップデートが行われた。その中でもVersion 1.0.3.1ではカスタムピクチャーにCINEMA EOSと共通のガンマであるCanon 709が追加され、IPストリーミングのプロトコルには業界で広く使われているSRTも追加された。
また、Canon Multi-Camera ControlというiOS/iPadアプリにも対応し、Wi-Fiや有線LANで繋ぐことでマルチカメラ撮影時などに各カメラの露出調整や最大4台一括RECをアプリケーション上から操作できるようになっている。
外観と重量

XF605は4K60pに対応するフラグシップクラスの4Kデジだが、XF605の全長は約333mm、重量は約2010g(本体)となっている。前モデルのXF705が全長約378mm、重量約2710gと重量級カメラであったのだが、約10%の小型化と約700gの軽量化に成功している。右手グリップ部分の形状も良く、本体重量の小型軽量化と相まって手持ち撮影時のホールド感は高い。

カメラ本体はコンパクトだが、独立3連リング(Zoom/Focus/Iris)を搭載。放送用ENGレンズのような直感的なレンズ操作をカメラマンが行える。また、物理的なボタンやスイッチが豊富に実装されており、カメラボディー左側面に整然と並んだそれらのボタンで、撮影機能を集中的に管理できる。物理ボタン/スイッチのメリットは、慣れてくるとブラインド操作が可能になることで、撮影画面に集中しながらでも、指先だけでいくつもの機能に直接アクセスできる。デザイン的にはXFシリーズの意匠を踏襲しており、ゴツゴツした質実剛健な雰囲気が個人的には好みだ。

上部ハンドルの前方上面にはタリーランプが埋め込まれ、カメラマンだけでなくディレクターや音声マンからもカメラが録画状態を把握しやすく、さりげないが実用的だ。またハンドルを握ってローアングル気味に構えた際の左右のバランスも良く、自然と水平が取れるようになっている。

NDフィルターは+/−のボタン式。見た目ではNDポジションが分からないというデメリットがある反面、最も濃いND1/64の次にND Clearに直結できるので、手回しターレット式NDフィルターと同じ扱いができる。また、専用アプリや多機能リモートコントローラーによるNDの切替が可能なのもボタン式のメリットだ。

液晶モニターは3.5型の約276万ドット。静電容量方式タッチパネル。ビューファインダーは0.36型・約177万ドットの有機ELパネルが採用されており、小さいながらも見やすいVFとなっている。
起動速度
XF605の起動速度は2〜3秒と高速で、即座に録画可能だ。最近はカメラのシステムが複雑化して起動に時間の掛かる機種もあるため、XF605の起動時間の短さはドキュメンタリー撮影や旅ロケなどに適している。
また各記録フォーマットの切り替えも高速だ。XF605では4KとHD、各記録フォーマットの組み合わせで、数多くの収録形式を選択できるので、そうしたフォーマットの切替が素早いと収録のテストなどが行いやすい。
画質
XF605の記録フォーマット設定は、当ラボでは基本的にHD運用。地上波やケーブルテレビなどの番組ロケに使うことが多い。1.0型単板CMOS/約829万画素センサーからオーバーサンプリングされた HD映像は緻密であり、デジ臭さを感じさせない。
例えば、2025年現在レギュラーで東京の放送局から撮影依頼を受けている、大阪のテーマパークでの番組取材の場合。ラボの「XF605」と制作陣が持ち込んだ「他社デジ」、そしてパーク側から提供された「公式映像(ENG)」の3つの映像素材で構成されたオンエアを見ると、XF605で撮影した映像と公式素材の画質差がほとんどない。一方、他社デジのカットだけ明らかに画質が違う…という感じだ。XF605の搭載する1.0型単板CMOS/約829万画素センサーの実力の高さだ。
XF605を使い始めた当初は、他社機が標準となっている業界の中でXF605のトーンは受け入れてもらえるか心配していたが、それに関しては杞憂に終わっている。もちろん並べて使うと画の傾向が違うのが分かるのだが、それは善し悪しの話ではない。XF605単体での取材の場合は、むしろCanonの作り出す優しいトーンがディレクターからも好まれている。
XF605…というよりもデジでの4Kフォーマットでの使用は、当ラボの業務では非常に少ない。4Kの画質を求められるときは、35mmフルサイズのミラーレス一眼カメラでのオーダーになってしまうことがほとんどだ。映像の綺麗さや鮮烈さ、情報量の多さなどで言えば、フルサイズカメラの映像を見慣れてしまうと、どうしてもデジの映像には不足を覚えてしまうので、この点は致し方ない現実だ。
それでも、編集である程度柔軟にフレーミング調整したいから…という理由で、デジでの4K指定の仕事というのもある。最近の案件だと、イベント用の不規則なアスペクトの大型LEDビジョンに映し出すためのインタビュー素材をXF605の4Kで撮影するなどした。

中望遠ぐらいになってくるとXF605の性能が発揮されてくるのか、ハッとする解像度とキレの映像が多くなる。

望遠端は光学15倍と控えめだが、その分望遠での光学的な瑕疵も見受けられない。

ズームレンズ

XF605は広角端25.5mm〜望遠端382.5mm(35mm換算)の焦点距離を持つ光学15倍レンズを備える。ズームリングはENGレンズと同様に約90°の回転で広角端と望遠端を往き来するようになっている「端付きリング」である。
ズームリングの操作性と追随性だが、とある条件を除くと、大変にレスポンスよく操作できるズームレンズとなっている。じわりとしたスローな立ち上がりから、クイックなズームまでカメラマンの意図にほぼ問題なく付いてくる感覚で、バラエティーロケでも十分にレンズワークで遊べる。

光学15倍ズームという控えめな倍率を気にする向きもあるかもしれないが、HDユースであればデジタルズーム機能の「アドバンスト30x」が良い仕事をしてくれる。こちらは後述する。

さて「とある条件を除くと」と前置きをしているが、その条件とはズームのワイド端とテレ端のことだ。この両端からの動き出しだけは、少しだけタイムラグが生じる。素早いワークの際はほぼ気にならないのだが、端からスロー気味にリングを回すと、最初はズームが動かずに、とあるポイントからカクっと動き始める。これはXF605のズームリングの回転検知を行っているポテンショメータのリニアリティのバラツキを考慮し、リングの端から約3度で不感帯(空走区間)を設けているための仕様だ。
XF605を展示会や店頭で触った方の感想をSNSなどで読むと、リングのタイムラグが気になる…というコメントを目にするが、恐らくはこの空走区間からズーム操作に入った場合のラグのことだろう。運用で解決する方法としては、スローなズームワークをする際は、この空走区間を避けてズーム開始を行う。もしくは、ズームリングではなくズームロッカー(シーソーレバー)を使用するなどだ。
端部分以外では、かなり機敏にズーム操作が行えるので、実運用上ではこの空走区間が問題になったことはない。
デジタルズーム
XF605の光学ズームは15倍と、このクラスではやや物足りなさを感じる。それを補うのが、デジタル系のズーム機能だ。4Kモードの場合は、デジタルテレコン1.5x/3.0x/6.0xが用意されている。1.5xの場合、ズーム比で22.5倍相当となり、35mm換算で約573mmになるため、他社の4Kデジと比肩することができる程度に望遠を伸ばすことができる。

当然デジタルテレコンなので画質の劣化は生じる。だがテストした限りでは1.5xは通常使用可能だ。そのまま光学レンズで22倍程度まで行けばこれぐらいの画質になるかなと思える程度の劣化具合で、言われないとほぼ気がつかないレベルであり品位は高い。ただし、デジタルテレコンは、望遠端だけでなく広角端からの全領域がテレサイドにシフトするため、広角側が狭くなる点は要注意だ。


一方、HDモードでは上記デジタルテレコン機能に加えて「アドバンスト30x」が有効になる。アドバンスト30xはズーム比30倍相当にズームを利用できる機能で、広角端は本来の25.5mmから始まり、望遠端で765mmまでシームレスにズーム可能となる機能だ。
XF605はズームリングに「端付きリング」を採用しているためリングの回転角度に制限がある。そんなXF605のズームリングで30倍相当のズームが可能になるのは、光学ズームの広角端から望遠端の全領域に渡って並行してデジタルズーム処理を付加しているからだ。
つまり光学ズームで10倍の領域ではすでにデジタルズームが付加された20倍相当、望遠端の光学15倍の時点で30倍相当になるように調整されている。そのために光学ズームからデジタルズームに切り替わる際のショックなどが一切ない。使い勝手としては、デジタルズームの併用を一切意識することなく、25.5mm〜765mmのズーム比30倍のレンズとして取り扱うことができる。


HDモードでの利用になるため、光学15倍に対しての30倍相当というのは4K CMOSからのドットバイドットでの切り出しになり、原理上は画質劣化ゼロのデジタルズーム処理となる。もちろん実際にはそんなに単純ではなく、S/N感や輪郭処理の結果が画に顕れやすくなるため、特に望遠端では僅かながらにデジタル処理感は出てしまう。
実際の評価としては、テレビロケなどで使用しても全く問題ないクオリティーで、導入して以来この3年半「アドバンスト30x」は常時ONにして使っている。
またアドバンスト30xには倍率以外のメリットもある。クローズアップレンズを必要としなくなったのだ。通常、料理接写などではクローズアップレンズを使うことで、望遠側の最短焦点距離を短くして、より対象物を大写しできるようにセッティングする。しかし、XF605でアドバンスト30xを有効にしたまま接写を行うと、クローズアップレンズを必要とする機会が極端に減る。

最短撮影距離の仕様としてはワイド端10mm、ズーム全域600mmと公表されている。個人的に検証した最端焦点距離(M.O.D)ではなく、ワーキングスディスタンス(W.D)をベースにした話になるが、XF605は光学15倍の望遠端(z99)でのW.Dは57cm。しかしアドバンスト30xを使った場合、光学15倍で得られる画角(382.5mm)をデジタルズームが併用されることで約80%(z81)の焦点距離で得ることができる。

M.O.DやW.Dは広角ほど短く、望遠ほど長くなるため、光学の最望遠端(z99)よりも手前であるこの焦点距離(z81)の時は W.Dが11cm。アドバンスト30xを併用することで、必要とする望遠画角をワーキングスディスタンスがより短い焦点距離で得ることができる。そのため、ほとんどクローズアップレンズを使うことがなくなったのだ。
ズーム設定
さすがレンズメーカーだなと思ったのは、ズームロッカー(シーソーレバー)によるズーム速度の細かな設定だ。スピードレベルとして「ロー/ノーマル/ハイ」が選べ、ワイド端からテレ端への遷移時間はローで最低速:約4分38秒、ハイで最高速:約0.9秒という性能を有している。
私の撮影業務ではスローズームを多用しており、風景撮影や料理接写、音楽モノの撮影などでは超スローズームを好んで使っている。Canonのビデオカメラは伝統的にスローズームが優れている印象があり、XF605では最低速が約4分38秒という超低速ズームが使えるのが嬉しい。
さらに、ズームロッカーのズーム速度をカスタマイズできるというマニアックな設定も搭載されている。ワイド側/テレ側にそれぞれ5分割された領域に、1〜16段階の速度を割り当てることが可能で、自分好みのズームカーブを作ることができる。
大変に細かく設定できて、ほぼほぼ文句のない仕上がりなのだが、一点だけ改善して欲しい点がある。 XF605には「スピードレベル」というズームの設定項目があり、ズームのスピード分けが「ロー」「ノーマル」「ハイ」の3種類用意されている。ズームロッカーなどで操作する際に「ゆっくりめ=ロー」「ふつう=ノーマル」「速め=ハイ」のズームスピードになる設定で、そのそれぞれに16段階のズームスピード割り当てが行える。
問題は、例えばスピードレベルを「ロー」にした場合、ズームロッカーの最高速度「16」にしても、「ハイ」の時の「16」よりも遥かに遅いズーム速度になるという仕様だ。つまり「ロー」「ノーマル」「ハイ」のそれぞれのスピードレベルで、1〜16段階のズーム速度は異なっており、「ロー」の16段階、「ノーマル」の16段階、「ハイ」の16段階という風に割り当てられているのだ(※ズーム速度が48段階あるわけではなく、割り当て可能な速度域が異なっている)。
これの何が問題になるかというと、ズーム速度の低速・高速の両方を多用するような撮影だ。例えば音楽ライブなどで情感のある超スローを行いたければ「ロー」の「1」などが最適だ。一方、画替え…つまり再フレーミングしたいときは高速にズームを動かしたい。だが「ロー」の最速「16」では、じわ〜とズームが動いてしまい、スパッと素早く画角を変えられないのだ。反対に「ハイ」の最低速「1」ではスローズームが早すぎて、そうした撮影用途には向かない。この設定は REMOTE端子に繋がったズームデマンドにも適用されるため、現状この仕様からは逃れられない。
XF605のズーム速度のパラメーターがどうなっているのかは正確なところは分からないが、例えばズームカーブのユーザーカスタムで「ロー」「ノーマル」「ハイ」以外に「アンリミテッド」モードを作って「1」〜「32」ぐらいのパラメーターの割り当てで、XF605が行える最低速ズームから最高速ズームのすべての領域が使える仕様を追加してほしい。XF605の超スローズームから超高速ズームは本当に最高なので、これを完全に使いこなしたいのだ!
フォーカス
「筆者の業務使用では、フォーカスはほぼマニュアルだ!」と、4年前は記したのだが、筆者も老眼が進行しており、デジの液晶モニターの距離では自身の目のフォーカスが合わなくなってきた…(悲)。現在は、オートフォーカスとマニュアルフォーカスを上手く織り交ぜながら、バラエティーロケなどは撮影するスタイルになっている。
XF605にはデュアルピクセルCMOS採用による「デュアルピクセルフォーカスガイド」が搭載されている。このフォーカスガイド機能は、現在のフォーカス位置から合焦位置への調整方向と調整量をガイド枠で視覚的に表示してくれるものだ。四角いフォーカスガイド枠の上部に三角形のマーカーが表示され、その三角マーカーの位置によって、合焦具合が視覚的に判断できる。
この機能の素晴らしい点は、一般的なピーキング機能と違って、対象フォーカスが奥ピンなのか前ピンなのかが分かることだ。デュアルピクセルフォーカスガイドではフォーカスリングをどちらに回せば合焦させることができるのか容易に判断できるため、誤った方向にフォーカスリングを回してさらにピンボケさせてしまうことを防げる。

その他のフォーカスアシスト機能としては、Magnification(拡大表示)がある。設定で拡大時に自動的にモノクロにしたり、または各出力端子からも拡大表示を出力するかも選択できる。拡大表示機能はボタンを押して有効、再度押して解除…という「切替」という操作なのだが、他社製品にあるようなボタンを押している間だけ拡大表示になったり、一定時間(3秒程度)で自動的に拡大表示が解除されるモードも選択肢として追加して欲しい。
ピーキングは2つ用意されている。ピーキングの色/ゲイン/周波数が設定でき、カメラマンの使いやすいピーキング設定が行える。ただ、この設定画面が邪魔をして、設定時にゲインや周波数の変化を見づらくしている。実際の撮影画面を見ながら調整をする必要がある機能は、設定画面の表示の仕方に工夫の欲しいところだ。

オートフォーカス機能の特徴としては、デュアルピクセルCMOS AFの搭載で、素早く迷いのない合焦と、高い追従性を備えたオートフォーカスを実現している。特にXF605ではXFカムコーダー初の「瞳検出」と、ディープラーニングを利用したEOS iTR AF Xにより「頭部検知」が可能になった。

XF605が登場した当時は、新型コロナウイルス対策としてマスク着用が日常だった時期。マスクを付けた被写体だと「顔検出」だけでは無反応が多いが、「瞳検出」のおかげで、しっかりとオートフォーカスを働かせることができた。

また「頭部検知」は、被写体が後ろ向きになり、顔も瞳も認識できない場合でも頭部をオートフォーカスの対象として認識するため、遠ざかる人物にフォーカスを合わせ続けることができる。
最近の筆者のオートフォーカスとマニュアルフォーカスの使い分けは、手持ち撮影の際はカメラの基本設定はマニュアルフォーカス。右手グリップ部分にあるアサインボタン「6」に「PUSH AF/MF」機能を割り当てて、ボタンを押している間だけオートフォーカスになるようにしている。
ズームをしたり、被写体との距離が変わったときはアサインボタン「6」を押して素早くAFでフォーカスを取り直し、基本はMFに固定。「デュアルピクセルフォーカスガイド」を有効にしているので、フォーカスを合わせたい被写体にちゃんと合焦しているのかを確認しながら撮影をしている。
アサインボタン
XF605のアサインボタンは11個。割り当て可能な機能は100項目以上となっている。数字だけ見ると凄い数の機能が割り当てられそうだが、LCD/VF/SDI/HDMIと出力系別に適用する機能も含まれている。

有用だと思ったアサイナブル機能は「ユーザー設定」と「マイメニュー」だ。「ユーザー設定」は「任意のメニュー項目を表示する」という機能。つまり特定のメニュー項目に飛べるショートカットとなる。例えば記録フォーマットの変更など、単純なON/OFFではなく選択肢が多い設定メニューへ直接入ることができる。

「マイメニュー」はメニュー機能に備わっている「ユーザーによるカスタムメニューページ」へのショートカット。私の場合は「マイメニュー」に"メディア初期化""タイムコード設定""高感度モード""デジタルズーム"といった使用時に毎回設定・調整するメニュー項目をまとめている。こうすることで、設定項目毎にメニューページを移動(探す)必要がなくなるので、素早く初期セッティングが終わる。その「マイメニュー」をさらにアサインボタンに割り当てることで、すぐに設定に入れるのは便利だ。
また、発売後のファームウェアアップデートで、アサインボタン「11」に REC機能が割り当てられるようになった。三脚で撮影する際には、この位置にRECボタンがあると録画開始/停止操作がスマートになる。最初のレビューの時から要望していた改善点だ。当然、現在はアサインボタン「11」に REC機能を割り当てて、現場で快適に使っている。

記録方式
XF605は豊富な記録フォーマットが用意されている。Canon独自の記録フォーマットである「XF-AVC」では、3840×2160/4K60p/4:2:2/10bitを最高画質設定とし 600Mbpsのイントラフレーム記録が行える。
実は、この記録フォーマットは当初搭載されておらず、発売時の仕様では4K/60pは Long GOPのみでの扱いだった。それが、Version 1.0.1.1によるファームウェアアップデートで可能になり、より高画質なイントラフレーム記録で4K/60pが収録できるようになっている。
その他、MP4(HEVC)やMP4(H.264)も用意されており、MP4(HEVC)は、最大3840×2160 60p/YCC422/10bitを225Mbps Long GOPで収録。MP4(H.264)も、3840×2160 60pに対応し、YCC420/8bitに制限されるが、150Mbps Long GOPという扱いやすい4K映像を記録することができる。
また前回のレビュー時に懸念していたのが、テレビ業界の標準フォーマットである、1080/60iへの対応だ。XF605は1080/60iを記録できるフォーマットがXF-AVCのみであり、YCC422/10bit/160Mbps/Intra-frameか 50Mbps/Long GOPという高画質なモードしか存在しなかった。
そんな仕様にも Version 1.0.3.1により少し変化があった。XF-AVC記録に限定されるが1920×1080/59.94i/25Mbps/Long GOPというフォーマットが追加された。ビットレートが抑えられたメディア容量にも優しい仕様だ。ただ、2スロット記録の方法に制限があり、このモードのみダブルスロット記録ができない。60i/25Mbpsモードの際は Aスロットをメイン記録スロットにして、Bスロットはネットワーク転送を意識した「Proxy記録」か「チャンク記録」になる点は注意だ。この仕様から、恐らくIP伝送と速報性を重視する報道の現場などから上がってきた要望だろう。

今、当ラボではテレビロケは全て1080/60pで撮影している。もちろん編集後の完パケは60iになっていると思うが、素材の段階で60pであっても編集時に60iにしてしまえば問題はない。地上波ロケであれば、XF605の設定はMP4/1080/60p/35Mbpsという設定を標準にしている。この設定は画質とメディアの消費バランスが丁度良く、制作陣からも好評で、違和感なく受け入れてもらえている。
その他、記録に関する特徴的な点は、デュアルSDカードスロットによる多彩な異種同時記録機能だろう。デュアルスロットによる、ダブルレックや常時記録はもちろんのことXF-AVCとMP4/4Kと2K/UHD 60pとFHD 60p/4:2:2 10bitと4:2:0 8bit/ALL-IとL-GOP/映像記録と音声記録…という多様な異種記録を実現している。ワークフローやクライアントに応じて、柔軟に使い分けることができそうだ。
また、Slow&Fastモーション/プレ記録(3秒前)/フレーム記録/インターバル記録にも対応し、記録モードは充実している。さらに付け加えるならば、複数のカットをひとつのクリップとして扱うことができる「クリップコンティニュアス機能」があれば最高だ。

信号出力系統
映像の出力系に関しては、液晶モニター・ビューファインダー・HDMI・12G-SDIすべて同時出力可能。録画中でもそれは変わらない。機種によっては、各出力が排他仕様、もしくは録画中はどこかの出力系統が無効になる…というものもあるが、XF605は DIGIC DV 7のパワーで、全系統をフルで活用できるフラグシップ機の名に違わぬ安心感がある。
また、出力系統別にオンスクリーン表示(カメラデータ表示)の有無を選べるほか、アサインボタンの設定でMagnification(拡大フォーカス)を適用するかどうかも選べるので、SDIで本線出力をしつつ、HDMIで繋いでいるカメラマン用の外部モニターにはMagnificationを働かせる…といった使い分けができ、現場の需要をよく汲み取った仕様に仕上がっている。
総括

4年近く実際の撮影現場で活用してきて、XF605は大変にバランスの取れたカメラだと感じている。サイズ感、重量、バッテリーの持ち、画質、音声設定、操作性、そうしたカメラ全体としてのハンドリングが高いレベルで調和しており、デジロケで求められる撮影でXF605で乗り越えられない現場はないと思えるぐらいだ。

もちろん個々の仕様や性能を評価すれば、改善していってほしい部分はある。例えば、もう少しズームリングの重さ(粘り)は軽くても良いと思うし、側面MENUボタンのそばにジョイスティックなどの項目移動用のインターフェイスは欲しい。
しかしこれらはXF605をさらに快適に使いたい思いから出てくる要望だ。最初のレビューでも述べているが、ユーザーがフォローアップすべき劣勢部分がほとんどなく、極めて実用的で実際的な仕様にまとまっていると思う。
個人的には、まだXF605もファームウェアアップデートで使いやすくなるポイントが残されていると思う。Canonも精力的にアップデートを行っており、最近のアップデートで私のお気に入りは、Version 1.0.5.1での「Audio Statusボタン使用時に表示される、Audio 設定画面においてヘッドホン音量を調整可能」というもの。XF605にはヘッドホン音量調整用の専用ボタンがなく、今まではメニューに潜って行うか、アサインボタンを2つ使って音量+/-を割り当てるしかなかった。
しかしこのアップデートにより、カメラ本体側面のAudio Statusボタンを押してオーディオステータス画面が表示されている状態なら、ジョイスティックの上下レバーでヘッドホン音量を調整できる様になる。ワンアクションは必要だが、スマートに音量調整できるようになり、嬉しいアップデートだった。

XF605は当ラボのメインハンドヘルド機であり、当ラボで必要とされる業務はほぼ問題なく行える。これを他機種に置き換えることは難しいと思える活躍ぶりだ。デジによるマルチカメラや、同日に複数班でのデジ取材などが増えてきているので、XF605の2台目、3台目の導入も検討したい頃合いになってきている。