ソニーは7月2日、東京・品川の本社ビルで、招待制の内見会「Creative Solution Showcase 2025」を開催した。

ソニーの内見会は、2023年まで映像・音響ソリューションを紹介する「ビジネスソリューション内見会」と、放送業務用製品を紹介する「映像ソリューション内見会」に分かれて開催されていた。2024年からはこれらを一つに統合し、BtoB向けの最新ソリューションをまとめて紹介する現在の形式となった。2025年の開催からはボリュメトリック技術をはじめとするソリューション展示が拡充されており、本稿では、その会場の中から映像制作関連のコーナーを中心にレポートする。

美肌効果や操作性向上などPXW-Z200がVer.2.0で大幅進化

カメラコーナーは、映像制作向けと一般企業向けの2つのコーナーに分かれていた。ハンディカメラPXW-Z200のバージョン2.0や、2023年に発売されたワイヤレスマイクの新製品などを体験できるほか、8月1日発売予定のシネマラインFX2も展示。さらに、撮影から編集までのワークフローを効率化するアプリケーションも展示されており、来場者はカメラの進化と制作全体の効率化を体感できた。

まずは、PXW-Z200のアップデートから紹介する。PXW-Z200のバージョン2.0では、操作性と機能が大幅に向上した。

操作性に関しては、レンズリングとダイヤルのカスタマイズ性が拡張された。レンズリングには「フォーカス・ズーム」「フォーカス・アイリス」「ズーム・アイリス」の3つの組み合わせから機能を割り当てられる。

さらに、アイリスダイヤルにはISO/ゲイン、自動露出、音声入力レベルなどを設定可能になった。これにより、例えば片方のダイヤルでズームを操作しながら、もう一方のダイヤルでISO/ゲインを調整するといった、より柔軟なカメラワークが実現できる。

次に、画質調整機能として「美肌効果」が新たに追加された。これは同社のVLOGCAMに搭載されているものと同様の機能で、肌を明るく滑らかに見せる効果がある。効果のレベルは調整可能で、S-Cinetoneと併用できるため、特にインタビュー撮影などで威力を発揮するとのことだ。

ズーム機能も強化され、デジタルエクステンダーに対応。HD記録時に1.5倍のズームが可能となり、超解像ズームと組み合わせることで最大60倍のズームが実現できる(4K記録時は非対応)。

このほか、ピクチャーキャッシュレックやインターバルレック、オートフランジバックの調整機能にも対応し、より幅広い撮影シーンで活用できるようになった。

さらに、リモートコントロールアプリ「Monitor & Control」との連携も実現。これにより、オートフレーミング機能が強化され、画角の位置と大きさをプリセットとして登録できるようになった。プリセットの登録数は、アプリの無償版では2個、有償版では最大10個まで可能である。

一般企業向けのカメラコーナーでは、広報やプロモーション活動での活用を想定したαシリーズが展示されていた。近年、一般企業において一眼カメラの利用機会が増えていることを背景に、推奨ラインナップが紹介されていた。

特に、クラウドサービス「Creators’ Cloud」との連携が大きな特徴として挙げられていた。このアプリを利用することで、撮影したデータをクラウド経由で直接GoogleドライブやAdobe Lightroomといった外部サービスに連携できる。

これにより、従来の趣味層だけでなく、企業の広報やマーケティング担当者がカメラを使用する際に、チームでの素材共有や迅速なレタッチ作業が容易になる点が強調されていた。

バーチャルプロダクション向けCrystal LED「VERONA」を展示

バーチャルプロダクションのコーナーでは、背景に大型のCrystal LEDディスプレイ「VERONA」(1.5mmピッチ)が50キャビネット分設置されていた。

このディスプレイは、表面に特殊なコーティングが施されているのが特徴である。これにより、黒が引き締まり、かつ照明などの映り込みが少ない映像表現が可能になるという。明るいスタジオ環境でも、照明の反射を気にすることなくコントラストの高い映像を撮影できるため、バーチャルプロダクションに最適なモデルであるとのことだ。

マーカーレストラッキング「OCELLUS」を国内初展示

また、ソリューションの一つとして、国内初展示となるカメラトラッキングシステム「OCELLUS」が紹介されていた。これはマーカーレスのトラッキングシステムで、天井や側面などの特徴点を5面のカメラで捉え、自身の位置を推定する仕組みである。

ここで推定された位置情報は、ネットワーク経由でUnreal EngineなどのCGエンジンに送られる。CGエンジン側では、受け取った情報をもとにCG空間内のカメラ位置をリアルタイムで同期させ、カメラの動きに合わせた背景映像をLEDディスプレイに表示するという仕組みであると解説された。

OCELLUSはスタジオ内での利用に加え、屋外での活用も大きな特徴である。

例えば、スタジアムでのスポーツ中継において、観客席から撮影した映像に選手の情報をリアルタイムでCG合成するといった用途が考えられる。従来、このような屋外でのCG合成はカメラの位置を固定するなどカメラワークに大きな制限があった。しかし、マーカーレスで周囲の環境から自己位置を推定できるOCELLUSは、場所を選ばず自由なカメラワークでの撮影とCG合成を可能にする。ゴルフ中継で、ショットの軌跡をCGで表示するようなシーンでも、よりダイナミックなカメラワークが実現できるという。

また、リアルタイム合成だけでなく、ポストプロダクションの作業効率化にも貢献する。映画制作などで行われる、撮影した実写映像に後からCGを合成する「マッチムーブ」と呼ばれる作業では、撮影時の正確なカメラの位置情報が不可欠である。従来、屋外ロケなどではこの情報を正確に取得することが難しく、撮影後の映像からカメラの動きを解析する作業に多大な手間がかかっていた。OCELLUSを用いれば、撮影と同時に正確なカメラの位置情報を記録できるため、この解析作業を大幅に支援し、作業時間を短縮できるとのことだ。

こうした利点から、放送局からはリアルタイムCG合成の利用シーン拡大、VFX業界からはポストプロダクション作業の効率化といった点で、国内外から高い期待が寄せられているという。

技術的な優位性として、複数のカメラでセンシングすることによる高い信頼性に加え、ソニー製カメラとのシームレスな連携が挙げられた。ソニー製カメラと組み合わせることで、カメラの位置情報だけでなく、レンズのズーム、アイリス、フォーカスの情報、さらにはタイムコードやファイルネームといったメタデータをSDIケーブル1本で統合して伝送できる。これにより、ポストプロダクションでのデータ同期の手間が大幅に削減されるという。

料金体系はサブスクリプションではなく買い切りモデルを採用しており、記録して使用する場合でも追加料金は発生しない。このように、OCELLUSは既存のトラッキングシステムとは異なるアプローチで、映像制作の現場に新たな価値を提供するソリューションとして位置づけられているとのことだ。

さらに、バーチャルプロダクションの制作を支援する「Virtual Production Tool Set」の最新バージョン3の新機能も紹介されていた。

その一つが「視野角色補正」機能である。L字型に組まれたLEDディスプレイでは、見る角度によって色味が異なって見えるという課題がある。そのため、そのまま撮影すると画面のつなぎ目で色が不自然になる場合があった。

この新機能は、カメラの位置情報をもとに、その視点から最も自然に見えるようにLEDディスプレイ側の色表示を自動で調整するものである。会場のデモンストレーションでは、機能をオフにすると画面のつなぎ目で色の違いが確認できたが、機能をオンにすると色が均一に補正される様子が示された。

こうしたツールによって、バーチャルプロダクションにおける撮影の品質向上と効率化を支援していくとのことだ。

また、同コーナーでは、ソニーPCLが提供するバーチャルプロダクションのレンタルサービスについても紹介されていた。

HDC-F5500VとVENICE用小型エクステンションシステム

最後に、カメラコーナーから新製品2点を紹介する。

まず、2025年7月に発売を開始したシステムカメラ「HDC-F5500V」である。このカメラは、従来のシステムカメラで主流だった2/3インチセンサーではなく、スーパー35mmの大判センサーを搭載している点が最大の特徴である。

大判センサーにより、被写界深度の浅い、いわゆる「ボケ感」を活かしたシネマライクな映像表現が可能になる。これにより、音楽ライブやドラマ制作など、より芸術性の高い映像が求められる現場での活用が期待できるという。製品名に追加された「V」が示す通り、従来モデル「HDC-F5500」から新たにバリアブルNDフィルターを標準搭載した。これにより、絞りを開けた状態でもNDフィルターで光量を調整し、狙い通りの被写界深度で撮影することが容易になったと説明された。

もう一つは、VENICEエクステンションシステムMiniである。これは、VENICEのカメラ本体からセンサーブロック(カメラヘッド)を分離し、ケーブルで延長して使用するためのシステムである。

従来モデルの「VENICEエクステンションシステム」から大幅な小型・軽量化が図られており、体積比で約70%削減されたという。この小型化により、手持ちでの撮影や、これまでカメラを設置できなかった狭い場所での撮影、さらには高精細な3D撮影など、撮影の自由度が格段に向上する。分離したカメラヘッドはVENICE 8Kと同等の映像品質を維持しており、レンズマウントはEマウントとPLマウントの両方に対応しているとのことだ。