今だからこそのステンレス

ARMORシリーズ カード外観(ステンレス筐体)

SDカードは、デジタルカメラの黎明期から今日まで最も広く使われ続けてきた記録メディアである。サイズ感、互換性、そして用途に応じて選べる速度と容量のバリエーションと、これほど長く愛され続けているメディアも珍しいと思う。

その歴史を振り返れば、2000年ごろにSDカードが誕生してからすでに25年。この間に記録メディアは目まぐるしく入れ替わりを繰り返してきたが、このSDカードだけは発表当初から形を変えずに順当に進化を続けている。つまり、SDカードという規格はすでに「完成されたフォーマット」であると言える。

そんな今になってLexarが打ち出した新提案は、「素材を従来のプラスチックからステンレススチールに変更」というものだ。これにより、防塵・防滴・耐衝撃・耐圧・耐熱といった、あらゆる物理的なリスクに備えたプロ仕様の設計を実現している。つまり、広くプロの手に広まった「今」だからこその、今後もより永く使い続けられるという安心感を提供してくれるのである。では、その新素材がもたらす強靭なスペックを見ていこう。

鉄壁の防御

Lexar ARMORシリーズとNikon Z6III
ニコン「Z6III」とステンレス製SDカードLexar ARMORシリーズ

ステンレス素材とデザインの見直し

まず触れて驚くのは、素材の質感である。ひんやりとしたステンレスの外装は、指先に伝わる硬さがこれまでのSDカードとは明らかに違う。このステンレス素材の採用により、剛性が一般的なプラスチック製SDカードと比べ37倍(最大370ニュートン)の曲げ強度となっている。

10年前の自分なら「そこまで必要か?」と思ったかもしれないが、現場で酷使されるカードは、抜き差しのたびに「たわみ」や「曲がり」を繰り返している。これは頻繁に使用していればわかるが、たまにパキっと音がしたり、指で表面が凹んだ感覚は、急いでいる現場では気が気でない。これらを体感してきた今ではこのスペックの重要性がよく理解できる。

また、ステンレスは剛性だけでなく高い放熱性を持ち、熱による速度低下を抑えるというメリットもある。動作温度範囲は−25°C〜85°Cという脅威的な数値で、主流のカメラの最大動作温度は−15°C〜60°Cのため、メディア単体ではどんな環境でも全く問題がないということを示している。実際に長時間の動画収録やスピードテストを何度も行ったが、直後は持てないほど熱くなっても、熱が原因でパフォーマンスが落ちたり収録がストップすることはなかった。

Lexar ARMORシリーズ レーザー刻印ロゴとリブレス・スイッチレス設計

さらに、表面のロゴはレーザー刻印仕様で、ラベルが剥がれたり汚れたりする心配がない。これは地味に見えるが、過酷な現場では非常に重要なポイントである。シールが剥がれただけでカードの識別に時間を取られるなどの、小さなトラブルを確実に減らせる。

そして特筆すべきは、書き込み防止スイッチの廃止とリブレスデザインである。これにより、堅牢性を損なう可動部や突起がなくなり、無駄のない強固な構造となっている。筆者自身、このスイッチが外れたり、勝手にロックがかかって録画が遅れたりというトラブルを経験してきたため、個人的には不要な部位だと感じているが、長年このスイッチを活用してきた人には少し寂しい変化かもしれない。とはいえ、レーザー刻印によってマーキングが容易になった今、撮影済みメディアを識別する工夫はいくらでもできるだろう。

防塵・防滴性能

ARMORシリーズはIP68防水・防塵規格に準拠している。これは「完全防塵」「長時間の水没にも耐えうる」というレベルの防御性能を意味する。撮影現場では、汗や砂、雨、あるいは海辺での湿気など、あらゆる環境が待ち受けている。そんな中で、物理的な破損リスクを徹底的に排除する設計は、プロカメラマンにとって「命綱」に等しく、強い安心感につながる。

今回、この防塵防滴性能を検証するにあたって、メーカーから「相当いじめても大丈夫」とのお許しをいただいたので、いくつかの状況で実際にテストを行った。まず水分を含んだ土に埋めてもみ込み、そのあと石鹸で手洗いをし、お風呂に一緒に入れるという、通常ではあり得ない方法を実践した。

Lexar ARMORシリーズ 土に埋設しての耐久テスト
Lexar ARMORシリーズ 洗浄後の動作確認
Lexar ARMORシリーズ 水没環境での耐水テスト

結果は何の問題もなく動作し、収録データが消えることもなかった。さすがARMORである。
※電子接点に関しては、油分などの膜ができると接触不良を起こすことが考えられるため、場合によっては拭き取るなどのメンテナンスが必要だと思う。

耐磁性・耐静電気・耐X線

さらに「耐磁性」「耐静電気」「耐X線」という3つの耐性も備えている。近年スマートフォンやガジェット類には強力な磁石を内蔵したものが増えている。無意識に近づけただけでデータ破損を起こす可能性がゼロではない今の状況は、普段の持ち物にまで気を配らなければならないという悩みの種だった。実際にスマートフォンのMagSafeや、強力な磁石などにくっつけてテストしたが、データの破損は見られなかった。ARMORシリーズはこれらのリスクから限りなく完璧にデータを守る設計になっており、カメラマンが撮影に全力で向き合えるように大きな手助けをしてくれる。

Lexar ARMORシリーズ 磁力・静電気・X線耐性の検証イメージ

パフォーマンステスト

今回パフォーマンステストに使用したカメラはニコンZ6IIIである。Lexar ARMORシリーズのスペックは以下のとおりだ。

Lexar ARMORシリーズ スペック表
Lexar ARMORシリーズ スペック表※クリックで拡大表示

どちらもUHS-II、V30書き込み対応で、4K60Pや6K30Pに対応可能である。室温25°の環境で、以下のような検証を行った。

動画連続撮影

動画収録の書き込みテストを実施した。三脚に固定したカメラで動きのある映像モニターを撮り続け、コマ落ちが起きないかを検証した。まず動画撮影では、Z6IIIはN-RAWやProRes RAW(ともに12bit)、ProRes 422 HQ(10bit)、H.265(10bit)などの収録が可能だが、2つのRAWモードはいずれも収録に対応しておらず、録画自体が不可であることはあらかじめお伝えしておく。これはカメラの仕様にもよるが、SDカード自体がRAW収録に適したメディアではないという点も大きい。ProRes 422 HQ内部収録も6K・4Kでは数秒〜数十秒で録画がストップしてしまったが、4K30Pまで落とせば連続収録が可能だった。

H.265モードでは、6K(16:9)60Pモードでメディア一杯(約1時間10分)まで収録が可能だった。この結果は、公式で謳っていた6K30Pを上回っており、非常に優秀な結果である。なお、同時にSONY FX3のXAVC S 4K、200M 4:2:2 10bit、60pモードでもテストを行ったが、1時間以上の長時間収録でもストップすることなく収録できた。こちらも最高画質モードであるXAVC S-IモードではV90以上でないと収録ができなかった(上記すべてGold/Silver共通)。

静止画連写撮影

次にスチルの連写書き込みテストを実施した。Z6IIIは2450万画素機で、RAWデータでは最高秒間20コマ、JPEGデータのみなら最高120コマまでの高速連写が可能である(電子シャッター使用)。シャッターを押しっぱなしにして、何秒で連写がストップするか、その後の書き込みランプが消えるまでの時間をざっくり計測した。※画質は全て最高設定。

ARMOR Gold

RAW+JPEG(秒間20コマ撮影):3.5秒/70枚 フリーズ約10秒

JPEG(秒間120コマ撮影):5.3秒/686枚 フリーズ約17秒


ARMOR Silver Pro

RAW+JPEG(秒間20コマ撮影):3.3秒/66枚 フリーズ約13秒

JPEG(秒間120コマ撮影):5.5秒/658枚 フリーズ約18秒

結果は、ちょうど2枚のスペック値の差程度の違いが出た。連続で検証しているとカメラがオーバーヒートで停止したが、結果は何度やってもほぼ同じ数値であり、このメディアの耐久値が高いことがわかった。

スピードテスト

Blackmagic Disk Speed Testアプリを使用し、読み書きスピードを測定した(負荷は最大の5GB設定)。メディアリーダーはLexar推奨の「Lexar Professional CFexpress Type A/SD USB 3.2Gen 2リーダー(LRW530U-RNBNG)」を使用した。

ARMOR Gold スピードテスト
ARMOR Goldスピードテスト※クリックで拡大表示
ARMOR Silver Pro スピードテスト
ARMOR Silver Proスピードテスト※クリックで拡大表示

結果としては、このアプリ上の数値では読み出しスピードがやや遅めに出たが、書き込みスピードはほぼスペック通りだった。複数回のテストを繰り返しても結果は安定しており、メディアやリーダーが加熱しても数値がほぼ変わらない点は、実際の撮影現場で大きな信頼につながる。また、動画収録においても実際の検証結果とほぼ一致した。

同社の「Lexar Professional 1800x SDXC UHS-II(GOLDシリーズ)」が速度的にほぼ同格であることから、ARMORシリーズは"頑丈になった1800x"と考えると分かりやすいだろう。

まとめ

Lexar ARMORシリーズ イメージ画像

様々な検証を行った結果、スペック通りの性能と防御力を備えていることが確認できた。耐久性は言うまでもなく、スピード面でもトップクラスを維持しながら安全性をここまで確保している点は見事である。

ステンレス素材の採用は単なるデザイン刷新ではなく、長年にわたって撮影メディアを作り続けてきたLexarが、現場で起こりうるあらゆるトラブルを想定したうえで導き出した「プロ用SDカードの完成形」だと感じる。このカードを真に活かせるのは、ENG取材、ドキュメンタリー、野外撮影、ドローンなど、長時間記録や過酷な環境下での運用を行うハードなユーザー層だろう。

カメラやレンズをどれだけ守っても、最終的にデータを守るのはメディアそのものである。ARMORシリーズは、その「最後の砦」を文字通り「Armor(鎧)」として体現している。そして何より、SDカードという規格がここまで進化してきたという事実を目の当たりにできたことを、撮影に携わる一人のカメラマンとして嬉しく思う。これからも永くカメラマンの相棒として手元に残り続けるであろう、SDカードの完成形をぜひ体感してほしい。

Lexarとは

1996年にアメリカ・カリフォルニアで誕生した高級なメモリーブランド。CompactFlash AssociationやSD Associationのメンバーとして、記録メディアの国際標準化にも関わってきた。

自社チップ開発と1,000台以上の検証機を備えた品質ラボによって高い信頼性を確保し、現在は世界100以上の国と地域で展開。DJIやキヤノン、富士フイルムなど主要ブランドとの公式互換認証を取得するなど、プロフェッショナルから厚く支持されている専門的なメモリーブランド。