2025年のNAB Show、BIRTV、IBC Show、3つの海外展示会を取材活動してきた中で見えてきたのは、PTZカメラの明確な進化である。
もはや単なる「リモート操作できるカメラ」ではなく、AIによる構図の自動生成やIPベースでのシステム連携を核に、撮影の自動化・高度化を実現するデバイスへとその役割を変えつつある。
国内で多くのユーザーが利用しているソニー、キヤノン、パナソニックの3社のPTZカメラの動向を中心に、発表された新製品やファームウェアアップデートを振り返り、2025年のトレンドを読み解くための「キーワード」を探っていきたい。
2025年の動向「ソニー」「キヤノン」「パナソニック」
ソニー:AIによるフレーミング制御と画質強化の両立
ソニーは、フルサイズセンサー搭載のレンズ交換式モデル「FR7」から、ビジネス用途向けの「SRG-A」シリーズまで、幅広い製品ラインナップを展開している。
ハイエンドモデル「BRC-AM7」向けにリリースされた7月のファームウェアVer.2.00では、「PTZオートフレーミング」機能に関する複数の機能追加・改善が行われた。認識・追尾性能の強化に加え、「複数人フレーミング」「顔登録」「追尾範囲設定」「構図プリセットのリセット」「追尾開始部位設定」、さらに被写体の顔の向きに応じて目線方向に余白を自動調整する「目線空け効果」などが新たに追加されている。
また、画質関連では、作成したルック設定(Sceneファイル)の共有や美肌効果への対応も強化。トラッキングデータ(FreeD)の出力先選択肢拡張(最大4つ)やSRTプロトコルでのH.265コーデック対応など、IP連携面でも進化した。
同様の機能はSRG-A40/A12にも展開され、6月のVer.3.01アップデートではPTZオートフレーミングに「構図プリセット」「固定画角ポジション」「追尾範囲」「目線空け効果」が追加され、RTMP/RTMPS配信にも対応している。
キヤノン:構図アシストの進化とカラー統一ツールの提供
キヤノンは8月に自動追尾アプリケーション(RA-AT001)のVer.1.3.0を公開し、有償ライセンス機能として「構図アシスト(Auto Framing)」を追加した。これは自動追尾中に構図を補正し、より自然な画面づくりを支援する機能である。
新たに「複数対象」「顔向き」「着席起立」といった設定項目が加わり、トークショーや講義など複数人が登場するシーンでも、最適なフレーミングを自動で維持できる。特に「着席起立」は被写体の姿勢を検知し、ズームとワイドを自動調整するなど、運用現場の実用性を高めている。
同時に、屋内モデルCR-Nシリーズと屋外モデルCR-X300のファームウェアアップデートを実施し、NDI 6に対応。また、カメラ間の色味を統一するための「カメラカラーマッチングアプリケーション」も1月にリリース。異なる機種や他社製カメラとのカラー調整を短時間で行えるようになった。
パナソニック:マクロ制御とAI連携を両立する新世代システム
パナソニックは、1月に4K/60p対応の新型リモートカメラ「AW-UE150AW/AK」を発表。高感度1.0型MOSセンサーと光学20倍ズームを搭載し、従来機よりもパン・チルト・ズームの同時性を大幅に改善。自動追尾機能を本体に内蔵し、NDI High Bandwidth、FreeD、SRTを標準対応した。
9月には新型コントローラー「AW-RP200GJ」を発表。2本のジョイスティックを搭載し、PTZ操作とフォーカス・アイリス操作を分離。マクロ機能を用いることで、複雑なカメラワークをボタン一つで再現できるようになった。
さらに、ソフトウェア群「Media Production Suite」では、AI Keying(クロマキーレス合成)をはじめとするAIプラグインを展開。Ver.2ではAI Effect Filter(モザイクなど)やAI Face Crop(PinP切り出し)機能を追加し、PC連携による制作効率化を推進している。
PTZカメラの二つの側面:「設備」と「映像表現」
PTZカメラは今や「施設の設備」としての用途と、「映像表現のためのツール」としての用途の2つの側面を持っている。
設備としてのPTZカメラ
大学や企業、議会などの記録用途では、人手をかけずに「話者を確実に記録する」ことが目的だ。AIが講師や発言者を自動で判別し、カメラを向けることで撮り逃しを防ぐ。ここでのAIは、人間のオペレーターの代替として動作する。
さらに、マイク・照明・システム制御との連携により、「講義開始」ボタンを押すだけで自動で収録を開始するなど、エコシステムとしての統合が進む。非専門家でも扱いやすい運用環境が整いつつある。
映像表現のためのPTZカメラ
一方、放送・ライブ・配信現場で使われるPTZカメラは、AIを「撮影支援アシスタント」として活用する。オペレーターのカメラワークを補助し、人物の向きや動きに応じて構図を自動調整。複数のカメラ間で色味を統一したり、CGシステムとトラッキングデータを連携させたりと、プロダクションワークフローの効率化にも寄与している。
2025年に見えた3つのトレンド
1.AIの高性能化と内部化(オンボード化)
従来はPCソフトウェア(Media Production Suiteなど)で行っていた高度なAI処理を、カメラ本体に内蔵する動きが加速した。Auto TrackingやAuto Framingをカメラ単体で完結できるようになり、システム構成がシンプルに。これにより、専門家だけでなく一般ユーザーにも使いやすい選択肢が広がった。
2.Auto Framing機能の進化
2025年は「カメラワークの自然さ」を重視する流れが強まり、ソニーの「目線空け効果」やキヤノンの「構図アシスト」など、構図をAIが自動補正する機能が進化した。これにより、設備用途では自然な記録が可能になり、制作用途ではオペレーターの表現を支える存在へと発展している。
3.SRT/FreeD標準搭載とNDI無償化の動き
主要IPプロトコルへの対応が標準化しつつある。SRTによる高信頼伝送、FreeDによるトラッキング連携に加え、ソニーはNDIを無償提供化。BRC-AM7は発売当初から、FR7やSRG-AシリーズもアップデートによりNDIを無料で利用可能となった。追加コストを抑えながら柔軟なIPワークフローを構築できるようになった点は大きい。
2026年以降の方向性と期待
2025年の進化を経て、PTZカメラは「設備」と「表現」の境界を越えつつある。講義記録でも高画質・高演出が求められ、テレビ制作でも自動化の導入が進むなど、双方の技術が融合し始めている。
また、OBSBOT「Tail 2」のようにジンバル回転構造を持ち、FreeDに対応したコンシューマー寄りの製品も登場。これまでプロ専用だった技術が一般ユーザーにも広がりつつある。
特に注目したいのが、パナソニックの「AW-RP200GJマクロ機能」と、キヤノンの「マルチカメラオーケストレーション」だ。前者は複数台のカメラワークをマクロ登録し、ボタン一つで同時制御できる機能。後者はメインカメラの動きをAIが解析し、サブカメラが自動で追従・撮影するという新しい発想のシステムである。
少人数でも複雑なマルチカメラ演出を実現できるこれらの仕組みは、PTZカメラを"省人化ツール"から"クリエイティブツール"へと進化させる象徴的な動きといえる。2026年に向け、この潮流はさらに加速していくだろう。
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