キヤノンは、新ソリューション「Multi-Camera Orchestration」の有償提供を2026年1月22日より順次開始する予定だと発表した。その詳細について、詳しく話を聞くことができたので、ここに紹介したい。

本システムは、オペレーターが操作するメインカメラの動きに連動し、複数のキヤノン製リモートカメラを制御するマルチカメラ撮影ソリューションである。これまでもInter BEEなどの映像・放送系の展示会などで公開されてきたが、今回の提供開始により、映像制作の効率化をより現実的なものとする期待が高まっている。

今回の発表で最も関心を引かれたのは、このシステムが目指す「人間味」という方向性だ。リモートカメラ自体はすでに普及している技術だが、本ソリューションはカメラを単なる固定デバイスとしてではなく、まるで意志を持った「サブカメラマン」がそこにいるかのように振る舞わせることを目的としている。機械的な追尾の域を超え、自然で滑らかなカメラワークを自動で実現するというコンセプトは、映像制作の現場に新たな風を吹き込む可能性を秘めており、非常に期待が高まる内容であった。

昨今のコンテンツ制作において、クオリティの向上と人手不足の解消という二律背反する課題をいかに解決するか。今回の発表を聞いて、その答えの一つがここにあると強く感じた。これまでも遠隔操作や自動追尾の機能は存在したが、結局はカメラ一台につき一人のオペレーターが必要になるなど、真の省人化には至っていない現状があった。しかし、このソリューションは「俯瞰カメラ」を活用することで、撮影状況を常に把握し、安定したカメラワークを実現するという。

この「全体を俯瞰する目」を備えている点こそが、従来の自動追尾技術との決定的な相違点といえる。具体的には、2台の俯瞰カメラが演者の人数や位置、顔の高さなどの情報を統合的に把握し、各リモートカメラに与えられた「役割」を自動で遂行させる仕組みだ。

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例えば、特定の人物を狙うシングルショットや全員を収めるグループショットといった構図の指示を個別に設定できる点は、極めて画期的である。個々のカメラが自身の画角の外で起きている状況まで理解して動作するという発想は、従来の単体追尾カメラでは成し得なかった、より人間味のある自然な映像表現を可能にするだろう。

技術的な妙味を感じたのは、複数のリモートカメラがまるで一つの有機体のように連動する制御の仕組みである。メインカメラの操作に追従して、リモートカメラが自動で構図を調整し、別の被写体を追従させたり画角を補完し合ったりといった緻密な連携がシステム上で再現されている。さらに、これらの複雑な役割の組み合わせを「テンプレート」として保存できる運用性の高さも特筆すべきだ。撮影シーンに応じた設定をあらかじめ作り込んでおけば、外部コントローラーからワンボタンで瞬時に切り替えられる。現場の状況変化に即座に対応しなければならない制作サイドにとって、この柔軟性は極めて実用的であり、複数のカメラを同時にコントロールする負荷を劇的に軽減するだろう。

また、自動化の落とし穴を回避するための細やかな配慮にも、現場を知り尽くした設計思想が光っている。背景のポスターやスタッフを追尾対象から外す「追尾除外エリア」や、オンエア中のカメラの不用意な動きを封じる「タリーロック」機能の存在は、システムの信頼性を一気に高める要素である。タリー信号を受け取っている最中は現在の役割を維持し、大幅な画角変化を防ぐという挙動は、放送事故を未然に防ぐプロ仕様の矜持を感じさせた。

さらに、既存のスイッチャーやバーチャルシステムとの柔軟な連携機能も興味を引く。Multi-Camera Orchestrationの校正結果をバーチャル撮影に活用でき、マルチカメラでの運用を大幅に簡略化する。この機動性こそが、短時間で高い成果を求める現場において、最大の武器となりそうだ。

システムの実用性を評価する上で、導入コストやハードウェア構成は極めて重要な要素となる。運用に必須となる2台の俯瞰カメラには、エントリーモデルのCR-N100を含む対応PTZカメラが利用可能。周辺機器やライセンスを含めたパッケージとしての導入が可能だという。

設置については、アイレベルを避けた2メートル強の高さに俯瞰カメラを配置し、各カメラから5つの固定点を指定するだけでセットアップが完了する。この簡潔なプロセスこそが、現場のワークフローを大きく変える鍵と言える。実機が稼働する空間でその真価を目の当たりにできる日が、今から待ち遠しい。